大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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決戦前夜

 対能力者解放戦線、最終作戦決行。

 WSO統括理事による号令は瞬く間に現地ヴァードーの探査者達に伝わり、いよいよ事態が決戦の空気に引き締まろうとしている。

 敵本拠地周辺のモンスターを総出で倒し、その間にヴァール、エリス、ラウエンの少数精鋭三人で突入する作戦だ……そしてこれをもって解放戦線を撃滅し、半年以上にも及んだこのモンスターハザードに終止符を打つのである。

 

 フィンランドからはじまりエストニア、ラトビア、リトアニア。さらにはスウェーデンを経てたどり着いたこのノルウェー。

 その北部地域にあたるノールノルゲのフィンマルク県、ヴァードーにおいて。北欧全土を揺るがせた大騒動にいよいよ終わりが見えようとしていた。

 

「決行は明朝4時。できる限り敵の寝込みを襲いたいところだが、すでに包囲網がこの地まで狭まっていることなど当然向こうも察知している」

「……昼も夜もないモンスターはともかく、解放戦線の残り三人ともおそらくは正面切っての衝突になる、ということですね」

「そうなる。心積もりはしておけよエリス、ラウエン。もちろんレベッカ達もだ」

 

 作戦に向けての最後の打ち合わせも終わり、宿の一室にて集いしパーティメンバー達。とりわけ重要な立ち位置にいるエリス、ラウエン両名に改めて作戦の段取りを告げ、ヴァールは窓から外を見た。

 ヴァードーの夕暮れ。美しい港を臨む小さな宿から見える景色は、まるで絵画のように美しく静かだ。

 

 ここから一夜明ける頃には付近で、北欧全土を巻き込んだテロリストとの最後の戦いが行われるなど、とてもでないが思えない風景。

 それでもたしかに明日の朝、彼らは戦いへと赴くのだ。決意を込めてうなずくエリスの横で、ラウエンが気炎を吐いた。

 

「望むところッ!! たとえ相手が火野であれイルベスタであれ、我が星界拳は立ちふさがるものすべてを断絶せんッ!!」

「おう、その意気だ頼むぜラウエン! 私らもモンスターどもを片付けたらすぐに洋館に突撃するからよ!」

「後詰めはいるわけだからね、無理はしないでくれよ二人とも……もちろんヴァールさんもね。命あっての物種と、私の故郷たる日本の諺にもある」

「はいッ、お任せくださいお二方ッ!! シェン一族の名誉と星界拳の誇りにかけて、我が師カーンの名代たるこのシェン・ラウエンは必ずや完全勝利いたしますッ!!」

 

 轟き咆える若きシェンへと、同じく意気軒昂にレベッカが告げる。続いて妹尾もやんわりとだがエールを送れば、ラウエンのみならずエリス、ヴァールも揃ってうなずいた。

 特にラウエンの勢いはすさまじい。つい半月前にパーティに加わり、もはや最終決戦という極めて短期間だけの参加だけあって余計に活躍への意欲は強いのだ。

 そのあたり勝気で自己顕示欲の強いシェン一族の色が強く出ているものと言えるだろう。

 

 さらにはシモーネ、トマス、そしてラウラも続けて声をかける。こちらはラウエン、ヴァールとともに洋館へと突入する後輩、あるいは姉貴分たるエリスに向けてだ。

 

「エリス、あんたも無理しないでよ? ヴァールさんはもちろんラウエンの足だけ引っ張らなきゃ良いんだから」

「さすがに対人戦に関しちゃもうエリスちゃんもエキスパートだ、早々そんなことにゃならんとは思うが……ま、とにかく教授の言うように何であれ生きてこそだ。死ぬなよな、三人とも」

「お姉様、無事に帰ってきて! それでぜんぶ終わったら、お姉様の故郷に一緒に帰ろうね!」

「ラウラ……ええ。きっと、帰りましょうね」

 

 仲間達からの励ましを受け、最後には妹分からの言葉も受け取ってエリスは静かに微笑んだ。

 きっと、ラウラとの約束は果たされることはない……もう、この身体に残されたものは僅かだ。そんな感覚をひた隠しにして、それでも笑いかけるのだ。

 

 すべてはこの子の、仲間達の、そして北欧全土、いや世界の人々の安寧と平和のために。

 迷いなどあるわけがない。エリス・モリガナは決戦前夜にあってもはや、称号通り《聖女》の心境へと至っていると言えよう。

 生きとし生けるものすべてのために、限りある生を捧げ尽くす境地である。

 

「よし……それでは諸君、決戦前の最後の休憩だ。よく身体を休め、万全の態勢でことに臨んでほしい。集合は深夜2時に宿前だ。そこからすぐに敵本拠地の洋館周辺を包囲している探査者達の、詰所にまで向かう」

「そこからその、作戦通り二手に分かれるんですね……他の探査者達と一緒にモンスターを相手取る私とレベッカさん、トマスと妹尾教授に」

「洋館内に突入して連中を相手取るヴァールさん、エリスちゃん、そんでもってラウエンと。やれやれ、正念場だなこいつぁ」

 

 告げるヴァール。シモーネやトマスが念押しするように確認して 、一同はそうしてうなずく。

 1957年、季節は夏から秋の気配が漂う頃合い。北欧はノルウェー、ノールノルゲのフィンマルク、ヴァードー近郊。

 その夜明けにていよいよ、決着の時を一同は迎えようとしていた────

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