最高速度で道を走れば、みるみるうちに見えてくるストックホルム市街。そして感じられる、相当な数のモンスターの気配。
最近、修行のなかで《気配感知》を身に着けたばかりのラウラにも当然それは察知できていて──予期せぬ、そして初めてのスタンピードを肌で知覚したことに、悲鳴に近い叫びをあげてエリスにしがみついていた。
「お、お姉様っ!? 何これ、モンスターが、モンスターがものすごい数っ!!」
「ラウラ、大丈夫よ。あなたには一切危害なんて加えさせないから……トマスさん、この子のことは」
「分かってる。現地に殴り込みかけた後に俺がこのまま、車でWSO施設に預けてくる。市民の避難先でもあるんだ、ラウラちゃんにもそこで待機していてもらうぜ」
猛烈な勢いで走る車を、完全に制御しきって運転するトマスがすぐさま答える。
ラウラは探査者とはいえ現状では未熟に過ぎる、戦闘に参加させるなど到底認められるものではないというのは、パーティメンバーの総意だ。
ましてやスタンピードに、それを原因にかけがえのない家族を殺された子供を! ……エリスはラウラを抱きしめて頭を撫でてあやした。
そうするだけで湧き上がる使命感、責任感と義務感。正義の灯火を強く宿らせた面持ちで、エリスは車内の妹尾とトマスに告げた。
「よろしくお願いします、トマスさん。妹尾教授、私達はこのままモンスターの群れに突入して事態に対処しましょう。ヴァールさん、レベッカさん、シモーネさんも同様です」
「もちろんだ。しかしこうなると、件のシェン・ラウエンくんとの合流はどうしたものか」
「話に聞く限りではそちらの方も、おそらくすでにスタンピードに対抗して戦っているでしょう。でしたら私達もただひたすらに戦い人々を護っていけば自ずと合流できるはずです……まずは脅かされる生命を、一刻でも早く助け出します! それ以外のことはその後です!」
「お姉様……!」
凛として指針を示すエリスに、抱きしめられるラウラは彼女を見上げた。美しくも力強いその表情に宿る覇気は、自然と人を惹きつける魅力、カリスマとなって周囲を圧倒する。
妹尾やトマスも同様だった。これまでの日々で何度か、こうして使命感に突き動かされるエリスを見てきたが毎回息を呑む姿だ。
それはまさしく称号にもある通りの、《聖女》らしい慈悲と慈愛、そして指導者としての才覚の発露だと思えるのだ。
そして同時に、彼女を導き続けてきた人──ソフィアあるいはヴァールの影響さえも垣間見えて、二人は感嘆の吐息を漏らさずにはいられなかった。
「……まったく、ヴァールさんやソフィアさんときたら。人を見る目まで備わっているとはね。トマス、一応ながら君の後進である彼女の成長ぶりと来たら、どうだい」
「惚れ惚れしますよ、実際。正直な話、今じゃ統括理事かエリスちゃんがこのパーティのリーダーみたいなもんだ。いつだって能力者解放戦線を追う意志をいの一番に見せて貫くのは、この二人のどちらかですからね」
「そ、そんなことは……差し出がましい真似で恐縮です。しかし今は!」
「褒めてるんだよ、掛け値なくね。君はもう少し自信を持ちなさい。間違いなくこれからの時代、君だって世界を牽引していける傑物なんだから」
師弟二人でエリスへと向ける称賛。今から鉄火場へと向かいながらも、年長者たる彼らが後進の若手に寄せる期待の眼差しは温かい。
謙遜する姿にさえ、やはりカリスマめいた魅力をも感じながら。妹尾は前方を見た。すでに把握しているモンスターの気配はどんどんと近く、そして強くなってきている。
そう、もはや肉眼でも確認できるほどに──多くの島、そしてさらに多くの橋で構成されている町中に、モンスターが跳梁跋扈している。
言葉なくとも示し合わせて、妹尾とエリスは全力疾走中の車の窓を開けた! ラウラを避難させるトマスの動きを阻害させないまま、自分達は敵の群れに突入するのだ!
「それじゃあ我々はお先に! 《拳闘術》、ストレートスティンガー!!」
「《念動力》! ナイフよ動け、教授を援護してっ!! ──ラウラのことを頼みます!!」
「あいよぉっ! 後から俺も加わるからよろしく!」
「お姉様! 教授もご武運を!!」
開いた窓から要領よく飛び出し、高レベル能力者ゆえに誇る常人の何倍もの肉体能力をもって勢い良く、前方に飛び出す! すでにモンスター達とは目と鼻の先だ!
妹尾は手に嵌めたメリケンサックで奇襲を仕掛ける。もちろん戦闘スタイルは昔からの得手、ボクシングを基盤にした《拳闘術》だ。
さらにその後方からはエリスが《念動力》にて操るナイフが三本、妹尾を護衛するように周囲を飛び交う。
直後、またしてもエリスの身体から"何か"が失われるような感覚……気にしている場合ではない。
なんならさらに駄目押しのように、自身が直接持つナイフにもエネルギーブレードを展開させて。エリスもまた窓から身を乗り出し、そして敵の群れへと飛び込み切りかかっていった。