ダイア・ロックは砕けない   作:山雅将暉

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初まりの戦い ダイア・ロックvsシキミ

 

 汝、何者にも砕かれぬ意志であれ。

 

 目を閉じれば、10になる頃に地元の四天王にもらった言葉が脳裏を過ぎる。その人はいわタイプ使いにも関わらず、はがねタイプを得意とする俺のパートナーでも砕けず、堅牢を地で行くような試合運びで、気がついたときには負けている。そんなバトルができる人だった。

 

『さあさあ、やってきましたイッシュリーグナトロ大会準々決勝!』

 

 緊張していないと言えば嘘になる。これまでの経験を集約したバトルができるか、またあの人に倣ったバトルを意図せず真似てしまうのではないか。揺れる心の果てに砕けぬ意志とはどんなものかを考える。

 

 ダイヤモンド、ルビー、サファイア、ベリル、ガーネット・・・・・・どれほど想像しても湧いてくるのは宝石ばかり。

 

『まずは現在売り出し中、新進気鋭の小説家にして凄腕のゴースト使い! 丸眼鏡の奥に光るヴァイオレットにはいったいどんな物語が映っているのか!? シキミ選手の入場です!』

 

 花火だか、火花だかわからないモンがフィールドを飛び散り、紫色に染まった女が悠々と戦場に上がった。

 

 そんな彼女を見て、どんな石でもいいのだと直感的に思った。どんな形をしてようが、どんな輝きをしてようが、砕けなければ本懐は遂げられる。未だ芯が無くとも、今降って湧いた感情の原石を磨ききる。

 

 意志は定まった。

 

 俺は・・・・・・あの女に勝ちたい!

 

『対するは、カロス地方の外れ、かつて世界に名を馳せたロック島の戦闘民族! その血を受け継いだはがね使い! 逆立つ銀の髪はダイヤモンドの如く!? ダイア・ロック選手!』

 

「「「ワアアアアアアアアア!」」」

 

 張り裂けんばかりの歓声を背に、戦場へ上がる。フィールドに踏み込むと同時に無数の火花がシャワーのように降り掛かった。

 

(あつつ! やっぱこの火花見せモンじゃねえな。派手好きなイッシュ地方らしいぜ)

 

 半袖グレーコートの弊害をこの身に感じつつ、熱くなった皮膚を息を吹き掛けていると、紫色の女———シキミはメモ帳を片手に万年筆を走らせた。

 

「コンサートファンタジーには慣れませんか?」

 

 その目はしっかりとこちらを見つつも、動く手は一向に止まらない。ここまで極端に極まった人も珍しい。

 

「ああ。この花火、どうもはがねタイプの俺には相性が悪ぃ」

 

「なるほど。使い手自身もポケモンのタイプの影響下にあると・・・・・・」

 

「そこまで極端な話じゃねえよ。アンタにも覚えがねえか? 得意なポケモンと居ると、いつの間にか趣味嗜好まで似通ってくる感覚」

 

「・・・・・・確かに。私も昔はお化け屋敷が苦手だったのですが、ポケモンと接するうちにいつしか珍しい心霊現象を待ち侘びるようになっていました」

 

 キラキラとした瞳で恐ろしいことを語るシキミに若干怖くなりつつも、純粋な感情を宿した微笑みに釣られて笑う。

 

「ご紹介が遅れました。ゴーストポケモン使いのシキミです。普段は小説を書いていまして、未だ未熟な身ですが、ご愛読いただけると個人的に嬉しいです」

 

「ロック島出身のダイア・ロックだ。珍しい石を探すのが趣味のしがないポケモントレーナーだ。が、バトルに関しちゃ、誰にも負けるつもりはねえ」

 

「フフフッ、気が合いそうですね。この勝負が終われば、取材させてください」

 

「対戦相手にしていた例のあれか。いいぞ」

 

「やった♪」

 

 凄まじい動きを見せていた彼女の万年筆がようやく動きを止めた。と、同時に審判がフィールドに出る。

 

「使用ポケモンは6対6のフルバトル。では両者ポケモンを」

 

 審判が言葉を終える前に腰のホルスターに収められたボールに指がかかる。溢れる闘争心のままにボールを掴んだ。

 

「砕け、クチート!」

 

「クチッ」

 

 シキミも万年筆を親指の奥に挟みながらボールを繰り出した。

 

「鮮烈な序章を飾りましょう、ブルンゲル!」

 

「ブルゥン」

 

『ダイア選手はクチート、シキミ選手はブルンゲル。体格差のある二人のポケモンはどのようなバトルを繰り広げるのでしょうか!』

 

 可愛らしい体躯に大顎を携えたクチートと不気味なヒレをヒラヒラと動かすピンク色のブルンゲルがフィールドに出現した。

 

 スタジアムモニターにそれぞれ繰り出したポケモンが表示される。

 

「それでは・・・・・・クチートvsブルンゲル、バトル開始!」

 

「クチィ!」

 

「ブルゥ!?」

 

 バトルスタートと同時にクチートのいかくが始まる。

 

「クチート、アイアンヘッド」

 

「ブルンゲル受け止めて」

 

「クゥチッ!」

 

「ブッ・・・・・・ルゥ!」

 

「チチィ!?」

 

 クチートの鋼色のオーラを纏ったとっしんをブルンゲルはその豊かな脂肪で受け止めた。と、同時にブルンゲルから発せられた紫色のオーラがクチートを包んだ。

 

「アイアンヘッド、いただきました♪」

 

「くっ、のろわれボディか!」

 

 これではアイアンヘッドが使えない。

 

「ハイドロポンプ!」

 

「クチートのみこむ!」

 

「ブ———ルァン!」

 

 ブルンゲルがその小さな口を大きく開き、凄まじい量の水を放水する。それをクチートは自慢の大顎を開き、ブルンゲルの放水が終えるまで水を飲み切った。

 

「っ! おもしろい技の使い方ですね。ですが、いつまでその水を貯め込めますかね。シャドーボール!」

 

「ブ———ルゥン!」

 

 シャドーボールがクチートに迫る。

 

「クチート、大顎で受け流せ!」

 

「クチィ———ット!」

 

 クチートの大顎に命中したシャドーボールは緩やかな感触を伴って、軌道を逸らした。

 

「なるほど、飲み込んだ水を緩衝材にしましたか。では、なみのり!」

 

「ブルゥ!」

 

 三度攻撃。今度は高範囲に渡る波。小規模の技は受け流されるという判断から繰り出されたものだった。

 

「お前から見て右斜め上だ。角度は30°ちょい」

 

「クチッ」

 

「行け、はきだす攻撃!」

 

「クゥチャア!」

 

「ブルッ!? ブルゥゥゥ!」

 

 クチートの反撃。それは飲み込んだ水の放水———擬似ハイドロポンプによって為された。一点に集中された放水は波を押し退け、ブルンゲルの巨体をも容易に吹き飛ばした。

 

「よし!」

 

「・・・・・・いただきましたよ、ダイアさん♪ブルンゲル、下に向かってうずしお!」

 

「っ!!」

 

「ブゥルゥ!」

 

 上空に広がるうずしお。ブルンゲルのコントロールにより、それは下———クチートの真上へと落とされる。

 

「やるしかねえな。クチート、ふいうち。有効射程に入るまでアイアンヘッドで水を押し退けろ」

 

「クッチ・・・・・・チチィ!」

 

 タイミングを見極めると同時にクチートが跳んだ。うずの中心をのろわれボディの効果から逃れたアイアンヘッドで突っ込んだ。それを見てシキミはシナリオ通りと微笑んだ。

 

「今よブルンゲル、ハイドロポンプ」

 

「ブ———ルァン!」

 

「っ! クチート!」

 

「クッチャァ!」

 

 警告。されど間に合わず。うずの中心を穿っていたクチートの肉体はブルンゲルの放水の後押しによって、地面に叩きつけられた。

 

「・・・・・・クゥチ」

 

 どうにか立ち上がるも、直後のうずしおの直撃によって、濡れたフィールドにクチートが倒れた。

 

「クチート戦闘不能、ブルンゲルの勝ち!」

 

『クチート起死回生の一手とならず、ブルンゲルに後一歩届きませんでした!』

 

 スタジアムモニターに表示されたクチートが真っ黒に染まる。倒れたクチートをボールに戻す。

 

「してやられたな。・・・・・・計算通りかシキミ?」

 

「計算なんてしてませんよ。私は常にハッピーエンドを想像しているだけです」

 

「ハッピー、エンド?」

 

 想像以上にメルヘンな回答が返ってきたことに思わず首を傾げて呆然とする。

 

「はい。どうすれば私のポケモンが幸せな結末を迎えられるか、どのようなことが致命的なミスとなるかを思い浮かべて指示をする。私がやったことと言えばそれぐらいですよ。今回で言えば、接近されてからのかみくだくがバッドエンドに繋がるルートでした」

 

「作家的な思考からなる戦略か」

 

 気を引き締め直してボールを握る。

 

「ええ、小説家ですので。戻ってブルンゲル」

 

「ブルゥン・・・・・・」

 

『おっと! シキミ選手、ブルンゲルを温存する構え』

 

 モニターのブルンゲルの表記が灰色となる。ブルンゲルの入ったモンスターボールを別のものと入れ替えて、シキミは笑う。

 

「さあ、もっと私の創作意欲を刺激してください!」

 

「上等! 勝利の鐘を鳴らせ、ドータクン!」

 

「圧倒の次章を! フワライド!」

 

「ドーター」

 

「フワァ」

 

 青色の光とともに出現する釣り鐘を象るポケモンと気球を象るポケモン。スタジアムモニターに表示される二体のポケモン。双方種族特有の惚けた顔を宿しながら、宙を浮く。

 

『双方二体目のポケモンが繰り出されました。ダイア選手はドータクン、シキミ選手はフワライド。地に足付かないポケモン同士、熾烈な空中戦が予想されます!』

 

「空中戦ですか、これはまた味わい深いバトルになりそうです!」

 

「胃もたれしても知んねえぞ」

 

「ドータクンvsフワライド、バトル開始!」

 

「フワライド、アクロバット!」

 

 緩やかなに浮いていたフワライドが瞬く間に、素早い動きでドータクンの周囲を飛び回る。その速度はじょじょに速く、疾く、加速していく。

 

 今度は俺が笑う番だ。

 

「トリックルーム」

 

「・・・・・・ドーッター!」

 

「っ! フワライド突っ込んで!」

 

「フゥワー!」

 

 エスパータイプ特有の不思議な空間を形成し、フワライドが急激に失速する。シキミの急いた指示を聞いてもそれは変わらない。

 

「・・・・・・距離は不十分ですが、10万ボルト!」

 

「フーワー・・・・・・」

 

 トリックルームの影響でフワライドが電力を溜めるのに時間がかかる。

 

 狙いは十中八九、フィールドの水に叩き落としつつの感電による威力強化だろう。

 

 その隙を見過ごすはずもなく、ダイアはとっておきの技を繰り出すよう指示を出した。

 

「ドータクン、メテオビーム」

 

「ドォォォォ———」

 

