大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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三者三様の若手世代

 トマスとともにモンスターへと殴り込み、否、蹴り込みを入れてきた男。星界拳正統継承者にして始祖シェン・カーンの後を継ぐ者、名をラウエン。

 シモーネやトマスとそう変わらない年齢ながら、二人をも大きく上回る強さと速さ、鋭さを兼ね備えた脚技をさっそく披露してみせた彼は、周囲のモンスターをある程度片付けたところでレベッカや妹尾へと向き直った。

 

「──お初にお目にかかりますウェイン先生ッ、妹尾先生ッ!!」

「うおっ!?」

「お、おう?」

「お二人の名はソフィア様の名とともに始祖カーンより聞かされておりますッ!! カーンの命によりッ、今は遠き中国はシェン一族の里より微力ながらお力添えに参りましたッ! シェン・ラウエンと申しますッ!! よろしくッ! お願いしますッ!!」

 

 万力を込めた拱手とともに、絶叫にも近い勢いで名乗りと挨拶を挙げる。全身鍛え抜かれた筋肉には力を込めすぎているのか血管が浮き彫りになり、誰から見ても力んでいるのが伝わるほどだ。

 男、ラウエンは見事なまでの助太刀に入ったわけだが実のところ、初めて会うレベッカや妹尾を前に緊張していた。

 

 突然ストックホルムを襲ったスタンピードに、即応して星界拳で迎撃し続けていたところ、車に乗ってやって来たトマスと偶然鉢合わせして同乗できたのは幸いだった。

 いかな星界拳、いかなラウエンといっても一人きりでは対応するのも難しいほどの敵の数だったからだ。かねてより合流を予定していたソフィア達パーティと、このような鉄火場とはいえ合流してともに戦えるのであればそれに越したことはなかった。

 

 しかし、いざメンバーを目の当たりにするとやはり未熟者ゆえの緊張と不安に苛まれるものかと彼は内心で慄くこととなる。

 前もって彼の先達、偉大なるシェンの始祖カーンから12年前以前からの付き合い、WSO統括理事ソフィア・チェーホワとその三人の弟子にまつわる伝説は聞かされていたのだ。

 

 つまりラウエンからしてみれば、伝説や神話めいた逸話の当人達と実際に会った形になる。

 実力こそ同年代はおろか、現行の探査者全体においても間違いなく上澄みに入るだろうが……未だ精神的には若々しい青さ、未熟さのある青年ゆえに、どこかミーハーじみた感動と恐縮とを抱いてしまうのも無理からぬことであったのだ。

 

「か、カーンさんの弟子だなぁ、なんつうか……」

「あの人もどこかこう、マイペースな真面目さがあったけどラウエンくんからもそれは伝わってくるね。あるいはシェン一族特有の質かな? 目立ちたがりなところとか、努力家なところとかと同じで」

「畏れ入りますッ! こうして伝説的に名高い名探査者の方々とともに戦えることッ、星界拳の誉れとして誇りに思いますッ!! そして背負いしシェンの名に恥じぬようッ全身全霊を込めてェッ────しぇりゃりゃりゃああああああっ!!」

 

 そんな姿にどことなく、盟友たるカーンの面影を感じて状況にそぐわぬ懐かしみを感じるレベッカ、妹尾。

 しかしそうしている間にもモンスターも当然、迫り寄ってくるのだ。ラウエンが呼応して再び星界拳の蹴りを放つ姿に、彼らも呑気している場合ではないと首を振って武器を構え直した。

 

 一方で一連の流れに、完全に置いてきぼりを食らって唖然とするしかないのがシモーネだ。

 現実のこととも思えなかった……聞いていた話から類推していた実力を、はるかに上回って強すぎるラウエンの腕前とその戦闘スタイルに、すっかり度肝を抜かれていたのだ。

 

 一撃一撃が、ただの蹴りだというのに明らかにシモーネやトマスの渾身の技より強力で凶悪だ。さらには身のこなしも軽やかかつ合理的で無駄がなく、技を放てばそれらが如実に見て取れる。

 同年代ゆえ、いっても自分やトマスとそう変わらない程度の実力だろう。そう信じていたのが、自信とともに打ち砕かれる心地だった。

 

「いや……いや、いやいや。何アレ、冗談でしょ強すぎじゃない?」

「だろ? いやー俺も出くわした時にゃビックリしたぜ、強い強いとは聞いていたがまさかここまでなんてなあ。世の中広いっつーこったな、勉強になるぜ」

「何を……何を、落ち着いてるの? トマス……あ、あれ、だって、私やアンタよりずっと、ずーっと間違いなく強いんじゃ……」

「? …………ああ、なるほど」

 

 一人動揺するシモーネに、話しかけたトマスはそのあまりにも不自然な態度に首を傾げるもすぐに理解した。嫉妬と鬱屈が顔を出しているのだと。

 この半年ほどで彼女の、社交性や明るさや優しさとは裏腹にある嫉妬深さ、狭量さ、そしてネガティブさは人間観察に長けるトマスにはすでに見抜けている。

 

 そもそも同年代ということでトマス相手にもどこかマウントを取りたがっているところがあるのだ、嫌でも気がつく。

 さらにはエリスへの態度からもそうしたマウント癖は、どこか浮世離れしたヴァールやエリスはともかく、ソフィアやレベッカや妹尾さえもいい加減気づいているものであるのだが……シモーネはそれを、きっと悟られていないつもりのままでいるのだろう。

 

 ともあれそんなシモーネのことだから、完全に自分を凌駕する強さを誇るラウエンにショックを受けているのは容易に想像できた。

 肩をすくめてシモーネに答える。飄々としつつも自身の使命や責任には真摯に向き合うトマスらしい、芯のある声と瞳だった。

 

「心強い仲間ができたことをまずは喜ぶべきだぜシモーネ。エリスちゃんについてもそうだがお前さん、大事なもんを見失ってることにいい加減気づいたほうが良い」

「っ、何よそれ……!!」

「師匠から千度言われてんだろ? 仲間もいい加減気づいてるぜ、人の良過ぎるヴァールさんやエリスちゃん以外はな……お前にはお前にしかない強みってのがある。そいつにもう一回向き合えよ、人の沙汰見て羨ましがってばっかりじゃなくてよ」

「…………くっ」

 

 ストレートに図星を突かれた。言葉こそ鋭いがどこまでも自分を案じる温かみのある声と視線を理解して、シモーネはたじろぎつつ瞳を潤ませる。

 悔しさと安堵、喜びと怒り、好意と憎しみ──人の持つ様々な感情が哀れなまでに混じり合って、彼女は唇を噛むしかできなかった。

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