エリスが火野と一騎討ちをしている最中、他方ではヴァールがイルベスタの相手をし──
さらに双方から遠く離れた地点ではレベッカ、シモーネ、妹尾の三人がモンスターの群れを相手している。
思わぬ闖入者があったものの、未だにスタンピードは勢い衰えず、その中核にいると思しきモンスター・リッチの姿は確認できていない。
となればどうしたとてモンスターの対処こそが最優先、それゆえにエリスやヴァールを案じつつもひとまず置いて、アンデッド達を剣で、拳で、槍で薙ぎ倒しているのである。
さりとて心配の念は沸き起こる。
レベッカが大剣を振り回しながら、遠くで渡り合うエリスと火野を見て叫んだ。
「エリスちゃんっ! ……ちっくしょう、あの腐れゴミクズ火野野郎がッ! ふざけたタイミングで仕掛けてきやがって!!」
「憤るのは分かるがウェインくん、今は我々とて人にかまけていられる場合でもないぞ!? 敵の群れは、せめてこちらに引き受けなければ!」
「分かってるんだよ! だけどよ、クソッタレ!!」
モンスターから人を護らなければならない、紛うことなき緊急事態。そんな最中にあってなおも邪魔を仕掛けてくる外道どもに、激情を抑えきれない様子のレベッカに妹尾もまた、近くのスケルトンを殴り砕きながら諌めた。
本音では彼もまた、エリスやヴァールに加勢したい気持ちが強い。火野の厄介さや悪質さ、変態性は当然危険視しているのだし、イルベスタも詳細不明の先読み能力を駆使するのだとレベッカから聞かされておりこちらも油断ならない。
だが現実問題として、やはり押し寄せてくるアンデッドモンスター達をどうにかできるのはこの場では自分達三人のみなのだ。ならばそれを為すのが、今できる最善のサポートであると信じる!
そう語る妹尾にレベッカも、怒りながらも正当な理屈だと認めざるを得ない。その隣でおっかなびっくり槍を振り回すシモーネが、それでも鮮やかにグールを複数体串刺しにしていた。
「統括理事のことや、エリスのことも心配ですけど……! き、キリがないですよこれじゃ! 早くリッチの居場所を突き止めてやっつけないと、着実に数は減らしてますけどっ!!」
「それも分かってるよ、ジリ貧ってんだろ!?」
「各地で戦う現地探査者達も、それなりのペースでやってくれてはいるみたいだけれど……!」
他人の心配よりまず自分達のことを。そう諭すシモーネも当然正論だ。実際、三人の周囲には決して無視できない数のモンスターがいるのだ。
《気配感知》の上では都市内のモンスターは確実に数を減らしている。ここ以外にも現地探査者やWSOのエージェント達が戦線を構築しているようで、人々を守るために一歩とて退くつもりのない戦意と闘志が気配だけでも感じ取れる。
しかし、ジリ貧だ。未だ夥しい数が相手となれば、おそらく敵の数が底を尽くより先に探査者達の体力と気力が危うい。
そうなれば戦線は崩壊する。人々の町が、安寧が、平和が脅かされる。それは、それだけは決して認められないものだ。
焦燥と不安、緊張に、歴戦のレベッカや妹尾でさえ嫌でも強張らざるを得ない。
せめてもう一人二人、加勢があれば──そう思った矢先、まさしく天の采配が如き援軍は訪れた。
「────っしゃあ! 遅ればせながらトマス・ベリンガムただいま到着っ!!」
「んだぁ!?」
「トマス!? 車で無理矢理モンスターを撥ねてきた!?」
「やっと来たかね、トマスくん!」
背後から、モンスターをも強引に引き倒して車が突っ切ってきたのだ。猛烈な勢いで三人のすぐ後ろにまでやってきた車体には、ぶつかったまま押し退けられたゾンビ達が光の粒子となっていっている。
その運転席には妹尾の弟子、パーティの仲間であるトマス・ベリンガムが座りハンドルを巧みに操る。
そして。
同時に助手席が開き、何者かが飛び出してきた!
「────しぇぇぇぇぇぇりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃあああああっ!!」
突然の闖入者に、反応する間もなく周囲に響き渡る怪鳥音。一陣の風が吹き荒ぶように、それは──その豪脚はモンスター達を一瞬で穿ち貫いた。
そう、蹴りだ。わずか一撃でモンスターの胴体と言わず手足と言わず、触れた箇所に大穴を開ける弾丸のような蹴撃の横雨。
これには数瞬遅れて、レベッカ達も盛大に驚くしかなかった。トマスの参戦からしてもダイナミックなサプライズであるものを、その上でとてつもない威力と速度の脚を振るう何者かが現れたのだから。
「!?」
「ッ何!? 車から蹴りが飛び出たぁ!?」
「これは……この足癖は……!?」
「ラウラちゃんを避難場所に送ってきた戻りに偶然出くわしましてね! こんなとんでもない脚技、話を聞くに一人しかいねえってんで連れてきました!」
唖然とするレベッカ、シモーネに比べ、妹尾はすぐに気付いた。見覚えのある蹴り技だと。会心の笑みを浮かべるトマスの叫びに、その直感は確信へと変わる。
そう、それはかつて12年前、盟友にして兄弟子と言える男が興し磨き抜いていた我流拳法そのものだ。いや、あれからさらに体系化されて洗練された雰囲気さえ感じられていた。
見ればその者は東洋人。ざっくばらんな黒髪を脚風に揺らした質実剛健な印象の強面で、精悍な顔立ちは凛としつつも怪鳥音を叫び闘志に染まっている。
武道着に身を包んでいる男は、いよいよレベッカにも分かるほどに"彼"の面影が感じられる。
ということは。
レベッカと妹尾が、異口同音に心当たったその男の名を叫んだ。
「…………星界拳っ!! シェン一族の君はラウエンかッ!!」
「シェン・ラウエン! あのカーンさんの後継者、このタイミングで加勢かよ!!」
「いかにもっ!! 俺はラウエン、シェン・ラウエンッ!! 誇り高きシェン一族にして、星界拳正統継承者なり!! ──しぇりゃあああああッ星ィィィ界ッ! 八卦脚ゥゥゥゥゥゥッ!!」
呼ぶ声に、限りない力強さで応え。
男は、シェン・ラウエンはまたしても雄叫び、星界拳の業を放った。