ワタクシがメス堕ちなんてする訳ないですの!   作:ペンギン3

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明けましておめでとうございます。
皆様、良いお正月をお過ごしくださいまし。


第三話 他界他界

 ……友達が、できませんの。

 うふ、うふふ、うふふふふ……。

 

 

 

 遂にワタクシも学園でびゅー!

 おにゅーの制服を身に纏って、新しい鞄に教科書を詰め込みましたわ。

 

 ……鞄の重さが足りませんわね、辞書でも入れようかしら?

 

 そんなこんなで、古代語の辞書を2冊ほど詰め込み、私はウキウキ初登校を致しましたの!

 

 前世では友達全然居ませんでしたし、今世は100人作るんですわ! 旦那様とのことも大事ですけど、ワタクシの青春のことも大切ですの。

 

 ……前世の僕は、青春がなかったし。

 でも、だからこそ、今世は明るく前向きに!

 楽しいこといっぱいで埋め尽くそう!!

 

 そんな虹色に輝く未来を作りあげたくて、ワタクシは教室の扉を開けました。

 ワタクシの伝説が、今から始まるのですわぁ!

 

「おはようございますですわ!」

 

 綺麗ににっこり、七福神の恵比寿さまみたいな徳の高い笑顔を浮かべて挨拶をしたのです。

 

 そんなワタクシに、教室にいた皆さまは、ヒソヒソと小声でお話をなされました。

 

 

 ヒソヒソ

 

「ねぇ、あの方が?」

 

「えぇ、ラングセラン家のカトリーヌ様ですわ」

 

「……話すと頭が悪くなるって、本当かしら?」

 

「分かりませんが、サボテンと同じ知能レベルらしいですわ」

 

「サボテンに知能レベルとかありましたの!?」

 

 

 ヒソヒソ

 

「野蛮人の登場だな」

 

「だが、見た目は可愛いじゃないか。……噂は、何かの間違いでは?」

 

「いいや、入学式の時に見ただろう。軽々と枯れ枝マルクを運んで行ったのを」

 

「それはそうだが……」

 

「見た目に騙されるな、俺は見たんだ」

 

「何を?」

 

「リンゴを握り潰して、その果汁を飲んでいるところを……」

 

「リンゴを!?」

 

「あぁ、それも片手でだ」

 

「か、怪力……」

 

「そうだ。幾らあの女の頭が悪いとはいえ、騙して誑しても、常に一族の繁栄を願う純粋なる意志棒が握り潰される可能性もある」

 

「常に一族の繁栄を願う純粋なる意志棒が!?」

 

「あぁ、恐ろしい女だよ」

 

 

 ヒソヒソ

 

「あの人、何かしちゃったのかな?」

 

「わかんないけど、貴族の方々曰く危ない人なんだって」

 

「危ないって、何が?」

 

「えっとね、聞いた話とかだと、あの人の領地のお祭りで人間砲弾大会があるんだって」

 

「人間砲弾大会!?」

 

「うん、何でも筋肉降下猟兵団って兵隊さん達が居て、その人達を上空にぶん投げて奇襲する部隊らしいんだけどさ」

 

「ごめん、何言ってるのか微塵もわかんない」

 

「私も分からないんだけどね、その人達を空高くぶん投げて飛距離を競うお祭りがあるんだって」

 

「えぇ……」

 

「それにあの人が参加して、体重300kgの巨漢を1km先まで投げ飛ばしたらしいよ」

 

「色々とおかしくないかな!?」

 

「おかしいけど、本当のことらしい」

 

「つまり、あの人の機嫌を損ねたら、ってこと?」

 

「そう……私たちも、空を舞うことになるかもしれない」

 

「こわっ、近づかないでおこ」

 

 

 ……おかしいですわね。

 

 ワタクシの脳内筋肉絵図では、ここで拍手喝采が起こって皆さんからチヤホヤされる予定だったのですが?

 

 なのに、誰も近付くどころか挨拶すらしてくださいませんの。

 

 ……皆さん、恥ずかしがり屋の照れ屋さんなのかしら?

 

 仕方なく、ワタクシはそのまま席に着席いたしました。だって、もう一度大きな声でおはようって言うなんて、気にされなかったのが悔しくてやってるみたいで、何だか恥ずかしかったのですもの。

 

 代わりに、隣の席の方には、とびっきりの笑顔でご挨拶ですわ!

 

「おはようございますですわぁ」

 

「お、おはようございますですぅ」

 

 隣の席にいたのは、ほわほわした女の子でした。

 

 ショートボブのブラウンの髪に、ちまっとした体躯。私と旦那さまの中間くらいの身長、装飾品は高価なものでないので恐らくは平民の方。そして顔には、捕食される小動物みたいな血の気の引いた表情。

 

 総じて可愛らしい女の子でしたの。

 

 ……あれ、何かおかしくありませんこと?

