最終決戦を前にした、休息がてらの修行の日々。概ね1週間ほどをそれに費やした後に数日の休息を挟み。
ソフィア・チェーホワ率いる対能力者解放戦線チームの面々はいよいよストックホルムを出立し、ノルウェーは北部、ノールノルゲの最東端を目指すべく準備を整えていた。
すなわちフィンマルクのヴァードーにあるという、敵組織首魁オーヴァ・ビヨンドの居住地めがけて進撃するのである。
長距離移動用のバスをチャーターし、WSOのエージェントが運転しパーティメンバー全員が乗り込んでいる。ストックホルムからヴァードーまでは、途中休息を挟んだとしても二日、三日で辿り着ける距離だ。
「──ノルウェー国内のスタンピードも、もうすでにほとんど鎮圧状態にあるわ。この半月で構築した包囲網を少しずつ狭めた結果判明したのだけれど、やはり解放戦線はすでに壊滅寸前と見るべきでしょうね」
バスの車内にて、ソフィアが仲間達に向けて捜査状況を説明している。
この半月ほどの準備期間中、エージェントや現地探査者を総動員してノルウェーの端から端までくまなく包囲網を敷いた末に判明した、敵勢力の現状について語っているのだ。
ここに至るまで北欧全土で頻発していたスタンピードだが、ソフィア達が巡り解放してきた国々は言うに及ばず、未だ訪れていない最後の国であるノルウェーでさえもほぼ鎮圧状態にあった。
ソレの意味するところはすなわち、スタンピードを引き起こしていた能力者解放戦線がもはや、まともに活動ができないほどに弱体化していることを示唆しているものと彼女は見ていた。
ノルウェーに敷いた包囲網を狭めながら調査をしていくなかで、その推測を確信できる段階にまで至らしめたのだ。
顎に手を当て巨躯の女傑、レベッカがソフィアに問いかけた。
「ってーとソフィアさん。連中にゃもうまともな人員は大して残っちゃいねぇってことですかい?」
「そう見るべきね。そもそも各国で相当数の構成員を逮捕しているのだし、ノルウェー内で散発していたスタンピードも、それを起こしていた構成員もろとも逮捕しているわ。そのなかに例の二人……火野もカーヴァーンもいなかったけれど、逆に言えば彼らとビヨンド以外は概ね捕まえきったと見ていいでしょうね」
「つまり、残る敵は三人のみ。オーヴァ・ ビヨンドとイルベスタ・カーヴァーン、そして火野源一……ということですね! ソフィア様ッ!!」
気炎を吐くラウエンに無言でうなずく。すでに大勢は決したと言っていいものの、しかし敵の中核と思われる三人は未だ健在なのだ。
これまでにも何度となく渡り合ったイルベスタと火野、そしてまだ見ぬ首魁オーヴァ。この三人を倒しきって、逮捕しない限りはこの第二次モンスターハザードは決定的に解決したとは言えないのだろう。
明確に見えてきた終わり、決着。近くなってきたゴールにエリスやシモーネ、トマスもまた静かに力を漲らせた。
もうすぐだ、もうすぐこの激闘も終わる。半年に亘っての大騒動だったが、ついに決着の時が来たのだ……正義感と使命感、そして責任感が、改めて若き探査者達の志を熱くする。
そんな若者達を頼もしく思いながらも、ソフィアはさらに続けた。
現状のノルウェーの様子、そしてそこから確信できた能力者解放戦線の状況。それらを勘案しての、今後の決戦に向けての動きだ。
「すでにヴァードーにもエージェントによる偵察は及んでいます。今のところ町村部には被害もなく、人々はいつも通りの暮らしをしているようですが……件のオーヴァの館と思しき、海沿いの洋館周辺にはかなりの数、モンスターが巣食っているという報告もあがっています」
「……向こうも決戦に備えているということですか。言うことは当然聞かないながらも、野に放しているだけで我々の手を焼かせるモンスターを多数、拠点周辺に配置していると」
「そうなるわね、妹尾くん。ゆえに私達が現地に着いて作戦を起こす際にはまず、そのモンスター達を倒しきって敵の本拠地を丸裸にする必要があります」
「WSOのエージェントに全探組派遣の探査者も動員して……あぁ、なんなら俺らも何人かそっちに割かれる必要はあるかもっすねえ」
敵本拠地たる洋館、その周辺に解き放たれた多数のモンスター。攻め入るにもまずはモンスターを倒しきらねばならないという状態に、トマスが策を講じて提案した。
当然、決戦の際には別働隊の人員も総出で駆り出される。相当な数になるが……この場に集う当代最高峰の探査者達と比較してはやはり、戦力面で不足が生じかねない可能性もある。
それゆえにパーティからも何名か、モンスター討伐に駆り出すべきだとトマスは言うのだ。
そしてその間に残りメンバーが洋館に突入、解放戦線の三人と決着をつけるのだと語る。
「この際なんで提案しますが、俺、シモーネ、レベッカさん、妹尾教授の四人はモンスターのほうに。ヴァールさんとエリスちゃん、ラウエンの三人が解放戦線相手のほうに行く……適材適所ってことならそれが良いかなって思いますぜ」
「ちょっ……!? トマスあんた! なんなのよ、その人選は!? なんでそうなるのよ、ここまで来てモンスター相手で終わらせろっての、私やレベッカさんに!?」
「トマスよう。あんたが言うからにゃ根拠があるんだろうが、さすがにシモーネの言うことももっともだぜ? なんでそういう話になるのか、まずは言ってくれや」
トマスなりの意見が述べられ、すかさずシモーネとレベッカの師弟から疑義が飛んだ。最終決戦なのだから当然、敵メンバーとの直接対決を想定していたのだ、この二人は。
それをあえて周辺のモンスターを相手にしろと言われても、すんなり納得のいくものではない。
それゆえにレベッカが、冷静ながらも鋭い視線で質問を投げかければ……トマスもまた、冷静沈着な眼差しで真っ向から師匠の友を見つめ返し、人選の根拠を話し始めた。
最終決戦に際してあえてメンバーを二手に分ける、その理由である。