(メテオビーム? どうしてフワライドの技が遅れるこの局面で溜めが必要な技を・・・・・・)

 

「———タァァァァァ!」

 

「え?」

 

 それは溜め技というには速すぎた。重く、速く、凄まじい威力を宿しながらも、不条理なほどに溜めが短すぎた。

 

「フワァァァァ!」

 

「フワライド!」

 

 強力ないわタイプの技を受けたフワライドの体がシキミの側を通り過ぎる。スタジアムの壁に激突し、ようやく止まったフワライドの行く末を確認するために審判が近づく。

 

「っ・・・・・・フワライド戦闘不能、ドータクンの勝ち!」

 

「そんなっ!? 一撃で・・・・・・」

 

『なんとドータクン! 仕事人さながらの一撃必殺! 凄まじい威力のメテオビームを見せつつも未だ底が見えない!』

 

 ドータクンが鐘の音を鳴らした。それは勝利の雄叫びのような荘厳さが宿りつつも、静かな理性を保った喜びの音色だった。

 

「よくやったドータクン」

 

「ドーター」

 

 目元を緩めるドータクンにボールを向けて、モンスターボールに収納する。

 

「フワライド、お疲れ様でした。圧倒されたのは私たちでしたか。・・・・・・彼は肌に打ち付ける風の一切を跳ね除け、彼自身が一陣の風となって駆け抜けた。彼の猛攻は不落の城塞すらも止められず、ただ勝利の祝砲をあげるために・・・・・・」

 

 一方、フワライドをボールに戻したシキミは目が据わり、少し俯いたかと思えば、狂ったように万年筆を動かし続けていた。

 

『おおっと? シキミ選手ご乱心か!?』

 

「お、おいシキミ?」

 

 書き終えたのか、メモ帳に万年筆のクリップを引っ掛け、万年筆を荒々しく動かしていた左手を頬に添え、下唇を緩く舐めて恍惚とした笑みを浮かべた。

 

「最ッ高♪」

 

 ・・・・・・目がイってやがる。

 

「やはり、ポケモンバトルはいいですね。私の知らない世界がどんどん広がって・・・・・・私の知らない色に染められる感覚が最高の充足感を伴って味わえる。ああ♪久しぶりのこの感覚♡なんて素敵な時間なの♡」

 

 見覚えがある。芸術家気質な人間が、生まれたアイデアに酔いしれる場面。

 

「ダイアくん♪もっと私の知らない世界を教えてくださいね。このポケモンバトルで!」

 

「・・・・・・おう!」

 

 気がつけば笑みが溢れていた。この大会で初めてシキミの左手から万年筆が無くなった。どこまでも純粋な瞳で、次のポケモンのモンスターボールが左手いっぱいに握られていた。

 

「ゴルーグ、勇敢な物語を紡ぎましょう!」

 

「この流れを盤石なものとしろ、ナットレイ!」

 

「ルーグ!」

 

「ナットォ」

 

 紫色の巨人兵と黄緑の三本の触腕を持った棘のある体がフィールドに降り立つ。スタジアムモニターに同様のポケモンが表示される。

 

『双方三体目のポケモンはゴルーグとナットレイ! ですが、ナットレイの色が違うぞ!?』

 

「色違いですか!」

 

「確かにそうだが、コイツの特別なところはなにも色だけじゃねえぞ」

 

「ナトッ!」

 

「フフフッ、その言葉だけでアナタとナットレイの深い信頼が垣間見えます。今この場で、アナタとナットレイの出会いのエピソードを根掘り葉掘り聞きたいところですが・・・・・・今はこのバトルに集中するのみです」

 

 情熱を宿したヴァイオレットがダイアとナットレイを射抜いた。鋭い空気感がフィールドを包み、ナトロスタジアム全体が今か今かと審判のバトル開始のコールを心待ちにしている。

 

『残ったトリックルームの影響を考慮してか、鈍重なパワーファイターがフィールドに出揃いました! このバトル、これまでよりパワフルな展開が期待できます!』

 

「ナットレイvsゴルーグ、バトル開始!」

 

「ナットレイ、ねをはるだ!」

 

「ナァトォ」

 

 バトル開始と同時に、ナットレイの触腕からフィールド中へ地上にまで侵食する根が伸びた。根はブルンゲルが残した水を吸収してどんどん成長していく。

 

(いきなり自身に交代不可を強制する回復技! ・・・・・・それなら)

 

「行くよゴルーグ、シャドーパンチ!」

 

「ッルゥ!」

 

「ナットォ!」

 

 トリックルームの影響下で極限まで速くなったシャドーパンチがゴルーグの拳から飛び出し、ナットレイに炸裂する。堅牢な構えを感じさせるナットレイの佇まいが容易に吹き飛び、その体を繋ぎ止める根が剥き出しになって、ようやくナットレイの後退が止まった。

 

「ナットレイ!?」

 

 ・・・・・・! 効きすぎている。てつのこぶしを加味しても、シャドーパンチの威力じゃねえ。なんか仕込んでやがんな。

 

「おもしれぇ! ナットレイ、ゴルーグの拳を封じるぞ! やどりぎのたね」

 

「ゴルーグ、かわして!」

 

「ナァァァット!」

 

 ゴルーグはいつでも動ける体勢を保ち、ナットレイは低く構えて、体に漲らせた緑のエネルギーを地面へ押し流す。

 

(溜めが長い? それにやどりぎのたねのパワーが地面に・・・・・・まさか!)

 

「ゴルーグ今すぐ飛んで!」

 

「遅い」

 

 ゴルーグの足が胴体に収納され、ロケットのように飛び上がろうとする瞬間、地面から根が蛇のようにゴルーグへと絡みついた。

 

「ルグァァァ!」

 

「ゴルーグ!」

 

「砕き時だ。ナットレイパワーウィップ!」

 

 根が深緑に染まり、ゴルーグへと迫る。

 

「戻ってゴルーグ!」

 

 パワーウィップが当たる直前、シキミのモンスターボールから伸びた光線がゴルーグを収納した。スタジアムモニターのゴルーグが灰色に染まる。

 

『ゴルーグ危機一髪! ナットレイの猛攻から逃れたァ!』

 

「・・・・・・っ、いいタイミングで交代しやがる」

 

「ふぅ、危うくアナタの物語に呑まれてしまうところでした。本当に、なんて楽しいひととき♪」

 

 シキミは右手をワキワキと動かしながら胡乱な瞳で、次のポケモンをホルスターから取り出した。

 

『さあ、シキミ選手。ダイア選手のナットレイにどのポケモンで立ち向かうのか!?』

 

(まず一番に対処すべきはフィールド上に広がった根)

 

「ユキメノコ、爽快な逆転劇を!」

 

「メノッ」

 

『シキミ選手が繰り出した四体目のポケモンはユキメノコだァ! トリックルームがまだ切れておらず、フィールドはナットレイによって支配されるなか、ユキメノコはどうやり過ごすのか! 期待が高まります!』

 

 フィールドを漂う雪女を彷彿とさせるポケモンが、ナットレイの周囲を優雅に舞う。ユキメノコがスタジアムモニターに表示された。

 

「・・・・・・どんな意図があろうとも、堅実に捩じ伏せるぞナットレイ」

 

「ナト」

 

「ここが天王山ですよユキメノコ」

 

「メノ」

 

「ナットレイvsユキメノコ、バトル開始!」

 

「ユキメノコ、ふぶき!」

 

「メェェェ———」

 

(やはりまだ溜めが遅い!)

 

「ナットレイ、ジャイロボール!」

 

「ナト! ナァトトトトトト!」

 

 ナットレイがフィールドの根を伴って回転する。根ごと回転することによって間合いの伸びたナットレイは、トリックルームの影響もあり、凄まじい攻撃速度でユキメノコの前に迫る。

 

「———ノォォォォォォ!」

 

『凄まじい威力!』

 

 直前にユキメノコのふぶきが放たれた。冷たい風が振り回される根を押し退け、ナットレイ本体へと向かう。

 

「トトトトォ!」

 

「メノッ!?」

 

 しかし、ふぶきはジャイロボールの回転を止めるに至らず、瞬く間に振り払われた。

 

『おおっと! ナットレイ、ユキメノコのふぶきをものともせずに弾いたァ!』

 

「畳みかけろ、パワーウィップ!」

 

「ナァットォ!」

 

 再び地面から伸びる根。

 

「っ!!」

 

 根の動きが・・・・・・? 雪で・・・・・・ふぶきはこのためか!

 

「ナトッ!?」

 

 根に積もった雪によって、パワーウィップは先刻よりも速度が激減していた。またもやシキミが笑う。

 

「今ですユキメノコ! あられ」

 

「させんな! ジャイロボール」

 

「メェェノォ!」

 

「ナァァァァ———」

 

『おおっと! このタイミングでトリックルームがきれたァ!』

 

 ユキメノコの雄叫びによって大粒のあられが降る。ナットレイの技の発動はまだ済んでいない。

 

「チッ! ならミサイルばりだ!」

 

「ナァァァット!」

 

「これにて終幕です。ユキメノコ、ふぶき!」

 

「メェノォォォォ!」

 

「ナァァットォォォ!?」

 

 ナットレイの触腕から放たれたミサイルばりはユキメノコのふぶきに押し返され、ミサイルばり、ふぶきともにナットレイに直撃した。

 

「ナットレイ!?」

 

『ユキメノコのふぶきとナットレイのミサイルばりがまとめてナットレイに炸裂ゥ! ナットレイはどうなったァ!?』

 

 ミサイルばりによって発生した煙が晴れたとき、ナットレイの触腕は緩く撓み、触腕の支えを失ったナットレイはその体をフィールドに投げ出していた。

 

「ナ〜トォ」

 

「っ!」

 

 ゴルーグ戦のダメージがデカかったか!

