ワタクシがメス堕ちなんてする訳ないですの!   作:ペンギン3

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第八話 魔法実習

 ワタクシは今、結婚する前から離婚の危機に見舞われておりました。

 どうしてこんなことに……。

 

「露骨に何故って顔しないで。自分の行いをさ、振り返ってみれば良いんじゃないかな?」

 

 ワタクシの、行い?

 一体何が……。

 

 少し考えると、昨日旦那さまに言われたことが脳裏によぎりました。

 

 

『素っ気なくしてるのに、ずっと付き纏ってくる。婚約破棄しようとか酷い提案をしてるのに、全然気にしない。勝手に部屋に押し入っては世話を焼くし、それでいて常に挙動もおかしい。凄くおバカだし、何かにつけて筋肉にこじつけようとする。しかも、鳴き声がですわ』

 

 ……そういうこと、ですの?

 

「ワタクシの鳴き声がですわだからっ、なのですわ!?」

 

「確かに、それもちょっと変」

 

「ですわ!?」

 

「けど、語尾より性格がもっと変」

 

「ですの!?」

 

 旦那さまは容赦なく、ワタクシのことをめったくそに言ってきやがりましたの。

 

 ワタクシの性格が、変?

 こんなにも、清楚であろうと日々努力しているワタクシが?

 

 ……そんなの、ありえないことですのっ!

 

「ワタクシのどこが変と仰りますの! ワタクシの心も身体も、清らかな乙女ですわ!」

 

「僕が具合悪い時、お姫様抱っこして登校するところ」

 

「そ、そんなの誰だって致しますわ!」

 

「女の子が男子を抱きかかえてるのはおかしいよ。何でお姫様抱っこって名前がついてるのか、少し考えたらわかるよね?」

 

「……っ、お姫様が抱っこするからですわ!」

 

「うちの国でそんなにムキムキなお姫様、今までにいた?」

 

 クッ、やりますわね旦那さま。

 現代日本なら、ポリコレ違反で吊し上げられる言説ですのにっ。

 

「で、でもっ、旦那さまもそれで助かってますでしょう?」

 

「恥ずかしいけど、ね。……いつもありがとう」

 

「どう致しまして、ですわ!」

 

 ……あれ、何でワタクシ褒められてますの?

 

「旦那さま旦那さま、ワタクシのウザさを魔法に置換してるのですわよね?」

 

「うん」

 

 うんじゃないですが?

 

「てっきり、ちくちく言葉でワタクシの心の筋肉を破壊しに来ると思っていましたの」

 

 そう、思ってたことを伝えると、旦那さまはスッと視線を逸らしまた。そうしてから、ボソリと呟いたのです。

 

「ウザいし変だけど……別に嫌とは言ってない」

 

「っ」

 

 ……きゅんってなった。

 父性、刺激されちゃった。

 

 旦那さまの横顔、ちょっと赤くなってる。

 これ、結構勇気出して、照れながら言ってくれたんだ。

 

 なんか胸がいっぱいになりそう。

 このままだとキュンキュンしすぎて、鍛えてないのに胸筋が発達して巨乳令嬢になっちゃうよ!

 

「えへへー、旦那さまったらお上手ですわね? ワタクシ、旦那さまに口説かれちゃいましたわぁ!」

 

「……そうやって、すぐ調子に乗るところはアレだけど」

 

「ですわ?」

 

 アレとは一体……?

 ワタクシが愛おしくて、堪らなくなるという意味なのでしょうか?

 

 旦那さまったら、ワタクシのことが好きすぎて困ってしまいますわね!

 

「よく分かりませんが、嬉しいのですわーっ!」

 

「……まぁ、それも君らしさなのかな」

 

 何だかんだ、ワタクシ旦那さまと上手くやっていけそうですの!

