作戦開始。ヴァールとエリス、ラウエンが館への突入を試みるのと同時刻に、別の地点ではレベッカとシモーネ、妹尾にトマスが動き始めている。
他のエージェントならびに探査者達同様、洋館周辺に蠢くモンスター達へと斬りかかり、これを殲滅せんとしていたのだ。
「グオォォオオオオアアァァァアツ!!」
「────ッ!! ────!!」
「くったばりやがれやぁ雑魚どもがぁッ!! 《剣術》ゥ、切札行くぜ、パワースラッシュ・フルブレイカーッ!!」
雄たけび。あるいは無言のままに殺意を振りまくモンスター達へとレベッカが全力の奥義を叩き込む。
ゴブリンナイトにブロンズアーマーをはじめとした、周囲の敵がまとめて斬り倒されて光の粒子へと変わる。
その背後を突くべく迫るのはロッククロウ──岩でできた烏としか表現できない飛行物体だ。三匹いて同時に突っ込んでくる。
しかしてそれに応対したのは彼女自身でなくその弟子、シモーネだった。手にした長槍を華麗に振り回し、精密無比な狙いで突きを三段、放ったのだ。
「《槍術》奥義ッ!! シングルモルト・スコッチストレート!!」
「カガァァァッ!?」
「コゲガッ!?」
「──シモーネッ! 助かるぜ、ありがとようっ!!」
「背後は任せてください! 私はシモーネ・エミールッ!! 誇り高き北欧最強レベッカ・ウェインの一番弟子で、次代を担うトップエースですッ!!」
瞬く間に師匠の窮地を救い、高らかに己を誇示する。シモーネもこの半年で相当に実力を高めている、それこそレベッカにも匹敵しかねないほどに。
その成長が嬉しく、レベッカは満面の笑みを浮かべながら剣を振るった。エリスやトマス、ラウエンも当然大したものだが、自分が手塩にかけて育てた愛弟子シモーネもまた、世界に誇れる素晴らしい探査者なのだから。
戦線の一部を師弟二人で担うレベッカとシモーネ。そこからさらに離れた地点でも、同様に師弟が抜群のコンビネーションをもってモンスターを相手に奮闘していた。
モンスター学の権威の妹尾万三郎とその弟子トマス・ベリンガムである。
「やるねウェインくん達も! 我々も負けていないところを見せてやろうじゃないかトマスくん──《拳闘術》スネークジャブ・ミリオンダラーッ!!」
「やる気満々ッスね教授! まあこのシチュエーションだ、燃えなきゃ探査者じゃねえですからね! 《剣術》《鞭術》複合奥義をくらいな──! マイ・ディア・ガールフレンズッ!」
ナックルダスターを装着した拳で、千変万化の軌道で無数のジャブを放つ妹尾。左手に剣を右手に鞭を持ち、巧みにそれらを繰り出し周囲全体に攻撃を仕掛けるトマス。
こちらもこの半年で鍛え上げた実力を、遺憾無く発揮しての同時攻撃だ。しかして妹尾は前から気になっていたことを、ふとこの際だからと弟子のトマスに聞いてみた。
「ところでトマスくん! 前から思っていたのだけれど君、技名に一々女性名を使っているのは何か意味があるのかね?」
「え? ああ、そりゃ簡単で俺のガールフレンド達の名前ですぜ! 何しろ探検のために世界をうろつくなかでいろんな美女と知り合うもんで、技名も毎度、その時の気分で思い返した子達を適当に言ってるだけっすよ!」
「…………そうか! 私には理解しがたいけれど、まあ良いかぁっ!!」
「グルェェェェッ!?」
弟子が何かしら技を放つ際、必ず女性の名前を叫ぶことが前から気になっていた。
決戦の高揚もあり、せっかくだからと聞いてみたのだが……ある程度予想していたものの、やはり女癖由来のものだと悟り妹尾はそこで思考を打ち切ってモンスターを殴り飛ばした。
トマス・ベリンガム。すでに独り立ちしてダンジョン探査の傍ら冒険家として世界の秘境を探検する彼は、それゆえに世界各地に現地妻を拵えている。
それは知っていたが、いざ本人の口から聞かされるとなんとも呆れるやら感心するやらの妹尾だ。余談だがこの頃彼は日本にて妻子を持ち、特に愛妻家の一面をも持っている。
ともあれ奮闘する師弟二組。他の探査者達もモンスターと死闘を演じつつも順調にその数を減らしていっており、もう数時間はかかるだろうが作戦遂行も果たせるだろう。
──そんななか、洋館に向けて鎖が発射された。ヴァールの《鎖法》、その極みたるギルティチェインだ。
当代最強の探査者、"永遠の探査者少女"の一撃は射線上にいるモンスターを一切の抵抗すら許さず瞬殺し、一気に目的地たる敵本拠地までの進路を切り拓いたのが仲間達にも見えた。
「レベッカさんっ! あれは、あの鎖は統括理事の!」
「分かってる! どうやら本隊も動き出したみてえだなぁッ!」
「だとするなら教授、俺らのやるべきことはただ一つ!」
「ああ! ……彼女らの突入を阻むモノどもを倒し、館への突入をサポートする!」
閃光にも似たその鎖の一閃が意味するところ、すなわち洋館突入部隊たるヴァール、エリス、ラウエンが向かおうと駆け抜けている道筋。
であればと仲間達はみな、顔を見合わせ一心にうなずいた。これより先、自分達がまず成すべきは彼女らのサポート。
先んじて敵陣へと向かう仲間達の行く手を阻まんとする、モンスター達から彼らを護ることである!
四人それぞれに武器を取る。そして一斉に、鎖が貫きがら空きになった道に群がろうという敵へと向かっていくのだった。