 

「やった♪」

 

「ナットレイ戦闘不能、ユキメノコの勝ち!」

 

『なんとォ、ナットレイが倒れたァ! これは意外な展開だァ! しかもナットレイが支配していたフィールドは現在、ユキメノコのあられによって支配されています。これはダイア選手、追い詰められましたァ!』

 

 スタジアムモニターのナットレイが黒に染まる。と同時にダイアはフィールドのナットレイをモンスターボールに収納する。

 

「戻れナットレイ。すまん、シキミの狙いを看破できなかった」

 

『ダイア選手の次のポケモンはなんだ!?』

 

 これで俺のポケモンは二体やられた。一方、シキミは五体残している。ここで負けるわけにはいかない。

 

「凄えなお前、これでもナットレイは相性有利のポケモンに負けたことはなかった」

 

「へえ、それはまたおもしろそうな武勇伝ですね! このあとの取材が楽しみです」

 

 シキミは満面の笑みを浮かべて、再びメモ帳に万年筆を走らせる。ダイアはルーティンとして右手をコートのポケットに突っ込み、一段と鋭い目付きを宿した。

 

「だが、次は別格だぜ」

 

「っ! もう、どれほど私の心を踊らせれば気が済むんですかァ♪」

 

 瞬く間に胡乱な瞳に染まったシキミは、万年筆を握って身悶えし、再びメモ帳にクリップを引っ掛けた。同時にシキミの表情は引き締まったものとなった。

 

「世界一の輝きを魅せてやれ、ボスゴドラ!」

 

「・・・・・・コッドォォォォォォォォ!」

 

 圧倒的な巨体、鉄の鎧を彷彿とさせる硬い岩石をも併せ持った肉体が、モンスターボールからフィールドに出現するとともに、深い陥没を作った。そして、スタジアムモニターにボスゴドラが表示された。

 

『ダイア選手の四体目はボスゴドラだァ! 闘志溢れる雄叫びとともに登場だ・・・・・・が、デカすぎないかァ!?』

 

「これはたまりません♪いったいこの世界はどれほど広いの? アナタはどれほど広い世界を知っているんですか?」

 

「見てきたモン全部だ」

 

「そうでしょうとも! ではその世界の一端を掘り起こさせていただきます!」

 

「メノォ!」

 

「コドォ!」

 

「ボスゴドラvsユキメノコ、バトル開始!」

 

 審判の合図と同時にシキミが動き出す。

 

「あられがあるうちに仕留めますよ、ユキメノコ。ふぶき」

 

「メェェノォォ!」

 

 特性ゆきがくれを巧みに活かした動きを為した後、姿を現したユキメノコの超低温の吐息がふぶきとなってボスゴドラを襲う。しかし、ボスゴドラは一切動じず、ダイアの指示を静かに待っていた。

 

「地面の根を持ち上げろ」

 

「コッドォォォォ!」

 

 ナットレイの残した根をボスゴドラがその怪力で勢いよく引っ張り出した。フィールド中の根は鞭のように荒ぶり、あられで自身の姿を誤魔化していたユキメノコに強く打ち付けられた。

 

「メノォォォ!」

 

『これは! ボスゴドラの引っ張り出した根が、あられの中に隠れていたユキメノコに命中したァ!』

 

「ええ!?」

 

「そこだな・・・・・・もろはのずつき!」

 

「コッドォォォォ!」

 

 ボスゴドラの体が青いオーラに覆われていく。本能的な恐怖に晒されたユキメノコが慌てて距離をとる。

 

「落ち着いてユキメノコ! あやしいかぜで吹き飛ばしてください」

 

「メ、メェェェノォォ!」

 

 ユキメノコから発せられた紫色の風をものともせず、ボスゴドラは突き進む。

 

「コドォォォォ!」

 

「メェェェ!」

 

 強烈なずつきが命中すると同時に、ユキメノコがその一撃によって弾かれたように吹っ飛ばされた。と同時に、あられが止んだ。

 

「メッノ〜」

 

「っ! ユキメノコ!」

 

「ユキメノコ戦闘不能、ボスゴドラの勝ち!」

 

 スタジアムの壁に激突したユキメノコは立つこともできずに目を回す。スタジアムモニターのユキメノコが黒に染まる。

 

『ボスゴドラのもろはのずつきがユキメノコに炸裂! ユキメノコ耐えられない! ボスゴドラ、圧倒的だァ!』

 

(また一撃。ナットレイ戦のダメージは無いに等しかったのに。ドータクンといい、ボスゴドラといい、一体一体のパワーが桁違いね。それにあのボスゴドラ、反動ダメージがありませんね。いしあたまですか)

 

「お疲れ様ですユキメノコ。最高の逆転劇でした」

 

 ユキメノコを戻したモンスターボール越しに労うシキミ。その頬には冷たい汗が伝っていた。

 

「ボスゴドラ、次も頼む」

 

「コドォ」

 

『これでシキミ選手も残り四体! 両者一歩も譲りません! ダイア選手はボスゴドラ続投の構え、対するシキミ選手の次のポケモンは!?』

 

「では、転機を齎してください、デスカーン!」

 

「カカッ!」

 

 金色の棺桶がフィールドに出現し、そこから伸びる四本の黒い触腕が全方位に広がる。

 

『シキミ選手の五体目のポケモンはデスカーンだ! おおっと、デスカーンの腕が長い! いったいどこまで伸びてゆくのでしょうか!』

 

「ボスゴドラvsデスカーン、バトル開始!」

 

「ボスゴドラ、ステルスロック」

 

「デスカーン、ボスゴドラに触れてください!」

 

 狙いはミイラの発動だろ。

 

「カカァッ!」

 

「コォッド!」

 

「カァッ!?」

 

 瞬く間に伸ばされたデスカーンの触腕を、ボスゴドラはステルスロックの岩を刺し、フィールドに縫い止めることによって食い止めた。ステルスロックの姿が消える。

 

「っ! デスカーン!」

 

「ストーンエッジ!」

 

「デスカーンおにび!」

 

 しかし、その掌はボスゴドラを狙うのになんら支障はなく、正確に照準を合わせ、青白い炎を放った。

 

「ストーンエッジ待機」

 

「コッド!」

 

 迫るおにびをボスゴドラは身の回りに顕現させた岩の刃を回転させながら待機させ、おにびを打ち払った。

 

「そう簡単にはいきませんか・・・・・・シャドーボール!」

 

「カァァァカッ!」

 

「なっ! ストーンエッジ発射!」

 

「コォッド!」

 

 四つの触腕からそれぞれ放たれたシャドーボール。その多角的な攻撃の対処を余儀なくされたボスゴドラは、ストーンエッジの弾幕をそれぞれのシャドーボールに向かわせることによって相殺し、事なきをえた。フィールドに技のぶつかった余波の煙が広がる。

 

「っぶね。シャドーボール四発打てんのかよ」

 

「鍛えましたので。ですが、戻さなくてよろしいのですか」

 

 どことなく楽しげな声だった。まるで心臓を鷲掴みにされたような戦慄が走ったダイアはすぐさまボスゴドラに指示を出した。

 

「っ! ボスゴドラ下がれ!」

 

「手遅れです。捕まえました♪」

 

「コド?」

 

「カッカ!」

 

 煙が晴れたフィールドでは、ボスゴドラの尾にデスカーンの触腕の一つが触れていた。ボスゴドラの身が紫色のオーラに包まれ、前頭部の輝きが半減したことで、ダイアはミイラの発動を悟った。

 

「っ、やられた!」

 

「今ですシャドーボール!」

 

「カァッカァ!」

 

「コッドォ!? ・・・・・・ドォ」

 

 そして、その触腕の一つからシャドーボールが発射される。頬に直撃したボスゴドラは衝撃のあまり数歩下がった。

 

「戻れボスゴドラ」

 

 依然豪胆な構えを崩さなかったボスゴドラをモンスターボールに収納するダイア。スタジアムモニターのボスゴドラが灰色に染まる。

 

「お前の出番は必ず来る。今はゆっくり休め」

 

『ここでダイア選手、堪らずボスゴドラを下げましたァ! シキミ選手のポケモンも負けてなァい!』

 

「当然です♪」

 

「カカッ!」

 

 実況の言葉にシキミは大きな胸を張り、デスカーンはしてやったりと笑みを浮かべた。

 

「さあ、ダイアくん。ミイラは問題なく発動しましたし、ボスゴドラはもう対処可能です。次はどんなポケモンで私を惑わせてくれるんですか?」

 

「ソイツはどうかな? ウチの相棒はそんな柔じゃねえよ」

 

「フフフッ、その言葉を聞けて安心しました♪月並みな言葉ですが、まだまだ勝負はこれから、ということですね♪」

 

「カッカ」

 

 シキミとデスカーンが楽しげに笑う。その純粋な瞳が映す先はまだ見ぬダイアのポケモンへの期待か、それとも圧倒的パワーを見せたボスゴドラへの期待か。

 

「ったりめえだ! 行くぞ、アイアント!」

 

「アイアァン!」

 

 ダイアは前者にさせるために、鋼色の蟻ポケモンを繰り出した。スタジアムモニターにアイアントが出現する。

 

『ダイア選手の五体目はアイアントだァ! これまでのバトルから、圧倒的なパワーを見せていたダイア選手のポケモンたち、アイアントの小さな体躯に会場の期待が注がれます!』

 

「アイアントvsデスカーン、バトル開始!」

 

「デスカーン、このままダイアくんのポケモンを機能停止にさせますよ! おにび」

 

「カァ———」

 

 四方に伸びたデスカーンの触腕の掌全てがアイアントに向けられる。その手に青白い炎が宿り始めた瞬間、

 

「アイアント、つめとぎ」

 

「ギャリィィィィィィ!」

 

「———ッカァ!?」

 

「な、なんですかこの音!」

 

 アイアントのつめとぎと共に強烈な金属音がスタジアム中を駆け巡り、デスカーンはおにびの発動を中止し、反射的に耳を塞いだ。

 

『恐るべしつめとぎ! 最早きんぞくおんと言って差し支えない音量だァ! デスカーンは動けない!』

 

「今だアイアント! なかまづくり」

 

「カッ?」

 

「アイアァン。アイ〜アイ」

 

「カァカァ」

 

 耳障りのつめとぎが止み、耳から離したデスカーンの手がアイアントの爪に繋がれた。アイアントは辿々しいステップを演出しながら、デスカーンと踊る。庇護欲をくすぐられたのかデスカーンは穏やかな笑みを浮かべて、その触腕を駆使してエスコートする。

 

「ミイラが・・・・・・発動しない?」

 

「なかまづくりは相手の特性を自分と同じモンに変える技だ」

 

「っ! そういうことですか、しっかりしてくださいデスカーン! シャドーボール!」

 

「カァッ!? カ・・・・・・カーカァ!」

 

 シキミの指示にデスカーンは後ろ髪引かれながらも四つの触腕にシャドーボールを生成していく。その生成速度は手心を加えているとしか思えないほどに遅かった。

 

「かわせ」

 

「アイッ!」

 

「発射!」

 

「カァ!」

 

 迫るシャドーボールをアイアントは軽快なステップでかわした。踊っている最中とは比べ物にならない素早い動きに、シキミは思わず眉を顰めた。

 

「ん〜! あざといですね、そのアイアント」

 

「可愛いと言ってくれ。コイツは末っ子気質なんだ」

 

「アイアァイ♡」

 

「カカァ」

 

 ウィンクしたアイアントにデスカーンは毒気を抜かれたのか、またもや頬を緩ませて穏やかに笑う。

 

「もうデスカーン! ・・・・・・ポケモンバトルにこんな相性が存在するとは思いませんでした。戻ってください」

 

 シキミもこれ以上続行する気はなく、複雑な表情でデスカーンを戻した。

 

『なんという曲者でしょうかアイアント! ボスゴドラを翻弄したデスカーンになにもさせなかったァ!』

 

「む〜、この子はやればできる子なんです。それはこの後! 絶対に! 証明してみせます!」

 

『は、はぃぃぃぃ!』

 

 気がつけばシキミは鬼の形相で実況に噛み付いていた。

 

「わかってるよ。ボスゴドラがしてやられたんだ。ソイツは俺たちの鬼門だ」

 

