灰は龍炎に惹かれて   作:ジルバ

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お ま た せ
















第20話:見送る者

 

 

 

隊…長──ACE隊長!!

(この声は……GUARD…?)

逃がした筈の部下の声に徐々に意識が覚醒し目を開ける。

 

俺は死んだはず──

視界を埋め尽くす炎を前にACEは心身を委ねた……筈だった

そんな彼がいるのは天国、あるいは地獄ではなくだだっ広い木造の部屋、そこに寝かされていたのだ。

 

状況を把握できないが、少なくとも自分は間違いなく生きているらしい

 

「GUARD……成程、俺は死に損なったみてぇだな」

「隊長!良かった無事で本当に…!」

「GUARDさん、安静にしてください。貴方も怪我人なんですよ!!」

完全に目覚めた彼を二人の人物が出迎える。

一人は彼の見知ったロドスの同僚である青年GUARD、そしてもう一人……

 

「キミは…?」

「意識ははっきりしているようですね。はじめまして。私は──アリーナと言います」

エラフィアの女性は安堵の表情を浮かべて己が名を名乗る

 

「俺は……」

「ACEさん、ですよね。そしてGUARDさん。ここに運び込まれた時にはすごい大怪我でビックリしましたよ」

「ここは……学校か?」

改めてACEは自分たちの居る空間を見回す。だだっ広く、二十数程の木造の椅子と机が所狭しと押し込められている。朧げに浮かぶのは子供の頃に給食を食べた後の掃除の時間の時によく見た光景だ。

 

「はい、ペテルヘイム高等学校……というそうです。私たちはここに生存者を匿っています」

「それで俺たちも助けてくれたんだな。ありがとう、仮にあの修羅場を切り抜けてもこのレユニオンの跋扈する都市で孤立無援の俺達は……たぶん野垂死にしてただろうからな」

「……いえ、私は治療を手伝っただけですから──」

 

 

 

「──我々が助けたのです。ロドスの戦士よ」

咄嗟にベッドから飛び起き臨戦態勢を取る。

艶のある漆黒の法衣に、幾つもの複眼のような意匠の兜をした男が枕元にまるでずっとそこにいたかのように佇んでいた

 

無意識に右腕に力を籠めようとして……感覚が無いことで改めて隻腕となってしまったという現実に歯嚙みするACE。

しかし、男は得物らしき大鎌と共に壁に寄り掛かって腕を組む姿勢を解かぬままだ

 

 

「……おや、これは失敬。驚かせてしまいましたな」

ハッハッハと笑ってそう言っている間も兜の奥から鋭い眼光を放っている。只者ではないことは明らかだ。

 

「いつからそこに……って俺が起きるより前からいたか?……助けてくれて感謝する」

「礼を言うならアッシュ殿に。我々は貴方を救えと言われたまで」

「そうか、ならそのアッシュって奴のことも含めて色々と聞かせてもら──」

 

 

 

「──目覚めたようだな。中々に死に切れぬと見える」

その時、固く閉じた扉が開かれる音が静寂な教室に響いた。

 

「なっ…!?」

「お前は……」

 

襤褸の外套、黒鉄の騎士姿。その男は紛れもなく、

 

「UNDEAD!」

レユニオンのUNDEADその人だった。

 

「呼ぶ手間が省けましたな。……申し訳ありませぬが席を外しても?」

「あぁ、後は任せてくれ」

 

 

「なんでお前がここに…!敵のお前がなんで俺たちを助けたんだ!?」

「GUARD、抑えろ」

「でも!……分かりました」

 

「聞きたいことができた、それだけだ……ただいま、アリーナ」

「お帰りなさい。どうだった?」

敵対的な態度でいきり立つGUARDに冷然と返すが、すぐにその雰囲気を消してアリーナと話し始めるアッシュ。

 

