ワタクシがメス堕ちなんてする訳ないですの!   作:ペンギン3

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第十一話 妙な噂

 放課後、ワタクシは笑顔で旦那様を捕縛致しましたの。

 そのツラ、ちょっとお貸し願いますわね?

 

 

「いきなり何?」

 

 突如として屋上へご招待された旦那様は、少しムッとした顔をされておりました。

 

 ですが、ワタクシのニコニコ笑顔を見ると、途端に不審者を見る目へと表情が切り替わりましたの。

 

 ワタクシ、筋肉モリモリマッチョウーマンの変態じゃありませんわよ?

 

「一応聞くけど、何かあった?」

 

「旦那様に、少し聞きたいことがあるくらいですわ」

 

 何故だか身構えて、旦那様はワタクシを警戒しておりましたの。何もしていないのに、ひどいですわね?

 

「安心してくださいまし、旦那様。ワタクシは借金取りじゃありませんし、旦那様のケツ毛をむしって括約筋を傷つけたりなんて断じて致しませんわ!」

 

「淑女がケツ毛なんて言わないでくれ!」

 

 ……確かに、ケツ毛はワタクシの中のお父さんが迸り過ぎてますわね、要反省ですわ。もっとラングセランの令嬢に相応しい、お上品な言い方を致しませんと。

 

「旦那様のおケツの毛をむしって、括約筋を破壊したりなんて致しませんわ!」

 

「どっちでも変わらない下品さだよ!!」

 

 旦那様は、注文の多い旦那様でした。

 多分、"このラングセラン大猪の丸焼きは出来損ないだ、食べられないよ"とか言うタイプですわね。

 

 亭主関白さんですから、もう!

 

「では、どうやっておケツの毛をむしるんですの!」

 

「むしらないのが正解なんだっ。そもそも、おケツとか言わないでほしいんだよ!」

 

 もしかすると、旦那様はおケツを掻かないタイプの人間なのかもしれませんでした。きっと、光り輝くお尻をしているに違いないですわね。

 

「……お尻の話をするために、僕ここに拉致されたの?」

 

「あっ、そうでしたわ! 急におケツの話を始めたから、危うく誤魔化されそうになりましたの。旦那様のエッチ!」

 

「キレそう」

 

 相変わらず、旦那様はエッチな話題が苦手そうでしたわ。ウブで可愛いですわね? エッチな本とか、部屋に置いてないのかもしれませんわ。

 

 って、そうではありませんわ!

 

 旦那様のあざとさで、またも誤魔化されそうになりましたが、今度はワタクシの脳筋が待ったを掛けてくれました。

 

 このまま誤魔化し切ろうとしても、そうはいきませんわよ!

 

「最近流れている噂、旦那様は……ご存知ですわ?」

 

 ご自覚、お有りですかと尋ねると、旦那様は少し考えてから、あぁ、と小さく溢されて。

 

「無色透明な君のお父さんが、夜間に徘徊する生徒を締め殺しているって噂なら、まぁ」

 

「無色透明なお父様が、夜間徘徊している生徒を締め殺している!?」

 

 全く知らない上に、慮外の極みみたいな噂を口にした。

 

 え、待って、本当に何で?

 一体全体、どう言うことなの!!

 

「みんな、お父様を何だと思ってるの!」

 

「筋肉だと思う」

 

「そうだけど!!」

 

 確かに筋肉だけど、お父様は心優しい筋肉なんだ。森で日向ぼっこすると、鳩が頭に巣を作りに来たりするし!

 

「でも、何でそんな噂が……」

 

 何で脈絡もなく、透明なお父様が魔法学院でジェノサイドを行っているなんて噂が流れているのか。本当に意味がわからなさ過ぎて、頭がおかしくなっちゃいそうだ。

 

 そんな僕に、旦那様は今日もジトーって目を向けていた。……僕がまた何かしたって、そういうことなの?

 

「何か言いたげだね、旦那様」

 

「魔法実習の時のこと、思い出してみれば?」

 

「魔法実習……」

 

 言われて、ふと頭に浮かんだのは旦那様の姿。

 一生懸命、色々と振り絞って小さい僕を形作ってくれてた旦那様の姿。

 

 ……そういえば、魔力で僕を形成してくれてんだよね。

 えへへ、親心的にとっても嬉しいよ!