「ですよね♪そう、とっても強い子なんです! 腕をあそこまで伸ばせるようになったのはこの子の努力あればこそ! 腕一本で技を出せるようになったのも地道な研鑽が無ければ体現することは叶いませんでした。今は大人しく引き下がるけど、アナタのドータクンもこの子で必ず倒すから! 絶対に!」

 

「フッ」

 

 情緒不安定に熱弁するシキミにダイアは軽く微笑んで同意を示した。

 

「あっ。すみません、つい熱くなってしまって////」

 

 つい拳を握って熱弁していた自分を鑑みたのか、シキミは恥ずかしげに頬を赤く染め、首に巻いた紫色のマフラーで自身の顔半分を隠してしまった。

 

「恥ずかしがることはねえよ。俺もナットレイがやられたときはいろいろ言っちまったし」

 

「フフフッ♪自分のポケモンの凄さを伝えたくなるのはトレーナーの性なのでしょうね」

 

『で、では、シキミ選手の機嫌が直ったところで、試合を再開をします! シキミ選手はダイア選手のアイアントにどのポケモンで立ち向かうのでしょうか!』

 

「ふう。さあ、あの甘えん坊に喝を入れてくださいブルンゲル!」

 

「ブルゥン。ブルゥ!?」

 

 ブルンゲルが出現するとステルスロックがブルンゲルを襲い、同時にスタジアムモニターで灰色に染まっていたブルンゲルが通常のピンク色に戻った。

 

「お前アイアントへの風当たり強いな」

 

「アイアイ」

 

「当然です! デスカーンを誑かした罪、償わせます!」

 

 復讐に燃え、前のめりになるシキミに、審判は淡々と開始を宣言した。

 

「アイアントvsブルンゲル、バトル開始!」

 

「ブルンゲルなみのり!」

 

「ブルゥ!」

 

 開始早々、ブルンゲルは圧倒的な水量を生み出し、発生した波の上に乗った。

 

『出ましたブルンゲルのなみのり! クチートとのバトルでは擬似的なハイドロポンプによって防がれましたが、アイアントはこの圧倒的物量にどう立ち向かう!?』

 

「バトンタッチ」

 

「へ?」

 

「ブルゥ?」

 

「ア〜イ」

 

 ダイアの言葉に自身の耳を疑ったシキミとブルンゲル。アイアントだけはいつもの甘えたような声を出し、調子の良い態度を崩さず、ダイアのモンスターボールに戻っていき、なみのりは空振りに終わった。

 

『ん? は? こ、このタイミングで!?』

 

「ちょっ、え?」

 

「ブ、ブルゥ?」

 

「出て来いギギギアル!」

 

「ギギッ」

 

 会場中の戸惑いの声を他所に、ダイアはフィールドに三つの歯車を忙しなく動かし続けるポケモンを繰り出した。

 

『だ、ダイア選手の六体目のポケモンはギギギアルだァ!』

 

 スタジアムモニターに遅れてギギギアルが出現する。遅れてアイアントの表示が灰色に変わった。

 

「ダイアくん、なんてことしてくれたんですか!」

 

『ひえっ!』

 

「ギギッ!?」

 

 怒りに顔を真っ赤に染めたシキミが対角線上に立つダイアを問い詰める。実況と間に入ったギギギアルはシキミの怒り顔に驚いた。一方、ダイアも悪いと思っているのか、シキミから顔を逸らし、その顔に哀愁を漂わせている。

 

「どうしてなのかは聞かないんだな?」

 

「それぐらいわかっていますよ! 私の出鼻を挫くのが目的でしょう! その上で言っています!」

 

「・・・・・・まあ、お前『私を惑わせてください』的なこと言ってたし」

 

「そんなこと言ってません! 私はどんなポケモンで惑わせてくれるのかと言いました!」

 

「じゃあいいだろ。要望通り、お前の心を弄んでる」

 

「っ! ん〜!」

 

 度し難い怒りに呑まれているのか、一頻り唸ったシキミは、メモ帳に引っ掛けた万年筆を左手に握り、凄まじい執筆速度で書き連ねていく。

 

「シ、シキミ?」

 

「太陽降り注ぐ古城の頂上で薬指を捧げた令嬢に、貴公子は首を小さく横に振った。貴公子は既に婚約者がいると告げ、令嬢を置いて古城を去る。令嬢とともに残されたのは暗雲立ち込める古城と貴公子に嵌めてもらうはずだった指輪のみ。手の中にあるそれに、令嬢は貴公子との新たな生活を夢想する権利を奪われた」

 

『シキミ選手再びご乱心! な、なんとも胸が締め付けられる物語を書き連ねています』

 

 ようやく、万年筆を止めてメモ帳に引っ掛けたシキミはどこか気品を感じさせるオーラを纏って、心の丈を口にした。

 

「許しませんわ泥棒猫」

 

「泥棒猫?」

 

『これは今し方紡いだ物語のご令嬢に成り切っているのか? シキミ選手、果たしてバトルは続行できるのか・・・・・・』

 

「続けるに決まってるでしょ」

 

『ひぃ!』

 

 目が据わったシキミに気圧され、実況が悲鳴をあげる。

 

「ぎ、ギギギアルvsブルンゲル、バトル開始!」

 

「ブルンゲルハイドロポンプ!」

 

「ギギギアルギアソーサー!」

 

「ブゥルァ!」

 

「ギィィッギィ!」

 

 ブルンゲルが小さな口から多量の水を放水。一方でギギギアルは鋼色のオーラを歯車の形に変え、二つの歯車をブルンゲルへ放った。

 

「ブルゥン!?」

 

「ブルンゲル!」

 

 一つの歯車はブルンゲルのハイドロポンプを完全に相殺し、もう一つの歯車は回り込んでブルンゲルに直撃した。

 

(コントロール、威力共に通常のギアソーサーでは考えられない。やはりアイアントの能力が完璧に引き継がれている。あの泥棒猫めぇ・・・・・・ですが)

 

「ギアソーサー、いただきましたよダイアくん」

 

「なにっ!?」

 

 紫色のオーラがギギギアルを覆った。クチート戦で見せた特性のろわれボディの発動合図。

 

「まさか、のろわれボディを意図的に発動させる方法を確立したのか!?」

 

「いえ、ただの運です」

 

「納得いかねえな!」

 

「フフフ、行こっかブルンゲル♪」

 

「ブルゥ? ・・・・・・ルゥ」

 

 不運に嘆くダイアに対し、嗜虐的な笑みを浮かべたシキミ。名を呼ばれたブルンゲルは普段とは様子の違うシキミに疑問符を浮かべながらも、技の構えをとった。

 

「ハイドロポンプ!」

 

「ブゥルァ!」

 

「っ、ギアチェンジだ」

 

「ギィギィ」

 

 ギギギアルは古い歯車を新しく生成した歯車にいち早く取り替え、古い歯車を身代わりとしてハイドロポンプにぶつけて軌道を逸らし、難を逃れた。

 

「なあ!?」

 

「どうよ、身代わりの応用で古い歯車を盾に技を迎撃する。歴とした技術だ」

 

「・・・・・・つくづくおもしろい♪こんなにも私の固定観念を壊してくれるバトルは初めてです」

 

「お気に召したようでなによりだ」

 

「しかし、ダイアくんのギギギアル、ブルンゲルへの有効打が無いのでは?」

 

 それはシキミの経験に基づいた勘だった。ハイドロポンプを電気技で迎撃しなかったこと、アイアントで引き継がれた強化が攻撃力であること、シキミはギギギアルがほうでんやチャージビームを放つ場面は覚えがあるが、物理攻撃に関してはギアソーサーとギガインパクトしか見たことがなかった。

 

「・・・・・・・・・・・・ソイツはどうかな?」

 

「チャンスですよブルンゲル、ハイドロポンプ!」

 

「ちったぁ待ってくれよ、ギアチェンジ!」

 

「ブゥルァ!」

 

「ギギィッギィ!」

 

 先刻よりも明らかに速いギアチェンジの起動速度。能力変化により攻撃と素早さも上がっている。

 

(タイムリミットはのろわれボディの効果が切れるまで!)

 

「ブルンゲルなみのり!」

 

「きたか! ギギギアル、ブルンゲルにギガインパクト!」

 

「え?」

 

「ギアアアアアア!」

 

「ブルゥ!」

 

 なみのりに発生した波によって高度高く飛んだブルンゲルに対し、ギギギアルは跳躍し、凄まじいエネルギーを込めて突進することで波に穴を空け、その先にいるブルンゲルをすり抜けた。

 

『ギギギアル、ブルンゲルをすり抜け天高く跳んだァ! ブルンゲルの上をとり、やり過ごす算段かァ!?』

 

「っ!!」

 

(やられた! ギガインパクトの推進力を利用するなんて。このまま空で待機されるとのろわれボディの効果時間が切れる)

 

「それなら、ブルンゲルうずしお! ギギギアルが降りてくるところを捕えて!」

 

「ブゥルゥ!」

 

 小さな口から凄まじい水量を吐き出し、じょじょに巨大な渦を形成していくブルンゲル。

 

「勝った。ギギギアル、ワイルドボルト!」

 

「は?」

 

「ギアアアアアア!」

 

 ギアチェンジによって反動時間が大幅に短縮されていたギギギアルはバチバチと電気エネルギーをその身に溜め込んでいく。ダイアは待っていた。シキミがギギギアル捕えるために準備時間を設ける瞬間を。

 

「ギッギィ!」

 

「ブルゥァ!」

 

 ギギギアルはうずしおを電気分解で処理し、残ったパワーすらも電力に回し、ワイルドボルトをブルンゲルに喰らわせることに成功した。

 

「っし!」

 

「そんな・・・・・・っ、ブルンゲル!」

 

「ブゥ・・・ルゥ」

 

「おいおいマジかよ」

 

「ギギギ!?」

 

『なんとブルンゲル! 立っている! まだ立っているぞ!』

 

 ブルンゲルはもう浮き上がる力もなく、苦しげな表情を浮かべながらもそのヒレで文字通り立っていた。

 

「・・・・・・! ギアソーサーは復活してるよなギギギアル?」

 

「ギア!」

 

「よし行け! ギアソーサー!」

 

「っ———ブルンゲル最後の力を振り絞ってください! うずしお!」

 

「ギィィッギィ!」

 

「ブゥ、ルゥ」

 

『おおっとブルンゲル技が出ない!』

 

 無情にもギギギアルのギアソーサーの生成は既に終わり、ブルンゲルの眼前にまで発射されていた。その最中、心配そうな視線を向けていたシキミにブルンゲルは密かに笑った。

 

「ブルゥァ! ・・・・・・ブルゥ〜」

 

 歯車の衝撃に吹っ飛ばされたブルンゲルは目を回していた。

 

「よくやったギギギアル。・・・・・・ギギギアル?」

 

「ギ〜ア〜」

 

 ダイアの声になかなか返ってこないギギギアルの声、ようやく口にしたのは疲れ切ったギギギアルの声だった。やがて歯車が止まり、地面に墜落したギギギアル。

 

「ギギギアル、ブルンゲル共に戦闘不能!」

 

「な・・・に・・・!?」

 

「・・・・・・え?」

 

『これはどういうことだ!? ブルンゲルだけでなく、ギギギアルも戦闘不能! これで両者3対3で並んだァ!』

 

 ギギギアルとブルンゲルを映したスタジアムモニターのシルエットが黒に染まる。

 

 みちづれか! だが、シキミはそんな指示を出していなかった。つまり、ブルンゲルが自分の意思でみちづれを使ったってのか。

 

「なるほど、ギギギアル戻れ。お前も俺もベストを尽くした。強いて言うなら、ブルンゲルの覚悟に負けた」

 

「っ! ブルンゲル」

 

 シキミは、ダイアの言葉によって湧いた飲み込めない感情に支配されていた。

 

(ポケモンバトルをやっている理由なんて、執筆するためのアイデアを得ることと才能があったから以外に深い訳はなかった。もちろん、楽しいと思ったことも悔しいと思ったことも数えきれないほどあった)

 

 しかし、ブルンゲルの見せた覚悟が、シキミのどこか娯楽的に構えていたポケモンバトルへの認識を変えた。

 

(私はバトルに真剣に臨む彼女たちに応えることができていただろうか? 多分できていなかった。フワライドが倒されたときもいいアイデアが浮かんで、これ幸いとメモをとってた覚えがある)

 

「戻ってブルンゲル」

 

(恥を知れ! 当事者にならないままで、誰かの物語なんて描けるはずがない! 忘れないでシキミ。アナタは小説家であると同時にポケモントレーナーなんだ!)

