大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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襲来、スタンピード

 スウェーデンへと渡り、シェン・ラウエンとの合流をひとまずの目的と定めたヴァール達だが、そのまえにリトアニアはじめバルト三国内に一点、やり残したことがある。

 火野源一──能力者解放戦線メンバーでありこの数ヶ月の間にも幾度となくスタンピードを引き起こしてきた男との、決着をつけなければならないのだ。

 

「さんざん好き放題モンスターを野放しにしてやがることもそうだし、エリスちゃんにカスみてぇなちょっかいかけてやがることもそうだ。あのゴミはとっくの昔に捨て置けるラインをぶっちぎってるんだし、そんなのを放ってスウェーデンにゃいけねえんですよね、私としても」

「私のことはともかくとして、スタンピードについてはレベッカさんの仰るとおりですヴァールさん。あの男が私達を足止めするためにスタンピードを引き起こしているならば、次に出会すその時こそが彼との決着をつけるべき時なのでしょう」

「うむ……」

「能力面でもそうだが人格面においても、火野という男はできる限り早く捕まえて無力化しなければならないのはたしかですね。やつによってもたらされた被害の大きさを思えばなおのこと」

 

 レベッカ、エリス両名による提案にヴァールや妹尾もうなずく。他のパーティメンバーもだ。

 あの快楽殺人鬼はもはや、一秒一刻とて放置しておけないというのは全員の共通認識としてあった。

 

 何しろすでに複数回、相見えてはその都度、モンスターを上手いように使われて逃げられてしまっている。

 一度エリス自身の手で重傷を負わせたこともあったが、結局逃げられた末にすっかり回復されてしまっていた。

 

 このままでは安心してスウェーデンに渡ることはできない。エリス達の足止めのためにリトアニアにいるというならば、火野とていつまでもこの地にいるわけでなく、ノルウェーへと向かうつもりをしているかもしれないという危惧もある……

 できるならばそうなる前に捕まえ、決戦における脅威を減らしておきたいという戦略的な思惑もあった。

 

「しかし火野を捕まえるにしても、こればかりは居所の掴みようがないからな。基本的にはスタンピードを引き起こすところにいる、可能性があるというくらいのあやふやな可能性でしかない。そこがネックだが──うん?」

「……誰か来ますね。ずいぶん焦ったような足音で、部屋に近づいてきました」

「襲撃ならばもう少し静かにするだろう。エージェントなりWSO職員か……あえて音を立てていることもありえるが」

 

 話の最中、聞こえてくる足音に耳を立てる。探査者として強化された聴覚が、明らかにわざと立てられている足音に気づいたのだ。

 経験上、こういうのはWSOのエージェントなり職員なりだ。忍び足でないことで敵意のない、襲撃でないことを示すように彼らは時と場合で振る舞いを切り替えている。

 

 何かあったのか。

 ついにノックが響く室内に、代表してヴァールが応えた。

 

「……誰だ? どうした?」

「WSOエージェント第15班長、ライルーズです! 打ち合わせ中に失礼します、統括理事! ビルニュス近郊にてスタンピード発生! ビルニュス近郊にてスタンピード発生!! ────能力者解放戦線メンバー、火野源一の姿も確認されています!」

「!! 噂をすれば影が差すか……すぐに向かう、状況を手短に!」

 

 やはりエージェントだったその男の声が告げるは、さっそくの戦乱。

 奇しくも火野の話をしていたまさにこの時、その当人が仕掛けてきているのだ。パーティメンバー全員に緊張が走り、そして即座に全員が立ち上がり戦闘態勢に入った。

 

 スタンピードそのものは不幸かつ許し難いが、ある意味では願ってもないタイミングだともヴァールの立場からは言えるだろう。火野源一をこの場にて捕らえてさえしまえば、後顧の憂いなくスウェーデンへと向かえるのだから。

 部屋を出、そこに待っていたエージェントを引き連れ宿を出る。その間にも状況説明を簡略的ながらも受けながらだ。

 

「モンスターの数は概ね100体! とりわけ巨大な蠍型が一体おり、現地の探査者とエージェントが対応しかねています!」

「蠍か、毒も警戒せねばならんな。それはこちらでも対応してみるが、火野源一の様子は?」

「10分前に受けた報告によれば、逃走する気配は未だ見られません! モンスターに襲われない位置取りをしつつ、こちらを観察している程度です!」

「妙ですね……スタンピードを引き起こすだけ引き起こして逃げるのがこれまでだったのに。私達はいつも追いかける側だったのが、今回ばかりは待つとでも?」

 

 困惑するエリス。いつもと同じスタンピードながら、首謀者である火野のペースがいつにも増してマイペースなことに意外さと不気味さを感じているのだ。

 追い縋らなければまともに戦うこともできないほどに、逃げの一手を打ち続けてきた火野源一。それがなぜ今回ばかりはその場に留まっているのか。

 その一点が彼女には不安で仕方ないものだった。

 

 しかし、それを受けてレベッカが豪快に笑い、エリスの背中をバシビシと叩いた。

 不敵な笑みを浮かべている。

 

「向こうももしかしたらもう、私らが連中の本拠地を突き止めたことを勘付いたかもしれねえぜエリスちゃん。こいつぁまたとねえチャンスと捉えるべきだ……今度こそあの野郎の息の根を半分止めて、とっ捕まえてやるためのってなぁ!!」

 

 気炎を吐くその姿に気負いなく、しかして油断なく。

 間違いなく彼女は今回のスタンピード戦にて火野を仕留めるつもりでいるのが、エリスにも理解できた……野生じみた本能で、ここが勝負どころだと感じたのだと。

 

 ならばこちらもそのつもりで動かなければなるまい。エリスのみならずヴァールやシモーネ、妹尾やトマスも釣られて意識をスタンピードの阻止から一段上げ、火野の確保へと切り替えるのだった。

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