 

「あの時の旦那様、本当に格好良かったよ!」

 

「っ、なんでそっち、思い出しちゃうかなぁ」

 

「そんなの、素敵だったからに決まってるよ!」

 

 心配したし、あんまり無茶しないで欲しい。

 けど、それはそれとして、あの時胸が熱くなった感覚は本物だから。

 

「僕、旦那様のこと、あの時にね──」

 

「もういい、言わないで。……こっちも、照れちゃうからさ」

 

 本当の息子だって思うようになったんだよって、そう続けようとしたところで、旦那様から待ったが入った。

 

 気が付けば、旦那様のお顔が真っ赤になって、プイッてそっぽを向いちゃってる。ちょっと褒めただけなのに、旦那様は胸いっぱいになっちゃってくれてるみたいだった。

 

 あんまりにもいじらしい姿に、僕の内なる父性本能が突如として溢れ出し始めた。

 

 む、胸がキュンってする!

 旦那様、やっぱり可愛すぎるよ!!

 

「旦那様、今の旦那様になら目を潰さなくても授乳できる気がする!」

 

「気がしないで、多分気を違えてるよ」

 

 照れてるのにツンツンしてる!

 なんでそんなあざといムーブ、しちゃうの!!

 

 僕、旦那様のせいで、最近ツンデレ萌えに目覚めつつあるかもしれないんだよ?

 

 このまま僕の心の胸筋が、ツンデレ系かわかわショタっ子男子にしか反応しなくなったらどうするつもりなのかな?

 

 そうなったら最後、ラングセラン筋肉孤児院を開いて、父性の赴くままに振る舞っちゃうかも知れないんだからね。

 

 旦那様が可愛らしすぎるとおかしくなっちゃうから、本当に注意してほしいかな!

 

「ギュッてしていい?」

 

「い、いきなり何言ってるんだ、君は! ……まだ早いよ、もうちょっと待って欲しい」

 

 どうにも、旦那様はまだ授乳の準備ができてない系の赤ちゃんみたいだった。それもそれで可愛いと思うから、全然いいと思うけどね!

 

「こほん、話が変な方向に飛んでるから戻すけど、君の噂についてだよ」

 

「僕の……僕がお嬢様すぎるお父様だという、そういう噂のことだったっけ?」

 

「無色透明な君のお父さんが、夜間に徘徊する生徒を締め殺しているって噂!」

 

「そうだった!」

 

 根も葉もない噂だよ、どこが出所なのかな、全く!

 

「本当に意味が分からなすぎるんだけど、旦那様は何が原因だと思う? やっぱり、筋肉を持たない人がお父様の脳筋っぷりを妬んでの犯行なのかな?」

 

 噂の出所がこの線だとしたら、恐らくは筋力が足りてない20代から30代、もしくは40代から50代の男性、または女性の犯行だと思うんだけど。

 

 どう思う? と旦那様に問いかけると、何でか深々ため息吐かれちゃった。

 

 ……僕の灰色な脳筋肉細胞の出した推論に、何か言いたいことがあるってことなのかな?

 

「旦那様、何でそんな残念な生き物を見る顔で僕を見てるの?」

 

 まるで、お兄様の頭を巣を作ろうとした、ラングセランクソバカ大鳩をお母様が見るような、そんな目を旦那様はしていた。

 

 僕、旦那様の頭に巣なんて作ってないんだけど!

 

 そんな抗議の眼差しを向けると、旦那様はあのさ、とジト目気味に話し始めた。何が原因で噂が流れ始めたのか、そのことについて。

 

「──魔法実習の時の、君のあのパフォーマンスが原因だよ」

 

「ふぇ?」

 

「君のが形成した、あの水でできたお父上。あの筋肉が強烈すぎて、夜中に悪夢として見る生徒が現れたんだ」

 

「何で!?」

 

 あんなに格好良くて、素敵な筋肉で悪夢を?

 何かの間違いとか、そういうことはないのかな?