 

 パタンとメモ帳を閉じる音が静寂に包まれたスタジアムに響き渡った。シキミはそれを脇に抱えて、両頬を軽く叩くと瞠目するダイアに語りかける。

 

「ダイアさん。私はこの勝負、私の勝ちとは思えません」

 

「・・・・・・あ? テメェ意味わかって言ってんのか? ブルンゲルがどんだけ体張ってたか、お前が一番近くで見てただろ!」

 

「ええ、このバトルはブルンゲルの勝ちです。私の勝ちではありません」

 

 再び、ダイアの表情が驚愕に染まる。と同時に顰めていた眉の力が抜けていった。

 

「私は彼女たちほどポケモンバトルに必死になっていませんでした。フィールドに立つ主役は彼女たち。なのに私は、彼女たちを輝かせるトレーナーとして向き合えていなかった」

 

「・・・・・・そうか」

 

「今、私は恵まれたポケモンたちによって、ここに立っています」

 

「・・・・・・で、それでお前はどうしたいんだ?」

 

 後悔に苛まれているのか、下唇を噛むシキミ。ダイアはあくまで聞き手に回って、挑発するように質問した。

 

「彼女たちのトレーナーとして誇れるように! ここからは私も! 彼女たちと共にダイアさんに勝ちます!」

 

 シキミの心からの決意がスタジアムを渡ってダイアに届く。

 

「なら、トレーナーとして・・・・・・全力で来いよ」

 

「っ、はい!」

 

 同時にダイアはボスゴドラにも負けない威圧感を発して、シキミに喝を入れた。

 

「では行きます。全霊をかけて! ゴルーグ!」

 

「今回はガチで戦うぞ! アイアント!」

 

「ルグッ!? ・・・・・・ルーグァァァ!」

 

 フィールド上の尖った石がゴルーグを襲った。

 

「アイアァァン!」

 

『両者気合いの入ったところで繰り出したのはアイアントとゴルーグ! だが、会場の皆様も察しています通り、これまでと明らかに身に纏う覇気が違う!』

 

 トレーナーの意志がポケモンたちにも伝わったのか、アイアントはこれまでの甘えたな動作からは考えられない雄叫びをあげ、ゴルーグは荒々しくフィールドを踏み鳴らし、天に向かって吼えた。スタジアムモニターのアイアントとゴルーグのシルエットが灰色から通常のものに戻った。

 

「あ、アイアントvsゴルーグ、バトル開始」

 

「つめとぎ!」

 

「耳を塞いでゴーストダイブ!」

 

「ギャリィィィィィィ!」

 

「ルーグ」

 

 アイアントのきんぞくおん宛らのつめとぎをゴルーグは耳を塞いでカバーしたのち、闇の世界へ入っていった。

 

「アイ? アイ?」

 

「アイアントあなをほる」

 

「! アイィィィ!」

 

『おおっと! 両ポケモン姿を消したァ! 差し詰めこれはステルス戦法対決と言ったところでしょうか!』

 

 戸惑うアイアントにダイアは冷静に指示を下す。アイアントはその言葉を信じて地中に潜った。

 

「・・・・・・」

 

 シキミは指示を出してこないか。確かに今の状態ならゴルーグに手出しはできない。が、それだけじゃねえだろ?

 

「ゴルーグ、気合いを入れて」

 

 シキミは拳を突き出し、静かに言葉を紡いだ。

 

「・・・・・・つめとぎ」

 

「ギャリィィィ!」

 

 地中からも容赦なく響き渡るきんぞくおん。しかし、シキミももう慣れたのか、耳を塞がずなにかのタイミングを待っていた。

 

「ギャリィィィ・・・・・・」

 

「今だよ! 地面に向かってきあいパンチ!」

 

「っ、地上に出ろアイアント! アイアンヘッド!」

 

「ルーグァァァ!」

 

 アイアントのつめとぎが収まった瞬間、フィールドに空間の穴が空き、穴の中心から拳を振り被ったゴルーグが出現する。

 

「アイィィィ!?」

 

 アイアント地上まで一歩間に合わず、むしろ距離が近い分ゴルーグのきあいパンチを強く受けてしまい、地上に追い出された。

 

「シャドーパンチ!」

 

「アイアンヘッド!」

 

「アイッアァァン!」

 

「ルーグァ!?」

 

 不完全な体勢のまま拳を繰り出したゴルーグとアイアントの宙を蹴った突進の軍配は僅かに拮抗を見せたのちアイアントに上がった。胴体に強く突っ込まれ、あまりの衝撃にゴルーグは膝をついた。

 

「いいぞアイアント!」

 

「アイ〜———アイアァァァァ!」

 

「なっ!?」

 

『おおっとこれはどういうことでしょうか!? ゴルーグのきあいパンチを受け、シャドーパンチを打ち破ったアイアントの体から炎があがったァ!』

 

 やっぱただのシャドーパンチじゃなかったか!

 

「ほのおのパンチを同時発動してやがったな!」

 

「正解です♪・・・・・・これが私と、私の自慢のポケモンたちの力です! アームハンマー!」

 

「ルゥゥゥゥグァ!」

 

「アイアァン!! ・・・・・・アイ〜」

 

「アイアント戦闘不能、ゴルーグの勝ち!」

 

 ふらつくアイアントへゴルーグの巨大な両腕の容赦ない振り下ろしでアイアントは倒れた。スタジアムモニターのアイアントのシルエットが黒に染まった。

 

「ありがとうゴルーグ!」

 

「ルーグ」

 

『曲者アイアントここに倒れる! しかし、小さな体躯に似合わず凄まじいパワーで! ゴルーグに一撃を入れたァ! このダメージがのちのちどのように響く!?』

 

「戻れアイアント。よく頑張った」

 

 二対三。だが、シキミは残り一体を万全な状態で残している。・・・・・・ちと無理をさせちまうが、許してくれよ。

 

『さあ、ダイア選手の次のポケモンはボスゴドラかドータクンか!?』

 

「勝つぞドータクン!」

 

「ドータ」

 

 再び釣り鐘を象るポケモンがフィールド上を浮く。スタジアムモニターのドータクンのシルエットが灰色から通常に戻る。

 

「出ましたねドータクン。ゴルーグ、ここが鬼門ですよ」

 

「ルグァァァ!」

 

「頼むぞドータクン」

 

「ドー」

 

 気合い充分なゴルーグに対し、ドータクンはいつもの調子を崩さずに返事をした。

 

「ドータクンvsゴルーグ、バトル開始!」

 

「ゴーストダイブ! 同時に気合いを入れて!」

 

『シキミ選手再びゴーストダイブを指示! ドータクンはこの巨大な暗殺者にどう立ち向かうのか!?』

 

「・・・・・・」

 

「ドーター!」

 

「へ!? まだ指示を出していないのに!」

 

 ゴルーグが空間の穴に入門した瞬間、ダイアは軽く頷き、ドータクンはトリックルームを展開した。

 

『阿吽の呼吸とはこのことでしょうか! ドータクンがダイア選手の指示なくトリックルームを展開したァ!』

 

(けど、素早さの恩恵を受けるのは私のゴルーグも同じ。大丈夫。きっとできる。私たちなら!)

 

「ゴルーグシャドーパンチ!」

 

 空間の穴が再度開き、先刻と同様に拳を構えたゴルーグがドータクンの眼前に迫る。いや、迫っていた。

 

「どうして位置が!?」

 

「ルグ!?」

 

 気がつけば、ドータクンはゴルーグの胴体に貼り付けるほどに近い距離にいた。間合いを詰められ過ぎたことが災いし、小回りの効かないゴルーグの拳が空を切った。

 

「シキミ、お前のゴルーグの気合いは目立ち過ぎる。メテオビーム発射」

 

「ドォォォター!」

 

「ルグァァ!」

 

 至近距離からのメテオビームにより、ゴルーグの巨体が仰け反った。このままでは倒れてしまう。

 

「ゴルーグ頑張って!」

 

「ルグ!」

 

 未来を意地で堪えた。シキミに応え、踏ん張り顔を上げたゴルーグの目の前には釣り鐘の顔があった。

 

「さいみんじゅつ」

 

「ド〜タ〜」

 

「ルグ・・・・・・るぅぐぅ」

 

「ゴルーグ!!」

 

 シキミの声も虚しく、ゴルーグは夢の世界に旅立ってしまった。

 

「トドメだ。メテオビーム!」

 

「ドォォォター!」

 

「ルグァァァァ! ・・・・・・ル〜グ」

 

「ゴルーグ戦闘不能、ドータクンの勝ち!」

 

 スタジアムモニターのゴルーグのシルエットが黒に染まる。同時に盛大な拍手が倒れたゴルーグに向かって注がれた。

 

『ゴルーグ倒れたァ! とうとうその巨体が! ロマンが! 地に着いてしまったが、最後の最後まで会場中の人々の心を掴んで離さなかったァ!』

 

「いいぞォゴルーグ!」

 

「お前のパンチパワフルだったぜ!」

 

「ナイスファイトォ!」

 

 観客の反応も当然と言えるだろう。なにせゴルーグは最後は倒れたものの、ゴーストダイブで出た位置から一歩も引いていなかった。

 

 大したヤツだ。

 

「よくやったドータクン」

 

「ドーター」

 

「戻ってゴルーグ。最高に格好良かったですよ♪」

 

 ゴルーグに注がれた盛大な拍手を感じ入り、シキミは心底嬉しそうに微笑んだ。

 

(悔しい。真剣勝負とはこんなにも胸が熱くなり、こんなにも苦しいものだったのですね。ああ、早くこの感情を題材にした小説が書きたい! でも、この楽しいバトルがいつまでも続いてほしいと思う私がいる。こんな贅沢な悩み、アナタと出会わなければ味わえなかったよ、ダイアくん)

