咲き誇る鉄の華   作:ハトンビー

19 / 19
海賊退治戦線

 

 何事にも『想定外』は付き物である。

 夜明けの地平線団出現の報を受け、短期間で可能な限りの準備を整えた鉄華団は、海賊退治に赴くべく宇宙へと上がった。

 隊列を組んで星の海を征くのは、前を進む強襲装甲艦〈イサリビ〉および、後ろに続く武装輸送艦〈ホタルビ〉の二隻。鉄華団の宇宙戦力の、ほぼ全てである。

 二年前の地球行では、ギャラルホルンの監視網を掻い潜るような航海だったが、今回は彼らの航路を堂々と使うことができる。楽で良い反面、隠密裏の航海に慣れているタービンズの面々は、居心地の悪さを禁じ得なかったようだ。

 出航から数時間後には、火星宙域に到着したギャラルホルン艦艇とも合流を果たし、現在は双方のMS部隊が、連携のための共同訓練を行っている。

 

 

 

 ──が、作戦会議(ブリーフィング)の場に選ばれた〈イサリビ〉のブリッジでは、早速問題が発生していた。

 

 

 

「……そっちは五隻って話だった筈だが?」

 

 オルガは目の前のギャラルホルン士官に、訝りの眼差しを向けた。

 事前の連絡では、ギャラルホルン側からは戦艦五隻が参加すると聞かされていたにも関わらず、指定された合流地点には、たった一隻しか姿を現さなかったのだ。

 鉄華団側のブリーフィング参加者はオルガを筆頭に、ビスケット、ユージン、メリビットの合わせて四名。

 一方、ギャラルホルン側はマクギリスが差し向けた、石動・カミーチェという長髪の士官と、その副官一名である。

 

「訳あって、足の速い一隻で先行させてもらった。そちらこそ、この宙域には鉄華団しか居ないようだが……」

「協力部隊は既に宇宙(そら)に上がっています。先程、火星軌道上にて指示を待つと連絡がありました」

 

 石動からの逆質問には、ビスケットがさらりと答えた。

 石動の言うところによれば、ギャラルホルン側の「訳」とはこうである。

 ここからほど近い宙域で、夜明けの地平線団の船が、ギャラルホルンの監視網に引っ掛かった。数は三隻。その中には首魁、サンドバル・ロイターが乗る旗艦も含まれている。

 夜明けの地平線団の総戦力は十隻。今なら敵戦力が集結する前に叩く、絶好の機会である──と。

 

「ま、各個撃破は戦いの基本だな」

 

 ユージンの呟きを聞きつつも、オルガは石動を、鋭く睨め付けた。

 

「そっちは一隻、こっちは二隻……俺たちに命を張れ、と?」

 

 挑発的な物言いになってしまったが、オルガとしては質しておかなければならない「筋」だった。

 石動は何か言いかけた副官を目線だけで制止し、自身は表情一つ変えることなく答えた。

 

「危険に見合った報酬は約束する。ファリド准将も承知の上だ」

「そちらの本隊と合流してからでも、よろしいのでは?」

 

 メリビットの慎重案を、しかし石動は否定する。

 

「サンドバルは狡猾な男だ。所在を掴んだこの機を逃したくはない」

 

 オルガはそっと右目を閉じた。

 ──おそらく、この男は嘘は言っていない。だが何かを隠し、また妙に急いでもいる。

 しかし、情報が真実ならば、物量差を逆転できる好機であることには違いない。また、先方の負い目を逆手に取れば、鉄華団が作戦の主導権を握ることができる。あわよくば、手柄をもぎ取るチャンスでもある──。

 

「……わかった。その代わり、指揮権はこっちが貰うぞ」

 

 オルガの決定の後、作戦に関する幾つかの議論を交わして、石動らはブリッジを後にした。

 

 

 

 

 

「ここにいたのか、ミカ」

 

