大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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エピローグ1957

 第二次モンスターハザード終結。

 これに伴い対能力者解放戦線のために集いしメンバーも、宴が終われば速やかにそれぞれのホームへと帰った。

 

 レベッカ・ウェインは故郷ノルウェーへ。

 シモーネ・ エミールは独立して世界を巡る旅へ。妹尾万三郎はホームの日本に帰国し、トマス・ベリンガムは各地の現地妻に会うと言って旅に出た。

 そしてシェン・ラウエンもシェン一族の里へと帰り、ラウラ・ホルンもフィンランドのモリガナ家にて過ごすこととなったのだ。

 

 無論のことソフィア・チェーホワもまた、WSO統括理事としての使命に没頭する日々を再開させることとなっていた。

 何しろ事件の余波は甚大につき、しばらくは北欧全土の復興支援のためにも動かなければならない。彼女ほど多忙な存在もそうそういないだろう。

 

 加えてやはり行方不明のエリス・モリガナの捜索にもできる限りのことをしたいがゆえに……結果として1957年の秋以降、彼女の負担はさらに増大することとなっていた。

 

「とはいえ、やはり平和な世のなかであることが何より進捗を進めてくれるもの……オーヴァ・ビヨンド。邪悪なる思念を見たからと言って軽挙妄動に走ったのは、気持ちこそ理解すれど迷惑極まりなかったわね」

 

 WSO本部は統括理事室のデスクにて、仕事合間に紅茶を飲みながらソフィアはつぶやいた。手にしている報告書には、捕縛されてからの能力者解放戦線メンバーの様子が記されている。

 

 とりわけオーヴァ・ビヨンドは、失意に沈み身体も日毎に衰弱しているようだ。

 ついには入院まで余儀なくされていながらも、しかし精神的にはひどく落ち着いた、穏やかな様子であるという旨が記載されており、ソフィアとしては肩をすくめるしかない心地だ。

 

 一方で傭兵として雇われていたニルギルド・ゲルズも、捕縛当初こそ死を求めて暴れては取り押さえられることが続いていたようだが……

 一ヶ月もすると今度はひどく考え込むようになり、次第に精神的にも言動的にも落ち着きが見られてきたという。

 

 12年前の亡霊。能力者大戦にて投入された少年兵上がりの青年。その半生に情状酌量の余地はあるものの、やはりそれ相応の罪に問われはするだろう。

 その贖いをどうか果たし、しかる後に新たな人生を歩んでくれることをヴァールともども、願って止まないソフィアだ。

 

 反面、火野源一のほうはこれが厄介なことで、捕縛した後の拘留施設内にあっても異様な雰囲気と言動で他者を怯えさせ、しかし何かするわけでもなくひたすらに嗤っているらしい。

 エリス・モリガナの名を連呼しながらだ。女性として、率直に気味の悪さと怒りを抱きながらも、ソフィアはふうと息を吐いた。

 

「他にも捕らえたメンバーから、さまざまな取り調べが行われているけれど……どうあれ元がオーヴァの逃避行動なんだもの、大した話は出てこないでしょうね。精々、次に似たような事態が起きた際の対応の迅速性や確実性を強化するのみ、か……」

 

 北欧全土を巻き込んだ大騒動も、結局大したバックボーンなどない、占い師上がりのテロリストが一旗揚げただけの顛末だ。少なくとも現世社会においてはそうなっている。

 高々、邪悪なる思念を一目見た程度でここまでやってしまい、そしてWSOはじめ大ダンジョン時代社会はここまで混乱させられてしまった。後始末まで含め、この半年ほどでどれだけ社会の発展に遅れが生じたか、考えたくもない話だ。

 

 ソフィアは改めて、社会を牽引していくということの難しさ、国際社会や組織をまとめ上げ、世界を時代を発展させていくことの厳しさを感じ入る。

 弱音は吐かない、吐けない。吐く資格がない……最愛の相棒たるヴァールが、自分よりよほど辛いだろう彼女がひたすらに頑張っているのだから。自分ばかりが嘆くことなどできるわけもない。

 

 そう、自らを鼓舞して紅茶を飲み干す。もう少し頑張れば書類仕事も一段落がつく。第二次モンスターハザードの後始末も次第に減っていけば、またいくらか余裕ができる。

 問題は山積みで、エリスの行方の件もある。そもそも秘めたる大義も使命も未だ始まったばかり、大ダンジョン時代はこれからなのだ。

 

「とにかく今、できることをできる限り……あらゆる人々がそんなふうに頑張っていて、そしてその積み重ねこそが未来を形取るならば。WSO統括理事として、かつてすべてを護れなかった敗者として、私は誰より前へ進まなければならないのよ。そうよね、ヴァール」

 

 もう、二度と届くことのない裏側の自分へと語りかける。不甲斐ない自分に、今でもなお寄り添ってくれる最高のパートナー。何も悪くないのにずっと自分を責め続けているのだろう、あまりに優しすぎるモノ。

 彼女がいてくれるから頑張れる。そして彼女にとってもまた、自分の存在が少しでも支えになってくれているならそれは嬉しいことだ。

 

 気持ちを切り替え、引き続き書類と向き合う。1957年の秋の始まり、スイスはジュネーヴにて。

 WSO統括理事ソフィア・チェーホワはそして、第二次モンスターハザード解決の英雄としてさらなる名声と栄誉を勝ち得ながらも……誰一人とて知る由もない、果てしない戦いにまたヴァールとともに身を投じていくのである。

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