大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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聖女の覚悟

 ノルウェーはノールノルゲにおける決戦に向けて、まずはスウェーデンへ赴く。そしてそこで孤軍奮闘しているシェン・ラウエンと合流し、万全の体勢を整える。

 第二次モンスターハザード終結に向けての道のりがいよいよ明確に見えてきたことに、エリスはホッと息を吐いた。

 安堵の吐息だ。

 

 正直なところ、諸々の点で不安を覚え始めていたのが実情だったのだ……故郷を離れたことによるホームシックもあるが、それ以上にこの数ヶ月でパーティに加入した妹分、ラウラ・ホルンの行く末を気にかけるところが大きかったのだ。

 スタンピードで家族を失ってしまい、身寄りのなくなったこの少女を引き取った以上は可及的速やかにこの戦いを終わらせ、ともにフィンランドの故郷の村へと帰るべきだという想いが、日増しにエリスのなかで強くなっていたのである。

 

「なるべく早く、ラウラに新しい居場所を、帰る場所を用意しないと……」

「うむ。そのことはワタシも重々承知している。あともうひと踏ん張りだ、エリス。すべてが終わった暁には、お前もラウラもきっと必ず、在るべき日常へと帰してみせるさ」

「? エリスお姉様? ヴァールさん?」

 

 そうした想いは当然、師匠であるヴァールも共有している。むしろエリスのことさえ含め、彼女のほうがより強く戦乱終結を望んでいるほどだ。

 

 エリスをスカウトして数ヶ月、その間にも幾度とない戦闘経験を積むなかで、最初は有望ながら素人同然だった少女はメキメキとその実力を伸ばしていった。

 こと対人戦においては、時折ヴァールでさえ後手に回りかねないほどの技の冴えを見せるようになってきているのだ──探査者の強さとはレベルやスキルのみにあらず。そもそもの戦闘への素養も大きく関わる。

 

 そういう意味ではエリスは間違いなく天才だと言えた。探査者であるなしに関わらず、戦いそのものについて、この場の誰よりも最終的に行き着く地点は遠く、果てないとさえ感じられる。

 だが、それでもエリスはやはり、田舎の村娘なのだ。純朴で、健気で、そして平和と平穏と家族との日常を愛する。どこにでもいる少女でしかないのだ。

 

 そのことにも同時に気付き、ヴァールはひとつの結論に達していた──エリス・モリガナはやはり地元で平穏に、身の回りの範囲を護る探査者であってほしい、と。

 そこにラウラも加わるならば申し分ない。今回のモンスターハザードにおける被害者遺族である少女の精神的なケアや癒やしを、敬愛する姉とともに静かな村のなかで行ってもらえるならそれが最適解なのだと、そう思うようになったのだ。

 

 同じ想いはレベッカや妹尾、何よりソフィアとも共有している。エリスとラウラは平穏無事な幸せのなかに身を置いていてほしい、と。

 ゆえに、今この時ばかりはもう少しの辛抱として頑張りどころなのだ。能力者解放戦線を壊滅させるべく、まだしばらくはエリスやラウラの力を借りなければなるまい。

 

「頼むぞ、エリス。お前はもう新人でも素人でもない。我々と同等以上に肩を並べる、誰にとっても頼れる仲間であり友人だ。ともに第二次モンスターハザードを終結に導けるよう、その力を貸してくれ」

「ヴァールさん……もちろんです、任せてください。たとえ何があろうと、私はきっと最期までやり遂げてみせます」

 

 師弟よりは友情を強く感じさせる間柄。期せずしてWSO統括理事とそうしたやり取りをすることにも慣れてきたエリスが、力強くうなずいた。

 そこにあるのは果てしない使命感と信念、そして裏腹の──儚さ、覚悟。

 

 "最期までやり遂げてみせる"。その言葉の真意は、未だヴァールにさえ悟らせないままの少女が内心、つぶやく。

 リトアニアで戦い続けるなか、ふとそれは突然に去来した感覚だ。いつもの戦闘スタイル、《念動力》の極めて特殊な使用法であるエネルギーブレードを展開した際に、それはエリスを襲ったのだ。

 

 

(最近……《念動力》を使う度に、何か大切な、ひどく大事なものが失われていっているのを感じる。そしてそれを感じ始めた頃にはもう、手遅れなんだって確信も)

 

 

 恐怖。そして諦念。気づいた時にはもはや進行しすぎていて、手の施しようがなくなっていた悪性腫瘍のような、その感覚。

 《念動力》を、意図せずにでも異常な方法で使っていたことへのペナルティはたしかにあったのだ。

 

 身の丈に合わないほどの極めて強力なエネルギーブレードの正体は……他ならぬエリスの、きっと生命力とか魂そのものを贄として費やした結果のものだったのだろう。

 今はまだ表面化していないが、それもそろそろ怪しい予感がしている。

 

 きっと自分はもう、この戦いが終わっても永くは生きられない。

 年端もいかない少女が直面するにはあまりにも辛い実感としての余命を、けれどエリスは静かに、誰にも分からせないままに真正面から受け入れ受け止めていた。

 すべては自分が選んだ道だ。知らなかったとしても、気づけなかったとしても、それでも何もかもを自らの意思で決め、自らの意志で用いてきた力の末路だ。

 

 ならば受け止める──最期の最後まで、微塵も残さず己を使い切るまでこの道を貫こう。

 あまりにも強く、気高い志。その裏で迫る絶望と恐怖を呑み込んで、エリスはラウラの頭をただ撫で、静かに微笑むばかりだった。

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