 

「本当、ポケモンバトルっておもしろい♪」

 

「・・・・・・へへっ。だろ?」

 

「はい!」

 

 互いに笑い合ったのち、その面持ちは引き締まったものへと変わった。

 

「ダイアくん。私言いましたよね? ドータクンはこの子で倒すって」

 

「そういやそんなことも言ってたなぁ」

 

「その約束、果たしてみせます! この伏線、なんとしてでも回収してみせましょうデスカーン!」

 

「カッカ! ・・・・・・カカッ!?」

 

 フィールド上に散らばった尖った石がデスカーンを襲った。

 

「ドータクン。俺の意地に付き合わせて悪いが、続けて行くぞ」

 

「ドーター」

 

 元気いっぱいのデスカーン。変わらず間抜けた顔のドータクン。ダイアとシキミの心は同様に勝つという意志で溢れていた。その証拠として、ダイアは右手をコートのポケットから出さず、シキミは左手に万年筆だけを握っていた。各々がベストを尽くすためのルーティンを行うなか、それは通常通り訪れた。

 

「ドータクンvsデスカーン、バトル・・・・・・開始!」

 

「メテオビーム!」

 

「腕を駆使してかわしてください!」

 

「ドォォォター!」

 

「カ〜カッカ!」

 

 初手は両ポケモン指示通りに完遂したのち、トリックルームが解けた。

 

「っ、ドータクン。トリックルーム再展開!」

 

「今よデスカーン! じこあんじ!」

 

「ドーター!」

 

「カァカ〜」

 

 くれてやるよ。そんぐらいの利。俺のドータクンがそれで負けるなら俺の責任だが、勝てばドータクンはまだまだ成長できる。ここ一番の成長期、逃すなよドータクン。

 

「ドーター」

 

 ドータクンはダイアの強靭な意志をサイコパワーで感じ取り、呆れたように溜め息を吐いた。その周囲にはデスカーンの触腕が包囲していた。

 

「逃しませんよドータクン! シャドーボール!」

 

「下がれドータクン! シャドーボール全弾を視界に収めてサイコキネシス!」

 

「カカァ!」

 

「・・・・・・ドーター!」

 

 ドータクンに向かって放たれた全方位シャドーボールは、まるで風に吹かれた紙袋のように自然な動作で後退したドータクンに避けられ、ダイアの指示通り、視界に収めたシャドーボールを全て、自身が発するサイコキネシスの支配下に置いた。

 

「デスカーンに飛ばせ!」

 

「迎撃してくださいデスカーン! シャドーボール!」

 

「カッカァ! ———カァッ!?」

 

 四つのシャドーボールを四つのシャドーボールで迎撃しようとするデスカーン。しかし、そのうち二つはドータクンのサイコキネシスによって弾道を操作されていたために迎撃できず、デスカーンにシャドーボールが命中してしまった。

 

「当たったな。今だドータクン! メテオビーム!」

 

「今しかありませんデスカーン! トリックルーム!」

 

「なにっ!?」

 

「カァッカァ!」

 

「ドォォォォ———」

 

『これは意外な展開! 展開されていたトリックルームがデスカーンのトリックルームによって無効化されたァ! ドータクンのメテオビームの溜めが長ァい!』

 

 しかも、既にデスカーンの触腕がドータクンの周囲を再び包囲している。

 

「いっけえ! シャドーボール!」

 

「ドータクンメテオビーム発射!」

 

「カカァ!」

 

「———タァァァ!」

 

「カァァァァァァ!?」

 

「ドタァァァァァァ!?」

 

 相打ち。双方共に体がスタジアムの壁にまで吹っ飛ばされた。ダイアとシキミが背後に振り返る。

 

「ドータクン!」

 

「デスカーン!」

 

「ドォ、タァ」

 

「カッかァ」

 

 バトル続行か。そう思われたそのとき

 

「ドタっ・・・・・・ど〜た〜」

 

 ドータクンが倒れた。

 

「ドータクン戦闘不能、デスカーンの勝ち!」

 

『ど、ドータクン倒れる! 熾烈極める撃ち合いを制したのは、シキミ選手のデスカーンだァ!』

 

 スタジアムモニターからドータクンのシルエットが黒に染まった瞬間。

 

「「「うおおおおおお!!」」」

 

 湧き上がる観客。誰もが手に汗を握ったなかで、唯一ドータクンのトレーナーだけが嫌な現実感を味わっていた。

 

「よくやったドータクン。すまん」

 

 ダイアの言葉にドータクンの入ったボールが抗議するように揺れた。

 

「いや、悪い。ありがとう・・・・・・だったな」

 

 それっきりドータクンは眠ったのか、なにも言わず、しかし満足げな雰囲気を発した。

 

「有言実行。見事な伏線回収だったよシキミ」

 

「ええ♪やりましたよデスカーン!」

 

「カッカァ!」

 

「あのドータクンを仕留めることができたのはデカい! 大きすぎる戦果です♪もう私のデスカーンが優勝で良くないですか!?」

 

「いいわけねえだろバカ。勝つときはお前もじゃなかったのか? シキミ」

 

 ダイアの言葉に目をぱちぱちと開閉したのち、シキミは笑った。

 

「そうでした♪ありがとうございますダイアくん」

 

「いいってことよ。未熟なトレーナーは助け合って強くなっていくもんだ。俺もお前もな」

 

「フフフ」

 

「カッカ」

 

 穏やかな笑みの絶えないフィールドで、再び威圧感溢れるボールが握られた。

 

「・・・・・・っ」

 

 空気が張り詰める感覚。それの怖さを知っているからこそ当事者でない実況も観客すらも固唾を飲んだ。

 

「俺の最後のポケモンだ。行くぞシキミ」

 

「ええ! 存分にやり合いましょう♪」

 

「何者にも砕かれないお前の硬さを見せてやれ! ボスゴドラ!」

 

「・・・・・・・・・・・・コッドォォォォォォォォ!」

 

 真空波すら走りそうな雄叫びをあげ、スタジアムモニターのボスゴドラのシルエットが灰色から通常に戻る。

 

『デカァァァい! 説明不要! 再びあの一撃の恐怖を宿したボスゴドラがフィールドに降り立ちましたァ!』

 

「「「わあああああ!!」」」

 

「ボスゴドラ・・・・・・」

 

「カッカ・・・・・・」

 

 正面から対峙する二人は、前半よりもそれの威圧感が増している気がした。それは果たしてボスゴドラの仇を討とうという意志か、あるいは真剣勝負に臨んだ意志がそう感じさせたのか。

 

「ボスゴドラ。お前で最後だ」

 

「コドッ」

 

 変わらず硬く強靭な意志か。

 

「行きますよデスカーン」

 

「カッカ」

 

 変わりやすくしなやかな意志か。

 

「ボスゴドラvsデスカーン、バトル開始!」

 

 今勝負の火蓋が切って落とされた。

 

「ストーンエッジ」

 

「シャドーボール」

 

「コォッド!」

 

「カカァ!」

 

 全弾技同士が命中し、ぶつかり合った果てに、互角。

 

(凄いパワー! じこあんじでドータクンの特攻をコピーしたデスカーンの火力と互角なんて)

 

「拾え」

 

「コドッ・・・・・・コッドォォォォ!」

 

 シキミは初めダイアの指示の意味がわからなかった。ストーンエッジは既に相殺済みの上、フィールドに根はもうない。しかし、虚空を掴んで持ち上げ始めたボスゴドラにシキミの脳裏に確信が宿った。

 

(まさかステルスロックを武器に!)

 

「デスカーン! 背後に回って最大パワーのシャドーボール!」

 

「カッカ。・・・・・・カカァ!」

 

 見えないステルスロックを持ち上げる無防備な背中に放ったシャドーボール。

 

「右肩、左腰、後頭部、左腕。アイアンテールで打ち返せ」

 

「コォッド! ドォッ! ドォッ! コォォォォッド!」

 

「カァッ!? カカァッ!? カァッ!?」

 

「そんなっ!?」

 

 しかし、それは難なく弾かれ、デスカーン自身に返された。

 

『これは素晴らしい防御法です! ダイア選手とボスゴドラ、心が完全に一つとなっています!』

 

「トドメだ。ステルスロックを投げつけろ!」

 

「コォォォォォッドォ!」

 

 恐るべき怪力で見えない岩を投げたボスゴドラ。その膂力から凄まじい速度で投げられたのは見て取れた。

 

「デスカーン。ボスゴドラと自分を閉じ込めるようにトリックルーム!」

 

「カァッカァ!」

 

 故にシキミとデスカーンは素早さ関係を逆転させる空間を作った。投げられたステルスロックの推進力は反転し、速度が落ちる。

 

「今だ。もろはのずつき」

 

 しかし当然、空間を作るに当たって手一つで行うことは不可能。ダイアは既にその弱点をドータクンとの戦いで見切っていた。

 

「っ! デスカーンいたみわけ!」

 

「カァァァァ!」

 

 自身と相手の体力を総合して二分化する技。咄嗟に使った所為で二分化が間に合わず、

 

「コォォッドォ!」

 

「カガァッ!? カッカァァァ!?」

 

 もろはのずつきによって吹き飛ばされたデスカーンは、遅くなっているステルスロックに激突し、地面へ倒れた。

 

「カッかぁ〜」

 

「デスカーン戦闘不能、ボスゴドラの勝ち!」

 

「コッドォォォォ!」

 

『デスカーン無念の敗北! しかし、恐るべきはダイア選手とボスゴドラのコンビネーション! 互いが目となり耳となり死角がなァい!』

 

 青い稲妻のような反動ダメージが走るボスゴドラはそれでも雄叫びをあげた。スタジアムモニターのデスカーンのシルエットが黒に染まる。シキミ側も残るはまだ全貌が明らかになっていないモンスターボールマークのポケモンだけだ。

 

「お疲れ様でしたデスカーン。最高の伏線回収でしたよ。ダイアさんも褒めてくれましたし、あとはあのボスゴドラをギャフンと言わせてきます!」

 

 シキミはボールをホルスターに収め、また別のモンスターボールを取り出した。

 

「だとよ」

 

「コドォン?」

 

「発音しようとしなくていい」

 

「コッドッド」

 

「へっへっへ」

 

 笑い合うダイアとボスゴドラは自然体そのものだった。シキミの万全のポケモンを前に倒せるという明確な信頼がそうさせるのだろうか。

 

(けど、私だって信頼なら負けません!)