 

「どうしたのですの?」

 

「ピェ、何でもないですぅ」

 

 ワタクシを見つめる目が、どうしてか涙で潤んでいましたの。まるで、格上の相手を前にして、自分が死ぬんだと確信しているラングセラン大猪みたいに。

 

 ワタクシ、猛獣と同じ扱いされてますの!?

 

 ……落ち着きなさい、ワタクシ。

 この方は、何かを誤解しているだけですわ。

 根が小動物なのですわよね、きっと。

 

「コワクナイデスワヨー」

 

 ですので、森のクマさんに話しかけるように、優しく語りかけましたの。

 

 そんなに怯えたお顔をしなくても、ワタクシはあなたの熊の手を食べたりしませんことよー。

 

「……ホントウデスカ?」

 

「ホントデスノ、ワタクシウソツケナイデスワ」

 

 彼女も優しさに満ちた片言になりつつ、ワタクシ達はコミュニケーションを成立させましたの。

 

「ホントウニ、コワイヒトジャナイデスカ?」

 

「ホントホント」

 

 ワタクシの応答に、この子の空気がちょっとだけ和らぎましたの。

 

 話せば分かる、至言ですわね!

 

「ジャア、スデデリンゴ、ニギリツブセルッテウワサハ?」

 

「ホントホント」

 

「……キンニクマツリデ、ヒトヲナゲトバシタッテウワサハ?」

 

「ホントホント」

 

「…………サボテンヨリ、アタマガワルイッテウワサハ?」

 

「ホントホント」

 

 そうして、友好を深める会話をしていった結果、どうしてかこの子はプルプルと震えていましたの。

 

 ……なぜ?

 

「コワクナイデスワヨー」

 

「ピェ」

 

 再度の交流をしようとしましたが、涙目で距離を取られました。

 

 ……何がいけなかったのですわ?

 

「ちょっとお待ちくださいましねー」

 

「ヒャイ」

 

 鞄から、友達ワザップの今月号(王立出版)を取り出す。そのまま、ペラペラと目当ての記事を探して。

 

 えっと、確かこの辺りに……ありましたわ!

 

 仲良くなりたい子とラブラブになれる、ナデポ的方法論──これですわね!

 

 記事の内容は……ふむふむ、なるほどっ。

 

 分かりましたわ!

 

「ちょっと失礼いたしますわねー」

 

「ピギィ」

 

 友達ワザップ曰く、頭皮には友達になりたい欲が沈澱されているらしいですの。

 

 なので適度に頭皮をマッサージ……つまりはナデナデをすることで、頭の友達中枢が刺激され、ドバドバと友達ホルモンが巡るらしいのです。

 

 つまり、このままナデナデをしている内に、いつの間にかお友達になっているって寸法ですわ!

 

 この記事、恋愛ワザップにも似た様なことが書いてあった気がするのですが……。

 

 友情と恋は、紙一重ということかしら?

 

 

 ヒソヒソ

 

「あれ、何してるの?」

 

「うーん、頭の掴み具合を確かめてるのかな?」

 

「ハッ、まさか……あの子が、次の人間砲弾大会のタマなの!?」

 

 

 ヒソヒソ

 

「おい、ヤベェって。あのゴリラ女、同級生の頭を握り潰そうとしてるぞ」

 

「え、こわ」

 

「止めてこいよ」

 

「嫌に決まってる、被害者が俺に変わるだけじゃないか」

 

「……確かに」

 

 

 ヒソヒソ

 

「まぁ、カトリーヌ様、あれは何をなされてるので?」

 

「暴行……ではない様ですわね。撫でているのかしら?」

 

「あの平民、されるがままになっていますわね」

 

「……なるほど、理解いたしましたわ」

 

「何をですの?」

 

「あれは服従の儀。あなたの命は私の手の中にある、そういうことを伝えるナデナデです」

 

「つまりあの平民は今、カトリーヌ様に生殺与奪を握られているという真実を刷り込まれているのですの!?」

 

「そうに違いありませんわ。だって見なさい、あの平民の白目を」

 

「泡も吹いています……間違い、無いのですわね」

 

「えぇ、これは私達への見せしめでもあるのでしょう。カトリーヌ様に逆らったら最後、どうなるのかという」

 

「なんて恐ろしい……」

 

 

 それ以降、この子はワタクシを見る度に震え上がる様になってしまいましたの。しかも、クラスの皆さんも目を合してくださいません。

 

 どうしてこうなったのでしょうね?

