大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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第三次モンスターハザード前編─黄金の胎動─
1960年、陰謀再び


「……いよいよ、ことに移す時が来たか」

「うむ。時は満ちた」

 

 極東アジア、日本。

 能力者大戦においてはWSOによる取り成しこそあったものの、形勢としては事実上敗戦国として扱われることとなった古よりの国。

 しかして戦後は科学技術や文化文明の面において目まぐるしい発達を遂げつつあり、今この時代においてはいよいよ高度な経済成長期をも迎えようとしている発展途上の国だ。

 

 今にも雄飛を遂げんとするそんな日本のある地方のある場所にて。悪意に満ちた意志はいよいよ蠢いている。

 すべては己らの欲望のために……極めて即物的な利益を求めて、彼は国を、いや世界をも相手取って戦いを挑もうとしていたのだ。

 

 大ダンジョン時代到来から、概ね四半世紀が経過した頃合い。すなわち1960年、第二次モンスターハザードから三年ほどが経つ。

 北欧全土を巻き込んだ大事件の余波もそろそろ落ち着き、世界的に落ち着いた平穏の空気が流れ始めているなか、しかし悪の魔の手はそんな安らぎを許すことはないと言わんばかりの胎動を見せ始めていた。

 

「三年前の北欧における第二次モンスターハザード。能力者解放戦線なる者どもに先んじられはしたが、我々も準備は整った。現状は恙無く進行している、そうだな?」

「ああ。少しずつスタンピードを誘発させ、モンスターどもを地上に出しては半分を蓄え半分を撹乱に使用している。かの"至宝"は予想通りの力を発揮してくれている……彼奴らを、制御不能な化物どもを誘き寄せている」

「重畳なり。しかして油断するなよ、つい先日には報せも入った……WSO、永遠の探査者少女ソフィア・チェーホワがスタンピードに勘付いた。動くぞ、あの女は」

「だろうな。ここからが本当の戦いというわけだ」

 

 男は不敵に笑う。大ダンジョン時代を牽引する国際組織WSO、とりわけその頂点に君臨し続ける不老存在ソフィア・チェーホワ統括理事。

 素性も正体も知れず、しかしてその功績をもって事実上の世界の指導者となっているあの怪物は、すでに引き起こされつつある事態に気付き動いている。

 

 畢竟、戦いの時が近づいているのだ……世界を混沌へと誘いたい彼らと、秩序を護りたい彼女らと。

 それは避けられない戦いだ。待ち望んですらいたものでもある。元よりすべて承知の上で、彼らは密やかに計画を練って準備していたのだから。

 

 そう、計画どおりにことは進行している。このタイミングでチェーホワが、WSOが気づいて動き出すのも想定のうちだ。

 当然ながら彼女が目指す地についても。男が、嗄れた声で楽しげに告げた。

 

「やはり来るぞ、チェーホワは……この国に、この日本に。大阪から京都を経由してこの地に、中部地方に来るぞ」

「そうか、予定通りだな」

「呼応して関東からは、妹尾万三郎が動いているのも確認している。京都を経由する関係から、御堂も動くかどうかが懸念されたがチェーホワはやはり甘い女だ。無関係の御堂を事態に関与させるつもりはないらしい。京都に寄るのは行き掛けの駄賃、御堂への挨拶程度のことのようだ」

「まるで物見遊山だが、だからこそ恐るべきか。あの女は今にも起きる三度目の事態を前に、どこまでも平静を保てているのだろう」

 

 これより始まる大事業、この国、日本国を根底から変えるための一大プロジェクト──その遂行にあたっての最大にして最悪の障害、それこそがソフィア・チェーホワだ。

 二度にわたるモンスターハザードの鎮圧をもって、ますますその権威を壮烈なものにしているかの女傑。間違いなく自身らにとっても恐ろしい壁になることは間違いない事実だ。

 

 しかし。それさえ楽しげに男は嗤った。

 来るなら来いと、受けて立つと言わんばかりに。まるで少年のように愉しげな笑みで、心躍らせていたのである。

 

「これより始まるは時代を取り戻す戦い。我らの愛した世界、踏みにじられた愛しき時代を取り返すがための大合戦よ。であらばその敵たるはソフィア・チェーホワ以外にあり得ぬ。そうは思わぬか?」

「うむ……」

「どうあれいつかは打ち倒さねばならぬ輩。ならば日本もろともに平らげ、我らが覇を世界に唱えるのが手っ取り早かろう。なあに、我らが"至宝"がある限り、最後に勝つは我々よ」

 

 少年のように嗤う男。

 だが、その瞳にたしかに宿るもの。戦意、闘志、そして野望への意欲。野心。

 

 世界を相手取ってでも取り返したいモノがあるゆえ、彼はあらゆる手管を使って準備を尽くした。

 そしてその始まりは、ついに示されることとなる──迫りくるチェーホワを迎え撃つ形で発動し、日本を飲み込み、やがて世界をもひっくり返すだろう。

 

「さあてさて。始めようぞ我らの時代を。これをもって大ダンジョン時代は終焉を迎え、能力者の世は滅び去る……我らが世界が再び来るのだ」

「すべては、望む世界のために……か」

 

 満身の力を込めて、気炎を吐く。邪悪なる情熱に満ちたその吐息にはこれより先、日本ばかりか世界をも脅かす野心の重みがある。

 三度目の大災厄。手始めに日本国は中部地方にてスタンピードを引き起こしている者達は、かくして悪魔の作戦を発動させようとしていた。




本日から第三部前編始めますー
よろしくお願いしますー
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