 ブリーフィングを終えたオルガは〈イサリビ〉のMS格納庫を訪れた。

 無重力の格納庫で、コンテナを椅子代わりに腰掛けている三日月。パイロットスーツに着替え、アームホルダーは外していたが、右腕は力無く宙に浮いている。

 

「なんでオルガが〈イサリビ〉に?」

「いやそれがなあ。副団長ズと経理主任殿に休めっつわれて暇なんだよ」

 

 オルガ自身は全く気づいていなかったのだが、いつの間にか丸一日半ほど働き詰めだったらしい。やはり宇宙に上がったばかりだと、時間感覚が麻痺していけない。

 どうやらメリビットが、オルガの勤務時間をいちいち計っては副団長らに共有していたらしく、ブリーフィングを終えた直後、ビスケットから六時間の休息を言い渡されたのだ。ユージンからも釘を刺され、メリビットに至っては「お嫌なら、ご自分の体調ぐらいご自身で管理してくださいね?」などと言い放たれる始末。

 しかし、どうにも休む気になれず、折角〈イサリビ〉に来たのだからと散歩がてら、話し相手として三日月を探していたという次第である。

 

「そっか。俺も暇なんだ」

「しょうがねえなあ、ったく」

 

 オルガは三日月の隣に立ち、格納庫に佇む〈バルバトス〉を眺める。

 作戦宙域への到着には、巡航速度で十二時間ほど要する。その間、整備班は交代で休憩を取りつつ、機体の点検や予備部品の準備などに余念がない。

 

「作戦のこと、聞いたか?」

「うん。大将を取るチャンスだって」

「そうだ。夜明けの地平線団を叩けば、テイワズにも良い手土産になる」

「うん」

 

 他愛無い雑談をするつもりが、結局仕事の話になってしまったことを、オルガは内心、自嘲した。

 

「火星の奴らはともかく、ギャラルホルンにはどうも事情がありそうでな。また危ねえ橋になっちまったが……」

 

 オルガは三日月に顔を向ける。

 こちらを見返す、空色の瞳。

 

「大丈夫。オルガの道は、俺が作るよ」

 

 その右目は、今は景色を映していない。

 ──今度もまた、三日月は戦いの要になる。遊撃隊長などという大層な肩書きを持ってはいるが、その実態は三日月を最大限に暴れさせるための、いわば一(・)人(・)部(・)隊(・)である。

 負担は誰の目にも明らかなのに、三日月は少なくともオルガの前では、不満の一つも述べたことがない。

 

(……まあ、俺も人のことは言えねえか)

 

 オルガは三日月に笑い返すと、再びバルバトスに目を移す。

 ──と、その途中で、何かが視界の端に映った。

 艦内通路と格納庫を繋ぐ扉。換気による微風を受けて、ふわふわと揺れる柔らかい髪。

 隠れ切れていないその姿に何だか気を抜かれて、オルガは苦笑した。

 

「どうしたの?」

「いや……今になって眠気が来てな」

「寝た方が良いんじゃない?」

「それもそうだな。んじゃ、大人しく寝るとするか──アトラぁ」

「わひゃあっ!?」

 

 上擦った声とともに、赤い顔のアトラが扉の向こうから飛び出した。

 首元からふわりと浮かぶ、すっかり見慣れた三日月型のペンダントが、照明を反射してきらめいている。

 

「ちょいとミカの相手してやってくれ。俺は〈ホタルビ〉に戻って仮眠取るわ」

「あ、はい……お弁当、食べます?」

「いや、いい。箱の数が合わなくなっちまう」

 

 オルガはアトラと入れ替わりで、格納庫を後にする。

 

「あっ、三日月! はい、お弁当」

「ありがとう」

「……もしかして、気づいてた?」

「うん。なんで来ないのかなって思ってた」

 

 二人のやり取りを背中に聞きながら、オルガは口元を緩めた。

 弟の恋路を整えてやるのも、兄貴分の務めである。

 

 

 

◆

 

 

 