 

『さあ、温めに温められたシキミ選手の最後のポケモンはなんだァ!?』

 

「この燃え盛るバトルに終止符を! シャンデラ!」

 

「シャシャァン———ジャッ!?」

 

 フィールドに紫色の炎を発したシャンデリアのようなポケモンが出現した瞬間、フィールドの尖った岩がシャンデラを襲った。スタジアムモニターにシャンデラの色付きシルエットが表示される。

 

『シキミ選手最後のポケモンはシャンデラだァ! はがね使いのダイア選手に対する適切な解答と言えるでしょうが、悲しいかな最後に残ったのはいわタイプ複合のボスゴドラ。温存してきたことで自分の首を絞める結果となってしまったァ!』

 

「なるほど、そりゃあ安易に出せんわな」

 

「ええ。アナタへの切り札ですから」

 

「コッドォォォォ!」

 

「シャシャァン!」

 

 荒ぶる二体のポケモン。トレーナー両名はこれまでのバトルの精神的な疲労が激しいのか、額に脂汗が伝っている。二人はそれを乱暴に拭って、フィールドに向き直った。

 

「ボスゴドラvsシャンデラ・・・・・・バトル———」

 

「すぅ」

 

「ん!」

 

「ドォ」

 

「シャ」

 

「———開始ぃ!」

 

 張り詰めた空気が高速で動き始める。

 

「シャンデラだいもんじ!」

 

「ストーンエッジ待機!」

 

「シャァァァ!」

 

「コッドォ!」

 

 シャンデラの頂点の炎から放たれた紫色のだいもんじを、ボスゴドラはデスカーンのおにびのときと同じように、ストーンエッジを己が周囲を高速で回転させて打ち払う。

 

「発射!」

 

「あやしいひかり!」

 

「シャァン!」

 

「コドォ!?」

 

 ストーンエッジを放とうとしたのも束の間、シャンデラがあやしいひかりによってボスゴドラの視界を一時的に封じ、ストーンエッジの軌道が逸れた。

 

「コォ・・・・・・コどぉ」

 

「ボスゴドラしっかりしやがれ!」

 

「コドッ!」

 

 ダイアの声に虚な瞳をしていたボスゴドラが、頭を振って目が覚める。

 

「当然のように混乱を無視してきますか・・・・・・」

 

「やろうと思えば誰でもできる。肝心なのはここだ」

 

 そう言ってダイアは左胸に親指を突き立てた。

 

「フフフ♪まさか現実でそんなセリフ聞くときがくるなんて。陳腐な言葉もアナタに言わせれば不思議と感慨深く感じます。ですが、どれほど取り繕っても隙ができるのは事実」

 

「・・・・・・少しは狼狽えてくれよ」

 

「シャンデラあやしいひかり!」

 

「シャァン!」

 

「ボスゴドラステルスロックのステルス解除」

 

「コド」

 

「シャッ!? シャシャ! シャン!」

 

 突如隠されていたステルスロックが姿を現した。フィールド上に散らばった尖った岩が遮蔽物となり、シャンデラから発せられたあやしいひかりを防いだ。しかし、遮蔽物となったのはトレーナーも同じだった。互いに自身のポケモンが確認できない状態がシャンデラの心を揺さぶった。

 

「っ! シャンデラ落ち着いて」

 

「シャ、シャン」

 

 シキミはまずシャンデラの心を落ち着かせるために、指示を出した。

 

「決めんぞボスゴドラ。位置は覚えてっか?」

 

「コドッ!」

 

 一方、ダイアとボスゴドラは意志確認を既に済ませていた。あとはただ、実行するのみ。

 

「なら行けぇ! 目を瞑りつつステルスロックを踏み越えて! シャンデラにドラゴンダイブだぁ!」

 

「コドッ! ドォ! ドッ!」

 

 姿を現したステルスロックを足場にボスゴドラは上空に跳んだ。その姿を捉えたシキミに動揺が走る。

 

『なんというフットワーク! 重量級とは思えない脚力でボスゴドラがシャンデラの上をとったァ!』

 

(マズイ! どうすれば・・・・・・シャドーボール、ダメ威力が足りない! オーバーヒート、ダメ撃墜できるけどボスゴドラとバトルを続けるための火力を失う!)

 

「シャァン!」

 

 ここでシャンデラが自発的にあやしいひかりを発した。しかし、ボスゴドラは目を瞑っているために影響はない。

 

「シャンデラ・・・・・・」

 

(そうだ。シャンデラも必死で足掻いてる。私はそんなシャンデラの助けとなる指示を下す義務がある。なにか、なにかないの?)

 

 シキミの脳裏にゴルーグのシャドーパンチを放つ景色が過った。

 

「そうだ! シャンデラ真上に向かってだいもんじ!」

 

「なにっ!?」

 

「シャァァァ!」

 

「コドッ!?」

 

 上空に打ち上げられただいもんじがボスゴドラを掠める。目を瞑っていたボスゴドラは突如熱い炎の温度を近くで感じた動揺からドラゴンダイブを発動できずにステルスロックの上に着地した。

 

 しまったな。ボスゴドラに受ける覚悟をさせなかったのが不味かった。だが、シキミの狙いはいったい・・・・・・ヤバイ!

 

「ボスゴドラ! ヤツらは今正に強化するための行動を起こしている! 次はなにがあっても止まるな!」

 

「コドッ! コォッド!」

 

「ドラゴンダイブ!」

 

 再び、上空に跳んだボスゴドラ。空中で竜のエネルギーを体に宿し始めたそのとき、シャンデラに自身のだいもんじが直撃した。

 

「シャン! シャシャァン!!」

 

『これはどういうことでしょう! なんとシャンデラ! 自らが放っただいもんじによってもらいびを発動させたァ!』

 

 シャンデラの体に宿る紫色の炎がより強い輝きを持って、アメジスト色に光る。

 

「いいですよシャンデラ、120点満点です♪」

 

「シャァン♪」

 

「っ、やべえな!」

 

「ではダイアさん、参ります! シャンデラ最大パワーでれんごく!」

 

「シャァァァッシャン!」

 

 頂点の炎から放たれた凄まじい熱量の紫炎がボスゴドラに迫る。

 

「もう目ぇ瞑る必要はねえ! 止まんなよ!」

 

「コォォォォッドォ!」

 

 元よりそのつまりだと言わんばかりにボスゴドラは竜のオーラを纏って炎の中へ飛び込んだ。空中の酸素を費やして燃え上がるれんごくの炎。

 

『直撃ぃ! ボスゴドラはどうなったァ!?』

 

(お願い。これで決まっ———っ!)

 

「———コドォォォォォ!」

 

『ボスゴドラ現れたァ!』

 

「そんなっ!?」

 

「ボスゴドラ行っけぇぇ!」

 

「コドォォォォォッドォ!」

 

「シャァァァン!?」

 

 紫炎を宿した竜のオーラ。それらを纏ったボスゴドラの巨体がシャンデラの優美な体へ突っ込んだ。

 

「シャンデラ頑張って!」

 

「シャッ! シャァン」

 

 シキミの声に応え、吹っ飛ばされたシャンデラの体はすぐさま空中浮遊の姿勢を整えた。

 

「マジか。ボスゴドラの一撃を受けてまだ飛んでられんのか」

 

「コドォォォォォ!?」

 

『おおっと! ボスゴドラの体から炎が上がったァ!』

 

「っ、しまった! またやけどか!!」

 

「ええ、れんごくは当たったポケモンを例外なくやけど状態にします。今度は運ではありませんよ、ダイアさん」

 

 ボスゴドラが膝をつく。フィールドのステルスロックが砕けた。最早ボスゴドラにステルスロックへ回すパワーはない。

 

「やってくれんじゃねえか」

 

「敵に塩を送り続けたのはアナタですよダイアくん」

 

 笑みを浮かべて論じたシキミは万年筆のペン先をダイアに突き付けた。突き付けられたダイアは自嘲の笑みを浮かべつつも、その闘争心は消えず、むしろさらに強まっていた。

 

「へっ、ジムリーダー志望にとっちゃあ嬉しい言葉だが、ったく、どうやらまだ俺の気質は変わらなかったらしい。ボスゴドラ、俺、諦めらんねえよ」

 

「ッド! コドォォォォォ!」

 

「フフフ♪それでこそダイアくんです。全力で迎え撃ちますよシャンデラ!」

 

「シャァン!」

 

『互いに高め合うトレーナーたち! 今私は確信を持って言えます! これこそがポケモンバトルだァ!』

 

「「「ウオオオオオ!!」」」

 

 さらに上がるボルテージ。観客の有り余る歓声を受けつつも二人の世界にそれが入り込む余地はない。二人の世界はそのフィールドのみだった。

 

 ゴルーグ。テメェの技もらうぜ。

 

「構えろボスゴドラ! ドラゴンダイブを身に纏え!」

 

(っ! そう来ますか! それなら)

 

「アナタも強化しますよシャンデラ! だいもんじ!」

 

「コドォォォォ」

 

「シャァァァ!」

 

 クラウチングスタートのような構えで竜のオーラを纏うボスゴドラ。既に上がった炎の威力をさらに高めるために炎を纏うシャンデラ。次に宿したそれは最早紫炎というより黒炎に近かった。

 

「重ねてにほんばれ!」

 

「すてみタックル用意!」

 

「シャァン」

 

「ドォォォォォ」

 

 シャンデラの舞によって晴れ上がる天候、白いエネルギーをも取り込んだボスゴドラ。トレーナー両名が準備は整ったと言わんばかりに笑みを浮かべた。

 

「行け! もろはのずつき!」

 

「だいもんじ発射!」

 

 トレーナーからのゴーサインを受け、二体のポケモンは動く。

 

「コォォォォッドォォォォ!」

 

 ドラゴンダイブ、すてみタックル、もろはのずつき、それらのエネルギーを余さず突進力へと変換したボスゴドラがありったけの力を込めて突っ込んだ。

 

「シャァァァァァンッシャァァア!」

 

 対するシャンデラ。もらいびの効果を自分自身で発動し、晴れた天候をも味方につけた黒炎の火力を、シャンデラは頂点の炎へ一点集中させ、極大のだいもんじを放った。

 

「コドォォォォォ!?」

 

『ボスゴドラの強烈な突進が止まったァ! さすがにダメージが大きいか!?』

 

「まだだ! 踏み出せボスゴドラ!」

 

「コッ、ドォォォォ!」

 

 ダイアの声に応え、白いエネルギーを盾に再び歩み出す。それはすぐに地面をも抉る猛進へと変わった。

 

「シャンデラもっと火力を!」

 

「シャァァァン!」

 

 シャンデラもまたシキミの声に応え、黒炎を後押しする紫炎を放った。

 

「コッドォォォォ!」

 

『ボスゴドラが炎の中から現れたァ!』

 

「シャァァァン!?」

 

 しかしそれでもボスゴドラは止まらず、その巨体がシャンデラに迫り、強烈な頭突きを喰らわせた。

 

「シャンデラ!?」

 

 シャンデラの体がスタジアム壁へと激突した。

 

「こどぉぉ」

 

「ボスゴドラ踏ん張れ!」

 

「ドッ! ———どぉぉぉ」

 

「なっ!?」

 

 一方ボスゴドラもさまざまな色彩の稲妻が体中に巡り、その巨体をとうとう地につけてしまった。

 

『両ポケモン既に限界を超えている! 先に立つのはどちらだァ!?』

 

「立ってくれボスゴドラ!」

 

「お願いシャンデラ頑張って!」

 

「「勝ちてえんだ(たいの)!!」」

 

 トレーナーに応える。それが如何に難しいものかをボスゴドラとシャンデラは知っている。トレーナーの願いを捨てることの簡単さも。

 

