「イルベスタの野郎、死にやがったか!! だがまあ間男ラウエンも失せた今、これで正真正銘二人っきりだなァモリガナァァァッ!!」
イルベスタの凄絶なる最期。そしてラウエンの離脱。しかしてそれらに対する火野源一の反応とは、それらを一顧だにもせずエリスへと斬りかかる、二刀流斬撃ばかりだった。
なんら手向ける感情もない。そも死にかけが死んだだけのこと、なんなら邪魔なラウエンを退場にまで追いやったことくらいは評価してやってもいい。その程度だ。
しかしそんな軽さが、余計に相対するエリスには許せなかった。故郷の村で初めて遭遇した時からずっとこの男はそうだった。すべてを虚仮にしていた。
親愛なる隣人一家を惨殺した時も。バルト三国内で散々にスタンピードを引き起こしていた時も。相対する度に気色の悪い視線と言葉を向け、異様な執着を見せてきた時も。そして今も。
自分のこと以外何一つ、誰一人として歯牙にもかけないその自己中心性。快楽のためだけに危害を加えることを良しとするその、邪悪性。
もはや限界だった。努めて理性的であろうとしているエリスだが、もうこの男にだけはそれさえ値しない。ゆえに彼女はついに、渾身の怒りをもってエネルギーブレードを振るうのだった。
「いい加減に……っ! いい加減にしなさい、火野源一ッ!!」
「ヒャアハハハァッ!! モリガナ、来いよォォッ!!」
「いつもいつもそうやって、自分以外のすべてを踏みにじって!! 仮にも仲間にさえそんなことで!! あなただけは、あなただけは絶対に許せない!! ここで絶対に、倒し切りますっ!!」
「そうだ! その目その顔その声その殺気だ!! オメェのすべてが俺には心地良い、さあ来やがれモリガナッ!! 俺を殺しに来い、俺もお前を殺すからよォォォッ!!」
狂ったように笑う火野。いや実際、彼はすでに狂っていると言えた。エリスへの想いを高じらせるあまり、もはや精神のバランスを極度に崩している。
夢のような時間だ。エリス・モリガナに想われている。必ず倒すという意気込み、殺気、闘志を向けられている。そんな声と顔、振る舞いで来られている!
涙すら出そうだと、火野は溢れる欲情に心からの感謝を抱く。エリスに会えて良かった、エリスを見定められて良かった……もうここで死んでもいい、そんな考えすらも抱く。
だがまだだ、まだ満足しきれていない。エリスとの至福の逢瀬はおそらくこれが最期だ、ことここに至ってはもはや逃げ場などない決戦。どちらかが倒れるのは確実だし、火野が倒れれば捕まってそれまで、エリスを殺せても先はない。
「だからようモリガナァ──この戦いで俺ァすべての答えをきっと得るぜ!! オメェに抱くこの想い、その正体がなんなのかッ!! どうしてオメェみてぇな田舎娘ごときに、ここまで心惹かれるのかァッ!!」
「どこまでも自分のことばかり……! どうでも良い!! あなたの何もかもが、私にとっては!!」
「ぬうっ、モリガナァ!?」
地獄のような殺意を振りまき刀を振るう火野の、攻撃すべてを掻い潜ってエリスは的確に斬撃を放つ。致命傷こそ避けているが、次第に、一方的に火野の身体に傷が増えていく。
ストックホルムでの戦いのさなか、彼女が到達した極限境地──未来予知ほどではないが、直感的に"どういった行動をすれば何がどうなるか"を理解できる力。未来演算あるいは予測。
その真価を、彼女は知らず知らずに開花させていたのだ。
決して未来を確定させる力ではない。だがそれに近しい。数ある選択肢の一部を垣間見るという、スキルに依らない超能力。
そんなものを駆使しつつ、かつこの半年で十全に積んできた戦闘経験をフルに活用しているのだ。戦闘においてはこれまで劣勢気味だったエリスは、ついにここに来て明確に火野を完全に圧倒していた。
「モリガナッ! テメェはァッ!!」
「あなたの想いなど知りません!! 火野源一、悪魔にすら似た怪物よ────犯した罪に、等しき罰をッ!!」
「ぬ────ぐぎ、がぁぁぁっ!? もり、がなぁぁぁっ!?」
想いを込めた斬撃が、そのことごとくがいとも容易く弾かれる。いとも容易く躱され、反撃される。
こうなると火野からしてみれば、何も報われないというのが正直なところだ。彼はエリスと殺し合いたいのであって、断じて一方的にやられることを望んでいるわけではないのだから。
だが……そもそもエリスには、そんな火野に付き合ってやる義理も義務もつもりもない。
すべては世界の平和のために。残り僅かな生命を、すべて余さず有効活用するために。そのためだけの今この時なのだ。火野のひとり遊びに付き合う気など、微塵もありはしない!
ゆえに大斬撃!
すべてを込めたエネルギーブレードの一撃が、火野の肩口に深々と突き刺さり貫いた。
完全勝利と言える、それほどまでに圧倒的なエリスの動きだった。