 何だかんだ、平気に思えても疲れは溜まっていたらしく、オルガは〈ホタルビ〉の自室に戻るや否や、丸々五時間ほどぐっすり眠り込んでしまった。

 お陰で作戦宙域に到着する頃には、頭もすっかり冴え渡り、気力充実して〈ホタルビ〉の艦長席に座ることができた。

 オルガの隣にはビスケット、オペレーター席にはメリビット。ユージンは前方を行く〈イサリビ〉に座乗している。

 

「エイハブ・ウェーブ反応、捉えました!」

 

 オペレーターを務める年少の団員から報告が上がる。

 ディスプレイに表示された、敵艦を示す光点。数は三。エイハブ・リアクターの固有周波数も、事前に提供された情報と一致している。

 

「各艦に通達。始めるぞ!」

 

 オルガの号令一下、歯車が回り出すように、艦隊全体が整然と戦闘態勢へ移行する。

 揺れとともに、〈ホタルビ〉の艦橋構造物そのものが沈降し、艦体内部へと格納。上面の開口部が分厚い装甲板で覆われ、ブリッジの遮蔽が完了する。

 

「偵察隊からの報告は──」

『おいおい、冗談きちいぞ!』

 

 シノの声とともに、斥候に出ている一番隊から送られてきた映像が、正面の大型モニターに表示された。

 横一列の陣形を取る、三隻の強襲装甲艦。

 ──いや、違う。

 奥に、も(・)う(・)一(・)隻(・)い(・)る(・)。

 

『……馬鹿な。どうやって捕捉から逃れた……!?』

 

 石動が驚愕を述べる間にも、敵艦を示す光点が次々とディスプレイに現れる。

 その数は一隻どころではない。両翼の艦の後方に二隻。中央の艦に至っては、三隻も後ろに従えている。

 やがて、シノから決定的な報告がもたらされた。

 

『オルガ、敵艦は十隻だ! 船同士を繋いで引っ張ってやがる!』

 

 映像に目を凝らすと、前後に連なった敵艦同士を繋いでいる、ワイヤーらしきものが見えた。

 ビスケットが帽子の鍔を触り、苦虫を噛み潰したような顔で言った。

 

「多分、後ろの船はリアクターを低稼働状態にして、残りの三隻だけで曳航してきたんだ!」

「エイハブ・ウェーブを誤魔化したって訳か。一杯食わされたぜ……!」

 

 オルガは歯噛みした。

 艦艇十隻となれば、夜明けの地平線団はこの宙域に、保有する全戦力を投入してきたことになる。

 宇宙空間とはいえ、三から四隻分の質量を一隻で動かすとなれば、機関にも相当な負荷が掛かるだろう。

 まさに悪名轟く大海賊らしい、狡猾にして大胆なやり口だ。

 

「敵艦より通信です!」

「繋げ」

 

 正面のモニターが切り替わり、いかにも海賊の親玉といった風体の、大柄な男が映し出される。

 三又に結ばれた顎髭と、ダーツの的を思わせる特徴的な額のマーク。

 夜明けの地平線団の首魁にして、懸賞首のサンドバル・ロイター。

 伝え聞く人物像は、強欲、苛烈、狡猾。艦隊指揮のみならず、ときに自らMSを駆る豪傑として、悪名高い男だ。

 

『俺は夜明けの地平線団団長、サンドバル・ロイターだ。せめてもの慈悲として、降伏の機会を与えてやろう』

「鉄華団団長、オルガ・イツカだ。そっちこそ、俺らに手ェ出した詫び入れんなら今のうちだぞ」

 

 二人の「団長」は、モニター越しに対峙する。

 

『フン。ギャラルホルンに尻尾を振りおって。気でも触れたか?』

「お前らの方こそ、俺たちをどうにかできると思ってんのか?」

 

 虚勢に近いことは自覚していたが、気取られる訳にはいかない。

 まして、彼我の軍勢が相見え、戦端が開かれる寸前ともなれば。

 

『……今は粋がることを許そう。目障りなハエほど、潰し甲斐がある』

 

