すみませんー
英雄としての凱旋を果たしつつ、ストックホルム市街にあるWSOスウェーデン本部施設に入り、会議室にて集結するソフィア達。
室内にはWSOのエージェントが、ところ狭しと並んで座っている……元よりストックホルム在住の職員もいれば、ソフィアの指示に応じて北欧全土から集まってきた者達もいる。
これらすべて、これより先に控えるノルウェーでの最終決戦に向けて動員される予定の人員だ。この場にはいないが、さらに末端の人員まで含めれば1000人は下らない数の探査者が動くことになるだろう。
能力者解放戦線と各地で戦っていた者達が、すべて投入されるのだ。オーヴァ・ビヨンド以下解放戦線を、決して逃さない包囲網を形成するためにである。
「──ストックホルムのスタンピードは鎮圧され、能力者解放戦線メンバーの残りであるイルベスタ・カーヴァーンと火野源一は逃走しました」
そんな面々を前に、ソフィアは会議の主導権を握り、スピーチならびに今後についての話を展開している。
今回の第二次モンスターハザードに対するWSOの動きは、あらゆる面においてソフィアが総責任者としてすべての指示を行っている。
エリス達とともに最前線で戦いながら、各地で活動するエージェント達とも密に連携を取り情報網を構築。いかなる場合であっても解放戦線の動きを即座に読み取って対応し続けてきたのだ。
これにはエリス達パーティメンバーも、やはり彼女は桁違いだと驚きと敬意、畏怖を抱かずにはいられなかった。
そんな永遠の探査者少女の、演説はなおも続く。
「これをもってスウェーデンも解放戦線の影響下から脱し、北欧は残るノルウェーを除いて各国、解放されたことになります。まずはこの場にいるエージェントならびに現地WSOスタッフ、全探組職員、そして探査者の皆様方に感謝と敬意を捧げます」
「統括理事の御指示あればこそです」
「うふふ、ありがとう……そして今般、ついに私達は敵組織の本拠地、その詳細な地点についての情報を掴むことができました。どうやら敵方も決戦を望んでいるようで、わざわざご丁寧に教えてきた形になります。向こうももはや、後に引けない情勢ということでしょう」
「ノルウェー北部、ノールノルゲ……さらにそこからピンポイントな位置情報が、敵自ら伝えてきたと!」
ざわめく室内。ここに来てついに判明した敵本拠地の場所については驚くべきものの、しかしてなお不安と疑念もつきまとうがゆえの困惑と戸惑いの声があがる。
WSO側でも現時点で、ノールノルゲのどこかに敵の本拠地があることは掴んでいた。これはイルベスタや火野、あるいはニルギルドとの交戦のなかで得たものというよりは、各地にて捕らえた他の構成員を尋問して判明させたものでもある。
ゆえにそこまでは彼らも信憑性があると信じているのだが、さらに詳しい部分、決定的な位置についてをよもや敵のほうから教えてきたというのだ。それが罠でない保証はないと、率直な危惧を覚えないのも無理があるだろう。
敵の言うことを鵜呑みにすることの危険性。それはソフィアももちろん理解していたが、しかして今回ばかりは信じても良い情報だと彼女は結論を下している。
続けて、疑問の声へと答える。
「疑わしく思う気持ちは分かります。しかし私はその情報、火野源一が語ったソレは信用に値すると判断しました。敵方のカーヴァーン、火野双方に決戦の意志が強く感じられ、また首魁のオーヴァ・ビヨンドとカーヴァーンにはもはや、時間が残されていない。それらの事実からも、今さら逃亡する意思は薄いものと見ています」
「時間が……残されていない?」
「ええ。オーヴァ・ビヨンドは自身が持つ予知能力によって脳神経への負担が著しい。また、彼女の予知を横合いから受信するよう自らの脳をスキル《念動力》で改造したカーヴァーンも、同様の負担で余命いくばくもない状態です。これは交戦中、他ならぬ私自身が突き止めましたので確実なものと思ってください」
「な……!?」
「未来予知、脳神経への負担!? ……ね、《念動力》で自らの脳を、か、改造……」
明かされる敵方の事情。もはや組織としても個人としても先行きのない現状──死期の近づいている首魁とその補佐。
これにはエージェントばかりか、ソフィアの仲間であるパーティメンバーも驚愕せざるを得ない。特にエリスなど、イルベスタと同じく《念動力》で余命わずかな状態になってしまったのだからなおのことだ。
未来を見る。それだけでも驚くべきものを、その能力によって自滅が間もないなどと信じがたい話だ。
しかして信じる外ない。他ならぬソフィア・チェーホワ当人が実際にイルベスタと戦い、そのなかで得た情報であり見抜いた状況なのだから。この場にいる誰一人、彼女が読みを違えるものとは思っていない。
「敵の事情は未だ分かりません。ですがオーヴァは私に何かを伝えようとしていて、あるいはそのために今回の騒動を引き起こした可能性さえあるのです。残り僅かな生命でそこまでのことをやるというのならば、生半可な覚悟ではないでしょう」
「もはや逃げても死が間近だと言うのなら、それは、そうかも知れませんが……」
「無論、他に拠点があることも想定してノルウェー全域にあなた方エージェントによる包囲網を構築しますが。それでもやはり私は、ここに来て敵が搦手に手を伸ばすとも思えないとは言っておきましょう」
やんわりとだが、たしかな断言。確信を込めて言い放つソフィアは、ヴァールからのメモで粗方のここに至るまでの事情を知っている。
オーヴァ・ビヨンド。未来予知という名の因果演算を悪用する、もはやWSOばかりか"かの領域"においてさえも大罪人と言えよう輩。
彼女が愛する相棒が、その女の粛清に向けてすでに腹を括っているのがメモの文面からでも伺えた。
ならば自分はそこに向けてサポートするのみだ……今も昔もソフィアはヴァールの、ヴァールはソフィアのために力を尽くすのだから。