「収穫アリだ。かなり集まってな。当分の間は保つと思う」

「お疲れ様。次は私たちが頑張る番ね!」

「宜しく頼むよ。料理など不死者には出来ぬからな。パーシヴァルは既に給食室で待っているぞ」

「分かったわ。それじゃ、後は任せることにします。ご飯が出来たら持ってくるわねー!」

彼の報告を聞いて満悦そうに笑いながらアリーナが教室を出ていき……清涼剤が去った教室の空気が再び重くなってゆく

 

「…………」

「……アンタ、アッシュっていうのか」

「UNDEADなど好き好んで名乗っていない。暴君につけられた忌み名だ」

「そうか。まぁ……ありがとよ。しかし、あの状況でよく助けられたな?」

「……ヤツのアーツは凄まじいがその分、大雑把だ。貴様が消滅したように見せるのは容易かった。もう一人はそのついでで連れ帰ったまで」

 

そう、アッシュはACEがレユニオンの暴君の業火に吞まれる寸前で薪の王達を呼び、救い出したのだ。

 

「な、なぁ。待ってくれよ」

「なんだ?」

制止を受けてずっと黙っていたGUARDが再び口を開く。

 

「……皆は?俺とACE隊長以外の人達は…どうなったんだ?」

(GUARD…)

そして震えた声で訊くGUARDにACEは思わず俯いてしまう。

 

ケルグ、セブンティーン、ビーン…アーミヤ達を無事にロドスへと帰還させるためにGUARDを含めて総勢14人がACEと共に殿として残った。

 

(GUARD、お前も本当は分かっている筈だ……)

 

アイツらは──

 

 

 

──死んだな。ヤツの悪炎を受けて、一人残らず」

「っ…!」

ACEが言うまでもなくアッシュがその悲劇的で、目を逸らすことのできぬ解を告げた。

 

分かっていた。

 

自分の後に続き、肩を並べて突撃した隊員たちがタルラのアーツによって物言わぬ炭塊になってくのをこの目で見届けたのだから。

だが、分かっていても……かなりクるものだった。

 

「なんで!なんでもっと早く助けてくれなかった!?そうしていれば皆助かった筈だッ!どうして…!」

「GUARD!」

「……貴様らにどうこう言われる筋合いはない。助けてやる筋もな。それでも貴様らの命を拾ってやったのはお前の仲間の死によって生まれた幾ばくかの猶予によってお前たちを助けてやる決意をしたからだ……犠牲を無駄にしたくないなら大人しくしていろ」

「……クソッ!チクショウ…!」

その場で蹲って嗚咽するGUARDに何を言っても酷だと考え、ACEはアッシュを見据える。

相手もそれに気づいたのか静かに彼を見下ろす。

 

 

「聞きたいことがあるんだったな。骨折り損だったな、悪いが俺達は仲間の情報を売る気は無ぇぞ」

「関係無い。吐くまで問い詰めるまでだ」

アッシュは虚空から現れた“ロスリック騎士の直剣”を鞘から抜き放ち、ACEに突きつける。

その切っ先は恐ろしく鋭い。隻腕かつ、まだ快復しきっていない身体の怪我人など五体満足のアッシュの剣技は容易く捉えて絶命させるだろう。

 

「……やってみろよ」

だが彼は命乞いも、死への恐れすらも見せない。

訊かれた瞬間に即座に突き返す為の「NO」の返しを喉まで登らせる。

 

 

「……アーミヤ…だったか?貴様等は何故あの娘達を生かすために己を犠牲にできた?」

「……あ?」

 

彼はレユニオンの幹部である男が敵対者である自分に尋問することなど分かり切っていた……つもりだった

 

“お前の仲間はどこへ逃げた”やら、“お前たちはこの都市で何をしていた”やら

そういうことを問い詰められると予想していた。

実際()()()()()()()()()敵の組織の詳細な目的や情報をを吐かせようとしたことだろう

 

しかし、彼は違った

「ぷっ……ク……ガハハハハ!!」

笑ってしまったも無理はないだろう。剣吞な様子で重大なことのようにそんなことを訊かれたのだから

 

「……何が可笑しい?至極真面目な問いだ」

「なんだよ、そんなことが聞きたかったのかよ。死を覚悟して損したぜ……ったく」

そう、“そんなこと”だ。ACEにとっては。

 