 一方的に通信が切られ、間もなくしてワイヤーを切り離した敵艦隊が、オルガたちを包囲するように翼を広げ始める。

 一番隊を艦隊の近くまで一度下がらせるように指示を出してから、オルガはビスケットを見た。

 

「どうだ、やれそうか?」

「四隻減ったのが痛いけど、ギリギリ何とか、ってとこかな……!」

「よし──ユージン、作戦通りだ。以後の艦隊指揮は任せる!」

『任されたぜ!』

 

 オペレーター席のメリビットが、オルガへと振り返った。

 

「今すぐ撤退すれば、最小限の被害に留められるのでは!?」

「……そうだな。だが犠牲は出る」

 

 あるいは無事に逃げ帰ったとしても、鉄華団は夜明けの地平線団に脅かされ続ける。

 更なる犠牲を生まないためにも、ここで奴らを叩きのめす。

 ──それに。

 伏せ札は、こちらにもある。

 

「別働隊に暗号連絡!『作戦発動』だ!」

 

 やがて、敵艦からの砲撃を合図に、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

◆

 

 

 

『敵艦よりMSの発進を確認!』

『二番隊、出撃急げ!』

 

 〈ホタルビ〉の左右両舷に設置されたMS格納庫では、各々が着込んだノーマルスーツのヘルメットを介して、数多の通信が飛び交っている。

 左舷側格納庫に駐機された〈獅電〉のコクピットに座るライドは、通信から戦況を把握しつつ、機体システムを立ち上げていく。

 

「LCSよし。データリンクよし。システムチェック、オールグリーン……!」

 

 緊張で喉が渇く。心を落ち着けるため、大きく息を吸って吐いた。

 希望が叶ってMSパイロットに選ばれ、実働二番隊に配属されたライド。模擬戦は何度も重ねてきたが、MSでの実戦は、この戦いが初となる。

 二番隊隊長の昭弘から、ライドらへと通信が入った。

 

『船を守るのが俺たちの仕事だ。体張るぞ!』

「はい!」

『ハッチオープン。一番機、出撃位置へ移動します』

 

 年少団員の声とともに、格納庫側面のハッチが開放。

 まずは昭弘の〈グシオン〉が、〈ホタルビ〉の進行方向に対しうつ伏せの体勢で、宇宙空間へと運び出されていく。

 その〈グシオン〉もまた〈バルバトス〉と同様、二年前の戦いの後に改修され、装いを新たにしている。聞くところによれば、何やら独特な新装備も追加されたらしい。

 みんなからは、改修後も引き続き〈グシオン〉とだけ呼ばれているが、正式名称(フルネーム)は何だったか。ほら、あの、コーヒー豆の何ちゃらが由来だとかいう──。

 

『昭弘・アルトランド、〈ガンダム・グシオンリベイクフルシティ〉! 出るぞ!』

 

 そう、それだ! いつ聞いても長い名前!

 ──などと思うライドをよそに、昭弘の〈グシオン〉が、スラスターから青白い炎を噴いて出撃していく。

 さあ、いよいよ、自分の番だ。

 

『続いて二番機、出撃移動へ移動します──ライドさん、頑張ってください』

「おう!」

 

 ライドの〈獅電〉を固定するブームが伸長。頭部を艦首方向に向けた〈獅電〉が宇宙へと運び出される。

 モニターの外に広がる、真空の暗闇。

 

『機体を出撃位置に固定。拘束装置、ロック解除』

「よし、やるぞ……!」

 

 操縦桿を握り締め、訓練で学んだことを、頭の中で何度も反復する。

 

『進路クリア。二番機、出撃どうぞ!』

「ライド・マッス、〈獅電〉! 行きます!」

 

 ライドの〈獅電〉がスラスターを噴射し、拘束を解かれて宇宙に飛び立つ。

 鉄華団の実働MS戦力は全部で九機。三日月ただ一人が属する遊撃隊が一機、シノの一番隊と昭弘の二番隊が三機ずつ、タービンズからの出向組で編成される教導隊が二機という内訳だ。

