ワタクシがメス堕ちなんてする訳ないですの!   作:ペンギン3

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第五話 道草食べ放題

「おはようございますですわーっ!」

 

 今日も今日とて、ワタクシは教室で元気に挨拶しますの。いつもお返事は帰ってきませんが、いつかはおはようって返してもらえると信じてっ!

 

「ご、ご機嫌ようですわ、カトリーヌ様」

 

 ……え、ステファニーさん?

 い、今、僕に挨拶してくれたの!?

 

「カトリーヌ様、ご機嫌麗しゅうです」

 

 い、イザベラさんも挨拶を返してくれてるっ。

 

「おっ、おっ、おっっ!」

 

「……オットセイ、ですの?」

 

「鳴き真似、ですか?」

 

 キョトンとしている二人に、僕は駆け寄っていた。

 なんか、すっごく嬉しくて!

 

「おはようございますですわぁっ!!!」

 

「わぁ!?」

 

「きゃっ!」

 

 そのまま、二人に抱きついていた。

 僕の腕の中で二人ともアワアワしてるけど、そんなこと関係なくギュッとしたままにする。

 

 勿論、二人の背骨を粉砕しないよう、旦那さまを抱きしめるみたいにしながら。

 

「えへへ、挨拶してくれて、とっても嬉しいのですわぁ!」

 

 二人とも、抵抗しても無駄って分かったのか、すぐに力が抜いて。

 

「か、カトリーヌ様」

 

「……やっぱり、怖いお方ではなかったのですね」

 

 そんな呟きが、何だか嬉しい。

 誤解されるのが寂しくて、一人ぼっちが辛かったから。

 

「お二人とも、これからよろしくお願いしますわね!」

 

 

 

 

 ひそひそ

 

「ステファニー様にイザベラ様、すっかりカトリーヌ様の取り巻きになってるね……」

 

「けど、お二人とも嫌がってないかな」

 

「昨日あんなことがあったし……」

 

「そうだね、あれで二人を庇ったのはカトリーヌ様だけだったよね」

 

「そうだけど……でも、恐怖でお漏らしさせたのもカトリーヌ様だったじゃん」

 

「うん」

 

「それってさ、自作自演でお二人を洗脳したんじゃ?」

 

「どうだろうね。それでも他人のおしっこを物理的にも比喩的にも被るようなこと、できるかな?」

 

「……私、カトリーヌ様が分からないよぉ」

 

「しばらく様子見だねー」

 

 

 

 ひそひそ

 

「なぁ、昨日のあれってどう言う意味だと思う?」

 

「……恐らく、我々の忠誠心を試しているんだろう」

 

「忠誠心?」

 

「自分が漏らした、などと自身の悪評を振り撒いていた者を庇う意味がない。恐らく、あれは口実で試されているのは俺たちの方だ」

 

「……ちゃんと口を噤んでられるかってことか」

 

「その通りだ、バカは喋らずには居られないだろうが……」

 

「その時は、あいつらみたいに公開処刑されるって訳ね。……おっかねぇ」

 

「あぁ、ラングセランきっての麒麟児だろうな、彼女は」

 

「ラングセランが全員クソバカって嘘だったんだな……」

 

 

 この調子で誤解を解いていって、ワタクシは友達100人作っちゃうのですわぁ!

 

 そういう訳で、まずはお隣の席の彼女からですの!!

 

「コワクナイデスワヨー、おっはようですの!」

 

 ウキウキ気分で、とびっきりの笑顔で挨拶する。

 

「ピィ」

 

 すると、彼女は泡を吹いて気絶してしまいました。

 

 ……先は長いですわね。

 

 

 

 

 

 ワタクシはステファニーさんとイザベラさんという、頼りになるクラスメイトを手に入れ無敵になりましたの!

 

 ……友達って言うには、まだ挨拶を交わせる中になっただけですものね。

 でも、いつかはお二人とそんな中にもなりたいものですわね!