 

「ふぅ……笑って悪かったな。いいぜ。それなら答えてやるよ」

だから、それくらいならと答えてやることにした。

 

「アーミヤと……ドクターは俺達ロドスにとって不可欠な存在だ。こんな所で絶対に死んじゃいけなかった」

「……あのコータスの幼子と黒フードの人物がか?あの二人に何ができるというのだ?」

「あの二人は感染者の……いや、それだけじゃない。この世界の未来を変えられると俺達は信じている。だからここまで来た」

 

ロドスアイランドは源石病を癒す術を探し求める組織、あの二人がいれば……源石病を治せるのか?

 

(……まさかな)

アッシュはかつてパトリオットに聞かされたロドスアイランドと同じ志を持った組織を思い出す。

あのパトリオットが殿下と敬意を持つほどの人物が率いた組織でさえついぞ治療できなかったのだ。そう簡単に叶うとは思えない。

 

……それに、私はこの目で目の当たりにしたのだ。世界を変えうる可能性の炎が潰えた瞬間を。

アッシュの脳裏に燃え盛る炎に包まれた村、そしてそこに立つ友だった化け物の姿が蘇る

 

「もし、二人が悲願を果たすまでの道を阻む試練、脅威……絶望を前にして膝をつき、屈するかもしれん……そうなれば貴様の自己犠牲も無意味になるのだぞ?それが怖くはないのか」

「……確かに、ロドスの航路は困難なものだ。そういうのも待ち受けてるだろうな」

固き意思を持っていたタルラですらこの残酷な世界に屈してしまったのだ。あんな幼子に耐えられるとはとても思えない

 

 

 

「──けど、乗り越えていけるさ。必ずな」

……だというのに、この男は淀みなくそう答えて見せる。

 

「……何故、そう言い切れる…?あのコータスの目は揺らいでいた……弱い。意思も力もだ。そんな小娘に苦難の道を歩かせるというのか…!?できるわけがないだろう!」

一人じゃないからさ

「────」

思考が、止まる。

 

アッシュ、お前は独りじゃない

 

その言葉は何度も、何度もタルラの口から聞いた。私の魂に焼き付いた言の葉

 

「どんな困難や絶望に直面しても、それで挫けそうになっても……俺たちがいる。背中を叩き、手を取って立ち上がって一緒に壁をぶち壊していく。……まぁ、俺はもうそうしてやれんが…他の誰かがしてくれる筈だ」

ACEの言葉にアッシュは剣を取り落とし、愕然として聞き入ってしまっていた。

 

彼の言い分を聞くにつれて、徐々にある疑念が生まれ始めていたのだ。

 

タルラは本当に一人ではなかったのか?

 

彼女の下に集った同胞たちも、戦友たちも……そして私も

 

タルラに寄り添えていただろうか?

我々に希望と可能性を見せたタルラに何かしてやれていたか?

 

信頼と期待いう名の依存をしてしまっていただろう。

 

だから……

 

(私はあの時に何もしてやれなかった…!)

私は…ッ!

 

ガララ……

 

「あの…アッシュさん……」

自責の念に囚われかけたアッシュの意識を徐に開いた戸の音と一人の少女の声が引っ張り上げる

振り向くとそこにはウルサスの少女が扉を半分ほど開けて上半身を見せていた。

 

「……ゾーヤか、どうかしたか?」

「あ…えっと……また、頼めませんか?」

「……あぁ、分かった。玄関に行っておいてくれ。暇な者を……レイドあたりを向かわせ……いや、私が同行しよう。準備をしておく」

「ありがとうございます……、なるべく早くお願いしますね……」

僅かなやり取りの後、居心地悪そうにしながらも頭を下げるとそのまま廊下を走って去っていった。

 

「本当に生存者を匿っていたんだな。……あの子はこの学校の生徒か?」

「いや、違う。別の学校の学生らしい。路頭に迷っていたのを同胞が拾ってきた。……この学校の生徒と比べて聞き分けが良くて助かっている」

「おい、どこ行く気だ?」

「聞いていたろう。あの子の父親探しの付き添いだ」

「何一つそんなこと言ってなかったろうが!……俺らはここで缶詰めか?」

そんなツッコミを聞き流してアッシュは“ロスリック騎士の直剣”を拾い、“グレートソード”に換装し、外出の準備を進めていく……一刻も早くそこから立ち去りたいかのように

 

 

ガラララ……

「……聞きたいことはもうない。貴様らの好きにしろ」

 

バタン!!

