交錯する刃と脚。互いにせめぎ合うことなくただ一心不乱に相手の身体めがけて放たれる技。
シェン・ラウエンの星界天狼五神脚と火野源一の二刀流・孔雀──互いに最初の一撃から決定打のつもりで繰り出した技は、まずはラウエンの蹴りからヒットした。
「ぬぐぅぅぅ……っ!? て、んめェっ!?」
「す、すごい……蹴りが、刃でさえないのに刃物のような斬れ味を……!!」
「我が星界拳、とりわけ斬鉄を旨とするなりッ!!」
周囲に残るモンスターを相手取りつつもなお、ラウエンの技の冴えに目を惹かれるエリス。
蹴りが肉体を切り裂き流血させるなど、彼女の常識において信じがたいことだった。打撲や擦傷でない、完全に切傷や裂傷のダメージが火野に刻まれる。
力強いラウエンの叫びに思わず耳を疑うのは、彼女のみならず誰しもがそうだろう。斬鉄。
すなわち鉄をも断ち切ると豪語するほどの蹴り技であるという自負を高らかに叫んでいるのだ。そして火野の身体を裂いた以上、それは決して大言壮語でないのは明らかなことだった。
しかし火野とて負けてはいない。
蹴りによって胸元を横一閃に切り裂かれながらもなお、彼もまた鋭い二刀を奔らせたのだ!
「舐めんなァッ、ラウエェェェェェェンッ!!」
「……! ぬおあぁっ!?」
「俺とモリガナの間に入っといてッ! やりたい放題できると思うんじゃねえええっ!!」
「ラウエンさん!?」
左右に握った刀が、技の動作の終わり際、ほんの僅かに残ったラウエンの隙を的確に精密に突いた。人の弱味を見抜く、邪悪な観察力に長けた火野ならではの技だろう。
優雅に羽を伸ばした孔雀のように、緩急つけて放たれる連斬撃。咄嗟に回避行動に移るラウエンだが避けきれるものではなく、無数の斬撃が彼を襲う。
力も何も入っていない、速度だけの弱々しいもの。しかし刃物をもって振るわれる以上、それは確実に殺傷力を積み重ねる。
火野の十八番だ……一撃必殺など埒外。ジワジワと肉体を傷つけ追い込み、敵の恐怖し絶望する姿に絶頂を覚える怪物的精神性の発露たる剣術。ただ人を苦しめて嬲り殺すだけの、拷問剣。
その一端が今、ラウエンを襲ったのだ。
体表面をいくつも裂かれながら、ラウエンは思わず後退した。己の技をまともに受けつつ、なおも反撃に出るとは見事だとこころのどこかで冷静に称賛しつつだ。
なるほど、単なるクズではないらしい。殺人鬼で決して許してはならない悪だが、武人としては敬意に値するだけはあるだろう。
「だからこそッ許せん! これほどの技を持ちながら、なおも外道を歩むとはッ!! ────ぬ、うッ」
「ガキがッ、テメエんとこのイカれた基準で話してんじゃねえッ────くっ、うう」
正義の信念を叫ぶラウエンも。悪そのものの刃を振るった火野も。どちらも互いの技を受け、痛みに呻き怯み、そして片膝をついた。
お互いに距離を取る。ラウエンは火野の連撃戦法に、火野はラウエンの大技に警戒せずにはいられない。
微かな均衡状態。モンスターから離れてエリスも固唾を呑んで見守る。無論、ラウエンに加勢して火野を強襲できないか油断を探りながらだ。
一対一に割って入ることへの忌避感などない。今なすべきこと──スタンピードを終わらせてこの町と住民達に平和と安寧の秩序を取り戻すことゆえに。
ただ磨いた技を競い合うことよりも、成すべき使命を果たす。そのへん、エリスに一切の遊びも迷いも躊躇もありはしなかった。
だからこそこのタイミングで仕掛けるのだ。エネルギーブレード、最大出力。狙いはその右肩口、戦闘不能に落とし込む!
「犯した罪に──等しき罰をッ!! 火野源一、覚悟!!」
「モリガナ────読んでんだよ、うううううっ!」
「モリガナさん!?」
「ノルウェーでの最終決戦までに! 少しでも戦力は削ります!!」
ナイフから伸びたエネルギーブレードが、エリスのなかにある力を吸収してさらに細く、尖って伸びる。勢いも強く、一瞬で敵を貫くほどの速さで。
先日に戦った時に貫いたところと同じ箇所を狙おうとしてしかしそれは回避された。度重なるエリスとの戦闘からいい加減、そのやり方を把握している火野が即断即決で身を捩らせたのだ。
果たして伸びたブレードは火野の腕を掠めるに留め、体勢を崩しながら火野は無理矢理地面を蹴り飛んだ。ストックホルムの街並み、美しく背の高いレンガの家の屋根にまで飛び上がる。
ラウエンの蹴りと、エリスからの掠り傷。それ相応にダメージを受けて荒く息をする彼は、しかし嬉しそうに笑うのだった。
「へ、へへへ……! 今のはさすがに分かりやすすぎだぜモリガナァ……! だが、へひゃひゃ……お前と通じ合ったような気がして、悪くねぇ気分だぜモリガナァ〜……!!」
「くっ……!」
「逃がすか、悪漢!!」
「いやァ……はァ、逃げるぜさすがに今回は……! 前哨戦でおっ死んでたら、あんまり格好悪ぃもんなァ」
息を切らしつつも火野は剣を収めた。臨戦態勢のエリスとラウエンを前にしてあまりに無謀なその行為。
彼はここに来て再度、逃げるつもりだった。