 この作戦では、三日月の〈バルバトス〉が最前面に立ち、MS戦の経験が比較的豊富な一番隊が前衛、昭弘以外はMS戦ルーキーの二番隊が後衛を務める。教導隊は予備戦力としてそれらのフォローに当たり、さらにギャラルホルンのMS部隊が助太刀に加わるという布陣だ。

 

『来たぞ来たぞ! MSがわんさか来やがった!』

 

 シノの声に呼応するがごとく、エイハブ・ウェーブの反応が次々と現れる。

 光学センサーがモニターに映し出す〈ガルム・ロディ〉の群れ。

 その数、ざっと見ただけでも、三十は下らない。

 

「す、すげえ数……!」

『ビビんな! 一匹ずつやれば良い!』

「そうだ。ビビんな俺……! 勝ってみんなに自慢してやるんだ……!」

 

 ライドが己を奮い立たせる間にも、刻一刻と近づく互いの距離。敵艦から放たれた砲弾が、味方艦隊の間をすり抜け、明後日の方へ飛んでいく。

 そのとき、一筋の光が、戦場を駆け抜けた。

 

『じゃあ、船は頼んだよ』

 

 いつか地球で見た雷電のように、虚空に描かれる青い軌跡。

 単身敵陣へと切り込んでいく友軍機は、やはり三日月の〈バルバトス〉だ。

 〈バルバトス〉は突進しながら両腕の機関砲を連射し、恐るべき正確さで弾丸を当てていく。

 

「すげえ……」

『来るぞ!』

 

 手にライフルを携えた敵MSたちが、わらわらとこちらに向かってくる。

 まずは一番隊と、ギャラルホルンの前衛部隊が会敵。敵部隊を阻み、勢いを削ぐ。

 ライドたち二番隊の役目は、彼らを援護しつつ、撃ち漏らした敵を食い止めることだ。

 

「近づけさせないだけなら、俺だって!」

 

 ライドはぐっと狙いを定め、トリガーを引き絞った。

 

 

 

 

 

「敵中央に砲撃を集中させろ! 味方に当てんじゃねえぞ!」

 

 ユージンは〈イサリビ〉のブリッジから艦隊の戦闘を指揮する。

 先頭に〈イサリビ〉、中央に〈ホタルビ〉、殿にギャラルホルン艦。縦列陣を組んで猛進する三隻を、周囲に展開したMSたちが守る。

 海賊どもはきっと、破れかぶれの中央突破を図っているのだと思っているだろう。確かに中央突破を仕掛けてはいるが、真の狙いは別のところにある。

 対する敵艦隊は鉄華団を飲み込むように、翼を大きく広げながら前進を続けている。互いに真正面からかち合う格好のため、彼我の相対距離が急速に縮まっていく。

 三隻のうち〈イサリビ〉と〈ホタルビ〉は、ユージンが阿頼耶識を介して同時に操舵している。

 操舵だけとはいえ、巨大な艦を二隻同時に制御する負荷はそれなりに大きい。

 鼻血が垂れるのも構わず、ユージンは闘志を奮い立たせる。

 

「MS隊は付いてきてんな!? 船から離れんじゃねえぞ!」

 

 距離が近づくにつれて、双方共に命中弾が増えていく。

 先頭を行く〈イサリビ〉は自らも砲撃しつつ、文字通り艦隊の盾となって、集中砲火を一身に受け止める。

 強襲装甲艦の堅牢な前面装甲は、艦砲でもそう易々と抜かれはしない。それでも着弾の度に、吸収しきれない衝撃がブリッジを揺さぶる。

 

「前部ミサイル発射管、全門開け!」

 

 ユージンが指示を飛ばす合間にも、敵艦の姿がどんどん大きくなっていく。

 

「よーい──てェッ!」

 