「……行ったか」

「……ACE…隊長」

「おう……気は済んだか?」

「申し訳ありません…」

「気にするな……正直、俺も堪えた」

(さて……どうするかな)

「好きにしろ」と言われた以上自由の身なのだろうか?仮にそうだとしてもここは敵地の最中にある安全地帯だ。迂闊に外に出たところでこのレユニオンの巣窟からは脱出できやしない。

 

「俺達、どうすればいいんでしょうか…?」

「…どうしたモンかねぇ……」

 

 

「お待たせしました~」

取り敢えずこの校舎で情報収集でもするか。そんなことを考えていると、再び戸が開かれ、見知った顔のエラフィアが顔を出した。

 

「おう、お帰りアリーナ嬢……と後ろのそのゴツい二人は何だ…?」

「ドーモ、アリーナ先生の教え子の一般元ミラの暗殺者=デス」

「同じく元カタリナ騎士で海賊を生業としていた者だぜ!」

(いやツッコミどころ多いな……)

だが今度は彼女だけでなく同伴者が二人ほど増えていた。

一人は血のように赤い紋様の走った嘴のような仮面を付けた人物だ。怪しい。そしてもう一人は……曲線的で凹凸の激しい鎧…?を着た騎士…??だ。ACEの知る客受けを狙って流麗で実践的な装備の騎士と比べると独特で……単刀直入に言うと現代から浮いている。怪しすぎるだろ。

 

 

「玉葱の化け物…!?」

「誰がタマネギだ!?カタリナ騎士だ二度と間違えるな小僧!ぶち殺すぞォ!!」

「ご、ごめんなさい!?」

(本当になんだこいつら。癖強すぎだろ。レユニオン……なのか…?)

 

「アハハ……ここに来る途中でアッシュとすれ違ったのですが……彼が何か失礼をしていませんか…?」

「……いや。ただなんというか……レユニオンの所業を知る俺達の持っていたイメージとは程遠いヤツだな、アイツは」

「……あの人は自分をレユニオンだとは微塵も思っていませんので」

「訳アリか?」

 

それを聞いたアリーナは一瞬目を丸くして、呆れたようにため息をつく。

 

「アッシュったら……何も聞かされてないんですね?」

「あぁ、良かったら色々と聞かせてもらえると嬉しい。何せ今の俺らは敵の腹の中だからな……」

「いくつかの話は信じてもらえないかもしれませんが……分かりました」

 

アリーナの作ったシチーを口に運びながらACEとGUARDは彼女から多くのことを知らされる。

 

何れも初耳のものばかりで二人は何度も目を丸くさせられた。

 

レユニオン・ムーヴメントの前進といえる感染者のために立ち上がったドラコの下に集った者たちのこと

アリーナの口から語られるそのドラコの人物像は彼らの知るレユニオンの暴君とは似ても似つかなかった。

寧ろ──タルラはロドスと似た信念を持つ戦士だったのだ

 

そしてその物語に彼の名もあった。

 

アッシュ。タルラの友にして、この世界の異物(イレギュラー)

 

彼は異世界から来たという。成程、確かに信じ難い話である。だがACEは妙に納得していた。

彼に対してアッシュが源石を埋め込んだアーツユニット無しで行使した黒い炎や幻影、虚空から現れる武器。

あれらは彼の居た世界の業ということなのだろう。

 

アリーナが噓を出鱈目を言うような女性ではないのは短い付き合いながらも分かっている。しかし、アッシュについての話はあまりにも突飛が過ぎる故、一旦保留にしておく。

 

