大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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判明する本拠地

 傷口を押さえて屋根に立ち、嬉しそうに獰猛に狂喜の笑みを浮かべる火野。追い縋らんと構えるエリスとラウエンだが、二人とてノーダメージではなく二の足を踏まざるを得ない。

 エリスはエネルギーブレードの過剰使用による副作用。ラウエンは火野の連撃によるものだ。

 

 特にエリスのダメージは大きい……思わずして片膝をつき、目眩のする顔を片手で覆ってしまうほどに。

 同時に発汗と寒気、そして吐き気。彼女の身体に宿るなんらかの"力"を、一気にすり減らしてしまったがゆえのもの。端的に言えば、彼女は疲弊していた。

 

「ぅ……ぐ、くっう……!? こ、これは」

「モリガナさんッ!? どうした、火野源一に何かされたのかッ!?」

「い、え……だ、だいじょう、ぶです。私の、ことは置いて、あの男、を……ッ!!」

「それをするには、あまりに生気がないのが今の君だぞッ!?」

「なんだァ? ……モリガナ、どうしたってんだァ」

 

 突然の疲労困憊。

 ラウエンどころか火野でさえも思わず構えを解いて案ずる声をあげるなか、誰あろうエリス自身が一番困惑し、驚愕し、そして絶望していた。

 

 ここに至るまで誤魔化し続けていた体調不良が、ついに無視できない程になってきた。

 これではもう、故郷にラウラを届けるどころか最終決戦にも間に合うかどうか、分からない。

 

 

(ここでは、死ねない……死ぬわけにはいかない! せめて能力者解放戦線を、オーヴァ・ビヨンドと幹部達を倒し切らないと! 故郷に帰れなくても、ラウラを送り届けられなくても……未来のために、死んでも、死んだって最期まで戦い続けるんだ、エリス・モリガナッ!!)

 

 

 渾身の力を込める。血が出るほどに歯を食いしばる。

 ──残り僅かな命の灯火を、奮い立たせて無理矢理に立つ。

 

 そうすれば少しばかり気分も楽になり、体調も整ってくるのが分かった。

 しばらくはこれでどうにか保つだろう……少なくとも能力者解放戦線との最終決戦には臨めるはずだ。せめてそこまで保てば良い。

 そのあとのことはもう、エリスは完全に手放している。

 

 世界に平和を、罪には罰を。そしてヴァールの期待には報いて、ラウラに新しい故郷を。

 たとえ見届けられなくても、たとえ戦いのなかで息絶えようとも。それでも、そこが自身の定めるゴール地点だ。そう決めたのだ。

 

「っ、く、ぅ……ッ!! う、あ、ぁあ……ッ!!」

「も、モリガナ……さん」

「だ、大丈夫、です。少し、ごめんなさい、躓いただけ……今は、あの男を止めることが最優先です!!」

「…………ッ、う、うむッ! だが無理はするなッ、アレは我が星界拳にて打ち砕くッ!!」

 

 壮絶な、あるいはそれさえ超えたもはや悲壮でしかない気迫。エリスの事情など知るわけもないラウエンは、あまりの姿に圧倒されるものを覚えながらも彼女を庇い前に出た。

 理解しかねるが、戦士として敬意に値する姿だ……ならば彼女を矢面に立たせる前に今、ここで戦うべきは己なり! その信念で再度構え、火野源一へと向き直ったのである。

 

 その後ろでは弱々しくもナイフを構えるエリス。明らかに衰弱しているが、何か得体の知れない強さを放つ彼女をはるか屋根の上、火野は凝視した。

 すべてを見通すかのような邪悪で下劣な目だ。それをもって殺人鬼は、鼻を鳴らして禍々しく笑った。

 

「……けひ、けひひひゃ。嬉しいぜモリガナ。そんなになってまで俺を求めてくれるなんてよう」

「あなたなど誰が……! 私は、能力者解放戦線のオーヴァ・ビヨンドを止めます!」

「その過程で俺とやり合うことになるんだったら同じこったろ? ……良いこと教えてやるぜ。俺らの本拠地の地点だ」

「何ッ!?」

「ノールノルゲったって広いからなァ、そのものズバリ答えを教えてやるってんだよ。モリガナと思う存分ヤリあうにゃ、どうやらそいつしかねえみてえだしよ」

 

 自分から本拠地を教えようとする火野に、驚きを隠せないラウエンとエリス。なんらかの虚偽ないし罠でないかと疑るが、火野としてはそのようなつもりは一切ない。

 いや、むしろそれどころではないのだ。彼から見たエリスの姿はもう、今にも消え果ててしまいそうなほどに儚くも弱々しいのだから。

 

 このままでノールノルゲなどという、ノルウェー北部全域を当てずっぽうにうろつき回られていてはタイムオーバーになってしまう。それでは最後にもう一度だけ味わえるはずのモリガナとの戦いが、始まることすらなく終わってしまう。

 それだけは認められない。たとえオーヴァやイルベスタの破滅につながろうとも、モリガナと気兼ねなく一対一で殺し合えるのならばそちらが優先だ。

 

 ──明確な反逆行為。かつての火野でもさすがに選ばなかったろう、狂った選択。

 それを為さしめるのはやはり、エリスという心を掻き立て掻き乱す不思議な田舎娘がいてこそだろう。見下ろす先、消耗ゆえに辛そうにしながらもこちらを見据える彼女の姿に、不思議と泣きたくなるほどの胸の高鳴りを覚える。

 

「この気持ちがなんなのか、次で必ずたしかめてやる……いいか。ノルウェーはノールノルゲ最北近くのフィンマルク。なかでもヴァードーっつう端も端にある町の外れにある館。そこが能力者解放戦線の本拠地、オーヴァ・ビヨンドの居城だ。間違えんなよモリガナ? ヴァードーだ」

「き、貴様ッ……!? なんのつもりだ!」

「うっせぇボケナスクソ間男がッテメェになんぞ用はねえッ!! モリガナと最後の戦いをしてえから言ってんだ、この期に及んでここで割り込みかけやがってんじゃねえぞ、アァ!?」

「殺人鬼が、モリガナさんを付け狙うのか!?」

 

 己の欲望のままに、立場上明かすべきでない情報を明かしきって火野はラウエンを威嚇した。

 もとよりこの場は決戦の地にあらず、本当に雌雄を決するべきはノールノルゲ最東端であるがゆえに。

 

 今はもう、火野に戦う気はないのだ……

 エリスとの間に挟まるなと叫べば、同時に放たれる禍々しさ極まる邪念を察知したラウエンは異常な言動も相まってにわかに気圧される。

 それを嘲笑い、火野は素早く転身した。去り際までエリスにのみ視線を向けて、それでも屋根伝いに戦線を離脱したのだった。

 

「…………ノルウェー、ノールノルゲ。フィンマルクの、ヴァードー」

 

 そして残されたエリスは、火野からの言葉を反芻する。

 ノルウェー王国、ノールノルゲ地域。フィンマルク県の町、ヴァードーの外れの館。

 ついに突き止めた。そこにこそオーヴァ・ビヨンドはいるのだ。

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