悔しむシモーネの葛藤はともかく、状況は進行する──
トマスとラウエン、二人の加勢を得たパーティはここに来てさらにモンスターを怒涛の勢いで駆逐していき、ついにリッチらしき敵影を捕捉したのだ。
モンスターの群れのなか、遠目からでもたしかに見えた特異な姿。ボロボロながらマントを身に着けた、他よりいくらか大きな骸骨。
何よりそのモノが放つ気配の濃厚さ。否応なく周囲に叩きつけていく殺意の強さこそが、ソレがリッチであることを示していた。
「見えたっ!! アレだろリッチ、妹尾教授!」
「間違いないね。やつを仕留めればこちらの優勢は確定する!」
「や、やっと終わりが見えてきたっ!? ほ、ホッ……」
「安堵してる場合じゃないぜシモーネ、気持ちは分かるけどな!」
「星界天狼破断拳ッ! ──しぇりゃあああああっ!! しぇりゃっ! りゃりゃああああああっ!!」
ようやく見えてきた今回の、大規模スタンピードにおける中核といえるリッチを視認して、レベッカ達はいい加減に疲れてきた身体に気力を蘇らせた。
終わりのない戦いはどうしても意気を挫くものだが、終わりがいよいよ見えてきたのならば逆に意気軒昂にもなるものなのだ。ましてや強力な味方との合流もあり、彼らの士気はここに来てマックスを迎えようとしている。
そんななか、ただひたすらに敵を討ち続けるラウエンにレベッカは内心で舌を巻いた。カーンにもなかったほどの集中力、執拗さ……敵を撃滅するという志の強さに感心したのだ。
であるならばと、彼女は彼に近づいて声をかけた。ようやく終わりの見えてきたこの戦い、しかして加勢すべきは他にもいる!
「ラウエン! シェン・ラウエン!!」
「しりゃおおおおおっ!! ──なんでしょうかレベッカ先生ッ!! なんなりと指示をッ!!」
「こっちゃ目処が立った、あとは私らで対応する! お前さんは悪いが向こう、一人で東洋人相手にしてる銀髪の嬢ちゃんの加勢に行ったってくれ! 能力者解放戦線メンバーの火野源一を相手にしている、エリス・モリガナってんだ!!」
「ぬうっ!? なんと、この乱戦のなかでたった一人敵組織と渡り合っているのですかッ!! ……見える、あの少女ですねッ!」
呼び止められて、さらに指示を受けてラウエンは示された方角を見た。遠くにはたしかにこのスタンピードのなか、モンスターではなく人間同士で戦っている男女が一組。
エリスと火野だ。どちらについてもWSOを通して情報を得ていた彼は即座に事態を把握しうなずいた。
ストックホルムを襲う事態を、引き起こした組織のメンバーをたった一人で相手する少女……これを放置しては星界拳の名折れである。
すぐさまラウエンは周囲のモンスターを薙ぎ払い、天空高くへと飛び上がった。数を相当に減らしたとは言えモンスターのいる地上を走り抜けることは避け、頭上から一息にエリスの加勢へと回ったのだ。
身体能力も異様な強度。
やはりシモーネやトマスに比べてもラウエンの実力がずば抜けていることを実感しつつ、レベッカは再度モンスターとの戦線へと戻るのだった。
「────火野源一っ!! 今度こそあなたを止めますっ!!」
「おうよ来いッ! 俺に斬り掛かってきなっ!! お前の敵意が言葉が声が目が顔が何もかもがッ俺をッ俺をぉ〜ッ!!」
「気持ちが悪いんですッ!!」
そしてそのエリスと火野は、互いに刃を激しく応酬させながらも交戦している。
実力で劣るエリスだが気力と覚悟ではむしろ勝り、それゆえに命懸けさえ躊躇しない踏み込みの良さで火野と渡り合う。だが当の火野はそうしたエリスの姿勢こそが快楽そのものであり、悦楽にますます興奮して叫びつつも殺意に振り切った攻撃を放ち続けていた。
お互い、一瞬でも油断すれば即座に仕留められかねない死闘。極限状態を強制的に維持させての戦闘が、二人の秘めた底力、潜在能力を引き出していく。
特にエリスだ……元より莫大な才能を持つ探査者であるとヴァールやレベッカから認められていた彼女の、戦闘における身のこなしや直感のよさが加速度的に鋭く、的確なものになっている。
「っ、見えます火野源一! あなたの攻撃の軌道、殺意の行く末!」
「────っ!! こいつは!?」
「そして私の斬撃は、それを避けた姿さえビジョンする! ……当たれっ!!」
「モリガナ! テメェ未来を、ちいいっ!?」
叫ぶエリス自身にさえ不思議なほどに、冴え渡る思考と視界は火野の姿、その数秒先を予測できている。
未来予知そのものではないがそれに近しい精度を持つ、可能性の演算。未来予測。確定したものでないにしろ、"こう動けばこうなる"を脳内イメージとして反映する超能力が、彼女のなかで芽生えようとしていた。
こうなると火野は堪らず斬撃を避けて後方に下がる。エリスの雰囲気が変わったばかりか、こちらの攻撃を読み切った上に回避した先に回り込んで斬り掛かってくる動きに、嫌な予感を覚えたのだ。
前例があった……心当たりは他ならぬオーヴァ・ビヨンドとその力を与えられたイルベスタ・カーヴァーン。二人の扱う"未来を見るスキル"と、同じ方向性のものを感じる!
しかしギリギリで対応できるあたり、未だ精度は低いと見る!
火野はここに至ってなお勝機を一切捨てず、構え直した。
「舐めんなモリガナァ! どうやらテメェも未来を読むみてぇだが、マジで予知するオーヴァと違ってオメーのは精々予測が限度ってところだろうなァ!!」
「! オーヴァ・ビヨンドが未来を読むと!?」
「同じ力を持つんなら隠しててもしゃーねえからな、上かッ!?」
「────星界彗星脚ッ! しぇぇぇぇぇりゃっ!!」
能力者解放戦線首魁、オーヴァ・ビヨンドの隠されていた力をこのタイミングでカミングアウトした火野に驚きを隠せないエリス。
占い師という来歴から薄々わかってはいたが、まさか未来予知を行うというのか……そして自身もまた、それに近い何かを得ようとしているのか。
目まぐるしい情報に戸惑いながらも、なおも続こうとする戦いに備えて仕切り直して構える。
そこに──火野めがけ、天空からシェン・ラウエンの蹴りが炸裂した!