アッシュとアリーナはタルラが決起する以前からの旧知である。二人は、タルラに惹かれたフロストノヴァやパトリオット達はタルラと共に感染者のために戦ってきた。

 

 

ついに、タルラの親友と後のメフィストとファウストである二人の少年しか知り得ない転換点にACE達は至った。

 

「タルラがコシチェイに乗っ取られた…!?」

「……コシチェイはタルラに殺されたと聞いたばかりだが?」

「アッシュは視たそうです。タルラの魂に憑いていたコシチェイらしき存在を」

ACEは残された左手を顎に当て記憶を掘り返す。

コシチェイはウルサスの一貴族でしかない男だった筈だ。自身の死後も作用し、他者の精神を奪い乗っ取るなど、アーツでもできない芸当だ。

──いや、そもそも人にできるはずが無い。

 

 

「コシチェイは何者だ…?」

「それは私達にも分かりません。あのバケモノがタルラを乗っ取ってからは地獄でした。ずっとどこかからアレに見られている気がして……」

 

 

「よく……耐えたな」

「……はい」

労いの言葉をかけてもらえるとは思っていなかったようでアリーナの目から僅かばかりの涙が零れる。

それを拭って彼女は続ける。

 

「でも、そんな毎日を彼の同胞たちが終わらせてくれました」

「同胞たち?」

「俺たち──薪の王のことだ」

……早速保留にしていた情報群に出番が訪れ、なんとか必要な情報を取り出す。

 

詳しくはよく分からんが彼等はアッシュが恩義があり、それに報いるために参じたという。

……機会があるかは分からないが一度あの男に直接聞いたほうがよさそうだ。

 

「そこでアッシュは決意しました。タルラを救い出すと」

「救う?どうやって?」

「それは──」

もう既に情報量と密度に疲弊していたACEだが、ここからが本題だ。

 

「えぇっ!?」

「マジかよ……計画というには粗すぎるぞ……」

「それでも、成し遂げる。彼はそう言いました」

「……アイツは本気ってことか」

 

──もし、二人が悲願を果たすまでの道を阻む試練、脅威……絶望を前にして膝をつき、屈するかもしれん……そうなれば貴様の自己犠牲も無意味になるのだぞ?それが怖くはないのか

 

 

あの男はアーミヤをタルラと重ねていたのか。

 

……そして、求めているのかもしれない。

 

暴君を打ち倒す仲間を

 

「レユニオンはいつ動くんだ?」

「明日の早朝には発ちます」

「あ、明日!?このことを本部に伝えないと!!」

「伝える手段がないだろ。ロドスはレユニオンとの対峙は避けられないだろうな……ドクターとアーミヤなら乗り越えられるさ。ケルシー先生もいるしな」

 

「……強いんですね。仲間が危険な目に遭うかもしれないのに」

「俺はACEさんほど強くないけどな……」

「ハハ!そう言われると無責任に聞こえるな。だが、これは俺の持論だが……人間は支えがあればどんな困難だって乗り越えていけるモンなんだよ」

「支え……ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──なんだっていい。守るべき家族とか、信念、目的……身体を突き動かす原動力となるモノならな。それがあればどんなに辛いことがあっても最後には乗り越える。それが人間ってもんだ

 

(……じゃあ私には何もできないのかな)

生存者を探し喚くレユニオンの喧騒も、誰かの悲鳴も止んだ深き夜、普段の住まいとしている保健室に戻り、ベッドの上でアリーナは“幻肢の指輪”を眺める。

 

──君たちも守る。そしてタルラを──皆と過ごした日々を取り戻すッ!

