大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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ラウエンvs火野

 まさしく彗星の如き一撃だった。エリスと再度斬り合わんとした火野の、意識の外からの死角の蹴り。

 加勢に入ったシェン・ラウエンの、エリスへの加勢は最初から必殺狙いの容赦ない技だ。星界彗星脚、その名のごとく勢いづいた飛び蹴りが殺人鬼を襲う!

 

「しぇぇぇりッ! りゃぁぁぁあああッ!!」

「────うおおっ!? っぶねえっ!?」

「きゃあっ!? ……何、人、蹴り!?」

 

 火野の脳天に寸分違わぬ精度で振り落とされた、雷のような蹴りはしかし、すんでのところでその気配を察知したことによる緊急回避によって避けられた。

 なりふり構わず横に飛び退く火野。そのまましばらくストックホルムの町を転がって体勢を整えて見れば、元いた場所にクレーターができている光景に怖気を走らせる。

 

 あんなものを食らう寸前だったのか。背筋が凍る感覚は、彼にとって久方ぶりのことだ。

 直撃すれば死んでいた、確信がある。エリスやその仲間達からは感じてこなかった明確な殺意をそこに見て、思わず顔を引き攣らせる。

 

 それでも実力ある能力者としての自負から、心を奮い立たせて殺人鬼は叫んだ。

 クレーターを生み出した張本人──武道着に身を包んだ東洋人に向けて、誰何を問うたのだ。

 

「っ、なんだぁてめぇはァァっ!?」

「シェェェェェェン・ラウエンッ!! エリス・モリガナ嬢を助太刀すべくッただいま見参ッ!!」

「! シェン・ラウエンさん!?」

 

 問われて声高に誇りとともに己を叫ぶラウエン。クレーターから飛び出てエリスの横に立ち、武術の型を短く披露しつつの名乗りを挙げたのだ。

 それにはエリスも目を見開いて驚く他ない。この町で合流する予定だったシェン・ラウエンその人とまさか、このようなタイミングで立ち並べるとは!

 

 肩を並べて立つだけでも伝わってくるその実力。ラウエンからはすでにレベッカや妹尾にも通じる強者の風格を漂わせている。

 強力な助っ人、12年前の英雄の後継者だとは聞かされていたがまさかこれほどとは思わず。予想以上期待以上の頼もしさに、エネルギーブレードを構えるエリスは思わず安堵とともに微笑んだ。

 

「あなたがシェン・ラウエンさんなんですね……! 助けてくださりありがとうございます、ソフィアさんのパーティメンバー、エリス・モリガナです!」

「話はすでに、先に合流したレベッカ先生からも聞いているぞモリガナさんッ!! よくぞたった一人でここまで持ちこたえてくれた、あれほどの凶悪なる男を相手にッ! だがここからは俺も一緒だ、ともに巨悪に立ち向かおうぞッ!!」

「は、はい!」

「テメェがラウエンだと……! シェン・カーンの後継者って話だが、にしたって滅茶苦茶しやがる!!」

「これが火野源一か……ッ! なんたる禍々しさ!」

 

 力強く答えるラウエンは、しかし厳しい顔をして火野に向き直る。突然の蹴撃に苦々しい表情をしている相手だが、しかし内心ではラウエンこそが苦い思いがある。

 信じがたいほどの凶悪な男だ……武術家として磨き抜いた感覚が、鋭敏に目の前の男から放たれる禍々しい殺意と嘲弄、憎悪と愉悦を感じ取っていた。

 

 資料によればこの火野源一、能力者解放戦線加入以前から日本国内で何人も何人も罪なき市民を殺している正真正銘の殺人鬼だという。

 その被害は解放戦線入りした後にはいよいよ世界規模となっており、特に第二次モンスターハザードが始まった今年の新春前後からこちら、北欧全域で彼によると思しき首無し死体がいくつも発見されている。

 

 紛れもなく赦されざる者、ここで打ち倒さなければならない邪悪だ。

 そんな火野を一人で相手取っていたエリスへの敬意と感心をも抱き、ラウエンは全身に力を込めて構える。星界拳の構えだ。

 

「聞けいッ火野源一よッ!!」

「!?」

「我が星界拳は邪を討ち魔を断つ断罪の拳ッ! 貴様が積み重ねてきた罪もまた、我が剛脚にて断ち切ってくれるわッ!!」

「舐めんじゃねえぞシェン・ラウエンッ!! 俺ァ今、モリガナと盛り合ってたところなんだよォ邪魔すんなァッ!! 男と女の、一対一の逢瀬だぞ間男ォォォッ!!」

 

 エリスとの楽しい、そして興奮できるひとときを無粋かつ粗野な男が割って入った。その事実が火野の、未だ自覚のない何かの感情をひどく刺激して怒りと憎しみを呼び起こす。

 彼女と斬り合える時間だったのに。彼女が自分を見て、自分も彼女を見る。理由は分からないが最高に気持ちよくて心が温かくなる時間だったのに!

 

 それを邪魔したラウエンは、まさに火野からすれば間男そのものだった。ゆえに彼もまた構える。

 エリスに向けての殺意とはまた異なる質の、明確な憎悪に由来する狂気。それを二刀流に込めて、星界拳士へと飛びかかる!

 

「テメェェェーの自慢のその両脚ィッ!! ぶった斬ったらァァッ!!」

「ラウエンさん、援護をッ!!」

「不要ッ! 我が星界拳の前に敵はなし────星界天狼五神脚ゥッ!!」

「二刀流奥義、孔雀!! 死ねコラァ!!」

 

 エリスの横槍をも拒否して、振るわれるラウエンの脚。火野の渾身の二刀流を身のこなしだけで回避して、その間隙に鮮やかな動きで斬撃脚が迸る。

 閃光にも似た軌道……刃もないのに人体さえ切り裂ける星界拳士の斬撃拳が、火野の胴体を横薙ぎに裂いた。

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