 

 

 ひそひそ

 

「俺たちは一体、何を見せつけられているんだ?」

 

「……猛獣とその飼い主の戯れ、か?」

 

「あのラングセランが、よもやあそこまで従順になるとは……マルクは一体、どうやったんだ?」

 

「……常に一族の繁栄を願う純粋なる意志棒を使ったとでもいうのか?」

 

「な、何だと、常に一族の繁栄を願う純粋なる意志棒をか!? ラングセランに抜刀挿入するなど、猛獣の口に手を突っ込むようなものじゃないか!?」

 

「だが、そうとしか考えられん。見てみろ、奴の顔を」

 

「あ、甘えてる仔犬みたいな顔、してやがる……マジか?」

 

「恐らく、な。この僕の推測によれば、だが」

 

「……大した奴だよ、マルクめ」

 

「フッ、これからは枯れ枝マルクではなく、肉棒マルクとでも呼ぶべきかな」

 

 

 ひそひそ

 

「カトリーヌさま、すごく嬉しそうなお顔をなされておりますわね」

 

「ステファニーさん、もしかして私たちは勘違いしてたのかも?」

 

「イザベラさん、勘違いとは?」

 

「……カトリーヌ様とマルク様、お二人は余り者同士の結婚などではなく、実は両思いでの婚約だったのでは?」

 

「じゅ、純愛婚約ということですの!?」

 

「こ、声を下げてくださいステファニーさん! あまり騒ぎ立てると、お二人のお邪魔になってしまいます」

 

「……ふぅ、失礼致しましたわ。興奮のあまり、端ないことを致しましたわ」

 

「でも、その気持ちはわかります〜」

 

「甘酸っぱいですわ〜」

 

 

 ひそひそ

 

「ねぇ、本当にあの二人……シてないの?」

 

「た、ぶん?」

 

「でも、あのカトリーヌ様が、あんなに従順で飼い慣らされてるってさ……やっぱり、マルク様にエッチなことで屈服させられちゃったんじゃないかな?」

 

「それは多分、エリーが読んでる小説の中だけの話だと思う」

 

「わっ、私、そんなの読んでないんですけど!」

 

「テンション高い、やっぱりエッチな話好きなんだね」

 

「違うよ!?」

 

「でも、カトリーヌ様がマルク様に手篭めにされちゃった説、提唱してるよね?」

 

「だって、それは……。カトリーヌ様、マルク様とあんなに仲良く話してるから……」

 

「そうだね、それは事実」

 

「……何でだと、思う?」

 

「うーん」

 

「どきどき」

 

「……カトリーヌ様が、普通に恋する乙女だから、とか?」

 

「私と変わんない結論だよ、それ!」

 

「違うよ。私はカトリーヌ様とマルク様が、イヤらしく仲を深々と埋めた、なんて思ってないから」

 

「ち、違うしっ! 私だって、ラブラブなんだって言いたかっただけだしっ!」

 

 

 気が付けば、周りのみんながワタクシたちをチラチラしながらざわめいていましたの。

 

 ……そっと、旦那さまを背に隠します。

 もしかすると、旦那さまの健気な可愛さに、全人類が気付こうとしているのかもしれませんでしたので。

 

「何してるの?」

 

「旦那さま、ご安心くださいまし。如何な女性やホモからも、ワタクシがお守りして差し上げますわ!」

 

「頭、大丈夫?」

 

「石よりも硬いと定評がありますわ!」

 

「中身の話をしてるんだよ」

 

「筋肉ですわ!」

 

「……そうだろうね」

 

 ワタクシは無敵だからどうかご安心くださいまし、とお伝えいたしますと、旦那さまはジトーっとした目に変わっておりました。

 

 心の父に対する反抗期ですの?

 

「旦那さま、実はお乳はお父の暗喩で、お父様からもおっぱいが──」

 

「お前たち、静かにしろ」

 

 ワタクシの父性を証明をし、婚約者はお父さん属性だということを知ってもらおうとしたところで、いつの間にかローブに身を包んだ先生が現れていましたの。

 

 ……もぅ、良いところだったのに。

 

 

 

「全員揃っているな。ではこれより、魔法実習を開始する」

 

 先生の宣言に、みんな背筋を伸ばしました。

 今回は点数に含まれないとはいえ、これからみんなの前で自らの魔法を披露することになるのです。恥を掻きたくない、上手にやりたいと思うのも分かりますわ。

 

 旦那さまも、身を固くしておられます。

 ワタクシで勃起できないですのに、緊張で身体は簡単にカチンコチンにできるのですわね?

 

 カチンコチンに一文字足せば、それは既に勃起ですのに……。勃起する恋愛は、不純だと思われているってことでしようか?

 

「大丈夫ですわ、旦那さま。ワタクシへの想いがあれば、全て解決いたしますの!」

 

「……君は全然、こんな時にも変わらないね」

 

「鍛えた筋肉は1日にして萎えず、ですわ!」

 

 でも、ちょっと放置すると直ぐに萎え萎えになるのですから、筋肉って構ってさんのメンヘラですわね?

