大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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踊るように、火野源一

 自分達でダンジョンから引きずり出したはずの、モンスターの群れをも自分達で薙ぎ払っての強行。

 並み居るアンデッドを薙ぎ払い斬り掛かってきた火野源一の二刀流を、エリスは即断即決で対応した。

 

「《念動力》ッ! ナイフよ、防いで!!」

「んひゃはははははっ!! さすがだぜモリガナァ、田舎娘のくせしてどんだけ俺を、悦ばせやがるんだァ!!」

「っ……」

 

 自在に宙を飛ばせていたナイフを二本、二刀斬撃を防ぐのに割り当てる。

 火野の両手それぞれに握られた刀は鮮やかな殺意をもってエリスの首筋と胴体めがけて奔っていたが、それらを未然に防御した形だ。

 

 これに対して狂喜の笑みを浮かべたのが、誰あろう火野当人だ。自身の攻撃、当然ながら必殺のつもりで放ったそれをいともあっさり防がれた。

 相手が他の者であればその時点で火野はすぐさま機嫌を悪くして、殺意の他に悪意さえ乗せて追撃を果たしていただろう──しかし、今回の相手はエリス・モリガナだ。火野自身でさえ不可解なまでに、彼女に対してはまるで異なる対応を見せてしまっていた。

 犬歯を剥き出しに、獰猛かつどこか歪んだ欲望を秘めた笑顔で話しかける。

 

「手元のナイフと平行して、自由自在に動くナイフも複数本動かすたぁな!! 良いぜモリガナ、やっぱりオメェは田舎娘のくせして疼かせやがるぅ!!」

「火野……源一ッ! 何を、馬鹿なことを!?」

「楽しもうぜッこのひとときを! これも一つのデートってやつかギヒハハハハハハ! 田舎臭いお前みたいな小娘なのに、どうしてこんなに昂るんだろうなァ!!」

「知りません! あなたのことなど、私はどうでも!!」

 

 防ぐナイフ二本さえ押し込みかねない勢い。《念動力》のトリッキーな使い方により対人戦は滅法強くなったエリスだが、それさえ強引に踏み越えようとするパワータイプの戦士は実のところ、搦手が通じ辛いので苦手とするところだ。

 そして眼前の敵、火野はどこをとっても赦されざる犯罪者であり殺人鬼であり変態なのだが、紛れもなく戦士にして能力者としては当世でも指折りの実力者と言えた。

 

 言動と裏腹に磨き抜いた鍛錬と技術は、エリスの特異なスキルにさえも拮抗し得る!

 斬撃を防ぐナイフを押し込み、手首を返して弾き飛ばす。そうして今度こそ二刀斬撃を見舞ってくる火野に、エリスは已む無く手持ちのエネルギーブレードで応戦した。

 

「この──殺しませんが、その手足は奪います!」

「お前のその光剣、当たりゃ問答無用だが当たらなけりゃ無用の長物なんだよなァ!! モリガナァ、肉弾戦自体はまだまだお粗末だぜぇっひゃははあぁぁぁー!」

「たとえそうでも、あなたは止める!!」

「それでこそだ、モリガナァァァッー!」

 

 渾身の叫びをもってぶつかり合う両者。しかして両者、表に出す激情とは裏腹に戦闘運びは極めて冷静だ。

 エリスにとっては手足のどこかに当てればほぼ勝負がつく戦い。エネルギーブレードはヴァールさえ太鼓判を押す一撃必殺の威力だ、生身の人間が喰らえば行動不能に追い込むのも容易い。

 

 しかして火野からすればエリスなど、多少戦闘経験を積み実力をつけたところで付け焼刃、本質的には田舎娘にすぎない。

 つまりやはり、新人の動きなのだ。ここから先、より戦闘経験を重ねていけばきっと火野など歯牙にもかけない強さにもいたるだろうが──この段階ならば間違いなく、男のほうが総合的な戦闘力で勝る。

 《念動力》を用いた奇策こそ警戒すべきだが、だからこそそれが愉快で楽しいバトルを演出しているようで面白いと男は笑った。

 

 どちらも十分に勝利を得られるパワーバランスが、火野にとっては絶頂的な快楽をも伴うほどに気持ちいい。

 遮二無二こちらに斬り掛かってくるエリスの真摯な瞳、誠実な言葉、そして真面目な攻撃。それらすべてがどうしようもなく胸を焦がして仕方ないのだ。

 

「んんんんんん〜ッモリガナァァァ〜」

「この男、いい加減に……!!」

「お前一人でも俺を破れるかァ!? 頼りのお仲間はみぃんなモンスターどもの相手で手一杯! お陰さんで俺もお前もお互いにだけ集中できるが、オメェにとっちゃ孤立無援だろうッ!!」

「私はッ! 一人じゃ何もできないわけでも、ありません!!」

「もちろん分かってるぜモリガナ! 一人でも俺を殺し得るお前のような田舎娘だからこそッ、俺は斬り合いしてんだ!!」

 

 明らかな快楽に興奮しつつ、楽しそうに揶揄してくる火野に、隠しようもない怖気と気持ち悪さを感じてエリスは猛攻を仕掛けた。

 完全にこちらを舐めきっている男だが、その実力と指摘は本物だ。未だ一対一では分が悪く、そして仲間達はなおも群れるモンスターの相手に手一杯でこちらには来れない。

 

 ましてやヴァールは──こちらはこちらでもう一人の能力者解放戦線メンバー、イルベスタ・カーヴァーンを相手にしているのだ。

 お互いに孤立無援の状態。いずれも、自身の力でどうにかするしかない局面だった。

 

「シャル・ウィ・ダンス? ──ってか、モリガナァ!!」

「こんなことを、まるで遊びのように弄ばないでッ!!」

 

 どこまでも愉悦と快楽に身を任せて踊るように蠢く火野。

 怒りと生理的嫌悪に美しい顔を染め、それでも正義の信念のためにエリスは果敢に立ち向かうのだった。

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