大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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未来予知の真実

 ──エリスとラウエンが火野源一と戦う最中。レベッカと妹尾、シモーネとトマスがリッチを見つけ出し殴り込みをかける頃合い。

 残るもう一組、ヴァールとイルベスタはそれら戦線から遠く離れた、町の近郊にまで移動していた。

 

 どちらかが意図してのことではなく、戦闘の結果としての移動だ。ヴァールの《鎖法》を避けるにあたって、イルベスタは大幅な退避を余儀なくされている。

 これは彼にとって戦慄の事実であったのだが、ヴァールはどうしたことか自身の持つ力、チューンナップした《念動力》の効果をほぼ粗方読み取って、それに応じた攻撃を仕掛けてきていたのだ。

 

「オーヴァー・ザ・フューチャー"ビューティフル・ワールド"ッ!! ────うおおおおおおッ!?」

「鉄鎖乱舞──収束一閃!! よく避けるが、イルベスタ・カーヴァーン! いつまでも逃れられるものでもないと知れ!!」

「おのれチェーホワ……! なぜに俺の動きが読まれているのだ!?」

 

 オーヴァ・ビヨンドの持つ未来予知能力──それを共有することに全精力を傾けたイルベスタの《念動力》。

 ゆえにこれまで彼はあらゆる存在の数秒先の未来を読んで動くことができた。数ヶ月前のエストニアでのレベッカとの戦いでも、彼女にあと一手で止めを刺せたのもその力がゆえだ。

 

 およそ無敵の力。オーヴァほどの強度はなくほんの3秒先の未来を読むだけだが、それでも戦闘においては間違いなく究極的とも言えるはずの能力。

 しかしそれは今、ヴァールが縦横無尽に放つ鎖をもって確実に追い詰められていた。

 

「馬鹿なッ!? たしかに俺は今、"視えている"のに……!? み、視えている上でなお、予測できていない動きで割り込まれている! こ、これは!?」

「──演算の通り、やはり未来を見ていたか。しかもどうやら本当に見ているのは貴様でなくオーヴァ・ビヨンドのほうで、貴様自身は無理矢理やつと思念のチャンネルを合わせているのだな。《念動力》で、己の脳を書き換えたか。命知らずの異常者め」

「…………!? ソフィア・チェーホワ!! 貴様、俺と閣下の秘儀を嗅ぎ付けているのか!!」

 

 路地にて向かい合う。激しく息を切らすイルベスタと対照的に、ヴァールはどこまでも無表情で淡々として、しかし悠然と佇んでいる。

 圧倒的だった。元より能力者としての戦闘能力の差もあるが、何よりイルベスタの手札をどうしたことか、ヴァールが完全に掴んでいるのがあまりにも大きい。

 

 しかも対策まで打たれている、それこそが何より理解できないことだ。

 視えているはずの未来を、平気で上回ってくる統括理事へと叫ぶイルベスタの表情には、たしかな恐怖と戦慄が渦巻いていた。

 

「どうやって未来に割り込んでいる!? ありえない、できるはずがないそんなことが!? 貴様、貴様は!」

「未来を見る、と一口に言うがな。貴様やオーヴァ・ビヨンドが認識している"ソレ"は、厳密には未来のヴィジョンでなく"因果"の演算結果だ」

「因果……だと?」

「原因があって結果がある、という世界の根本原理にして本質的な基盤。ありとあらゆるものにあるべきソレを、貴様らは情報として演算し視覚的に取り込んでいる。しかしな、ゆえにワタシにはそれを上回ることができるのだ。因果演算など"我々"には至極当然の行為にすぎない」

「…………き、貴様。貴様は一体、何を言って」

 

 理解不能な理屈。未来予知を因果演算能力として話す目の前の女に、イルベスタは心底からの恐怖を感じている。

 対してヴァールのほうは冷静な、いや冷徹な内心だ。もはやイルベスタはおろかオーヴァのほうでさえ恐れる理由はない──未来予知への対策は、最初から彼女にはできるのだから。

 

 相手が未来を読むのなら、その未来を読んだうえでの動きでさえこちらが演算して先んじれば良い。

 それをも上回って、こちらの演算を勘定に入れた未来予知などは心配する必要がない。そもそも未来予知とは因果演算能力、人間には過ぎた力であるがゆえに。

 その代償を、ヴァールは知っているがゆえに。

 

「スキルではなく、ゆえに能力者ですらない。超能力者こそがオーヴァ・ビヨンドの正体だった。しかして只人には荷が重すぎたな……いかに適性があっても脳が保たん。やつの余命、もはやいくばくもないだろうイルベスタ・カーヴァーン」

「ッ……!」

「ついでに言えば貴様はもっと短い。生来の素養があったオーヴァと異なり貴様は己の脳を無理矢理"そうなるように"作り替えたのだからな。無理無茶以前に自殺行為でしかなく、ゆえに揃って残る時間の少ないのが貴様らだ」

「…………ぐ、く、うぅっ……!!」

 

 完全に見抜かれ言い当てられ、イルベスタは激高に歯を噛み締めた。

 そうだ。そのとおりだ……オーヴァもイルベスタももう、残された時間は少ない。未来予知を行う度に生命を擦り減らしていく感覚が、二人ともにある。

 その先に待つものが死である実感も、また。

 

 元より超能力者だったオーヴァはもちろんのこと、彼女と波長を合わせるように自身の脳を作り替えたイルベスタはその負担もあってさらに短命だ。

 つまりもう、ヴァール達が何もせずとも早晩能力者解放戦線は滅びる。首魁オーヴァとその腹心イルベスタの死をもって、かのテロ組織は崩壊するのだ。

 

「そこまでして貴様らはなぜ、モンスターハザードなどを起こした? 教えてもらおう、その理由を。オーヴァともども死にゆく前に、その身柄を確保した上でな!」

 

 鋭く叫ぶヴァールが再び鎖を放つ。

 死に逃げなど断じて赦さない、断罪の鎖がイルベスタへと奔った!

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