大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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イルベスタの力

 一方その頃──

 スウェーデン首都ストックホルム市街、大通りから少し離れた路地の薄暗いところにあるバーにて。

 能力者解放戦線メンバーイルベスタ・カーヴァーンはローブを纏い、顔の上半分をフードで覆い隠したままにスキルを使用していた。

 

「《念動力》。閣下の見た景色を、一瞬だけだが俺も見よう」

 

 己のスキルを発動する。瞬間、彼の視界は現世から離れていた。バーの片隅にてウイスキーのグラスを前にしていたのが、まったく異なる光景を映し出していたのだ。

 そこはストックホルムの市街地だ。しかしモンスターが跳梁跋扈して街を破壊し、人々を襲っている。

 

 そして現れる探査者達。以前に何度も相対した者達だ。そしてもう一人、見慣れないが見覚えのある顔も一人。

 揃ってこちらに相対している。翻ってイルベスタの隣にも一人、二刀流の男が一人。醜悪な笑みを浮かべている。

 

 ────そこまで"視"て、彼の意識は現世に戻った。

 変わらずバーの片隅。ウイスキーのグラスを前に、件の二刀流の男と向かい合っている。

 彼、火野源一はつまらなさそうな顔をして酒を呷った。

 

「どうだ、見えたのか? 愛しのオーヴァちゃんの妄想はよう」

「不快な殺人鬼が、メンバーだとて閣下の御名をみだりに口にすること許さぬぞ……ああ、見たとも。たしかに私は今しがた、あの御方の"世界"を受信した」

「そうかい。けっ……せっかく得たスキルを、よりによって能力者でさえねえ女の与太のために使い潰すやつなんざテメェくらいのもんだ。ニルギルドとは別の方向でオメーはイカれてるよ、カーヴァーン」

「私もニルギルドも、貴様にだけは言われたくないな火野源一」

 

 軽口、にしてはいささかお互いに刺しすぎる言葉を交わしながらもイルベスタもまた、ウイスキーを口に含む。アルコールの強い、芳醇な味と香りが口内にてまろやかにとろける。

 ふう、と一息吐く。たしかに今しがた、イルベスタ・カーヴァーンは自身の神たる能力者解放戦線首魁、オーヴァ・ビヨンドと接続していた。

 

 スキル《念動力》。

 本来物質を自在に動かす効果を持つスキルを、しかしイルベスタはオーヴァのためだけに捻じ曲げ、歪め、彼女専用の能力へと作り変えた。

 

 己の脳細胞、ニューロン、シナプス、電気信号。脳という未だ未解明部分の多い領域の、およそ考えられ得るすべての要素を彼はスキルにて無理矢理に弄くり回したのだ。

 そして彼はついに至った──"オーヴァ・ビヨンドの特殊能力を受信し、共有するチャンネル"へと。

 

 イルベスタの《念動力》は今や事実上、オーヴァの持つ超能力を極小範囲で再現するか、あるいは未来予知が彼女に示したヴィジョンを横から見るだけの能力と成り果てていた。

 それをもって彼は、己あるいはオーヴァが確定させた未来をここに至るまで利用し続けたのである。

 

 今しがた見た、モンスター蔓延るストックホルムの町の光景もオーヴァの見た未来。それもすでに確定された現実となるものだ。

 火野に説明しつつも、自分達の取るべき道を示す。

 

「閣下の未来は必ず実現する。であればモンスターはストックホルムを襲い、そのなかにソフィア・チェーホワ達は現れ、我々と対峙することは確定した。貴様にとっては朗報だろう、エリス・モリガナもたしかに見たぞ」

「へひゃは!? そいつぁ良い報せだ、当てずっぽうの気休めよりかは遥かに期待が持てる!! モリガナと、決戦の前にもう一回だけでもヤリあいてえと思っていたんだァ……! はぁ、あの眼差しにまた、逢える……!!」

「変態め。だがまあいい、なすべきことに気炎をあげるならば、その理由が何であれ私にはどうでもいいことだ」

 

 エリスの名前を出した瞬間、すぐにヴィジョンにもあった恍惚とした喜悦の表情、変態の顔をして笑う火野。

 端的に嫌悪感と忌避感を覚えるものの、イルベスタはそれらを無視して期待した──ソフィア達とまともに戦える解放戦線メンバーなど、ニルギルドが敗れた今ではもうイルベスタとこの男しかいないのだから。

 

 そう、解放戦線はすでに瓦解寸前だ。そもそもからしてそうも規模の大きい組織ではなく、だからこそ命懸けでダンジョンに潜り、自らを餌にしてモンスターを釣り上げる行為に勤しんでいたのだから。

 性質上、能力者こそ多かったがレベルも低く戦闘経験もろくにない連中ばかりがメンバーに多い。しかもその者達もすでにWSO側に大半が打倒され、逮捕されている。

 

 決戦に参加できるメンバーは、もはや残り少ない。さらに勝ちの目を拾えそうな者などもっての外だ。

 火野もそこは分かっていて、だからこそ決戦の前にもう一度だけでも戦いをしたがっていたのだ。焦がれ求めるエリスとの逢瀬、ひとときを楽しみたいために。

 

「決戦ともなれば、さすがに貴様も個人的執着では動けまい。付き合ってもらうぞ、ここまで来れば」

「わぁーってるよ、これでも雇われだちゃんとやるよ。決戦においてだけは、俺もしっかりオーヴァ・ビヨンドを護りオメーとタッグを組むよ」

「本当に頼むぞ……閣下の目的のため、どうしても貴様の力も要るのだ」

 

 やれやれと大袈裟なジェスチャーで応じる火野。それにうなずき、イルベスタは酒を飲んだ。

 決戦は近い。オーヴァの背負うものが、どうあれ白日の下に晒されることになるだろう。イルベスタにさえ言ってはくれない、"何かとてつもない邪悪"の片鱗のヴィジョンをも。

 

 そのためにも、もう一働きしなければ。

 ストックホルムに戦火が巻き起こるまで、残りわずかだ。

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