私達との何でもない日々の日常、それへの憧憬と執着が今の彼を突き動かしている。

私の憂いだった生きる理由を見つけた彼はどんな強敵や困難を前にしても屈することなく戦い続けられる。

 

そんな彼に私は何もできない。

私には何も無い。力も弱く、特別なアーツを使える訳でもない。……誰かに守られてばかりだ。

……タルラにも何もしてやれなかった

 

あぁ、そんな自分が嫌になる。

 

(でも……)

瞠目したアリーナの瞼の裏に火の粉を散らす焼け爛れた鎧を纏う冠を戴いた騎士の後ろ姿が蘇る。

彼が手本を見せてくれた。もう後悔はしたくない。口だけだった今までの自分とはもう決別しよう

 

 

「……アンおじ様、いる?」

アリーナはベッドから起き上がり出入口の扉の向こうに聞こえるように声をかける。

 

「……何か、御用ですかな?」

「貴方に頼みたいことがあるの」

すると扉が開き、漆黒の法衣と異形の兜を身につけたた不死者が入ってくる。

彼はアッシュに私の護衛として付けられた老兵だ。ACE達の居た教室に、そして出たふりをしてその外から、見守っていたように常に傍に控え、それでいて邪魔にならない程度の距離感でいてくれる、まるで影のような人。

そんな彼に私はある事を頼んだ。

 

 

「ハハッ…人は見かけによりませんな。……よろしい。実を言うと私めもその類は得意でしてな」

老兵は嗤い、己が得物である“渇望の鎌”を現し、その純黒の刃が守るべきアリーナに向ける。

「念の為に再度問いましょう。……本当によろしいのですね?」

「はい!」

 

──渇望の一閃がアリーナに放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……結局、ゾーヤの父親は見つけてやれなかったな。せめてここを発つ前に見つけてやりたかったが……ここに残る同胞たちに託すしかないか。それにこの学校の生徒達の衝突の原因も結局分からずじまいだ。こればかりはは当事者にゆだねるしかあるまい……頼むぞズィマー)

翌日の早朝、アッシュはペテルヘイムの校長室の椅子に身を預け、机に脚を乗せながら物思いに耽っていた。

 

「アッシュさん、そろそろ時間ですよ」

「……レイド、後は頼む」

「分かってます。この刃に賭けて、貴方の後ろは守りますよ」

「クク……頼りにしているぞ。紅の…か…クッ…刀よ」

「絶対バカにしてますよね俺の二つ名」

 

今となっては数少ない戦友の愛刀が鞘から走られる前にアッシュは校長室を後にする。

 

彼はこれから龍門という名の移動都市に向かう。

レユニオンの表向きの第二の計画の次の標的だ。

そしてそこは彼の計画において最後の決戦のバトルフィールドでもある。

 

(結局、学生達の衝突も解決できずじまいだ。こればかりは当事者にゆだねるしかあるまい……頼むぞ、ソニア)

廊下に備えられていた窓の向こうには庭園があった。植えられている一本の木の素っ裸な枯れ木のような姿を見ていると此方まで寒くなってくる。

庭園を挟んだ向こう側の廊下で二つの集団が睨み合い、口論に及んでいた。

 

一方はウルサス学生自治団を名乗る少女たち、そしてもう一方はこの学校の生徒……貴族連中の子息だ。

身分や階級による差別、見下し合い……どの世界でもあるものだ。平等という言葉のなんと無力なことか

 

(結局、学生達の衝突も解決できずじまいだ。こればかりはは当事者にゆだねるしかあるまい……頼むぞ、ソニア)

深くため息を吐き、彼女らから目を離したアッシュは歩を進める。

 

玄関についたアッシュ。出口の先には何十人ものレユニオンの装束を着た同胞たちが隊列を作っていた。

あくまで彼等はレユニオンに潜伏させた者達だ。あれ以上の数の同胞たちがまだアッシュの内に宿る残り火に在る。

 

「おっ来た来た。昨日ぶりだねぇ。おじさん」

「……遅いぞ。何をしていた」

当然彼らを束ねる立場であるメフィストとファウストもそこでアッシュを待っていた。

 

「“剣”は全て刺し切ったか?」

「抜かりない」

「酷いよおじさん。あの数全部僕たち任せてさァ!」

「クク、すまんな。龍門では私がやらせてもらうよ」

先ずは一つ。布石は打った。我らの計画も動き出そうではないか。

 

