会議後、エージェント達はさっそくチームごとに分かれてそれぞれ、別ルートからノルウェーへと移動するために出立していった。
密やかに、慎重にしかし速やかにだ……念のためノルウェー全土を虱潰しに調査しつつ、目下のところ本拠地と思しきノールノルゲ最東端、フィンマルク県のヴァードーめがけて少しずつ、少しずつ包囲網を狭めていくのだ。
すべては決戦に向けて、一人たりとて敵構成員を取り逃さないために。
第二次モンスターハザードはいよいよ大詰めを迎えようとしていたのである。
「ここから半月ほどかけてWSOエージェントや北欧全土の全探組の職員、そして有志の探査者達が包囲網を狭め、件のヴァードーにまで調査を追い詰めていく。我々はノルウェーへと移動後、身体を休めつつ待機。その後に敵本拠地へと向かう」
「今回のスタンピードも大変だったからなァ……最終決戦を前に英気を養う意味もあるんだ、ここらで一息つこうってこったな!」
「レベッカさん、すでにガッツリ呑んでますね……」
パーティメンバーだけが残った会議室内にて、ソフィアから人格を交代したヴァールが今後の予定を告げれば、いつの間にやら酒瓶を手にしてあまつさえ呷りだしていたレベッカも陽気に続ける。
アルコールのキツい、バーボンウイスキーだ。それを水でも飲むくらいの勢いでラッパ飲みする豪傑ぶりに、弟子のシモーネは苦笑いした。
そう、休息だ。半年ほどのバルト三国での活動からスウェーデンまで渡り、さらにストックホルムまで強行軍した末に大規模なスタンピードをも潜り抜けた。
その道中で火野源一など、敵メンバーをも幾度となく撃退しながらだ。その活躍は華やかかつ値打ちのあるものだが、しかしてそれゆえにパーティ全体に蓄積した疲れやダメージも馬鹿にならないものがあった。
それらをこの半月で癒し、万端の準備を整えてから最終決戦へと臨む。ヴァール自身もいくらか疲れを感じているところはあったので、レベッカや妹尾と話し合って出したこのプランには概ね賛成を示している。
そしてヴァールが認めるならば当然、仲間達にも否やはない。彼ら彼女らとて無視できないほどの疲れ、ダメージを感じていたのは事実なのだから。
「半月……その間に故郷に手紙を送りましょうか。ラウラのこと、お父さんやお母さん、アーロやアイナにも伝えたいですし」
「おう、そうだ。ラウラちゃんはここの施設の避難所に送り届けたし、このあと迎えに行ってやってくれよエリスちゃん。あの子からしてみれば、やっぱりエリスちゃんの出迎えが一番ホッとするだろうしな」
「あの子の処遇についての事務手続き等はWSOのほうで行っておく。戦後、スムーズにお前と二人、故郷に帰れるように計らうのでそのつもりでいてくれ」
「ありがとうございますトマスさん、ヴァールさん」
降って湧いた半月の休み。それを養生に使いつつもできることを成さんとするエリスに、トマスとヴァールも協力を惜しまない。
ラウラの安全と安心もそうだし、エリス自身の平穏無事な帰郷についてもそうだ……すっかりとこの戦いのなかで花開いた才ある探査者を、そして心許せる莫逆の友を、彼女らは決して無碍にはしないのだ。
だがその裏で、エリス自身はただひたすらに覚悟を決めていた。もはやこの身体は戦後まで保たない、であればせめて最終決戦において、精一杯役に立てるように何もかもを使い果たして死んでいこう、という決意である。
それゆえに今のうちにラウラ関係のことを整理しておきたかったのだ。
戦後にはもう、自分はあの子の傍にはいてやれない。だからこそ、人生において最後になるだろうこの半月の猶予のうちに、心残りのないようにできることをしておこうと思うのだ。
誰にも悟られないまま、エリスは己の人生のすべてに決着をつけようとしていた。
「半月かあ。ふむ……せっかくだからラウエンくん、カーンさんの縁者である君と少しばかり交流を深めたいと思うんだけれど、どうかな?」
「お、そりゃ良いや教授! ラウエンの腕前も含めてカーンさんの里での頑張りとかよう、手紙じゃ分かんねえとこまで聞きてえよな酒とか交えて!」
「妹尾教授、レベッカ先生! 願ってもないことですッ、ぜひともお付き合いさせてくださいッ。俺のほうからも同年代であるシモーネさんやトマスさんとも語り合いたいものだッ!! ともに切磋琢磨したいからなッ!!」
「えぇ……? い、いやあのそれは良いんですけど、なんていうかノリが暑苦しいな〜って……」
「それは失礼ッ、俺は昔からこうで、始祖カーンからもよく指摘されているのだがなかなか治らんッ! 意外と緊張しいなのを勢いで誤魔化しているのだッ、勘弁してほしいッ!!」
一方でパーティの新メンバー、シェン・ラウエンを交えた交流を提案する妹尾。
レベッカやシモーネ、トマスさえ巻き込んで彼の師、星界拳初代にしてシェン一族の長シェン・カーンについての思い出話にも花を咲かせるつもりだ。
シモーネなどは持ち前のコンプレックスもあり、またそもそもラウエンの暑苦しさが性に合わないこともあり乗り気ではないのだが……
それをもにこやかな笑顔で受け止め、彼は戦闘中にはない気さくさで新たな仲間達との親交を深めようとしていた。