「シャッ! シャァン!」

 

「ドッ! コドォォォォ!」

 

 それでも二体は立った。あるいは浮いた。その背にトレーナーの願いを乗せて。

 

『なんというド根性でしょうか! バトルはまだ終わっていませぇん!』

 

 もうさっきの重ね技を使う体力はボスゴドラに残ってねえ。だが、これまでの全てを込める技をボスゴドラは持っている。

 

「最後だ。ボスゴドラありったけを込めろ! メタルバースト!」

 

「コォォォォ!」

 

 ボスゴドラの口に鋼色のエネルギーが集約される。それに黒、青、赤、白、紫とさまざまな色彩が混ざっていく。

 

(っ! これが最後の関門)

 

 しかし、シキミはそれに対抗するためのアイデアを感覚的に得ていた。

 

「シャンデラ弾速を最大限落としてだいもんじ!」

 

「シャァッシャァン!」

 

 シャンデラはボスゴドラとの間に極大のだいもんじを留める。フィールドに残った黒炎がだいもんじを燃料として燃え上がった。

 

「そう来るか。全くどこまでも楽しくなるバトルだぜ」

 

「ええ、同感です♪でも、名残惜しくても、決着はしっかりつけるよダイアくん」

 

 踊る心を諫めて引き締まる表情を作って紡がれたシキミの言葉にダイアは純粋に笑った。

 

「当然だ! ボスゴドラ、メタルバースト発射ァ!」

 

「シャンデラだいもんじの中心にソーラービーム!」

 

 ポケットから飛び出た左手を力強く突き付けたダイア、握り続けた万年筆をインクが飛び散るほどに奮ったシキミ。再び、二体のポケモンがトレーナーに応えた。

 

「コォォォォッドォォォォ!」

 

「シャァァァァァァッシャァァァ!」

 

 ボスゴドラは蓄積したダメージの全てを込め、虹色に染まったエネルギーをシャンデラに放った。

 

 シャンデラは晴れの影響により発動時間を極限まで速めたソーラービームをだいもんじの黒炎を味方につけて貫いた。

 

 フィールドの中心で最後の技がぶつかる。

 

『これは! 拮抗しています! ボスゴドラのこれまでのダメージとシャンデラのありったけのパワー! どちらも負けていなァい!』

 

「ドォォォォォコドォォォォ!」

 

「シャァァァァッシャァァァ!」

 

 刹那、吸収したダメージを放つメタルバーストの技の性質ゆえか。シャンデラのソーラービームとフィールド中央に留まっていただいもんじを吸収、そしてエネルギーの塊が形を保てず、割れた。

 

 巻き起こる大爆発!

 

「くっ、うっ!」

 

「っ! んっ!」

 

 フィールドの砂塵と熱風がトレーナー二人、ひいてはスタジアムの観客をも襲った。

 

『す、凄まじい威力! 私も最早実況どころではありませぇん!』

 

 一分、二分、あるいは三十秒だったかもしれない。二体の最後の力はそう感じさせるほどに大きく、途方もないものだった。

 

 煙が辺りを充満している。決着はどうなったか。スタジアム中の人間が目をカッ開いて、今か今かと確認する。先に煙が晴れたのはボスゴドラ側だった。

 

「こ・・・・・・どぉ〜」

 

「っ、ボスゴドラ!」

 

 うつ伏せに倒れ、やり切ったと言わんばかりの笑みを浮かべていた。

 

「ボ、ボスゴドラ戦闘不———なっ!?」

 

 避難していた審判がそれを確認し、ジャッジを下そうとしたそのとき、煙が完全に晴れ、シャンデラ側の状態も露わになる。

 

「シャ〜ン」

 

「シャンデラ・・・・・・」

 

 シャンデラもまたフィールドに転がり、意識を失っていた。

 

「っ、ボスゴドラ、シャンデラ共に戦闘不能! よってこのバトル・・・・・・引き分け!」

 

 スタジアムモニターのトレーナーの手持ちの欄が真っ黒に染まり、このバトルの終了を示した。

 

『なんとこの準々決勝の激闘は引き分けに終わりましたァ! 準決勝に進む選手はリーグ委員が追って通達致します! まずはトレーナー両名とそのポケモンたちの勇姿に盛大な拍手を!』

 

「「「ウオオオオオ!!」」」

 

「シャンデラのソーラービーム凄え威力だった!」

 

「ボスゴドラも硬かったぜぇ!」

 

「デスカーンが最高の仕事したよな!」

 

「それを言うならドータクンもだろ!」

 

「トレーナー同士の判断力も素晴らしいものだった!」

 

 観客が口々にダイアとシキミ、そのポケモンたちを讃える声がスタジアム中に響くが、二人のトレーナーは不思議と現実感を感じていなかった。

 

「負け、た・・・・・・」

 

 シキミは自然と溢れた悔し涙に瞠目し、ようやく自身の心の底から出た感情を把握した。

 

(あんなに楽しかったのに。どうして今はこんなにも酷い気分を味わっているのかな。でも、やらない方が良かったなんてちっとも思っていない。むしろ、誇らしさすらある)

 

「なんなのかな、全然、言葉にならないや」

 

 気がつけば止まらなくなった涙を、シキミは眼鏡を外して拭い、フィールドへ向かった。

 

「シャンデラ。本当に、ほんとにありがとう」

 

「シャシャァン♪」

 

 シャンデラはシキミへ満たされたような笑みを浮かべて、ボールの中へ戻っていった。

 

「勝ちきれなかった・・・・・・」

 

 一方ダイアは下唇を血が出るほどに噛んでいた。フィールドに倒れるボスゴドラに歩み寄り、膝を折って目線を合わせた。

 

 コイツらは最初から最後まで俺の指示に従ってベストな行動を以って応えてくれた。今日のバトル、俺の下らない意地を貫かせた場面が何度もあった。

 クチートをあそこで戻しておけば、ドータクンを温存すれば、ナットレイがユキメノコに接近できる環境を整えていれば、アイアントにいつものバトルスタイルを貫かせていれば、ギギギアルにさっさとワイルドボルトを使わせていれば、ボスゴドラに・・・・・・受けるという選択肢を強要させなければ、なにかが変わったかもしれない。

 

「すまねえな。お前らの信頼に応えてやれなかった」

 

「コドォ」

 

「痛ッ!」

 

 ボスゴドラはその巨大な尻尾でダイアの頭を叩いた。

 

「コドコドォ」

 

 ダイアは座り込んだボスゴドラの紡ぐ言葉がなんとなくわかった。

 

 みんなお前の信頼に応えていたんだよ。

 

「・・・・・・へへっ、そうか」

 

 ダイアはそれを察し、照れ臭そうに笑った。ボスゴドラもこれ以上の説教は必要ないだろうと自分が入っていたモンスターボールを指差し、戻ることを催促した。

 

「お疲れさんボスゴドラ。最高のバトルだったぜ」

 

 小さく収まったモンスターボールをコートについたホルスターに仕舞い、今回の対戦相手へと向き直った。彼女は未だに頬を伝う涙をそのままに万年筆の無い左手を差し出していた。

 

「シキミ。俺とバトルしてくれてありがとな」

 

 ダイアはそのか細くも力強い左手を握った。

 

「こちらこそ。ダイアくん、私は今回のバトルでトレーナーとして大切なものを見出せました。アナタのおかげです」

 

「・・・・・・俺なんかしたっけ?」

 

「なっ! 言ってましたよ結構大事なこと! ええと、あっ、メモしてないんだった!」

 

 バトル中ずっと小脇に抱えていたメモ帳を開いて、ガーンと落ち込んだシキミにダイアは笑った。

 

「トレーナーとして全力で来いよってヤツか?」

 

「その少し前です!」

 

「少し前? ええと・・・・・・なんか言ったっけ?」

 

「ギギギアルを戻すときに言っていたあの言葉です!」

 

「なんだ。覚えてんじゃねえか」

 

「むう、アナタの口からもう一度聞きたいんです。察してください」

 

 涙はどこに行ったのか。可愛らしく腕を縦に振るってせがむシキミにダイアは答えた。

 

「強いて言うなら、ブルンゲルの覚悟に負けた」

 

「はい。私はダイアくんのその言葉のおかげでブルンゲルの想いに気づくことができました。アナタの言葉が無ければあの瞬間、ポケモンバトルを小説のアイデアを得るための娯楽として捉えていた私は変わらないままだったでしょう」

 

「・・・・・・そうか、照れるな」

 

「ええ存分に照れてください♪アナタは良いジムリーダーになれますよ」

 

「覚えててくれたのか」

 

「はい。私もうすっかりアナタのファンなので♪」

 

 純粋にそう言ったシキミに対し、ダイアは複雑な笑みを浮かべた。

 

「嬉しいねえ」

 

「・・・・・・っ。楽しみにしてますよ、アナタが建てるジムを」

 

「ああ、努力はする」

 

 消極的な返答に気づいていながらも、シキミはそれ以上は言及しなかった。

 

「ではまた後ほど」

 

「え、取材すんの?」

 

「もちろんです!」

 

「いや、バトルでの疲労とか」

 

「問題ありません! むしろダイアくんのこれまでの旅を知れるとなると活力が溢れてきます!」

 

「わ、わかった。あとでな」

 

『準々決勝第二試合は明日! それでは会場の皆様! ベストウィッシュ良い旅を!』

 

 ダイアはシキミの気迫に押されながらも、宿泊するホテルの場所も部屋番も連絡先すらも教えず、スタジアムをあとにした。




———

ダイア・ロック 手持ち
クチート
ドータクン
ナットレイ
ボスゴドラ
アイアント
ギギギアル

シキミ 手持ち
ブルンゲル
フワライド
ゴルーグ
ユキメノコ
デスカーン
シャンデラ

・戦績
×クチートvsブルンゲル○
○ドータクンvsフワライド×
ナットレイvsゴルーグ−
×ナットレイvsユキメノコ○
○ボスゴドラvsユキメノコ×
−ボスゴドラvsデスカーン
アイアントvsデスカーン−
−アイアントvsブルンゲル
×ギギギアルvsブルンゲル×
×アイアントvsゴルーグ○
○ドータクンvsゴルーグ×
×ドータクンvsデスカーン○
○ボスゴドラvsデスカーン×
×ボスゴドラvsシャンデラ×

結果:引き分け

原作変更ポイント
・シキミのシャンデラの特性。(ほのおのからだ→もらいび)

独自設定
・ナットレイのねをはる連結。
実質ねをはる一つでフィールドを支配した結果、やり過ぎという作者の判断によりゴルーグの二色混合パンチとユキメノコのふぶきに倒れてもらった。ごめんね 

・デスカーンの伸びる手
理由:ドータクンが強過ぎた。以上。

・ドータクンのメテオビーム。
トラックルーム時に素早さ関係が逆転するのを利用した。擬似晴れソーラービームのようなもの。これのせいでどうやってドータクン倒してもらうかめっちゃ悩んだ。

作者の疑問
・最後のシャンデラ、オーバーヒートの方が格好良かったかな?
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