 〈イサリビ〉の前部から、放射状にミサイルが発射される。

 ミサイルは敵艦隊の只中に飛び込み、時限信管により起爆。夥しい量の煙幕と、金属片のようなものがばら撒かれ、敵艦隊を包み込む。

 ──『ナノミラーチャフ』。

 ナノラミネートアーマーに使用される粉末素材を散布し、通信や光学センサーを阻害する。二年前の地球行の際も用いた兵器で、今回撃ったのは煙幕弾にチャフを混ぜ込んだ改良型だ。

 効果は一時的な目眩し程度のものであるが、それで十分。

 

「行っくぜえええ!!」

 

 速度を落とすことなく、煙幕とチャフの只中に突っ込む。

 こちらの視界やセンサーも阻害されるが、敵艦の位置はしっかりと覚えている。友軍との通信も、ごく近い距離であれば保たれる。

 ノイズを吐きまくり、また煙幕に覆われたモニターの中に、ユージンはほんの一瞬だったが、確かに敵旗艦の姿を見た。

 ややロールしながら、敵旗艦を掠めるように回避。

 そのまま通り抜けて逃げ去る──と、見せかけて。

 

「面舵いっぱぁぁぁい!」

 

 〈イサリビ〉がスラスターを目一杯吹かせて針路を変え、〈ホタルビ〉とギャラルホルン艦が後に続く。

 このとき、敵艦隊は鉄華団を半包囲するように散開しており、大きく左翼、中央、右翼の三つの集団に分かれていた。

 そのうち、敵から見た左翼集団三隻の、斜め後方に回り込み。

 砲撃。

 航宙艦艇はよほどの例外でもない限り、みな艦尾に大型の推進装置を有している。巨大なノズルは航宙艦艇にとって機能の要でありながら、その機能故に装甲で覆うことができない。いわば共通の急所だ。

 逃れようとする敵艦三隻を、敵主力から切り離すべく、さらに追い立てる。

 一方、残る敵艦七隻の対応も早く、味方艦隊の背後へと回り込むように変針。結果として、敵艦三隻を鉄華団が追い、さらにその後ろを敵艦七隻が追う、という構図になる。

 かくして、作戦の狙い──十隻の敵艦隊を、三隻の前方集団と、七隻の後方集団に分断することに成功した。

 

「へっ、どんなもんよ!」

 

 ユージンは得意げに鼻血を拭った。

 MS隊も、ギャラルホルンの部隊を含め、一機も落伍していない。

 

 

 

 

 

「よくやったユージン!」

 

 オルガは掛け値無しの称賛を送ったが、まだ安心はできない。敵を分断することはできたが、裏を返せば敵の主力に背後を取られ、また前後から挟み撃ちに遭う形でもある。

 しかし、それに対しても、既に手は打ってあった。

 戦闘が始まる、ずっと前に。

 

「敵艦隊後方に、新たなエイハブ・ウェーブ反応を検知! これは……友(・)軍(・)です!」

「来てくれたか!」

「ナイスタイミング!」

 

 オルガとビスケットは、共に喜びを露わにした。

 敵後方集団の、さらに後方。

 敵の背後を突く形で、新たな艦隊が出現していた。

 これこそ、オルガの言った「別働隊」──協力を申し出てくれた三つの武装組織からなる、合同部隊である。

 強襲装甲艦二隻、武装輸送艦一隻。

 既にMSも出撃していて、総数は十一機。

 その機種の内訳も、実に様々だ。

 厄祭戦初期の生き残りであろう〈ジン〉や〈ガフラン〉。両腕にバズーカを装備した重武装型〈スピナ・ロディ〉や、特徴的な追加装甲と太刀が目を引くカスタム機〈ムシャ・ジルダ〉。厄祭戦後期の少数生産機〈ギャン〉や〈ズヴァルヴィ〉。果てはここ最近見かけるようになった、違法流出した〈グレイズ〉の改造機だという噂の〈エーバージー〉まで。

 同種同系列の機体の方が少ないほどで、さながらMSの展示会である。

 寄せ集めとも言えたが、鉄華団にとっては、この上なく心強い援軍だ。

 別働隊の指揮を取る、武装組織の代表者たちと通信が繋がる。

 

