大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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妹尾の側面

 間一髪の危機的状況。そこからレベッカを救い出したエリスと妹尾、トマスのトリプルコンビネーションは、同時に苛性ソーダ・スコーピオンにも痛打を与えていた。

 レベッカの大斬撃さえ通すことのなかった甲冑だが、その継ぎ目たる関節部はひどく脆弱だったのだ。

 

 そこを突いた妹尾のアッパーが、巨大モンスターを大きく宙に浮かせた。

 助け出されたレベッカにエリスとシモーネが駆け寄るなか、彼は彼女に滔々と語りかける。

 

「苛性ソーダ・スコーピオン──字面通り体内にて劇毒、苛性ソーダを生成して放出する極めて厄介なモンスター。さらには防御面でも硬質の甲冑を纏っている恐るべき蠍だね。かの名前を名付けた本人としても、なるべく二度と遭いたくなかった化物だよ」

「きょ、教授……! アンタがこいつを最初に発見したのかい! だから道理で、アホみてぇにド直球なネーミングだと思ったよ!!」

「シンプルでいいだろう? トマスくんにもいつも言っているけどね、モンスターなんてのはそもそもからして馬鹿馬鹿しい生物群なんだから、名前も馬鹿馬鹿しいくらいがちょうど良いんだよ」

 

 ニヤリと笑う妹尾。そこに宿るアイロニカルなインテリジェンスに、レベッカは呆れを露わにせずにはいられない。

 言わずもがな、彼は教授職に就いているのだがその専門分野こそはモンスター学、すなわちモンスターという未知にして極度に神秘的な謎に満ちた生物に対しての研究と学術化を目的とした学問の徒なのである。

 

 そんな妹尾には、その方面である特色があることで有名だった──フィールドワークを兼ねたダンジョン探査にて、新種のモンスターを見つける度に通常では考えられないほどに安直なネーミングをつけるのだ。

 モンスターへのネーミングライツは常に初発見者のものでありその当人が考え登録するものなのだが、妹尾のそれはあまりにユニークすぎることで有名になってしまっているのである。

 

 エリスが思わず苦笑いを溢した。彼女とラウラはスタンピードを対処する日々の合間、妹尾から基礎的な教養や勉強面での薫陶を受けている。

 そのなかで当然、彼のそうした"ユニークネーミング"な部分も聞き及んでいたのだ。

 

「なまけクマ、はつらつゴボウ、わっしょい半魚人……でしたか? なんとなくどういう様子のモンスターなのかは想像がつきやすいですけど、ユニークさはありますよね」

「苛性ソーダ・スコーピオンもそう言われるとアレだなあ、教授らしさがある名前だなあ……! で、でもですよレベッカさん、教授が名付けたってことはつまり、一度はアレを相手してしかも倒してるってことですよね!」

「だな……しかしあの甲冑の硬さは尋常じゃなかったってえのに、関節狙ったらやけに脆いってのか? ヴァールさんもさっき、鎖であっさり右の鋏をぶった斬っていたがよう」

 

 納得しつつ、シモーネやレベッカが妹尾に尋ねる。

 苛性ソーダ・スコーピオンの名付け親とも言える妹尾はつまり、過去に一度は同種のモンスターと相対して戦い、あまつさえ勝っていることになる。

 

 であるからこそ、今しがたのように容易く拳の一撃でダメージを与えられたのだろう……実際、彼は肯定してうなずき、そしてなおも続けてレクチャーしだした。

 曰く、苛性ソーダ・スコーピオンの弱点は関節部である、と。

 

「甲冑の防御力に比べ、関節部はまるで密度の低い骨さながらだ。軽く小突けばすぐに折れるし、掴んで裂けば無論、千切れる」

「つまり、狙うなら甲冑と甲冑の狭間……!」

「もっとも、できる限り鋏部分と尻尾の部分は避けたほうが良い。例の苛性ソーダはそれらの部分で生成されているようだからね。ほら、ヴァールさんの切断した跡からは今も苛性ソーダが溢れている」

「ほ、本当だ……っていうかなんか、独特な特徴してますねえ」

「だから、モンスターは面白いのさ……!」

 

 簡潔に、苛性ソーダ・スコーピオンの弱点と対処法をレクチャーする。慣れた様子の妹尾の背姿は、レベッカをして安心させるほどの風格がある。

 思えば12年前、まだ自分達が今のシモーネほどの年だった頃は妹尾はまだまだ未熟で、少なくとも戦闘面においてレベッカやヴァール、あるいはシェン・カーンを安堵させるほどのものはなかった。

 

 しかし、今はたしかな実力とそれに裏打ちされた自信に満ちあふれている。教授職の傍ら、探査者としての活動も精力的に行ってきた。最近では一線を退いていたものの、それでも常に鍛錬を続けているのだ。

 その姿に、レベッカやヴァールも軽く微笑む。今や立派な探査者となった妹尾は、呼びかけつつもトドメの一撃へと移行していた。

 

「ぎ──ち、ぎちちっ」

「さあヴァールさん、合わせてもらえますか!? 《拳闘術》、ストレートスティンガー・スコーピオン!!」

「任せろ──《鎖法》鉄鎖乱舞!!」

「ぎっ!?」

 

 まっすぐに放つストレート。ナックルダスターを装着してのそれは雷にも似た速度で、渾身の力を込めているがゆえに威力も絶大だ。

 さらにそこへ、ヴァールも相乗りしてコンビネーションを仕掛けた。《鎖法》の鎖を無数に解き放ち、苛性ソーダ・スコーピオンの身体を雁字搦めにして動きを封じたのである。

 

 繰り出されるストレートスティンガー。稲妻の一矢は迷いなく距離を突き抜け、躊躇いなく敵の鎧の隙間、関節部へと突き刺さる。

 

 決着だ──反応のなくなるモンスター。

 そして光の粒子が徐々に出始め、エリス達は勝利を収めたことを確認して顔を見合わせるのであった。

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