 

「君のお父上、見た目が結構強烈だからね……。その悪夢でうなされた生徒が、首を絞められてるみたいな呻き声を出すから、そんな噂が流れ始めたんだ」

 

 ……お父様が筋肉の化身すぎるから、夢にまでお父様が出張筋肉サービスに来ちゃうってこと? それで筋肉PTSDになる人が出て、みんなに恐れられちゃってるのかな。

 

 ……でも、そうだとしても、お父様は悪い筋肉じゃないもん! 善玉筋だもん!!

 

「き、筋肉差別は禁止だよ!」

 

「これ、差別なの?」

 

「知らないけどさ!!」

 

 勝手に生き霊みたいな扱いで怪談と化したお父様は、あまりに哀れな生き物だった。本人が聞いたら、しゅんと筋肉に塗れた身体を縮こませて落ち込むこと請負できる。

 

 時代はまだ、もしかするとお父様に追いついてないのかも知れない。いつか、大筋肉時代が来た時、お父様が再評価される。もう、その時を待つしかないのかも知れなかった。

 

「……まぁ、君のお父上なら、きっと素敵な人だと思うから。噂については、そのうち消える、と思うよ」

 

「…………本当?」

 

「うん」

 

 けど、筋肉が評価されない時代でも、旦那様はお父様を素敵だって思ってくれていた。

 

 ありがとう、旦那様。

 僕、ちょっと胸が温かくなったよ!

 

「えへへ、旦那様が実家に来てくれたら、大筋肉団子祭り開催するからね!」

 

「得体がしれないお祭りすぎる……」

 

「別名で謝肉祭らしいよ!」

 

「何で普通に謝肉祭じゃないの?」

 

「それはね、旦那様……」

 

 僕は伝え聞いたことのある、そんな言い伝えを旦那様へと話した。ラングセランの、ちょっとした逸話を。

 

 

 謝肉祭、神様に感謝を捧げるお祭りの日。

 この日は、ラングセランでも大切な日で、精一杯の感謝を伝えるために焚き火をみんなで囲んで踊り狂うしきたりがあった。

 

 神様への奉納、筋肉盆踊りでそれを行ってたんだって。

 ラングセラン騎士団のみんなで筋肉の躍動を神様に伝えていたら、通り掛かった教会の人に、邪教の儀式と勘違いされた、らしい。

 

 その後、教会からの指導が入ったけど、何故か指導に来た司教様たちも筋肉盆踊りに参加するようになってしまい、何もかも諦めた協会から、せめて謝肉祭という名称を改めて欲しいとのお達しがあったそうな。

 

 結果、ラングセラン領の謝肉祭は、大筋肉団子祭りへと呼ばれるようになったんだって! めでたしめでたし、だね?

 

「そういうことなんだよ、旦那様」

 

「……聞けば聞くほど、君の家のことが分からなくなるよ」

 

「大丈夫だよ、お母様も住めば都って言ってるし!」

 

「魔族の都って言われたら、確かに」

 

「筋肉の都だよ!」

 

 みんなもおいでよ、ラングセラン。

 お肉が美味しい筋肉見放題、あとは巨大な動物が跋扈してる。

 

 そんな、牧歌的で平和な領地なんだよ!

 

「……相変わらず、無茶苦茶だなぁ」

 

 呆れてるみたいな口調で、でも楽しげな旦那様はラングセランに十分染まる素質があり有りだった。

 

 旦那様がラングセランに来た時、盛大にお祭りしないとだね?

 

「話、これで終わりでいい?」

 

「うん、ありがとう!」

 

 旦那様は、ちょっとお疲れ気味だった。

 顔色も、普段と比べるとまだ白い感じ。

 

 ……病み上がりのところで、少し無理させちゃってたかな?

 

「旦那様、寮までお姫様抱っこで送ろっか?」

 

「晒し者になるよ、それ。……一人で歩いて帰れるから」

 

「えっとね、なら一緒に──」

 

 帰ろっかと言おうとしたところで、旦那様は小さく首を振って。

 

「これは、さ。半分くらい独り言と思って聞き流して欲しいんだけど」

 

 唐突に、そう切り出した。

 ……な、何かな?