「……ねぇ、先生は?いってきますって言いたいんだけど」

「……彼女は多忙な身だ。……少しでも英気を養って貰いた──」

 

 

「その気遣いはうれしいけど、貴方たちの見送りくらいはさせて欲しいわ」

この場に居るはずのない彼女の声にアッシュは驚き、弾かれたように振り向く。

 

「「先生!」」

「アリーナ……何故」

「見送りって言ったじゃない……それと、貴方に渡したいものがあるの」

「これは……」

 

「──御守りよ。持っていって」

「ずるーい!僕らには無いの!?」

「ごめんね……でもこれはイーノやサーシャたちも守ってくれるわ……そう祈っただけだけどね。私が貴方達にできることなんてこれくらいだから」

「……いや、十分すぎるよ。ありがとう」

アッシュは御守りを強く握りしめ、己のソウルへと取り込んでいく。

 

……気持ちだけだけど、これで貴方の傍で戦ってあげられるかな。

アリーナはそっと自分のエラフィア特有の枝分かれしていた右の角の先端が()()()断面を撫でた。

 

「ここの人たちのことは私に任せて。……無理をしないでなんて言わない。お互い、頑張りましょう」

 

……アッシュはアリーナに言葉を返さず勢い良く襤褸の外套をはためかせ、薪の王達に向き直った。

そして彼は握り拳を作った右腕を上げ──ジェスチャー“静かな意思”で静かに、そして力強く返す。

 

 

「……聞け!我が偉大なる後進にして同胞たちよ!」

襤褸の外套をはためかせ、薪の王達に向き直ったアッシュは彼を真の主とする剣──“灰の螺旋剣”を曇天の空へと掲げる。

 

「感染者の希望と崇められる暴君への反逆劇の幕開けだ。諸君──派手に行こう」

 

「「「「「「「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉ-------!!!」」」」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

──灰を縛る隷属の鎖が砕かれた。






今回の薪の王

「……おや、これは失敬。驚かせてしまいましたな」
右1渇望の鎌
左1呪術の火
頭アーロンの兜
胴罪の長衣
腕罪のマンシェット
足レイムの足甲
通称アン爺 オリジナル薪の王です。ダクソ2でまさかエルデンリングの彼のコスプレができるとは思わなんだ


「ドーモ、アリーナ先生の教え子の元ミラの暗殺者=デス」
右1正統騎士団の大剣
左1レイピア
頭影の仮面
胴クレイトンのチェインメイル
腕クレイトンのチェイングローブ
足王国剣士の足甲

「誰がタマネギだ!?カタリナ騎士だ二度と間違えるな小僧!ぶち殺すぞォ!!」
右1竜狩りの大斧
左1太陽のタリスマン
頭カタリナヘルム
胴カタリナアーマー
腕カタリナガントレット
足カタリナレギンス


あとがき
前回の次回予告がタイトル詐欺になってしまったことを深く謝罪します。申し訳!
そして何度でも言うぞ。誤字脱字の報告に“感謝を!”

レユニオンを生かすとは言ったが、誰も他の陣営を救わないとは言っていない
本編では巡り合うことのなかった人同士の会話は容易ではないな……(CV加瀬康之
“ウルサスの子供たち”の要素を入れようとしたんですが……悪ィ、やっぱシナリオ読んでて辛ぇわ…!


次回、幕間:鼠の王……になると思われる

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灰の螺旋剣
王の灰を真の主とする唯一の大剣
はじまりの残り火を宿した得物

あらゆる者はそれを象徴とした
安寧の、王の、あるいは試練の
そして灰のとっては……

戦技「残り火」
前方広範囲に残り火を放つ戦技
強攻撃で踏み込む薙ぎ払いに繋げられる
またその時に、螺旋の刀身は残り火を纏う

アリーナの御守り
アリーナから貰った御守り

縫いこまれた粗布のソレからは中身は伺えない。
だがその内にあるものは固く、そして仄かに暖かい

この御守りは一人の女の小さな祈りが込められただけの代物、特別な力などありはしない。
されど──どうか貴方が望む未来に辿り着けますように



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