大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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見えてくる戦地

 WSO統括理事ソフィア・チェーホワ率いる対能力者解放戦線部隊、出撃。

 トマスが運転する車に乗って、一同はモンスターが犇めくとされる近郊へと一気に進撃していた。非戦闘員たるラウラだけは宿にてエージェントとともに残し、一路スタンピードの現場へと向かったのである。

 

 モンスターの気配を察することのできるスキル《気配感知》。このスキルを持つ面々はすぐに敵の居所を探し出し、同時に顔色をより深刻なものにしていた──多すぎる。

 ここ数ヶ月にはなかった量だ。100体近いモンスターの存在が、そこにはいる。

 

「どうやら敵も本腰だな……大した数を用意してきてやがる。さながら12年前、エアーズロックでの決戦みてぇだぜ」

「第一次における最終決戦だな。ああ、たしかにこの大攻勢は彷彿とさせる。妹尾はあの時、敵に捕縛されていたから外の様子は知らないか?」

「お恥ずかしながら。しかしあの戦いと似ていると言うなら、私にとっては汚名返上の場にもなり得るでしょう。12年前の雪辱を、まずはこの戦いにて果たしましょうか」

 

 レベッカ、ヴァール、妹尾。12年前の第一次モンスターハザードの戦いを経験してきた者達がそれぞれWSOが調達したワゴン車のなかにて反応する。

 昔日、オーストラリアはエアーズロックにて当時の首謀組織・委員会と決死の戦いを挑んだことが思い出されたのだ。

 

 もっとも一人、妹尾だけは他二人と異なる。彼は当時、その戦いには敵側の捕虜として捕らえられていた身の上であり……そのきっかけとなった敵幹部ワルド・ギア・ ジルバに敗れた記憶も含め、苦い屈辱の記憶として色濃く残っている。

 ゆえに、その忌まわしい過去を払拭せんとして気炎を吐くのも無理からぬことだと、レベッカやヴァールも納得するのだった。

 

「ありゃー、教授も燃えてるねえ。こりゃ俺達弟子世代もうかうかしてたら、なんも役に立てないまま終わっちまいかねんぜシモーネ、エリスちゃん」

「そういうトマスもね……エリスはまあ、モンスター相手だとやっぱりまだまだだし? 無理しないほうが邪魔にならなくていいと思うけどさ」

「そう、ですね。けれど未熟なりに、自分にできることをしてお役に立ってみせます。みなさんと、そして何よりこの地に生きる人達のために……!」

「う……」

 

 一方でそんな年長者三人を見るのはトマス、シモーネ、エリスのいわゆる弟子世代だ。ハンドルを握りながらもからかうようにトマスが言えば、シモーネは唇を尖らせて言い返した。

 さりげなく、エリスへの隔意をも滲ませてである。対人戦ならばともかくモンスター相手の戦いでは未だ、シモーネのほうに実力的には軍配が上がる、それゆえのちょっとしたマウントを取る発言であった。

 

 しかしながらすでに意識は戦地のモンスターに、ひいてはそこで待ち受ける戦いに集中しているエリスがそうした皮肉に気づくことはない。

 ただ一心に、一秒でも早くこの地に平和を取り戻すために全身全霊を尽くすという気概ばかりをただ、言葉に乗せる。

 その姿に、不覚ながら探査者たる者の在るべき姿を見て──むしろシモーネのほうがやり込められた心地になり、小さく呻く羽目となっていた。

 

 そうした一連のやり取りを、当然トマスは横目にしていた。

 呆れも多分に含んだ吐息を漏らし、小さく、本当に小さな声でシモーネに忠告する。

 

「何してんだか、シモーネ……空回りも大概にしとかねえとお前さん、本当に大事なもんを落っことしちまうぜ?」

「っ……うっさいよ。アンタに何が分かるのさ。アンタだって、あの姿に魅了されてるんじゃないの……?」

「それが空回りってんだがね。まったく。誰と比較するもんじゃない、自分の値打ちは自分で決めるもんだぜ。悪いことは言わねえ、今ならまだ間に合うから頭冷やせよな」

「…………どうせ、私なんか」

 

 ──ニルギルド戦にて出会った頃からすでに、エリスに対して密やかなコンプレックスを抱えているのは見えていたが。それがここ最近ではよりひどく、強いものになっているシモーネにトマスはやれやれと吐息を漏らした。

 完全に彼女の独り相撲だ。誰もシモーネとエリスを比べてどちらが上かどちらが下かなどと話してもいないし、ましてやそのことで優劣や扱いの差をつけたりもしていない。

 当のシモーネ以外はだ。

 

 なんなら、もう片方のエリスに至っては何一つ知ることもないままにただ、ひたすら己の成すべき使命に向かって邁進している。

 こちらはこちらで意思が強すぎるため、それはそれで後々困ったことになりやしないかとトマスからすれば不安なのだが、それはそれとして直近の問題はやはりシモーネだ。

 

 厄介なことに彼女は師匠格への外面と擬態はやたら上手く、レベッカや妹尾はおろかヴァールやソフィアさえ誤魔化せている。

 そんなことに労力をかけるならいっそ、真正面から相談すれば良いのにとも思うのだが。やはりそれはシモーネ自身のプライドが許せないでいるらしい。

 

「せめて、この事件が解決するまでの間は揉めないでほしいんだがね……っと! 統括理事! 教授、レベッカさん! 見えてきました、モンスターの群れです!!」

 

 ぼやきもそこそこに、トマスも意識を戦闘モードに切り替える。走る道路の先、群れを成して蠢くモンスターが視認できたからだ。

 ここからはシモーネのことにも構ってはいられない。エリス同様、自分達もまた目の前の敵に集中しなくてはならない!

 その思いで叫べば、後部座席に座る面々からも戦意が吹き出るのだった。

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