 

 さようなら、ワタクシのバラ色青春学生生活。

 こんにちは、ぼっちで薄幸のお嬢様なワタクシ。

 

 

 

 ……僕、何も悪いことしてないのにっ。

 何もしてないのに壊れた、壊れちゃったっ、人間関係がっ!

 

 


 

 

「そう言うわけで旦那さま、ワタクシは一体どうすればいいのですわ!?」

 

「いきなり寮の部屋に押し掛けて来て、唐突に人生相談を始めないで。来ないでって言ったよね。あと、僕は旦那さまじゃ無い」

 

 そんな悪態をついていますが、旦那さまはワタクシを見て部屋に上げてくれた張本人ですの。

 イヤよイヤよも好きなうち、ですわね!

 

 旦那さまは、もしかするとツンデレ様なのかもしれませんわ。

 

「あっ、勿論タダではありませんわ。良い茶葉を持って来ましたの」

 

「違う、そうじゃない。話を聞いて欲しければ何か寄越せ、なんて言ってないんだ。純粋に来ないでほしい、この部屋に」

 

「物じゃなくて、ワタクシの身体が目当てですの? 旦那さま、えっちですわ!」

 

「キレそう」

 

 靭帯がブチ切れ掛けているのか、旦那さまは身体をプルプルとさせております、お労しや……。

 

 

「どうぞですの」

 

「居座られた……」

 

 薬缶を放火し、出来たお茶を旦那さまに差し出す。それを、微妙な顔をしながらも、旦那さまは受け取ってくれましたの。

 

 受け取ったからには、もう逃げられませんわ。

 これでようやく、本題に入れますわね!

 

「そもそも、なんで僕に話を持ってくるんだ。明らかに不適格だと思う」

 

「旦那さま以外、ワタクシの姿を見ると逃げられるからですわ」

 

「えぇ……」

 

 完全筋肉論破されて、旦那さまは黙り込んでしまいました。

 

 ふふ、ふふふ。

 泣けて来ますわね。

 

 

 

「そう言うわけで旦那さま、ワタクシは一体どうすればいいのですわ!?」

 

「そこからやり直すんだ……」

 

「大事なことですわ!」

 

 そうかな、とボヤきつつも旦那さまは完全に聞いてくれる体勢ですから、やっぱりツンデレさんで間違いありませんの。

 

「……つまり君は、隣の席の子を泡を吹いて気絶させた挙句、それを怖がったクラスメイトが友達になってくれないって悩んでいるんだね」

 

「かねがね語弊がありますが、誠にその通りでございますわ」

 

 語弊しか生んで無いのは君じゃないかな、なんてチクチク呟きつつ、旦那さまは上唇の辺りに指を当てて考えてから。

 

「……そもそもなんだけどさ、友達って必要かな」

 

「何をおっしゃりますのですわ!?」

 

 とんでもないことを口にしていた。

 そんなの、聞くまでも無いことじゃんか!

 

「ワタクシ、年々寂しがり屋が加速してますの。このままでは、老後でも無いのに孤独死してしまいますわっ!」

 

「実家に帰れば?」

 

「ワタクシが魔法学院を退学なんてしたら、ラングセランのおバカさ伝説に更に磨きが掛かってしまいますのよっ!」

 

 そう、ワタクシのプライド的にも、ラングセランの風評的にもそんなことはできないのです。

 

 つまり、孤独死を迎える前に友達を作らなければならないのです!

 

「それとも、旦那さまが24時間構い倒してくれますの?」

 

「絶対いやだ」

 

「……そこまで嫌がられると、ちょっと傷付きますわ」

 

 そして、会話は交わしてくれてても、旦那さまは辛辣なままだった。

 

 ……ワタクシ、優しくされればされるほど付け上がりますから、もっと優しくしてほしいですわ。

 

 けど、そんなワタクシに、旦那さまはむっつりとした表情をして。改めて、分かったよねと告げました。

 

「しょんぼりしてもダメだよ。……言ったよね、僕と婚約なんてやめた方がいいって。病弱以前に、僕の性格は悪いんだ」

 

 露悪的な物言い、愛想を尽かして欲しいって、そんな気持ちが伝わって来ます。けど、ワタクシは当然首を振りました。

 

 そうじゃないって、分かっているから。

 

「それは嘘です」

 

 だってワタクシの家の噂を聞いても、嘘だと断じて信じなかったですもの。……噂については、全部本当のことなんですけれど。

 

「旦那さまは優しくて、なのに人を信じられなくて困っているだけです」

 

「……会ったばかりの人に、そんなこと言われるのは素直にムカつく」

 

 けど、知ったか振りをするワタクシに、旦那さまは機嫌を損ねてしまったみたいで。

 

「……帰って、あと二度と来ないで」

 

 露骨に、不機嫌な顔を隠そうとしていなかった。

 

 

 ……どうしよ、ちょっとだけ図々しすぎたかな?

