大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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未来に平和を

「パーティを二手に分ける理由、そしてその人選のわけってのは平たく言えば適性の話です。対人戦に特化してる三人と、モンスター相手のが慣れてる四人とに分けたって感じです」

「一応聞くけれど、全員でまずはモンスターを叩いて、しかる後に全員で洋館に踏み込む選択肢はあるのかしら?」

「そっちも考えましたがね……七人全員がモンスターを相手してる間に万一にも逃げられちゃ敵わない気もするんですよ。そのへん連中は抜かりねえ、なんせ未来をも見るってんなら逃げ道なんざいくらでも確保できようもんでしょう。洋館内に隠し通路だってないとも限らないし、足止め程度にでも先んじて連中とやり合う人員は欲しいと思ってます」

 

 ノルウェー最東端、ノールノルゲはフィンマルクのヴァードー目指してバスが走る。そのなかで現地到着後の打ち合わせをするトマスが、自身が思う策を披露していた。

 すなわち敵本拠地の洋館内に、まず突入するのはヴァールとエリスとラウエンの三人。残るレベッカ、妹尾、シモーネそしてトマスは周辺のモンスターを片付けてから後追いする、という策である。

 

 洋館周辺にも多数、モンスターが解き放たれていることを考えればなるほど、そちらをますは片付けるべきという理屈はソフィアにも理解できる。

 同時に洋館内にいるだろう、能力者解放戦線の三人が逃げ出しかねないことを考えれば最低限の人数だけでも割いて、足止めなりそのまま倒すなりしたほうが良いというのもまた、分かる。

 

「オーヴァとイルベスタは余命幾ばくもないから、今さら逃げるとも思わないけれど……火野か、問題は。ううむ」

「元からの殺人鬼が、野放しになればどういうことになるかは火を見るより明らかだもんなァ……」

 

 特に妹尾やレベッカが気にしているのが、火野源一の逃走だった。未来予知の影響によりもう長くはないオーヴァとイルベスタはともかくとして、火野はどうあれ健在だ。

 であればあの男だけは逃げ延びてまた、どこぞかで悪辣な殺人なりスタンピード誘発なりをしでかす可能性は大いにあり得る。

 

 そもそもが快楽殺人鬼なのだ……多少無理な策だとしても、これ以上あの男を野放しにすべきでないというのは、他のパーティメンバーからしてもうなずける話である。

 

「で、オーヴァとイルベスタと火野を相手取るってなると正味な話、この七人のなかだとヴァールさんにエリスちゃん、ラウエンの三人が特に適性がある。そいつぁシモーネ、お前さんにも分かってるだろ」

「う……」

「モンスター相手はもちろん対人戦にも長け、かつ未来予知を完封できるヴァールさん。そのヴァールさんから対人戦特化戦術を仕込まれたエリスちゃん。そんでもって武術家として人間相手の戦いなんざ慣れっこのラウエン。どうしたって探査者として、モンスター相手が当たり前になってる俺ら他の四人にはない特長がある。そいつを加味しての人選なんですわ」

 

 人選の根拠における、中核の部分を語るトマス。つまりは対人戦に対する技術の高さが肝であり、それゆえにヴァール、エリス、ラウエンという選択に至ったのだ。

 三人ともそれぞれ、人間を相手にした戦闘法のエキスパートと言ってもいい。メンバーのなかで若手のエリスでさえ、この半年の間に対人戦のノウハウを仕込まれ続けた。その分野にあってはシモーネどころかレベッカ、妹尾にさえ互角以上なほどだ。

 

 何よりそれ以外の四人はやはり、今回の事件以前から名うての探査者であることも影響していた。早い話がどうしても戦い方がモンスター相手のものであるため、対人戦に回すよりはモンスター戦に回したい思いがあるのだ。

 これは探査者としての本領に関わる部分であるため、否やを唱えたいシモーネやレベッカも反論しづらい。そもそも人間を相手に力を振るう存在であるべきではないのだ、探査者は。

 

「まあ、私達探査者は元よりダンジョン探査が本業。つまりはモンスターが本来の敵であって人間相手なんてのは念頭に置いてないからねえ」

「第一次以前までの私ならともかく、だねえ。今回の事件で12年ぶりに、人間相手にドンパチしたのはあるし、ねえ」

「…………うーん。それを考えちゃうと、たしかに適材適所って話は分かる、けど……」

 

 弟子の策、その理論に得心して妹尾とレベッカは賛意を示すものの、やはりシモーネは渋い顔をしている。

 たった三人で敵の本拠地に踏み込むというリスクの高さへの懸念もあれば、そんな名誉ある立場に自分が参加できないことへの苛立ち、エリスがそこにいることへの嫉妬もある。

 

 ゆえに彼女がちらとエリスを見た。相変わらず憎たらしい、高潔で正義と使命に溢れた眼差し。

 その上で完全に覚悟を決めた様子で、彼女は力強くうなずくのだ。それで行くべきだ、と。

 

「私は、トマスさんの策に賛成します。モンスターから近隣の人々を護るため、まずはそちらを対処すべきとは思いますが……同時にこんな事件を引き起こした者達を、今度こそ逃さず追い詰めるために最低限でも戦力は割くべきです」

「お姉様……大丈夫なの? 危ないよ、三人きりだなんて」

「心配ないわ、ラウラ。ヴァールさんやラウエンさんも一緒にいてくれるのだし、何より……誰か一人にでも逃げられてしまって、さらなる災禍が生み出されること。それこそが本当に危険なことだもの。それを防ぐためなら、どんなことでも私はします。何があっても、平和な未来を護るために」

 

 隣に座る妹分の頭を撫でて、慈しみながらも……エリスの胸中には、覚悟と焦燥がたしかにある。

 次の決戦で終わらせる。終わらせなければならないし、どうあれ"その先"がもう自分にはない。命が尽きかけているのはオーヴァとイルベスタだけでなく、エリス自身もまた同じなのだから。

 

 誰にも悟られないままの、尽きかけている命。

 それを抱えるからこそ、彼女は多少リスクがあってもできることを精一杯、力の限りやっておきたいのだ。

 先の未来へ、平和を届けるために。

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