『只今、到着した』

『ちょっと待たせちまったかい?』

「いいや、バッチリだ。来てくれるって信じてたぜ」

『我らの働き、存分にご覧に入れよう』

 

 海賊退治にあたって、オルガたちが立てた作戦はこうだ。

 予め艦隊を二手に分け、まず本隊が会敵。敵艦隊に切り込み、分断する。別働隊は付近の宙域で待機しておき、敵艦隊が分断された頃合いを見計らって、その側面か背後を突く。

 陽動兼切り込み役を担い、故に危険も大きい本隊は、戦力に長けた鉄華団とギャラルホルンが担当する。これには協力してくれた組織に対し、お前たちを信じて背中を預けるのだと、行動をもって示す意図もあった。

 当初の計画では、本隊は鉄華団二隻、ギャラルホルン五隻の計七隻を見込んでいたから、物量差はそこまで大きくならないという計算だった。

 しかし蓋を開けてみれば、ギャラルホルン側はたったの一隻。全くもって想定外であり、故に無茶もすることになったが。

 ともあれ、作戦の第一段階は無事完遂した。

 ここからは持久戦になる。敵の攻撃を凌ぎつつ、敵戦力を擦り潰し、サンドバルを前線に引き摺り出す。あるいはその途中で、残る四隻のギャラルホルン艦が到着すれば、その時点で戦闘の趨勢は決する。

 

(だが……)

 

 オルガには、未だ気がかりな点もあった。

 石動──今は自らMSを駆り、最前線で戦っている──が、やけに急いでいるように見えたこと。

 そこへ、交渉の過程で小耳に挟んだ、と(・)あ(・)る(・)噂(・)話(・)を総合すると──。

 

(……いや、今は目の前に集中だ)

 

 海賊退治は、まだ始まったばかり。

 オルガはMSデッキに、補給の準備を指示した。

 




・『MSフレームの世代区分』(独自設定です)
MSのフレームは非常に長期間の運用が可能なため、「旧型フレームをインナーに使用した新型機」といった例が珍しくない。
そのため、MSの世代区分は、フレームの設計年代によって分類するのが一般的である。
ただし、これらの分類は便宜上のものであり、各世代間の境界は必ずしも明確ではない点に留意を要する。

〈黎明期MS〉
厄祭戦の最初期に製造された機体群。
まだMSの基本形すら確立していなかった時期の、いわば実験機。ハード・ソフトの両面で様々な試行錯誤が行われており、人型からかけ離れた「有人式MA」というべき機体も多い。
後述する初期型フレームの登場・普及に伴い、兵器としての役目を終えた。
現在は確認されている限り、ギャラルホルンの兵器博物館にごく僅かな数が現存するのみ。

〈初期型フレーム〉
厄祭戦初期に設計されたフレーム。
「エイハブ・リアクターを組み込んだ人型のインナーフレーム」「阿頼耶識システムによる機体制御」といった、MSの基本構成が確立した世代。一方で、後の世代と比較すると、実験的な部分も多く残されている。
その多くは厄祭戦で破壊され、残された機体も戦中に更新が進んだため、現存数は少ない。

〈中期型フレーム〉
厄祭戦中期頃に設計されたフレーム。
MSが量産兵器として一種の成熟期を迎えた世代。後述する後期型フレームの登場後も、物量を補うために大量に配備され続け、一部は戦後間もない時期にも新造された。
そのため現存数も多く、〈ロディ・フレーム〉や〈ヘキサ・フレーム〉等、P.D.三〇〇年代で発掘・復元されるフレームは大部分がこれに該当する。

〈後期型フレーム〉
厄祭戦後期から末期にかけて設計されたフレーム。
戦争終結の決定打となるべく、より高い性能が求められた世代であり、中期型と比べて野心的な設計の機体が多い。その極北に位置するのが〈ガンダム・フレーム〉である。
一方で、特に厄祭戦末期頃に設計された機体には、一部に戦後の「対人戦」を見据えた機能が見られるのも特徴の一つ。
一部は戦後しばらくの間も生産・運用が続けられたものの、高性能と引き換えに製造数は限られており、従って現存数も多くない。