 

 そして、そのお二人はというと……。

 

 

「カトリーヌ様は決して悪い人ではないのですわ! ちょっと手が滑って、リンゴを握りつぶしてしまうくらいでして」

 

「ヤベー奴じゃん」

 

 早速、精力的に動き始めてくれていました。

 

「あの方こそは力はあれど大人しい、噂に聞く森の賢者の様なお方なのです」

 

「……それ、人間ではなくゴリラではなくて?」

 

 

 一生懸命、広まっているワタクシの払拭して回ってくれたのです。

 それが嬉しくて、ワタクシも一緒に行動しようとしたのですが……。

 

「カトリーヌ様、全て私たちにお任せください!」

 

「その、カトリーヌ様は徳があまりに深すぎて、相手が御威光に屈してお話ができなくなりますので……」

 

 悲しいことに、二人から戦力外通告を受けてしまっていた。

 お陰で、今のワタクシは二人を顎で使う悪役令嬢みたいになってるのですわ。

 

 ……違いますからね、旦那さま?

 ワタクシ、本当に学校を牛耳ろうとしている、悪の不良令嬢ではありませんからねっ。

 

 

 

 

 

「旦那さま、旦那さま〜! 居られないのですか? あなたのカティが参りましたわよ〜」

 

 放課後、ワタクシは旦那さまに今日のことを自慢しようと思い、寮のお部屋にお邪魔しておりましたの。

 

 けど、戸を破壊しないようにノックしても、旦那さまは扉を開けてくださいません。

 

 もしかして、まだ戻られていない?

 いつも学校が終わり次第、爆速帰宅している旦那さまが?

 

 ……珍しいですわね。

 

「旦那さま、一応尋ねますが居留守ではありませんですわよねー?」

 

 扉に耳を引っ付けてお部屋の気配を探りますが、筋肉ひとつ動いておりません。本当に居ないみたい、旦那さまったらヤギのお友達でも出来たのかしら。

 

 ……ワタクシより旦那さまの方が早くお友達を作れたとか、そんなの嘘ですわよね?

 

 

 

 それから、お部屋の前で1時間。

 通り掛かった小型ゴーレムを鉄アレイ代わりに筋トレをしていたのですが、旦那さまは一向に帰って来ず。

 

 これが、夫の帰りを待つ妻の気分なのでしょうか?

 などという妄言はともかく、とにかく旦那さまは未だに帰られません。

 

 ……まさか、何処かで倒れていたりするのでしょうか? 旦那さま、身体が強くありませんし十分にあり得ます。

 

 ふ、不安になってまいりましたわっ!

 

「釈放ですわ」

 

 上げ下げしていた小型ゴーレムを解放すると、ゴーレムとは思えない素早さでその場を後にしました。身軽なのが小型ゴーレムの利点なのですわね。

 

 さ、これで旦那さまを探しに行けます。

 早く見つけて、無事を確認いたしませんと!

 

 

 

 そうして、ワタクシは旦那さまを探す一匹の犬となりましたの。

 

 旦那さまの通り掛かりそうな場所を探し、旦那さまの淡いにおいを頼りに徘徊する。今のワタクシ、まるで軍用犬ですわね?

 

「旦那さま〜、悪いヤギか羊のお友達とは縁を切って、お部屋に帰りますわよ〜」

 

 全く、何処で道草食べているのですわ?

 草なんて食べたら、旦那さまのよわよわ胃袋だとお腹壊しますわよ!

 

 ……それとも、本当に倒れちゃって、偶々草が口に入ってしまったパターンですの? 土と草の味を、その口いっぱいに頬張ってしまっているですの!?

 

 頭の中に、道端で突っ伏してゲロゲロと草を食べては戻している、青ざめた旦那さまの姿が想像できた。

 

 

『うぅ、カトリーヌ、今までごめん。素直になれなかったけど、本当は僕、君のことが……ウッ、この草イヌホオズキ──ゲロゲロゲロ』

 

 

 だ、ダメだよ、そんなのっ。

 旦那さま、このままだと死んじゃう!

 雑草とおゲロに塗れて、旦那さまが非業の死を遂げちゃうっ!

 

 は、早く見つけてあげないと!

