大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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それぞれの晩餐

 シモーネの内心はともかく、パーティの交流は続く。いよいよエリスとラウラもやってきて今や、ソフィアとヴァールを除くメンバー全員での晩餐が開かれようとしていた。

 田舎娘ながらこの半年で、ある程度の作法を身につけたエリスが丁寧に料理に手を付けだすのと同時に、その妹分たるラウラは野生児さながらに肉の塊にかじりついていたのだ。

 

「がぶり! がぶむしゃがぶむしゃ! ……おいしい!! お姉様、このお肉すっごく美味しいよ!」

「さすがにはしたないわ、ラウラ。フォークとナイフを使って、手掴みしないの」

「はーい!」

 

 いわゆるローストチキンの、脚の部分にアルミホイルを巻きつけて持ち手にし、豪快に手掴みするラウラをエリスは苦笑いとともに嗜めた。

 彼女の両手にはナイフとフォーク。流麗な動作で少しずつ肉を切り分けて口に運ぶ姿は、パーティメンバーばかりか周囲の客、あるいはバーの店員までをも魅了する美しさがある。

 

 そんな姉に言われては、天真爛漫なラウラもおとなしく従うばかりだ。調子の良い返事をする少女に、シモーネは呆れ返りながらも酒を飲み、エリスに話しかけた。

 

「エリスさあ……ラウラにもそのへんの作法とか教えてあげれば? アンタのだって付け焼き刃だけどさ、まるで教えないよりかはマシでしょ」

「あはは、一応、少しずつ教えてはいるんですけどね……仰るとおりで私も人のことをとやかく言えるものではありませんし、やはり最優先は能力者解放戦線との戦いに備えての訓練ですから。ラウラのことは、すべてが終わったあとに家族に託したいなと」

「ふーん……まあ、ガキンチョの躾よりかは敵を倒すのが先ってのは、そりゃそうだよね」

「言えば聞いてくれる、良い子ですから。お見苦しいかと思いますがシモーネさん、どうか温かい目で見守ってくださると嬉しいです」

 

 穏やかに答えるエリスに、赤らんだ頬でシモーネははいはい、とだけ返してハイボールを飲み干し、次いでウイスキーのロックをダブルで注文した。

 同時に少しばかり反省する……気に入らないにしても、今のはさすがに絡み酒だった。仮にも仲間なのだから最低限、外面くらいは取り繕わなければならない自覚はあるのに。

 

 これも酒の魔力か、と隣のトマスを見る。彼も一連のやりとりを見ており、呆れつつも笑いながら、シモーネにエールの入ったグラスを渡した。

 むしろもっと飲めと言うのだ。

 

「シモーネ、今日ばかりは飲め飲め。お前さんもいろいろ大変なのは、俺も俺なりに分かってるからよう」

「ふん……何さ急に。私にさんざ説教垂れといて。言われなくても呑むけど、いただくわそのエール」

「別に嫌いだから言ってるわけじゃねえって。何度も言うがお前にゃお前の良いところがあるし、そいつは誰かと比べることでもねえのさ。当たり前のことすぎて指摘されるまでもないことなんだが、今のお前さんにゃ、ちゃんと言ってやるやつが一人くらいはいないといかんみたいだしな」

「同い年が兄貴みたいな言い草しないの……私はそれでも、プライドってのがあんのよ」

「…………呑まれんようにだけしとけよ」

 

 苦く笑って、それでもそう言うしかないシモーネにトマスはもう、肩をすくめて忠告するしか無かった。

 ここまでくればもう、後は彼女本人が決めるべき話だからだ……曲がりなりにもプライドを口にしたならば、余人に挟む口などない。そういう気遣いをも込めての、最後の助言だった。

 

 そんなシモーネとトマスのやりとりを、少し離れた席から見て妹尾はジントニックを呑む。レベッカ、ラウエンと三人卓を囲んでいるのだ。

 悩み、葛藤するのも、それを支え、助けるのも若人らしくはあるか。そう考えつつ、もう一人の若き世代たるラウエンにも声をかけてみる。

 

「ふむ……ラウエンくん、時に君も相当な腕前だけれど、目指す理想とか目標みたいなのはあるのかい? 何、少しばかり気になってね。ほんの知的好奇心だよ」

「目標ですか? ……それは無論のこと星界拳を極め、いつしか我が師にして始祖カーンがソフィア様と結んだ約束を果たすことです! 我が一族はみな、それを目標として日夜鍛錬に励んでいますからッ」

「約束。ソフィアさんとのか……カーンさんからも薄っすら話を聞いたことはあるけど、君はどうかねウェインくん」

「あー? ……おーう、私も12年前にチラッとだけ聞いたわなぁ。つっても仔細はとんと知らんが、なんぞソフィアさん的にもヴァールさん的にも大事な話みたいだぜえー?」

 

 期待のニュービーにして、兄弟子ともいえるカーンの弟子。その目標を問うてみたところ、まさしくカーンの再来としか言えない返答が返ってきた。

 ソフィアとカーンの約束。12年前にも当人から少しばかり話を聞いた覚えはあるが、結局その詳しいところは聞けずじまいだった。レベッカも同様のようで、ウイスキーを飲みながら首を傾げている。

 

 思えば、と考える。カーン、妹尾、レベッカの三人はチェーホワの三弟子とまで呼ばれるほどに彼女と近しい間柄だが、とりわけカーンはさらに年季が違う。

 妹尾やレベッカが出会うよりも数年早く出会い、彼女の薫陶を受けていたのだ。そしてその始まりには、件の約束とやらが交わされていたようにも思う。

 

 一体、それはどういった約束なのか。カーンほどの御仁が一族を挙げて里を興し、星界拳を鍛えることに全精力を傾けてまで取り組んでいるその、約束とは。

 一度気になりだしたら、どうにも気になるのが学者肌の妹尾の長所であり短所だ。

 

「──む、ここにいたか。ご苦労諸君、ワタシも食事をいただくとしようか」

「おや、これはいいタイミングで」

「せっかくだしちょいと聞いてみっかな、教授よう。おーいヴァールさん、こっちこっちーッ!!」

 

 ゆえに、ちょうどいいタイミングでやってきたヴァールを見る。

 こうなれば直接たしかめてみればいいのだ、聞いてみれば良いのだ。レベッカも同じ思いでいるのか、互いに顔を見合わせてうなずく。

 そうして古くからの付き合いである二人は、ヴァールを自分の席へと誘った。

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