大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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全員集合

 逃げていくイルベスタを背にして、ヴァールはストックホルムに未だ群れるモンスターへと対峙した。相変わらずの無表情ながら、瞳には怒りが宿っている。

 あそこまで追い詰めておきながら、それでも逃さざるを得なかった……痛恨の念が、彼女をわずかにでも苛立たせていたのだ。

 

「…………とはいえ、切り替えねばならん。現実として優先すべきはやはり、眼前のスタンピードから人々の暮らしを守ることなのだから。《鎖法》、鉄鎖乱舞!」

「かたかたかたかたかたかたかた、かたた!?」

「うべぺぺせぺせぺぺぺへせぺ!?」

「敵方も次が最後のつもりでいる、ならば今はモンスターをこそ相手としよう! 鉄鎖一閃!!」

 

 放つ鎖とともに、己のメンタルを整える。うまくいかない現実に、苛立ちを募らせていても仕方がない。まずはできることを一つ一つこなしていくのだ。誰もがそうするように。

 見ればスタンピードも当初よりずいぶん、数を減らしている。アンデッド系やゾンビ系がやはり多いが、それでも町全体を覆いかねない勢いだった軍勢はわずか一区画ほどにまで削られている。

 

 そのなかに一体、明らかに他と格の違う気配を放つモノがいるのをヴァールは視認した。王族めいたマントを羽織った骸骨だ。

 このスタンピードの中核、アンデッドを率いる能力を持つモンスター、リッチ。妹尾の推測していたとおりだったかと、鎖を振るいつつも真っ先に倒すべき敵として見定める。

 同様にしてリッチめがけ、側面から殴り込む者達がいた。レベッカ達だ。

 

「オラオラオラオラどけどけどけどきやがれぇぇぇぇっ!! ヴァールさん、無事ですかァッ!?」

「ウェインくん、先行し過ぎだよ! トマスくんとエミールくんがついていけていないぞ!?」

「さ、さすがに北欧最強! こういう時ほど頼もしいけど、ついていくのも一苦労だぜ」

「うわわわ、もうリッチがこんな近くに!」

「────レベッカ! 妹尾にトマス、エミールも!」

 

 すべてを薙ぎ倒さんとする、まさしく破竹の勢いでモンスターを突破してこちらに来る者、レベッカ・ウェイン。

 その後ろには弟子のシモーネ・エミールやパーティメンバーのトマス・ベリンガムが続き、さらにトマスの師匠である妹尾も後からついてきている。

 

 相当数を減らしたとは言え、一人で賄うのも大変なところに現れた彼女達に、ヴァールは頼もしい限りだとその名を呼んだ。

 放つ鉄鎖を彼女らのいる方向、邪魔をしているモンスター達に差し向けまとめて貫き道を開ける。遠くからでも目印になるレベッカの巨体の下に彼女は駆け、そして辿り着いた。

 合流である。

 

「すまん、助かる! そしてイルベスタは逃がしてしまった、火野も見たぞ!」

「こっちも火野についちゃなんも知りませんが、もしかしたらエリスちゃんとラウエンくんになんぞあったかもしれません! こうなりゃさっさとリッチとモンスターどもを片付けて、あの子らのところに行かねえと!!」

「ラウエン……シェン・ラウエンか! 合流できたのだな、そして今はエリスと一緒か!」

「火野と一騎打ちしていた彼女の下に助力してもらっています。ラウラちゃんを避難所に連れて行っていたトマスくんが上手いこと、拾えましてね」

「そうか。ならば我々は早急にリッチとモンスターどもを仕留めるぞ!」

 

 3グループに分かれていたパーティの状況を相応に把握し、ヴァールは即断即決で指示を飛ばした。

 火野と交戦した上で逃がした形になるエリスとラウエン、二人の安否が気にかかる。彼女らの下に向かうためにも、ここは残った全戦力でリッチとスタンピードを鎮圧するのだ。

 

 ──そう判断した矢先だった。今度はリッチの背後から、猛烈な勢いでモンスターの数が減っていくのが《気配感知》にて知れた。

 さらなる援軍か? 考える間もなく、それを成しただろう者達が天高く飛んで昼頃の空、中天に座する太陽の下に躍り出た!

 

「星ィィィ界ッ!! 天狼飛翔拳ンンンンッ!!」

「《念動力》! ナイフよ、私達を仲間の元へ導いて──ヴァールさん! レベッカさん!!」

「っ! エリス、無事だったか!」

「ラウエンくんもいるじゃねえか!」

 

 モンスター複数体をまとめて蹴り上げる剛脚、シェン・ラウエン。そしてスキルで操作した何本ものナイフをもって、ヴァールの鎖が討ち漏らしたモンスターにとどめを刺していくエリス・モリガナ。

 まさに今、モンスターを片付けてから探しに行こうとしていた当人達だ……無事であったどころか、よもやこちらの加勢に来るとは。ヴァールがエリスの、レベッカがラウエンの名を呼び叫ぶ。

 

 天高く舞う二人もまた、その声に地上を見て仲間達を視認した。そのままモンスターを相手取りながら急降下していく。

 数秒の後、着地。ヴァール達のすぐ近くに舞い降りたその姿は、エリスはまさに天女さながら、ラウエンは稲妻めいた印象を見る者達に与えていた。

 

「遅れました! すみません! そしてもう一つごめんなさい、火野源一をも逃がしてしまって!」

「モリガナさんの責任ではありませんッ統括理事ッ!! 私、シェン・ラウエンとしたことがッ、敵に苦戦してしまったが故ですッ!!」

「気にするな、ワタシもイルベスタ・カーヴァーンに逃げられたのだ、人のことは言えん。何より無事でよかった、エリス……ラウエン、君もだ。こうして会うのは初めてになるな」

「謝謝ッ! 遅ればせながらシェン・ラウエンですッ! よろしくお願いします、ソフィア様ッ!!」

 

 開口一番謝罪を口にする二人だが、疲労困憊であったり傷を負った姿を見れば、激闘の果てに取り逃がしたことがわかる。

 イルベスタのこともあり人のことをとやかく言える筋合いにないヴァールは当然、彼女らを労ったうえで初対面となるラウエンをも迎え入れた。

 スタンピードの最中。ここに、パーティメンバーが全員合流したのである。

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