 

「旦那さま〜っ、カティが、カトリーヌがお迎えにあがりましたですわよ〜!」

 

 通学路、草むら、校舎。

 順番に巡りながら、声を上げ続ける。

 旦那さまが倒れてそうな場所を探して回る。

 

 けど、旦那さまは見つからない、返事もない。

 まるで、そんな人はいないと言わんばかりに。

 

「旦那さま、本当に何処なの。僕、心配だよ……」

 

 久しぶりに口調が崩れた。

 内心だけじゃなくて、口から弱音が漏れ出てしまう。

 

 

 旦那さま、僕の婚約者。

 身体が弱くて、家族によく思われてなくて、素直じゃない男の子。

 

 文通したら生意気さんって感じて、実際に会うとほっとけないって思えて、嫌がりながらも僕に付き合ってくれてる優しい子。

 

 その子が今、すごく倒れて苦しんでいたらと考えると、胸が冷えて仕方ない。

 

 この学院で、最初から偏見なく付き合い続けて来れたのは、旦那さまただ一人だけだから。その人が大変かもと思うと、ずっと落ち着かなくて仕方ない。

 

 

 時刻はもう夕暮れ、もう直ぐ辺りが暗くなる時間帯。このままだと、旦那さまを見つけるのがもっと困難になる。

 

 どうしよう。

 僕、どうすれば良いの?

 

 

「あっ、あの!」

 

 ソワソワが止まらなくて、苦しくなりそうな時、誰かの声が聞こえた。

 

「カトリーヌ様、よ、よろしいでしょうか!」

 

 俯いてしまっていた顔を上げると、夕暮れにゆるふわの金髪を焼かれている女の子が一人、僕に話しかけていて。

 

「私、マルク様の居場所、知ってます!」

 

「本当!?」

 

 慌ててその子に駆け寄ると、コクコクと頷き返される。

 

「どこに旦那様いるのっ」

 

「演習場の方です!」

 

 演習場、魔法実習が行われる場所。

 そこに旦那様がいる、道端で倒れてるわけじゃない。

 

 ……迎えに、行かなきゃ。

 

「ありがとう、えっと……」

 

「リア・ルロワです」

 

「リアさん、ありがとうございます!」

 

 彼女にお礼を言って、バタバタと演習場に向かって走り始めた。

 

 人目を気にせず、一目散に。曲がり角とかそういった場所も、跳躍ショートカットしてひとっ飛び。

 

 離れにある演習場へ、僕は直線で突っ切り1分で駆け込んでいた。

 

 

 

「旦那さまっ!」

 

「え?」

 

 人気のない演習場の中で、旦那さまは一人立っていた。

 キョトンと、飛び込んできた僕を見て目を丸くしている。

 

「ごめんね!」

 

「えっ?」

 

 そんな旦那さまの肢体を、ペタペタと触る。

 

 怪我はしてない、顔色も何時くらいの色白さ。

 体調も悪くなさげで、至って平常運行の旦那さまだ。

 

 よ、よかったぁ~っ。

 

「大丈夫、だよね?」

 

「急にどうしたんだ、君は」

 

 旦那さまは、良く分からないって顔をしていた。

 

 ……僕が勝手に心配してただけだからね、別にいいし。

 旦那さまは何も悪くないしね、うん。

 

 でも、それはそれとして、旦那さまの頬っぺをツンツンしてやりたくなる。

 

「……何?」

 

 不機嫌そうな旦那さまの声、あんまり機嫌良くないのかな?

 演習場に居たってことは、魔法の練習をしていたんだよね。

 

 ……邪魔、しちゃったのかな?

 

 ちょっと罪悪感、ごめんね旦那さま。

 で、でも、そんな旦那さまにだって、僕は負けないよ!

 

「べ、別にっ、旦那さまが心配で飛んできて、無事で安心したけど素っ気ない態度を取られたのを恨んでの行動じゃないんだからね!」

 

「全部言ってる……」

 

「あっ、しまった!?」

 

 慌てて口を抑えても、吐いてしまった言葉は飲み込めない。

 

 どうしよ、僕の思ってたこと全部、つい言っちゃった。

 旦那さまの頬っぺ、ツンツンしたら誤魔化せないかな?

 

「旦那さまの頬っぺ、ツンツンしてもいいかな?」

 

「意味分かんないこと言わないでって、ちょっ!?」

 

 問答無用、誤魔化すにはもうこうするしか無くなっていたから。

 ツンツン、ツンツンって、旦那さまの頬っぺを突いた。

 

 ……思ってた通り、ペラペラの薄い頬っぺただ。

 もうちょっとお肉、付けられると良いんだけど。

 

「な、何してるのっ」

 

「ツンツンだよ」

 

「なんでっ」

 

「旦那さまのツンツンを、僕のツンツンでツンデレにしようと思って」

 

 それに頬肉を鍛えれば、もうちょっとぷにぷにの頬っぺになるかもしれないし。

 

「……君、いま僕って言った?」

 

「あっ」

 

 けど、そんな頬トレの野望も、すぐに潰えてしまった。

 とっても重要なことを、指摘されてしまったから。

 

 ……待って、いま僕って言っちゃってた!?

