大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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レノ・エーノーン

 スタンピードを人為的に引き起こすことで、社会秩序を乱したいアーヴァイン率いる委員会の一部グループ。

 対する能力者同盟はソフィア・チェーホワを筆頭にシェン・カーン、レベッカ・ウェイン、妹尾万三郎らが対抗して事態解決にあたった。

 

 東でスタンピードが起きればカーンが豪脚を振るい、西でスタンピードが起きればレベッカが暴れ倒す。

 加えて定常的ではないものの妹尾やヴァールも頻度高く委員会捜索に力を入れており、能力者大戦の終結に向けて表社会が落ち着こうとする気配を見せる裏では、対委員会の流れが加速度的に増していた。

 

 1944年、四季のある地域ではそろそろ冬を迎える12月の頃合い。スペインはバルセロナ付近の森の中にて。

 スタンピード発生の現場をついに押さえたカーンとヴァールが、委員会側の能力者と戦闘状態に移行していた。

 これで何度目かにもなる、武力衝突である。

 

「星界龍拳ッ!! しょおおおぉっああああっ!!」

「《鎖法》! 鉄鎖乱舞──鉄鎖収束、一閃!!」

 

 ダンジョンから這い出たモンスターに対し、カーンが舞うように蹴りを浴びせ、ヴァールが放射状に放った鎖を豪胆に振るう。

 大ダンジョン時代開始10年が経過する当世にあっては、揃って人類最強にして最高クラスとも言えるだろう能力者二人の技とスキル。それらを食らってはひとたまりもなく、モンスター達はまとめて10匹以上、光の粒子となって消え去ることとなった。

 

 その様子を具に確認して、苦々しい思いでレノ・エーノーンはテンガロンハットの縁から覗く瞳を鋭く尖らせた。

 年明けに仲間であるハオ・メイリィともども敗走してから約3ヶ月……上手く見つからないように立ち回っていたつもりだったがものの見事に捕捉されてしまうとは。

 

 しかも今度はソフィア・チェーホワだけでなくシェン・カーンまでいると来た。

 星界拳なる我流武術を標榜し、世にも珍しい脚だけの攻撃でモンスターを薙ぎ倒す男の名は、出身国の中国のみならずヨーロッパ圏でも轟いている。

 

 同時に能力者同盟の主要幹部の一人として、レベッカや妹尾含めて三弟子とさえ噂されているほどにソフィアと親しい間柄でもあると言う。

 ただでさえソフィア一人でも手に負えないと言うのに、そこに加えてカーンまでもが敵として対峙している。あまりの状況に、エーノーンは止めなければならないと分かっていてもぼやかずにはいられなかった。

 

「チェーホワにシェン……! 参るぜ、こいつは。せめて片割れだけなら、なんとか数で押し切れたかもしれんのだがね!」

「レノ・エーノーン! とうとう見つけたぞ、大人しく投降しろ!! 貴様のやっていることは犯罪だ!!」

「上海ではまんまと逃がしたが、今回は逃さん……! ダンジョンから誘き出したモンスターもろとも、まとめて貴様らはここで止める!」

「さすがにこっちも、二度も逃げ切れるとは思ってないっての……ったく。せめて徹底抗戦かね、こいつは。やれるところまで、やってみようかってな!!」

 

 完全に押し切るつもりでいるカーンとヴァールの剣幕に、ボソリとつぶやきエーノーンはすべてを諦めた。

 いくらなんでもこの状況から、自分より明らかに格上を二人も相手取って逃げ切れるような手はない。せめてカーン一人であればモンスターに数を頼んで自分だけは逃げ切れたかも知れないが、そうなると今度はソフィアの存在がネックとなる。

 

 詰んだ。完全に。

 考えるまでもなくチェックメイトを迎えたエーノーンだが、それでも戦意闘志はいささかも衰えていない。

 否、むしろますます意気軒昂に燃え盛る。勝てはせずとも一矢報いようという、ある種のヒロイックさにさえ浸っていた。

 

 大柄なサバイバルナイフを二振り、両手に握って構える。

 エーノーンはここで、彼なりの最後の戦いに臨もうとしていた。

 

「さて、足掻かせてもらうぜチェーホワ、シェン……! どうにか腕の一本脚の一本でも折れれば、それだけでも俺の戦いに値打ちはあるわな!」

「できると思うな、愚物ッ!! 世にモンスターを解き放ち社会を乱す貴様らに、手足どころか毛髪一本とて差し出すことはないッ!!」

「逃げられないと悟り、それでもなお抗うか。それを愚かと断ずるほど、私は経験を積んではいないが……それでもあえてこう言わせてもらおう。その抵抗に価値はない」

「やってみなけりゃわからんさ! さあ、やろうかっ!!」

 

 もはや逃げられないのであらば、やるだけやってみるだけのこと。レノ・エーノーンはこのあたり、さっぱりした気質と言うべきか……とにかく何かしないではいられない性格の持ち主だ。

 刹那的、かつ享楽的な性質。委員会に入ったのも、能力者としての力をより面白く楽しい方向に使いたいと願い、進み続けた結果でしかない。

 

 だから今も、少しでも面白そうな方向へと進む。

 名高いシェン・カーンの星界拳とやら、そしてあのソフィア・チェーホワのまさかの戦いぶり。それらすべてをとくと拝ませてもらおうではないか!

 そう、ニヒルな笑みを浮かべて叫んだのだ。

 

「来ます、ヴァールさん!」

「迎え撃つ……! やるぞ、カーン!」

 

 対する二人、カーンとヴァールにも隙はない。

 それぞれ構え、駆け出したエーノーンに対応すべくその技を再び解き放った。

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