 

「──カトリーヌ、僕って言ってる時の笑顔、えっと、その……か、可愛いと思うよっ」

 

「………………で、ですわ?」

 

 頭が、旦那様が今なんて言ったのか、すぐに処理してくれない。ただ、今の言葉のある一冊の部分だけ、妙に脳内でリフレインする。

 

 "えっと、その……か、可愛いと思うよっ"

 

「そ、それだけ! ごめん、流石に照れてるし、先に帰る!!」

 

 呆然としている間に、旦那様は機敏に踵を返して、屋上を後にした。

 

 その場に残された僕は、ずっと脳内にさっきの旦那様の言葉が繰り返し響いてる。

 

 "えっと、その……か、可愛いと思うよっ"

 

 ……かわいい。

 ワタクシじゃなくて、僕が?

 

 えっ、僕が可愛い!?

 旦那様、そう言ったの!?

 

「で、ででででっ」

 

 ど、どうしていきなり、そんなこと言っちゃうのかな、旦那様は!

 

「ですわぁーーーーーーーっ!!」

 

 お陰で、頭がさっきの言葉でいっぱいになって、なんか変になりそうだよ!

 

「ですわーーーーーーーーーっっ!!!!」

 

 お陰で、無限にですわが止まらなくなっちゃった。

 僕の脳筋、パニック状態だよ!!

 

 旦那様、一体全体、どう責任とってくれるのかな!!!

 

 

 

 

 

「……あの、カトリーヌ様? もしかして今、お取り込み中ですか?」

 

「ですわっ!?」

 

 ですわの遠吠えの最中、唐突に声を掛けられた。

 びっくりして振り返ると、そこにはゆるふわ金髪美少女の、ほにゃっとした雰囲気の子が立っていて。

 

「ど、どなたですの!?」

 

 慌てて問い糺すと、その子はきょとんとした顔をして。

 

「お久しぶりです、カトリーヌ様。リア・ルロワです」

 

 名前を聞いて、ふと夕暮れが頭によぎった。

 彼女の金髪が、夕暮れに焼かれている姿。

 焦燥してる時に、道標をくれた優しい人。

 

 ……あっ、確か旦那様を探してた時に、居場所教えてくれた子だ!

 

「そ、その節はお世話になりましたわ」

 

 慌てて頭を下げると、彼女、リアさんは不思議そうに"んー?"と唸って。

 

「カトリーヌ様、もっと楽に喋ってくださっても良いんですよ?」

 

「ほぇ?」

 

 今度は、僕が首を傾げる番だった。

 楽にって、どういうこと?

 

 二人で見つめ合いながら、揃って首を傾げあって。

 

「どういうことですわ?」

 

 分からないので、素直を尋ねてみた。

 すると、リアさんは"そう、ですね"と呟いてから、にっこりと笑顔を浮かべて。

 

「──僕って言ってましたよね、カトリーヌ様」

 

「ですわぁ!?」

 

 なんか、僕の弱みをバチクソ握っていた。

 

 待ってよっ、何でそれリアさんが知ってるの!?

 さっきの旦那様との会話、聞いてたのっ!

 

「ど、どこでそれを……」

 

「最初にお会いした時、そうでしたよ」

 

 ラングセランの令嬢ともあろう者が、白昼堂々僕って名乗ってたの? マジで? ホントに?

 

「……う、嘘でしょ?」

 

「いえ、本当ですよ。あっ、一つ付け加えておくなら──」

 

 リアさんは、ギュッとその両手を握って。

 

「私、マルク様と仲良しなんです! だから、カトリーヌ様のこと、たくさん聞いてます!」

 

 そんなことを、カミングアウトしてきたのだった。

 

 

 ……え?

 

 あの気難しい旦那様の、お友達?

 僕より先に、学校で友達、作ってたってこと?

 

 ……んん?

 あれ、あれれ?

 

 そう言えば、このお顔……。

 今日のお昼休み、屋上から見たような?

 

 具体的には、旦那様のお隣歩いてた、様な?

 

「で、でででっ」

 

「カトリーヌ様?」

 

 リアさんの、ふわっとした雰囲気に包まれそうになりながら、それでも耐えられずに僕は叫んだ。

 

「ですのーーーーーっっ!!!!!!」

 

 この子が旦那様の浮気相手なの!?

 も、もしかして、僕に旦那様と離縁しろとか、そういう要求しにきたってこと!?

 

 こんなに可愛くてふわっとしてて、とっても美少女な子がそんなことを!?

 

 ど、どどと、どうしよう!

 本当に僕、どうすれば良いのかな……っ。

 

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