 

「ちちっ、違いますわ! ワテクシって言ってましたモノ!!」

 

「君の一人称、ワテクシだったことなんて一度も無いよね?」

 

「ワタクシーッ!」

 

「そもそも、話し方だって何時もと違ってたし」

 

「ですわーっ!」

 

 鬱陶しがっていた旦那さまの瞳が、今はこちらを注目していた。

 

 じーっと、僕……違う違う、ワタクシ、ワタクシですわ!

 ワタクシの方へと向けて、旦那さまが見つめて来ますの。

 

 まるで、ワタクシが本当にワタクシか探るみたいに。

 

「……そのエセお嬢様言葉、偽物だったの?」

 

「エセってなんですのっ。ワタクシはラングセラン伯爵令嬢が一人、カトリーヌですわよーっ! 貴方もラングセランにして差し上げますのっ」

 

「いらない」

 

「酷いですわっ!」

 

 ワタクシは華麗な受け答えをしているのに、旦那さまは胡乱なおめめをしたままでした。まるで、女の子だと思っていた人が、男の娘だった真実を目の当たりにした時の様に。

 

 ワタクシ、ちゃんと女の子でしてよ!

 ……それとも、やっぱりTSしてるとダメなのかな?

 

「わ、ワタクシが女の子っぽくないから、ですの?」

 

「君は女の子がどうこう以前に、色々と愉快すぎるところがね」

 

「……おもしれー女ってことですわ?」

 

「おかしい女の子ってことだよ」

 

 露骨にため息を吐かれました。

 うーん、可笑しいだなんて、やっぱりおもしれーの同義語じゃなくて?

 

「と、とにかくっ! ワタクシはワタクシであって、僕でもワタクセでもないのですの!」

 

「……もういいや、別に興味なんてないし」

 

 ほら、出口はあっちと旦那さまは指さして、帰ることを促されました。自分はまだ、ここに残るというみたいに。

 

 ……助かりますが、それはそれとして寂しいですわね?

 

「旦那さまは、こちらに?」

 

「そう、僕は……魔法を使いこなせてないからね」

 

 ほろ苦い顔を浮かべてから、旦那さまは背を向けた。

 

 そうだった。そういえば、もう直ぐ魔法実習があるんだ。

 実家で魔法なんて、学ぶ余裕はなかっただろうし。

 

 旦那さま、大丈夫かな?

 

「……帰らないの?」

 

「一緒にいたいんですの」

 

「見られたくないんだけど」

 

「では、目を瞑っていますわ」

 

「……物好き」

 

 

 結局、旦那さまはクタクタになるまで演習場に居た。

 顔も青くなっていたから、帰りは僕が背負って帰った。

 

 そっか、旦那さま、魔法の試験を不安がってたんだ。

 僕も何か、お手伝いできることってないかなぁ。

 

 また何か、考えておかないとね。

 

 

 

「ところで旦那さま、ここにいると教えてくれた方がいらしたんですが」

 

「……あぁ、ルロワなんだ。余計なこと、言ったのは」

 

「お知り合いですの?」

 

「クラスメイト、珍しく僕に構ってくる」

 

「ほへー、旦那さま、モテ期ですの?」

 

「……僕と君よりかは、お似合いかもね」

 

 んん、どゆいみ?

 

「ワタクシとリアさんの方が、お似合いってことですの?」

 

「……そう言うところだよ」

 

 おんぶされてる旦那さまの囁きが、吐息が、耳に当たってこそばゆい。

 

 けど、そんな感触が嫌じゃなくて。

 僕も、気分よくそれに頷いた。

 

「ワタクシも、聡い自分が好きですわ」

 

「……やっぱり、僕と君は真逆だ」

 

「破れ鍋に綴じ蓋ですわ〜」

 

 旦那さまは丁度良い重りで、寮に帰ったら程よく疲れてぐっすりと眠ることができた。

 

 うーん、毎日旦那さまを背負って帰るのってアリなのかな?

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