エリスとラウラが自室にて寛ぐ一方、シモーネ達はホテル内にて設けられたバーにおいてひと騒ぎしていた。
いや、厳密にはレベッカが一人で盛り上がっているようなものだが……付き合う形で酒を飲んでいる妹尾やトマス、ラウエンともども、シモーネも軽くハイボールを嗜む程度にだが呑んでいるのである。
「だっははははは! いやあ仕事終わりの酒はやっぱり最高だぁ!! おうラウエンくん今日は食って飲めよ、よく来てくれたぜ助かったのなんのってぇ!!」
「畏れ入りますレベッカ先生! ありがたく頂戴いたします! 謝謝ッ!!」
「ラウエンくんはノリが良いというか、いわゆる体育会系だね。それにいかにも熱血漢って感じだ」
「レベッカさんに付き合って飲み潰れないようにだけしてもらわねえとですけどね。っと、かく言う俺も腹ペコだ、しっかりエネルギー補給せんと」
高笑いするレベッカの隣にて、新進気鋭のパーティメンバーたるシェン・ラウエンがテーブルに並べられた料理を食べ、酒を飲む。
まさしく舌鼓を打つ心地だ。異国の絶品料理の数々に、里ではまず飲めない高級酒を味わえるということで、彼自身もすっかりテンションが上がっている。
若きシェンたる彼は健啖家であり、さらに酒豪でもあった。
その様子を見てしみじみつぶやくのが妹尾だ。こちらは弟子のトマスともども、あくまでマイペースに酒を飲み食を進めている。
在りし日の盟友カーンの直弟子、戦闘時の実力も折り紙つきながら日常での振る舞いもなかなかに興味深い。
カーンはどちらかといえば食が細く、酒のほうをよく呑む質だったが……ラウエンは逆で、むしろ食事に目がない様子なのだ。
トマスもトマスで、空腹を満たすべくガッツリと食事に手を付けている。時折、シモーネを横目にしながらだ。
順当に宴を楽しんでいる四人とは裏腹に、彼女だけはどこか翳りがあった。妹尾とトマスはそれに気づいており、それゆえに多少彼女を気にかけていた。
「シモーネさん、君も今日はお疲れ様だったね。しっかり食べてここから半月ほど、ゆっくり静養に努めるといい」
「そーだぜシモーネ。連中との最後の戦いまでに心身ともに整えとかねえとだ。俺もみんなもそのつもりだぜ、お前さんもそうしてみな」
「教授、トマス……はい、ありがとうございます。まあ、そうします」
ここのところ情緒不安定の気が見られる彼女を気遣う師弟。その心持ちをありがたいとしつつもしかし、シモーネはやはり気が晴れない自覚を抱いている。
理由は明白だった。師匠レベッカの隣で酒を呑む、ラウエン。彼の強さに打ちのめされていたのだ。
(エリスに加えてラウエンさん……トマスはともかくだし、ラウラなんてガキンチョはどうでもいいにしても。私と同世代かそれより下の世代で、私より強い探査者が、こんなに……)
いよいよ隠せない、無視できないショック。すなわちそれは、このパーティのなかで自分が一番弱いのではないか、という疑念だ。
エリス、トマスまではまだ目を逸らせていた。エリスは経験が浅くトマスは戦闘においては支援寄り、ゆえに戦闘特化で経験もある自分こそが比較的に上位だと、そう思えていた。
なんなら妹尾相手にも勝ち目があると思っているほどだ。
ところがこの半年ほどの間で、妹尾やトマスはともかくエリスの成長ぶりがやはり目についた。不足していた経験を補い、レベッカやヴァール、妹尾からの薫陶を受けて戦法を身に着け。
そして火野やスタンピードを相手に幾度となく戦ってきたなかで上がったレベルが、いつの間にかシモーネをも置き去りにして、彼女をパーティの中核にまで押し上げていたのだ。
それだけでも苛立つ思いを抱えていたところに、ダメ押しのように現れたラウエン。彼に至っては明確にシモーネより強く、しかも体術のみでという理解不能ぶりだ。
自分と同じ戦闘特化で、自分より強い探査者が二人もいるパーティ。そこに気づいてしまえばもう駄目だった、シモーネは嫌でも認めざるを得なかったのだ。
──自分が、パーティのなかでは一番実力が低い、と。
無論、それは相対的な話であって実力不足を意味しているわけではない。シモーネは1957年時点の探査者界隈にあっては間違いなくトップクラスであるのだし、それはパーティメンバー誰もが認めている。
それを、シモーネ自身が受け入れていないだけの話なのだ。持ち前のコンプレックスゆえに、彼女だけが自身の評価を受け入れられないでいた。
(こんなはずじゃなかった……この戦いで私は、レベッカさんの後継者として、英雄として大成するはずだったんだ。そしていずれはソフィアさんの後継者にさえなって、WSOを、ひいては世界そのものをこの手にするはずだったんだ。なのに、どうして……)
そうして彼女の奥底から、ついに引きずり出されたその野心。シモーネの願望の本質とはすなわち、ポスト・ソフィア・チェーホワ。
あの圧倒的な実力と権力、そして美貌と若さ……およそこの世のすべてを手にしていると言える"永遠の探査者少女"をも超えて、自身がその位置に立つ。
それこそがレベッカの弟子たるシモーネ・エミールの思い描いていた理想だったのだ。
それが、現実ではこの有様だ。理想にはほど遠い、邪魔者だらけのリアル。
シモーネはそれがどうしても認められず、ハイボールを一息に飲み干す。過ぎた大望を抱く女の、苦々しい挫折の味わいだった。