〈戦後型フレーム〉
厄祭戦後に設計されたフレーム。
もはやMAの脅威は排除されたため、MSやMWといった、同格ないし格下兵器との戦闘を念頭に開発されている。また、戦後の技術的後退や機械化忌避思想などから、一部の例外を除き阿頼耶識システムにはスペック上非対応(改造による搭載は可能)。
長らく〈グレイズ・フレーム〉に代表されるギャラルホルン系列機のみが該当していたが、近年になって〈テイワズ・フレーム〉や〈イオ・フレーム〉といった独自系列機が登場した。


援軍の中にちらほら紛れ込んでいるのは、他作品における同名機体のそっくりさんたちです。
ただし世界観に合わせて、動力源はエイハブ・リアクター、インナーフレーム&ナノラミネートアーマー持ち、かつ武装は全て実体兵装(例:ビームサーベル→実体剣)に置き換えられています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

有効打なんてねぇよ 効かねえよ(作者:QAAM_M1911)(原作:インフィニット・ストラトス)

防御力こそが正義▼有効打 ねぇよ▼相手の弾を全部跳ね返してしまいました〜!▼旧題:「ゲシュパンとTP装甲だ、便利なものだろう?」▼インフィニット・ストラトスの世界に転生した男。▼ガンダムが好きだった彼はこう思ってしまった。▼「フォビドゥン最強じゃね?」と。▼ラファールを改造しながら自分のフォビドゥンを作り上げていくお話。▼……物足りなくなったので他の要素を次…


総合評価:5109/評価:8.06/連載:16話/更新日時:2026年10月10日(土) 19:38 小説情報

こちら銀河英雄伝説(作者:亀頭十三)(原作:銀河英雄伝説)

ラインハルトが「リョーツナッハのバカはどこだ!」ってなるお話です。


総合評価:8489/評価:8.84/完結:28話/更新日時:2026年08月06日(木) 20:23 小説情報

怪物と英雄の狭間で(作者:伝説の一般元ブロリスト)(原作:僕のヒーローアカデミア)

▼ヒロアカ世界にもしブロリー(超)が生まれていたらなぁーという感じ+父親がパラガスではなくオールマイトで、彼の養子という設定のお話。▼ブロリー(超)の二次創作やクロスがあんまりにも少ないので自分で書いちゃうかという感じで書きました!!!▼貴方も貴女もブロリーを推しにしませんか?


総合評価:7266/評価:8.88/連載:50話/更新日時:2026年10月27日(火) 07:00 小説情報

エセ・スパイダーマンがノー・ウェイ・ホームに参戦する話(作者:マッキーガイア)(原作:スパイダーマン)

やぁみんな!僕はノリと勢いでスパイダーマンになった男だよ!▼スパイダーマンがいない世界で著作権フリーとばかりにスパイダーマンのコスプレしちゃったら大いなる責任が伴っちゃった感じの人です。なんかノーウェイホームに参戦するらしい。終わったね!神作が


総合評価:6437/評価:8/連載:11話/更新日時:2026年10月07日(水) 12:51 小説情報

【推しの子】もしも星野アイの隣人が天才外科医だったら〜命を救う、その先へ〜(作者:ペンギンって可愛いですよね)(原作:推しの子)

表紙イラスト↓▼【挿絵表示】▼世界的な名声を得た天才外科医は、数え切れない命を救った末、過労によりその生涯を終えた。▼――しかし、目を覚ますと彼は記憶を持ったまま、日本で赤ん坊として転生していた。▼二度目の人生でも迷うことなく外科医の道を選び、再び天才と呼ばれるまでに成長した彼は、都内の大学病院へ勤務することになる。▼病院の近くへ引っ越し、新たな生活を始めた…


総合評価:5629/評価:5.88/連載:69話/更新日時:2026年10月01日(木) 21:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>