大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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ラスト・オペレーション!

 そして、決戦当日の早朝を迎えた。ヴァードーから少し離れた平原の洋館、その周辺に蠢くモンスター。

 さらにそれらを遠巻きに包囲する形で形成された探査者達の集団に、ヴァール達は合流したのだ。

 

 今回ばかりは非戦闘員ながら、ラウラも連れてきている……安全な地点、包囲網を指揮する詰所にて待機させているが、本人がどうしてもエリスの近くにいたいと志願したのだ。

 そんな少女のエールをも受けて、彼女らは前線に今、立っていた。

 

「ストックホルムよりかはまだマシな量ですが、それでもやはり多い……あれだけ屯していてなぜ、洋館だけが無事なのか分かりかねるほどに」

「時折何体か洋館にも向かっているようだが、内部に動きは見られない。おそらくイルベスタなり火野なりが相手しているのだろう。モンスターからしてみれば人間など区別なく敵なのだから、当然の話と言える」

 

 洋館を臨む小高い丘の上から、その周囲にひしめくモンスター達をもまとめて見下ろすヴァール達。

 ラウエンの疑問にエージェント達から受けた報告からの推測を話しつつ、彼女達は決戦に向けての準備を整えきっていた。

 

 すでにパーティ内、モンスターに対応するメンバー達は別働隊と合流して動き始めている。作戦開始の朝4時まであと数分、緊張を孕んだ空気があたり一面に漂う頃合いだ。

 翻ってヴァールはエリスとラウエンを見た。ともに洋館内へ突入する、対人戦用の少数精鋭たる二人もまた準備万端の面構えでいる。

 気合も十全だ……無論ヴァール自身も含めて。

 

「ヴァールさん、私はいつでも行けます」

「俺もです。あとはあなたの号令さえあれば、すぐさま動き始めましょう」

「頼もしいな、しかし数分待て……大規模、かつ重要作戦なればこそ逸ることは許されん。モンスター対応部隊とも足並みを揃えて、動く時には一気呵成にだ」

 

 闘志に溢れるラウエンの、血気盛んさを多少なだめる。若きシェンはカーンよりも向こう見ずなきらいもあり、熱情のままに先走りかねない危うさもある。

 そうした青さを指摘しつつも、しかしあと数分だ。あと数分で洋館とモンスターを取り囲む探査者達が一斉に動き出す。その機に乗じてこの三人も動くのだ。

 

 すなわち乱戦の合間を縫って、敵本拠地へと踏み込む形になる。夜明けとともに襲撃する形になるが敵方のメンバー、イルベスタや火野、オーヴァも即座に気づくだろう。

 そこからは全力だ。立ち塞がる者すべてを倒し逮捕する。何人たりとて逃がすことは許されず、ゆえに能力者解放戦線の今日をもっての崩壊は確定事項だ。

 

 ────時が訪れる。探査者達がにわかに動き出す気配が、空気を通じてヴァール達にも伝わってくる。

 頃合いだ。信頼できる仲間達のを見、彼女はそして指示を発した。

 

「時間だ、行くぞ……! 目標は平原の洋館への突入、並み居るモンスターどもは別働隊に任せて我々は最優先で目標物へと向かう! 戦闘態勢に入れ!」

「はい! 《念動力》ッ!!」

「星界拳の業の冴え、テロリストどもにも見せつけてくれるッ!!」

「洋館突入後、即座に敵の迎撃が予想される! 怯むことなく返り討ちにする心構えでいろ! 一人も逃すな……今日、ここで、能力者解放戦線の残り人員すべてを捕まえきる!!」

 

 強く言葉を発し、一気に駆け出す。同様にして周囲から我先にと探査者達が洋館周辺のモンスターめがけて攻め入るのが見え、エリスとラウエンもヴァールを追って走り出した。

 開戦だ。今ここに、第二次モンスターハザード最終決戦が始まったのだ。

 

 《念動力》のエネルギーブレードをすでに展開しているエリスを見て、ヴァールも《鎖法》を発動した。まっすぐに目指す洋館への進路上、いくらかいるモンスターをまとめて倒して活路を開く。

 左を突き出し、同時に放たれる極めて太く硬い鉄鎖──最初から出し惜しむつもりなど一切ない。彼女は初手から切札とも言える技を全開で解き放った!

 

「《鎖法》ギルティチェイン……貫けっ!! どこまでも前へ、まっすぐ伸びろっ!!」

「んぎょえええええええっ!?」

「ウグァァァアアアアッ!!」

「邪魔だモンスターども! お前達の相手は他にいるッ!! エリス、ラウエン行くぞ! 雑魚に構うな、前へと走れっ!!」

 

 多種多様のスキルはあれど、こと拠点制圧および進軍時にあたっての範囲攻撃において、《鎖法》ほど優れたスキルもそうはないだろう。

 威力に限った話でなく、総合的な使い勝手を見た時の話だ。敵味方の区別なく巻き込む他の範囲攻撃とは異なり、鉄鎖は使用者たるヴァールの意思によって自在に敵味方の区別をつけ、範囲も広いのだから。

 

 瞬く間に洋館への進路を切り拓いたヴァールに、動揺することなくエリスもラウエンも続けて駆け抜ける。

 彼女の強さなど今さらのことだ……何より今、最優先はやはり作戦遂行。余事にかまけている暇などありはしないと、パーティ内においても特に強い使命感を持つ二人は一切の迷いなく目的に向けて邁進していた。

 

 そして同時に、周囲の探査者達も呼応してヴァール達の周囲にいるモンスターを優先して攻撃していく。

 彼らも当然、分かっていた。ここでなすべきはモンスターの殲滅、および洋館へと突入する三人を支援することだと!

 

「統括理事の突入部隊を守れ! これ以上、一匹たりとて相手をさせるなっ!!」

「ガァアアアアッ!! グルォオオアアアッ!!」

「やっと探査者らしくモンスターの相手ができるな! 来いよ化け物ども、お前らをこれ以上のさばらせやしない!!」

「統括理事、ご武運をっ!! ──ここが命の張りどころだッ!! 探査者の使命を果たせっ!! 人々を、命をモンスターとテロリズムから守り抜けーッ!!」

「ギギギギギギギョアアアアアアッ!」

「ぐげぐげぐげぐげぐげぐげぐげぐげえええええっ!!」

 

 乱戦。走り抜けるヴァールとエリスとラウエン、そこに攻め入ろうというモンスターと迎え撃つ探査者達。周囲全体でもすでに交戦が始まっている。

 黎明の空、明かりが灯るノルウェーの朝。ヴァードーの近郊はすでに、血風荒ぶ死地へと変化していた。

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