「すごい……! ヴァールさんが拓いた道を、探査者みんなが、レベッカさん達がモンスターから食い止めるように確保して……!!」
エリスからすれば、それは心震える光景だった。
《鎖法》ギルティチェインによってまっすぐ洋館まで切り開かれた道を駆けるなかで見えたもの──自分達の前に立ち塞がろうとするモンスターの群れを、決死の覚悟で阻み戦う探査者達の姿。
とりわけ仲間達の奮闘さえも見て取れて、走り抜ける最中でも感動と勇気がこみ上げてきたのだ。
自分達の突入のため、こんなにも多くの人達が力を貸してくれている。
すべてはたった一つの正義、半年に亘り脅かされてきた北欧に平和を取り戻すために。もう誰一人として見捨てないために、今こうして多くの心が、力が一つに結集してことにあたっているのだ。
その魁たるべきが他ならぬエリス達なのだから、これに心が震えないわけがなかった。
「謝謝……ッ!! 異国の同胞達よ、果てしない敬意と感謝を捧げるッ!! この恩は必ずや、作戦完遂をもって返そうッ!」
「そうだ、ラウエン! エリスもだが、我々三人を行かせるために誰もが力を尽くしてくれている──駆け抜けろ! 彼らの志に応えてみせろ、若者達よ!!」
「はいっ!! ありがとうございますっ、みなさん!!」
同じく奮起して叫ぶラウエンと、そんな二人にさらなる発破をかけるヴァール。揃って全力で駆け抜け洋館を目指すが、多くの仲間達の支援を前にさらに気合が入った形になる。
負けられない。勝つ。絶対に何が何でも、必ずこの作戦をもってすべてを終わらせる!
そんな想いをより強く胸に刻んで、そうして三人は洋館の正門、固く閉ざされたそこへと辿り着いた。
一切のスピードを落とさぬまま、エリスがナイフを振るう。
「エネルギーブレードッ!! 平和を取り戻すため、すべてを切り裂いてッ!!」
咆哮とともに一気に伸びたブレードが、一瞬で門を切り裂き周囲もろとも吹き飛ばす。その身体に宿る"力"を、最大出力で発揮すれば爆発めいた事象まで引き起こせるのが今のエリスだ。
反面、使えば使うほどに命の灯火は削れていくが……もはやこの戦いをもって終わる覚悟を決めている彼女にはなんら躊躇はない。
出し切る、すべて何もかも。誰もが笑える明日のために、生きとし生けるものすべての平和のために。たとえそこに、自分の姿はなかろうとも。
澄み切った境地に立ったエリスの動きは、それゆえにこれまでにない鋭さと速さ、そして力強さを伴っている。最高潮のコンディション、ともすればヴァールでさえも今、戦えば敗れるかもしれないと思うほどの気迫と胆力で彼女は館へと踏み込んでいく。
「エリス……! ラウエン行くぞ! 彼女に続け!!」
「はいッ! いざ、本拠地へ!!」
見出した才能が、ついには己をも超えていくかもしれない。そう信じられる姿にたしかな喜びを感じつつ、ヴァールはエリスの背を追いラウエンとともに洋館内へと突入する。
敷地は庭を駆け抜け、館本体のドアを叩き蹴って内部へと侵入する。調度品の多い、綺麗で、しかし静かな豪邸。
──そこに蔓延する殺意と殺気。
すぐさまエリス、ヴァール、ラウエンの三人は各自それぞれ異なる方向へと散開した。数秒前にいたそこに、突撃してきた者を察知したのだ。
「よく来たなッ! ソフィア・チェーホワッ!! シェン・ラウエンッ!!」
「モリガナァァァッ!! エリス・モリガナァァァァァァッ!!」
「イルベスタ・カーヴァーンッ!!」
「火野、源一!!」
鋼鉄製の弓矢を持った黒いローブ姿の男、イルベスタ・カーヴァーン。
シャツにジーンズとラフな姿に左右一振りずつ刀を握る二刀流の男、火野源一。
さっそくの強襲だ……能力者解放戦線の最後の三人のうち、明確に戦闘要員である二人がやってきたのだ。
攻撃を避けるべく三方に分かれたヴァール達もまた、即座に反撃態勢を整えて構える。二人まとめて来たのはむしろ好都合、ここで倒せば残るは戦闘能力を持つかどうかも怪しいオーヴァのみと考えて。
ゆえにイルベスタと火野を三方向から睨みつける三人。それを見回しながらも、イルベスタは悠然と構えてヴァールへと話しかけた。
「ソフィア・チェーホワ。他の二人は我々が相手をしてやるが、貴様だけは閣下自らお話がある。この先の書斎にて御方は待つ、さあ行け、ただ貴様だけは行け」
「何だと? オーヴァ・ビヨンドが……ワタシに話だと?」
「私には何のことだか分からぬがな、言伝を預かっている──"邪悪なる思念について伝えなければならないことがある"と」
「────────な、に?」
今にも戦いが始まるなかでの、唐突なイルベスタの言葉。"邪悪なる思念"。
それがなんのことかエリスもラウエンも、火野でさえも理解しかねて微か首を傾げるなか。ただ一人、ヴァールだけはその語句の意味するところを完全に理解し、そして絶句し驚愕した。
邪悪なる思念。なぜ、それをオーヴァ・ビヨンドが知っている。アレは、アレを知る者は現世に一人たりとていないはず。
思わずして表情に出る混乱。おそらくは彼女自身生まれて初めてに近いだろう、心底から虚を突かれ動揺を晒していた。
「お……オーヴァ・ビヨンド……! 馬鹿な、やつは、どこでそれを……いや、まさか……!?」
「…………!? ヴァールさん!?」
「どうされたのですかッ統括理事!? 一体なんだというのです、その邪悪なる思念とやらはッ!!」
「その意味するところを知るのは我々にとっても閣下のみ。ゆえに貴様だけはこの先へと行け、モリガナとシェンは我々が始末するがな……ッ!!」
予期せぬ事態に、常ならぬ狼狽を見せるヴァール。エリスもラウエンも釣られて動揺するなか、イルベスタはなおもオーヴァとソフィア・チェーホワの面会を促す。
完全に話のペースを握られていた……"その名"を口にした時点で、ヴァールにはもはやオーヴァとの面会を呑むしか道がなくなったのだから。