大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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戦友達の宴

 エリス捜索を心に誓ったのは何もヴァールやソフィア、ラウラだけではない。

 彼女らとともにエリスと肩を並べた仲間達もまた、行方知れずとなった愛すべき友の行方を探すことに、今後の人生のいくらかを割く心積もりでいた。

 

 とはいえそれもひとまずのこと、まずはそれぞれ地元に戻ってモンスターハザード前の暮らし、生活へと戻らなければならない。

 そのこともありラウラをフィンランドへ送り届けた後のソフィアをも巻き込み、残るメンバーでささやかながら祝勝会と言うべきかパーティーを開いていたのである。

 

 スイスはジュネーヴ、WSO本部近くにあるチェーホワ邸。

 そこで酒に飯にとありつく仲間達が、これまでの健闘とこれからの健康無事とを願いながら宴に明け暮れていたのだった。

 

「──それじゃあレベッカちゃんは、今回の事件をもって外勤を引退するのね」

「ええ。残る余生は内勤で事務周りをやりますよ。これまで私らをサポートしてくれていた連中に、今度は私がなってみてえんです」

 

 家主にして宴の主催たるソフィアの問いかけに、レベッカはひどく穏やかな、それでいて清々しい心地を思わせる表情で応えた。いつもは豪快に呑む酒も、今はどこか湿っぽく、一口一口味わうように嗜んでいる。

 北欧最強の引退……ダンジョン探査を行ういわゆる外勤から退き、WSOや全探組などの施設勤めとなる内勤へ移行するのだ。実力的なピークを越えた探査者が辿るルートとしては一般的なもので、年齢的にも違和感のない頃合いでの決断だ。

 

 もう、自分達の時代は終わったと。グラスを傾けながらしみじみ語る巨躯は、未だ現時点での探査者界隈における上澄みの実力を誇っていることは言うまでもない。

 それでも時は来たのだ。世代交代。次を担う若者達に、メインストリームを譲るタイミングを迎えたのである。

 

「レベッカさん……お疲れ様でした、本当に」

「いやいや、シモーネも今回は大変だったなぁ。でもまあ、これでお前さんも立派に一丁前だ。こっから先は私抜きで頑張んな。大丈夫、お前ならやれるさ……なんてったってこのレベッカ・ウェイン様の愛弟子なんだからなぁ! ガハハハハハッ!!」

「師匠として最高の幕引きだね、ウェインくん。私としてもこうなれば、いよいよ潮時かなあ」

「いやー教授は元からほぼ隠居状態だったでしょう、コンディション維持のために定期的に鍛えていたくらいで、本業なんてほとんどモンスター学なんですし……しかしまあ、お疲れ様でしたレベッカさん。俺もレベッカさんには、いろいろ学ばせてもらいましたよ」

 

 弟子のシモーネ、盟友の妹尾、その弟子トマスらが次々に労いの言葉をかけた。第二次モンスターハザードを経て絆を深めた仲間達からの言葉に、ついつい瞳が潤んでくる。

 見れば今ここにはいないもう一人の盟友、シェン・カーンの後継たるシェン・ラウエンも微笑みとともにうなずいている。

 

 独立するシモーネやすでに独り立ちしているトマス、日本へ帰る妹尾よろしく彼もまた、このパーティーが終わり次第中国へと戻りまた自身の歩むべき道を邁進するのだと言う。

 本当に、得難い戦友達だ……だからこそここに、この場所にもう一人、いて欲しかった人物を思い浮かべざるを得ずレベッカはポツリとこぼした。

 

「…………エリスちゃん、どこで何してんだかなぁ」

「レベッカちゃん……」

「何があったか分かんないけど、あの子があんなになっちまって、しかも姿まで消すなんてよっぽどのことがあったに違いねえんだよ。ソフィアさん私は悔しいよ、あの子の苦しみや悲しみがなんなのか、見当もつけられねえんだ……! ああ、なんだってあの子はあんな、あんなに頑張った、あんなに立派だったのに……!!」

「そう、ね。あの子こそ、この戦いで誰よりも健気に戦ってくれていたのに、ね」

 

 嘆くレベッカに、誰もが沈痛になるしかない。この場にいないエリスを想い、その行く末、無事なるを願うことしかできないでいるのだ。

 ヴァールから粗方の話を聞き、エリスが行方不明になったことを知ったソフィアも彼女の捜索に注力し始めている。手透きのエージェントを使い足取りを追い、せめて手がかりだけでも掴めるように指示を出しているのだ。

 

 なんとかして彼女を保護し、なるべく早く故郷の家族やラウラの元へ、仲間達の元へ還さなければ。

 そうした想いを、ソフィアは仲間達に吐露した。

 

「WSO統括理事としての力を駆使して、何としてでもエリスちゃんは見つけ出すわ。あなた達もそれぞれの生活のなかで、もしも彼女のものらしき情報を得たらすぐに連絡してほしいの」

「当たり前ですぜソフィアさん。エリスちゃんには散々世話になったんだ、絶対に見つけて何があったのか、あったとして何をしてやれるのかを聞き出さなきゃあなりません」

「まあ……さすがに気の毒ですしね。エリスもラウラもご家族も。一応、私は私で気を付けてはおきます」

「内勤になりゃちったぁ暇もできるはずですし、私も独自ルートでエリスちゃんを探ってみますよソフィアさん」

「お願いね、みんな」

 

 仲間同士、顔を見合わせてうなずきあう。程度の差はあれ概ね方向性は一つ、エリスの早期発見と保護に向けて想いは一致していた。

 第二次モンスターハザードを終えて、各自が新たな生き方を模索していくなかで……それでもみんな、エリスという少女への想いを忘れることは決してないのだ。

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