大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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エリスの下へ!

 ────洋館周辺のモンスターを相手取る、探査者達の本陣。洋館からは1kmほど離れた小高い丘の上に敷かれたテント内にて。

 粗方のモンスターを倒し切ったレベッカ、シモーネ、妹尾、トマスらは一旦、態勢を整えるべく帰陣していくらか受けた傷の手当てを受けていた。

 

 決戦開始から概ねニ時間。ヴァールやエリス、ラウエンが突入してから一時間ほどが経過する。

 いくらか、洋館内部で戦闘が行われている音なども聞こえたが今は静かだ。すなわち能力者解放戦線メンバーとの戦いにも、どうあれ決着がついたものだろうと仲間達には思えていた。

 

「くそっ、思ったよりか手こずっちまった……! これじゃ今さら館に入ったって、どうしたって決着は付いちまってるだろうなぁ!」

「でしょうね、さすがに……!」

 

 モンスターから受けた傷の手当てで、体の至るところに包帯やガーゼを付けたレベッカとシモーネが悔しげに呻く。

 予想以上のモンスターの数と強さに、想定外の手間を食った形になり突入組の手助けに入れなかったことが悔やまれる二人だ。

 

 同様に隣では妹尾とトマスも、本陣に詰めてせめてもの手伝いをしていたラウラによる傷の手当てを受けながらふうむと考え込んでいる。

 モンスターとの戦闘中、洋館にいくつか見られた戦闘の様子……周辺を見張るエージェント達からはすでに収まっていると今、報告を受けたことで内部の様子について師弟で議論しているのだ。

 揃ってその顔に浮かぶのは、焦りと不安、心配だ。

 

「ヴァールさんがいるんだ。それにエリスちゃんもラウエンくんも心配するのが失礼なくらいには実力がある。万一のことはないと思うんだが、しかし」

「連中ぶちのめして、捕縛して出てくるって流れのはずがずいぶん時間がかかっちまってますからね。戦闘の音っぽいのも聞こえないって話だし、勝ったにしろ負けたにしろそろそろ出てきてもおかしくはないんすよねえ」

「お姉様……無事かな……」

 

 様子から察するに確実に何かしら、戦闘はすでに行われたと見て良い。

 しかしそこから先、おそらく終わったのだろうその戦いの行く末が外部からでは一切、分からないのが仲間達の不安を駆り立てる。

 

 特にエリスを案じるラウラは気が気ではなかった。ただでさえ無茶しがちなのが姉貴分たるエリスだ。

 最終決戦というだけに相当気合を入れて臨んでいたこともあり、いよいよ命を捨てたような無謀なことをしていないか、そこがどうにも不安で仕方ない。

 

 少女のそうした不安に、しかしパーティメンバーの誰も応えることができない。彼ら自身もまた、不安であるがゆえに。

 ────そんな折。高レベルがゆえに強化された彼らの聴覚が、館から聞こえてきた悲壮なる叫びをたしかに耳にした。

 

 

 

『ああああああっ! ああっ、あああああっ!! うわああああああっああっ! ──あああああああああああああああああっ!!』

 

 

 狂乱、絶望、悲哀。聞く者の心を震わせる凄絶なる叫び声は、テントのなかにいても聞こえてくるほどだ。

 即座に、ラウラが気づいて駆け出した。テントを出、洋館に向かって必死の形相で走り出す。

 

「ちょっ!? ラウラぁっ!?」

「どこ行くんだいラウラちゃん!? …………まさか、今の叫びエリスちゃんかいッ!?」

「お姉様! お姉様ッ!! お姉様が泣いてる、叫んでるッ!! 今行くよ姉様、エリスお姉様ァーッ!!」

「いかん! トマス、頼む! 私とウェインくんは後から行く!」

「シモーネお前も付き合えっ!! ラウラちゃん、せめて一緒に行くから落ち着け!!」

 

 咄嗟にでも少女は気づいた。その声が最愛のエリスのものであることに。そしてそこに込められたあまりに深い絶望の嘆きに。

 ゆえにもはや居ても立ってもいられず駆け出したのだ。足手まといでも役立たずでも……嘆き悲しむエリスに寄り添う、その一心で!

 

 同じく遅れてでも声の主に勘付いたレベッカ達。妹尾がすかさず弟子に指示を出した。瞬発力はもはやトマスとシモーネのほうが上だ、せめてラウラに追いつかせる。

 トマスもさすがの反応で、同じく立ち上がり武器を出にしたシモーネに呼びかけながらテントを出る。そのまま原野を駆けるラウラに追いつけば、軽くでも頭を叩いて彼は叱りつけた。

 

「馬鹿野郎ッ!! ンなことしたってエリスちゃんにお前さんが何できるってんだ!!」

「バカラウラ、強くもないのにしゃしゃり出ない!」

「うぐうっ!? ──トマス、シモーネ! でも分かるでしょ、お姉様が!!」

「分かってるよお前より! だから一緒に行くってんだ、大人しくしてろ!」

 

 いかに殲滅したとはいえ、今の今までモンスターの群れが闊歩していた土地を一人、戦闘力も低いのに駆け出したのだ。言うまでもなく危険行為で、トマスとシモーネはラウラを叱りつける。

 ──しかしエリスを想うその気持ちももちろん汲んでいて、だからこそ彼女を担ぎ上げたのだ。ともに、あの素晴らしい仲間である聖女を助けに行くために。

 

 トマスとシモーネにかかれば1kmなどすぐだ、洋館が見えてくる。

 破壊された門の奥。入り口付近にもすでに、人が一人いる……瓦礫の上に腰掛けているラウエンだ。傷を負っているようでいかにも疲労困憊の様相だが、顔色はそこまで悪いわけでもない。

 彼の元まで辿り着き、トマス達はその名を叫んだ。

 

「ラウエン!! 無事か!?」

「おお、トマス殿にシモーネ殿、そしてラウラさん! すまない、イルベスタは倒したものの毒を受けて身動きが取りづらい! 今しがたの叫びはおそらくエリスさんのものだろう、先に行ってくれ!!」

「毒!? 大丈夫なのそれ!? それに結構傷も受けてるみたいだけど」

「この程度ならば問題ないっ!! いいから早く、俺の分まで彼女の元へッ!!」

 

 身動きが取りづらいながらも力強く叫ぶラウエン。彼からしても館のなか、後を託したエリスになんらかの危機が訪れていることに焦りと動揺を隠せていない。

 ゆえに彼女の元へ辿り着くことを促せば……トマスやシモーネ、そしてラウラはうなずき、さらに館のなかへと突入する。

 

 激しい戦闘の跡。人によるものばかりか、モンスターのものと思しき傷痕が色濃く見える館の通路内。

 そこまで進み、そして彼らが見たものは。

 

「エリスちゃん! それにヴァールさん!?」

「来てくれたか……トマス、エミールそしてラウラ」

「お姉様!?」

「……気を失ってる。気絶して、るの? それにオーヴァ・ビヨンドは、捕まっているようですけど……」

 

 気を失っているエリスと、それを抱き寄せ抱えるヴァール。

 そしてその傍らにて拘束されて倒れ込む、オーヴァ・ビヨンドの三人の姿であった。

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