大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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未来を超えていけ!

 静かに、しかしたしかな足取りで館の奥へと向かっていくヴァール。残された二人エリスとラウエンは、それを護るかのように火野とイルベスタをそれぞれ迎え撃っていた。

 邪悪なる思念なるモノが何か、それを受けてヴァールがなぜオーヴァとの一対一に至ったのか……疑問は尽きないがそれさえ極論、どうでも良いことだった。

 

 託された。任された。この、北欧を脅かしたテロリスト達の打倒と捕縛を。事実上の決戦を。

 それだけで十分だった。心と身体に力が漲り、彼と彼女は気炎を吐いた。

 

「最後の最期、ヴァールさんに託された! だったら私にできることはたった一つ──火野源一ッ!! 犯した罪に、等しき罰を!!」

「イルベスタ・カーヴァーン! 不遜にも未来を観測する者よ! 相手にとって不足はない、貴様はこのシェン・ラウエンが打倒してくれるッ!!」

「モリガナァッ!! やっぱオメェはそうでなくちゃなぁ田舎娘ェェェッ!!」

「おのれチェーホワッ! やつはやはりこの手で始末せねば──邪魔だ若造ッ!! どけいシェン・ラウエンッ!!」

 

 対する火野もイルベスタも、方向性はどうあれ闘志漲る様相だ。能力者解放戦線本拠地におけるこの戦いは、間違いなく彼らにとっても最後の戦いである。

 特にイルベスタは、胸に宿す憤怒が渦巻いている……この期に及んでオーヴァを愚弄したチェーホワを赦せないとする感情からやはり彼女を討ちたく思い、それゆえに邪魔立てするラウエンへと矢を放ったのだ。

 

 イルベスタの元々の戦法は弓矢を使った遠距離攻撃だ。しかし《念動力》によるオーヴァとの未来予知能力の共有を行ってからは、それを駆使しての近接戦も可能としている。

 本来弓に番えて放つはずの矢を、刺突用に用いて近距離での一刺しを得意としているのである……相手の動きを予知できる能力ゆえに、一方的に隙を突けるがゆえの余裕と慢心の表れでもある。

 

「貴様ごとき東洋人など、いかなる拳法を用いようが我が閣下の御力には勝てんのだ! ──《念動力》、オーヴァー・ザ・フューチャー"ビューティフル・ワールド"ッ!!」

「!! 来るか、卑劣極まる未来予知ッ!!」

「閣下の奇跡の御業だッ!! 貴様らごとき有象無象には決して理解の及ばぬ、世界を支配するにふさわしい力なのだッ!!」

 

 叫びつつ、発動する未来予知。瞬間、脳がグズリと崩れる感覚を覚えながらもイルベスタは数秒先の光景を見た。

 ──一気に踏み込み、己に蹴りの連撃を叩き込んでくるラウエン。その軌道は鳩尾に一撃、喉元に二撃。眉間に三撃目を放ってから後、側頭部に身を翻しての四撃、五撃。

 

 そしてトドメとばかりに飛び蹴りを一閃、これは顔面に向けてだ。

 いずれも食らえば大ダメージ、すべて受けてしまえばそれこそ死にかねない容赦のなさだ。

 

「星ィィィ界ッ! 八卦脚ゥゥゥッ!!」

「────その光景は、すでに見ている」

 

 だが、見た。そして未来の自分はたしかにそれを回避した。

 見たからにはもはや脅威ではない。

 

 意識が現実の今へと立ち戻る。ラウエンはすでに、一気に踏み込むところまで来ていた。

 だがそこから先の軌道は完全に理解できている。鳩尾、喉元、眉間の正中線上に立て続けに放たれる蹴りの連打を余裕をもって回避し、側面へと移動する。

 

 両者ともに流れるような動き。だがそれゆえにラウエンは技、星界八卦脚の型を崩せず続いての側頭への蹴りを放つしかできない。対してイルベスタは、完全に死角へと回り込んでいる。

 鋭い切っ先の矢を、ラウエンの首筋に向けながらだ。後はこれを振り下ろせば終わる。いかな能力者でも頸動脈を傷つけられれば終わり、確実な死が待ち受けている。

 これをもって呆気なくも、イルベスタは勝利するのだ。

 

「やはり最強は閣下の御業。それを思い知りながら死ねい! ラウエン!!」

「────しぇぇぇぇいっ!! りゃりゃりゃりゃあああああっ!!」

「────ぐごえぁぁっ!?」

 

 確定した未来。放たれた技の直後に合わせての攻撃で、イルベスタは問題なく勝利を手にするはずだった。しかし。

 ……矢を振り下ろした間際、視界が弾けた。強い、強すぎる衝撃が顔面に突き刺さる。蹴りだ。ラウエンの蹴りだ。直感するも、理解が追いつかない。

 

 飛び蹴り。星界八卦脚の最後の一撃──ではなく、そこからさらに放たれた追加の足刀が、イルベスタの顔面に突き刺さっていた。

 想定にない追撃。技そのものはヴィジョンをたしかに見ていたはずなのに、さらなる連撃がありえないタイミングで飛んできた。

 

 あり得ない。なぜ。どうして?

 瞬間的に走馬灯じみた疑念が浮かんでは消える。

 

「な、が!? な、バカ、な。な、ぜ。なに、が!?」

「……貴様の未来予知の仔細について、すでにヴァールさんは把握し、その仕様を我々に伝えてくれている。見られる未来は約3秒。見た未来こそ確定させるが、そこから先は未確定領域。ゆえにこうも仰られていたよ」

 

 混乱のなかで呻く。わずか一発の飛び蹴りだが、すでにイルベスタの端正な顔立ちは破壊されている。星界拳が誇る、岩をも砕く威力の発露だ。

 それを見て、構えながらもラウエンはつぶやいた。ストックホルムでのイルベスタの交戦、そこからヴァールはすでに敵の予知能力の範囲と精度、そして対策をも編み出していたのだ。

 

 イルベスタが先読みできる未来は3秒。確認した未来で起きたことは現実でも起きることが確定するが、反面、それ以降の未来については当然ながら未確定のままだと。

 そうして彼女がラウエンはじめ、パーティメンバーに告げた対策。それは。

 

「────"未来予知を発動してから3秒間の動きを囮とし、さらにその先の0.1秒で勝負をつけろ"と! 確定した未来であれば貴様は必ずカウンターを仕掛けてくる、逆手に取ればそここそが絶好の機会だとッ!」

「な……!! 確定した、み、未来そのものが、囮だと」

「貴様の浅はかな手口など、あの方はすでに見抜いていらしたのだッ!!」

 

 相手が未来を観るならば、そんな未来などくれてやれば良い。観た時点で確定したのならば、さらにその先にある"誰にも見えない未来"を選べば良い。

 それこそがヴァールが見出した対未来予知能力の要。確定した未来のその先にある、見通すことなどできない未来に至る──言うなれば未来を超えていく戦法だった。

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