 

「……うん、ありがとう。お陰で、君にデコピンしたくなったよ」

 

「ふふ、旦那さま、デコピンでは脳の筋肉は鍛えられないのですわよ?」

 

 ジト目のまま、旦那さまは感謝を述べて下さりました。ツンデレさんと分かっているから、そんな仕草をしていても可愛らしいですわね?

 

「私語は慎むように」

 

 旦那さまが何かを言いかけたところで、先生にギロリと一睨みされました。

 

 そんな先生を前に、ワタクシは笑顔で素知らぬ顔を決め込むと、さも最初から口がなかったかのような態度を取りましたの。

 

 不満顔の旦那さまから、軽くデコピンされたのはご愛嬌ですわね?

 

 

「では、今回の魔法実習の課題を発表する」

 

 先生の宣言に、ゴクリと誰かが喉を鳴らした音が響きましたの。

 

 一体、どんな課題を出されるのでしょうか?

 一撃で山を穿てとか言われたら、ワタクシか弱くて無理ですわ〜。

 

「最初の実習ということもある。基礎の基礎から、熟してもらうとしよう」

 

 そう言うと、先生は演習場の真ん中に立ち、小さく詠唱しました。

 

 詠唱は、自己暗示で頭の中のイメージを強化するのに必要なものですわ。お母様とかよく、"旦那さまの上腕二頭筋〜"と詠唱しながら、魔力をオリハルコンに置換されていましたの。

 

 お父様は、全身合金人間だったのかもしれませんわね?

 

「見ろ」

 

 先生の手のひらには、炎が炎が揺らめいていました。そしてその炎は、ゆっくりと形を持って──鳥へと姿を変えて、空へと飛んでいったのですわ。

 

 ほわぁ、お器用ですわね!

 

「基礎の魔法とはいえ、応用ができるものだ。お前たちには、魔力を変換した後に発生したエネルギーを更に加工してもらう。不格好でも問題はない、各々やってみせろ」

 

 ……なるほど、要するに魔力を使っての粘土遊びみたいなもの。ふふ、結構楽しそうな遊びですわね!

 

「先生、ワタクシ一番初めにやってみたいですわ!」

 

「自ら志願するとはな。ではラングセラン、やってもらおうか」

 

 何だかワクワクしたので、いの一番に挙手してワタクシは演習場の中央に躍り出ましたの。

 

 周りのみんなは、ワタクシと視線が合った人がそっと目を逸らしていきますけど、それでもチラチラとは見てくれているのですわ!

 

 

 フフ、フフフッ、フフフフフ!

 遂にこの時が来ましたのですわね!

 

 ワタクシの悲願、"天才魔法使いとしてみんなに尊敬されて友達100人できるかな? 拍手喝采ありがとう! 旦那さまの赤い薔薇、喜んでお受け取りしますわ! 計画"を発動する時が!

 

 ワタクシ、皆さんからドン引きされる日々から、おさらばですわぁ!

 

「ラングセラン、キモい笑みを浮かべてないで始めろ」

 

「筋肉大菩薩の微笑みですわ!」

 

 先生から唐突な罵倒を投げつけられつつ、ワタクシは己の魔力を右手に掻き集めて、手を前に突き出しましたの。

 

 そうして、集まった魔力を水へと変換しました。

 手のひらから水が溢れ出して、世界地図でも描けそうな勢いでこぼれ落ちていきます。

 

「これを、こうして……」

 

 そして、意識を集中させていきます。

 イメージするのは、常に最強の肉体ですの。

 

「筋肉、繊維、骨格──」

 

 筋肉を正しく配置するために、身体の基礎からイメージを固めて。ワタクシの手をひらには、水が段々と形作られていって。

 

「きんにく。ムキムキ。パワー。雄っぱい──」

 

 筋肉の詠唱、ワタクシがよく口ずさむ呪文を口にして。

 

 ──遂に、脳裏にあった肉体の形が伝播して、水が変化を完了させる。

 

 周りから、息を呑む声が聞こえた。

 その異様に、きっと驚いてくれているのですわ!

 

「……ラングセラン、これは?」

 

「お父様です」

 

 そう、いま目の前には、身長3m体重300kgのお父様──の形した水のモニュメントが顕現していたのですわ!

