大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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ワルド・ギア・ジルバ

 不意に現れた委員会からの刺客。カーン、レベッカ、妹尾という現時点の大ダンジョン時代社会におけるトップクラスの能力者三人を前に、あっけらかんと宣戦布告したその男の実力は、紛れもなく本物だった。

 即座に激高して殴りかかったレベッカを、逆にカウンターでその頬を殴り飛ばし……一撃で、たった一撃で彼女の意識を刈り取ったのだから。

 

「レベッカくん!?」

「遅いぞ青二才。妹尾だったか、次はお前だ」

「ちいっ! しゃぁぁあああぁっ!!」

 

 突然のことに驚き、吹き飛ばされたレベッカを案ずる妹尾。戦闘中にあってはならない硬直と隙なのだが、そもそも学者としては戦闘に消極的な彼からすれば、致し方ないことなのだろう。

 

 それを逃す委員会の男であるはずもなく、続いて即座に距離を詰め、妹尾の鳩尾に鋭い蹴りが突き刺さる──その直前に、横槍が入った。

 カーンだ。年の功ゆえか男の動きを一切油断せず注視していた彼は、殴りかかり返り討ちにあったレベッカについては対応できなかったものの妹尾への攻撃には反応しきれていた。

 

 ぶつかり合う脚と脚。レベッカへのパンチといい妹尾へのキックといい、敵もどうやら徒手空拳、なんらかの武術家だろうとあたりをつけるカーン。

 そんな彼に感心した様子で、ローブ姿の男は蹴り合ったままの姿勢でフードを外し、ニヤリと笑った。30歳半ばの、若白髪が特徴的な筋骨隆々の男が余裕ありげに言う。

 

「ほう。さすがは音に聞こえし星界拳のシェン・カーンといったところか。嬉しいぞ、雑魚を散らすのは面白くなければ楽しくもない」

「貴様ァッ! ソフィア様を狙って我々を先に討つつもりかっ!?」

「とはいえ駄犬は頭の巡りも悪いか、今気づくとは。まあそういうことだな……強き戦士に敬意を表して名乗ろうか。俺はワルド・ギア・ジルバ、最強の能力者だ」

「何っ……うおおっ!?」

 

 最強の能力者。強い自負を当然のように嘯く男……ワルドに一瞬、呆気にとられる。その途端、敵の脚が動いた。次なる攻撃に打って出たのだ。

 ぶつかり合っていた脚を絡め取るように器用に曲げて引き倒す。星界拳の特性上、そうした脚を取られた際の対処法の修練も余念がないカーンだったが不意のことについ、驚きの声をあげる。

 

 崩れるバランス、ワルドはさらにそこから動きを加速させた。絡めた脚を思い切り振り回し、カーンをも巻き添えにして酒場の壁に叩きつけたのだ。

 能力者の、それも高レベルだろう男の渾身の蹴り回し。背中に強い衝撃と痛みが走り、これにはカーンも堪らず呻きをあげて血反吐を吐いた。

 

「が、はぁっ!?」

「カーンさん! 《拳闘術》、ストレートスティンガー!!」

 

 周囲の人々が逃げ惑う中、妹尾はカーンへの追撃を妨害すべく今度は自分から割って入る。スキル《拳闘術》による効果で習熟した、ボクシングスタイルでの技を放ったのだ。

 蜂の一刺しを思わせる鋭く疾い右ストレート。委員会の幹部ハオ・メイリィをも沈めたパンチで威力は折り紙付きである。

 

 だが、それをも軽々と右手で受け止める。

 驚愕に染まる青年を前に、ワルドは不敵に笑った。

 

「ふふん? 面白いな、若造。ボクシングか、能力者とはつくづく人によりけりだな」

「……!! くうっ、モールアッパー──」

「だが遅い、弱い、鈍い。この俺を相手取るには10年早いのだっ、妹尾万三郎ッ!!」

「ぐぇあぁっ!?」

 

 まったく余裕そのものの表情。間違いなく格上相手だと確信して、妹尾は半ば破れかぶれにアッパーを放った。

 当然そんな攻撃があたるわけもなく、受け止められた右手を思い切り引っ張られてバランスを崩す。

 

 そこへ、カーンを壁に叩きつけた脚を今度は妹尾に向けて振り下ろせば──

 彼の肩口を袈裟懸けに斬るように蹴りが突き刺さり、今度こそ妹尾もレベッカ同様、吹き飛ばされてしまった。

 

 能力者の中でも随一の実力を誇る三人が、一瞬で倒される現実。

 最強の能力者と自称する男、ワルドは鼻を鳴らし、つまらなさそうに告げる。

 

「……アーヴァインの命令で奇襲をかけたが、やはりこういうのは筋が通らんしつまらんな。戦闘態勢でない、酒精をも入れた者達をこのように叩きのめすのは最強のやることではない」

「ぐ、ぅ……! やらせん、ぞ……!!」

「カーン、止せよ。素面のお前ならいざ知らず、酔いどれた武術家では俺相手に分が悪いと気づいているだろう。安心しろ、今回はこの程度にしておいてやる」

「何を……!?」

 

 酒を飲んでいたから。奇襲を受けたから。

 などと言いわけにもならないと、自戒しつつどうにか立ち上がるカーンにさえもむしろ優しく声をかけて、ワルドは踵を返した。

 ──去り際に妹尾の首根っこを掴み、その痩身を軽々と持ち上げて担ぎながら、である。

 

「こいつは質として預かっておく。ソフィア・チェーホワを誘い出すための餌だ。あの女でも良かったが、あの巨躯を担ぐのも悪目立ちしすぎるからな」

「貴様……!! 妹尾くんを離せ!!」

「別に危害は加えん。アーヴァインも俺も、狙うはチェーホワ一人だからな。よく伝えておけよ、決戦はオーストラリアはエアーズロックの麓で行う、とな!」

 

 意識のない妹尾を伴って酒場を悠々と出るワルド。残されたのは同じく気を失ったレベッカと、悔しげに地面を叩くカーン。

 三幹部の苦い敗北。それをもって委員会との戦い、第一次モンスターハザードは決戦を迎えようとしていた。

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