 お説教、僕もされるの嫌いだし、旦那さまの気持ちも分かる。

 

 多分、凄くイラっとしてる。

 上から目線で求めてもないのにペラペラ喋られるの、あんまりいい気分じゃないよね。

 

 僕も昔、家族に対してそう思っていた。

 だから家族とよく衝突して、困らせたっけ。

 

 ……仲良くしたいのに、対人経験が少なすぎて空回りしちゃってるや。

 

 昔、お父様やお母様は、そんな僕にどうしてくれてたっけ?

 えっと、確か……。

 

「旦那さま、少し失礼いたしますわ」

 

「え、あ、いきなり何を!?」

 

 旦那さまをお姫様抱っこする。

 昔、お父様やお母様、あとお兄様がやってくれたみたいに。

 

「ま、窓枠に足を掛けて何を……まさか!?」

 

「絶対に落としませんから、安心してくださいましね?」

 

 そのまま、窓を開けて3階から飛び降りる。

 重力に従って、そのまま地面へと落ちていって。

 

「うわぁーーーーっ!?」

 

「風が気持ちいいですわね、旦那さま!」

 

 そのまま、僕は二本の足で着地した。

 着地の衝撃は、ラングセラン流筋肉着地により受け流されて全くない。筋肉は万能だからできることだった。

 

「し、しぬっ、おバカ!」

 

「旦那さまは死にません、ワタクシが死なせませんわ」

 

「君が死の淵に追いやったくせに、偉そうにいうなっ!!」

 

 死んでない旦那さまは、元気いっぱいに抗議をしてくれる。

 

 そんな旦那さまに、僕は微笑んで。

 

「──まだ、ですわ」

 

「……は?」

 

「まだまだ、楽しんで欲しいのですの」

 

 意味を掴みかねている旦那さまを、僕は他界他界した。

 

 

 昔、僕が拗ねている時に、家族のみんながやってくれた──筋肉による、紐なしバンジージャンプを。

 

「ひゃーーーーっ!?」

 

 旦那さまは、女の子みたいな声をあげて、空へと打ち上げられていた。

 

 分かるよ、これされると意味わかんない上に怖くて頭バグるよね?

 

「ひぃーーーんっ!!!」

 

 そうして、ちょっとして落ちて来た旦那さまを、ラングセラン式筋肉キャッチで受け止める。衝撃の全てを僕が肩代わりして、旦那さまへのダメージは全くない。

 

「旦那さま、どうでしたか?」

 

「僕を殺す気なのか、君は!?」

 

「……旦那さまの生殺与奪を私が握る、つまりは死ぬ時まで添い遂げてくださるということですか?」

 

「自己中心性の塊なのかっ」

 

 プルプルと僕の腕の中で震えながら抗議する旦那さまは、とてもか弱く儚い生き物だった。まるで、僕がいないと生きていけないかもしれないって、そう思うくらいに。

 

 ──護ってあげなきゃ。

 

 こんなにプルプルしてる旦那さまは、ラングセランオオヒグマみたいにか弱い生物なんだから。

 

「大丈夫です、旦那さま。怖いものから、みんなワタクシがお守りいたしますわ」

 

「僕は今、君が一番怖くてたまらないよ……」

 

 そんな憎まれ口を叩いてくる旦那さまだけど、さっきの怒っていますという雰囲気は全部霧散している。

 

 ……良かった。

 仲直り、できたんだよね。

 

「寂しいのが紛れましたわ。ありがとうございます、旦那さま」

 

「君の寂しさを凌ぐために、僕はあんな目に遭わされたのか……」

 

「いいえ、仲直りするためですの」

 

「むしろ拗れた、余計に溝が深まったよ」

 

 

 そうして、僕は旦那様をお姫様抱っこしながらお部屋に戻った。旦那さまは身を捩りながらも、結局はされるがままで。

 

 すっかり、僕の失敗を許してくれていた。

 

 そう考えると、これは仲直りデートだったのかもしれないね?

 

 

 でも、デートに気を取られて、旦那さまに相談した友達が微塵もできない問題の方は、全く解決していなかった。これは仕方ない、旦那さまの方が優先だったから。

 

 けれど、そのデートを目撃した人が、僕が旦那さまをバーベル代わりにし、筋トレをしているという噂を流したせいで余計に人が寄ってこなくなった。

 

 酷い、どこをどう見たらそう見えるのっ。

 100%の風評被害だよ!

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