 

「これがか?」

 

「ムキムキですの」

 

「噂には聞いていたが、これ程とは……」

 

 ほぅ、と先生が感心したように息を漏らされました。

 

 お父様は、ひと目見たら忘れられない類の筋肉妖怪なのですから、本当に初めて見たのでしょうね!

 自慢のお父様ですの!!

 

 うふふ、これほどえげつない筋肉、他では皆さん見たことないに違いないですの! これならきっと、一番最初の優位もあって話題を独り占めですわ!

 

 さて、皆さんの反応を聞かねば!

 黄色い悲鳴、いっぱい上げてくださってもよろしいのですわよ?

 

 

 ひそひそ

 

「ヤバくないか、あれ?」

 

「ヤバいな、筋肉だるまじゃないか」

 

「頭を撫でられるだけで、首がモゲそうなモンスターじゃね?」

 

「道理で、化け物みたいな娘も産むわけだ」

 

「アレでも血は結構希釈されてたんだな、ラングセランのやつ……」

 

「ラングセランにしては頭が良いと思っていたよ。純粋なラングセランの者はああなるのだな……」

 

 

 ひそひそ

 

「ラングセラン伯、脱ぐとあんなに逞しかったのですわね……」

 

「み、見てください、ステファニーさん! ふ、腹筋が6つ以上に割れておりますわ!?」

 

「え、腹筋って6つ以上に割れるものなのですの?」

 

「分かりません……」

 

「雄々しすぎて、少し怖いですわね……」

 

 

 ひそひそ

 

「ね、ねぇ、あれカトリーヌ様のお父さんなの?」

 

「ラングセラン伯爵、お貴族様たちのお話だと、何でも人類最強の人なんだって」

 

「人類最強!? た、確かに、ドラゴンの首もへし折れそうだけど……」

 

「あとね、奥さんはカトリーヌ様と同じく150cmらしいよ?」

 

「エッ、それって……」

 

「お顔が真っ赤になってるけど、どうしたのかなエリー?」

 

「う、産めないっ、産めないよそれじゃあ!」

 

「カトリーヌ様含めて、2児のお母さんらしいね?」

 

「入っちゃったの!?」

 

「たぶんねー」

 

「じ、人体の神秘!」

 

 

 ざわざわって声がたくさん聞こえてきますが、おかしなことにワタクシを讃えたりする声は一つも漏れてきませんでしたの。

 

 ……おかしいですわね?

 

「皆、色々と言いたいことはあるだろうが、ラングセランは上手くやった。これを真似てもらっては俺の頭がおかしくなるが、この調子で自分の好きなものを形作っていってくれ」

 

 ……確かに、辺り一面を埋め尽くす水タイプのお父様を一望したら、ワタクシも頭がおかしくなる自信がありますわ。

 

 もしかしなくても、ワタクシ滑った扱いをされてますの?

 

 い、いいえ、あり得ませんわ!

 だって、お父様の筋肉ですもの。

 男の子なんか、目がキラキラになっているはずですもの。

 

 ね、旦那さま!

 ……何で目を逸らしましたの?

 

「では、希望者があれば順番にやってもらう。なければ、こちらが指定していくぞ。……ラングセラン、もう良い。伯には水の泡に戻ってもらえ」

 

「お父様、さようなら。声を奪われた、人魚姫みたいなお父様でしたわね」

 

 そうして、ワタクシはマッスルアピールをしていたお父様を、水へと戻してさよならしたのでした。

 

 ……作戦、失敗してしまいましたわ。

 ワオーン、ですの。

 

 やっぱり、本物のお父様じゃなきゃ、皆さん嫌だったということですわね。偽物で満足していたワタクシが、一番浅はかでしたわ。

 

 でも、お父様はお忙しいので、今度は等身大お父様ゴーレムをお披露目することにいたしますわ!

 

 ワタクシの"天才魔法使いとしてみんなに尊敬されて友達100人できるかな? 拍手喝采ありがとう! 旦那さまの赤い薔薇、喜んでお受け取りしますわ! 計画"は何度だって立ち上がるのです!!

 

 

 

 若干の失意の中でも、授業は進んでいきます。

 

 上手く形を変える人、出来ない人、変えてもなんか変な形になる人、色々な魔法の形を皆さん表現して。

 

 そうして、順番は巡って──旦那様の出番がやってきたのですわ。

 

 頑張って、旦那さま!

 僕、一生懸命応援してるから!

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