大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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新たな仲間の予兆

 ついに能力者解放戦線のアジトらしき地点を絞り込むことができた。北欧はノルウェーの北側、ノールノルゲのいずこかにあるとエージェントは調査報告をヴァールへと送ってきていたのだ。

 となれば一同は顔を見合わせうなずいた。リトアニアを発つ時が来たのだ……実に数ヶ月ぶりの、追撃の開始である。

 

 しかしその前に、とヴァールは付随して口を開いた。

 リトアニアからノルウェーにまで直行するのではなく、途中に寄るべき土地があると。

 

「おそらくはノルウェーにて決戦を行うことになるだろうが、その前に我々はスウェーデンへと向かい、もう一人仲間を迎え入れる。きっと能力者解放戦線との戦いにも大きな力となってくれるだろう、有望な探査者がいるのだ」

「へえ? そいつぁ一体どういうんですヴァールさん?」

「レベッカ、妹尾。お前達にも強ち無関係の人物とは言えないだろうな……何しろかの偉大なる戦士、星界拳のシェン・カーンの縁者なのだから」

「!! カーンさんの!?」

 

 告げられた言葉に、レベッカと妹尾は驚きのあまり立ち上がっていた。シェン・カーン、その名をここに来て聞くことになるとは!

 12年前の世界能力者大戦、および第一次モンスターハザードにおける戦友。そして同じくソフィアとヴァールから薫陶を授かりし、いわば二人にとっての兄弟子たる男だ。

 

 今では故郷の中国へ戻り、一族総出で我流拳法"星界拳"の里を興し後進の育成に精を出していると聞くが……その縁者もまた、第二次モンスターハザードたる今回の騒動に駆けつけていたのか。

 そのあたりの事情をほぼ聞いていない弟子世代のエリス、ラウラ、シモーネが目を丸くして首を傾げるのを尻目に、レベッカと妹尾は息を呑みながらもヴァールへと問うた。

 

「あ、あのカーンさんの縁者ってこたぁつまり、そいつも星界拳の使い手ってことなんですか、ヴァールさん!」

「そう聞いている。先んじて届いたカーンからの手紙にはこうあった──"自分の跡を継ぎ、ゆくゆくはシェンの里の二代目の長となる者。すなわち星界拳正統継承者である"と。今回はそのための修行がてら、身動きの取りづらいカーンに代わって我々に助太刀してくれているようだ」

「星界拳を継ぐ、二代目のシェン……! そのような御仁が、すでにスウェーデンで活動を」

「もう数か月前からスウェーデンにおけるスタンピードの数々を、現地探査者と連携しつつ単独行動で叩き潰しているとのことだ。名をラウエン。シェン・ラウエンと言うらしい。年は24歳、男だな」

 

 淡々と告げるヴァールに、今度こそ一同は驚きに目を見開いた。ここに至るまでにすでにスタンピード鎮圧を、単独行動しつつも成し遂げているというのだ、そのシェン・ラウエンなる男は。

 それが本当の話ならば相当な実力者だ。戦闘力に限って言うならばエリスやラウラはもちろん、シモーネやトマスでさえもゆうに超えているだろう。

 

 特に年齢的に同い年なシモーネは、そもそもシェン一族がなんなのかというところまで含めて複雑な疑問を抱かざるを得ない。

 堪りかねて彼女が挙手した。ヴァール、レベッカ、妹尾の師匠世代三人へと質問をぶつける。

 

「あ、あの! すみません、そのシェン一族ってなんなんですか!? そもそもそこからあんまり知らなくて、ごめんなさいっ!」

「む? ああ、すまない。肝心なところを抜かしていたか……エリスもラウラも知る由もなかろうな。トマスは知っているようだが」

「ええ、まあ。妹尾教授から聞かされてますしね。教授とレベッカさんともども、統括理事の弟子であり──我流拳法・星界拳を駆使して12年前には大活躍したっていう、当時最強クラスの能力者ってんでかなり有名だった御仁ですよね? 今じゃ一族ごと星界拳を鍛える里を興したって話ですが」

「その認識で間違いないよ、トマスくん。シモーネさん、エリスちゃんにラウラちゃんも。今の話の通りで私とウェインくんにとっては兄弟子にあたる探査者がカーンさんなんだ。そして話を聞くに、彼の後継者がそのラウエン氏ということになる」

「ソフィアさんと、ヴァールさんの三人目のお弟子さん……! 以前にも少しだけお聞きしたことはありましたが、そんな方が」

 

 昔日の縁──懐かしくも思い返すだに偉大な武術家、星界拳のシェン・カーンについて語る妹尾。

 元より話を聞いていたトマスはともかく、そのあたりについては小耳に挟む程度でしか知らないエリスやシモーネは、そんなとんでもない人物がいたのかと驚くしかない。

 

 レベッカや妹尾がすでに雲の上の人物だというのに、そんな二人をして偉大と言わしめるカーン。その後継者が今スウェーデンにいて、これからそれを迎えに行こうというのがヴァールの提案なのだ。

 今後待ち受ける難敵との戦いにおいて、この上なく頼もしい戦力増強だろう。懐疑的だったシモーネもなるほどとうなずき、そういうことならと納得していた。

 

「カーンさんの後継者ってんならその実力もうなずけるぜ、シモーネ。なんせ12年前にゃ間違いなく、あの人は私や教授より強かったんだ」

「そんな人がいたなんて……そ、それじゃあラウエンって人は、きっと私達よりもずっと強いかもしれないんですね」

「それぞれに長所短所があるため、一概に優劣を論ずることは憚られるけれどね。ただ一つ言えるのは、カーンさん譲りの星界拳を使うならば間違いなく近接戦闘においてはプロフェッショナルだということだよ」

「そのラウエンをこれより先、まずはスウェーデンへと迎えに行く。すでに話はつけてあるので、向こうもこちらを待ってくれているはずだ」

 

 ヴァール、レベッカ、妹尾。そしておそらくはソフィアもだろう、太鼓判を押すほどに有望らしいシェン・ラウエン。

 まだ見ぬ素晴らしい仲間をこれから迎えに行くことに、エリス達はもはや否やも疑念もなくその判断を指示することとなった。

 ノルウェーへの道のりの最中、スウェーデンへと向かうのである。

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