大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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スタンピード発生

「……久しぶりだな、妹尾。ソフィアからも要請があったと思うが、また君の力を借りることになる。すまないがよろしく頼みたい」

 

 冷徹な無表情。それまでの微笑み絶やさぬ温かな美貌から怜悧な美しさへと一瞬で変化した、WSO統括理事。

 ソフィア・チェーホワ……ではない。まったく同じ一つの身体に宿す、二つの魂の片割れ。裏表のコインのように、ソフィアの反対を司るモノ。

 

 ヴァール。そう呼ばれるもう一人の人格が現れたのだ。会議室に彼女を連れてきた、宮田支部長が後ろにて驚くのも構わずそのままソフィアが用意していたメモ書きを見る。

 現状の位置と状況の説明だ。一目見てすぐに把握した彼女は、妹尾と軽く挨拶してそのまま着席し、さっそく本題へと入った。

 

 前置きなど不要と言わんばかりの姿勢、これもまたソフィアとは対照的だと向かい合っての席に座った妹尾は内心にて思う。

 

「変わりませんね、ソフィアさんはもちろんのことヴァールさんも。とはいえ今は、昔話に花咲かせる時でもありませんが」

「うむ。まずは何をおいても今いるこの近辺、日本国は中部地方内にて頻発しているスタンピードの事件性についてだろう。つまりはこれが、3度目にもなるモンスターハザードである可能性についてだな」

「現状では中部9県、とりわけ富山、長野、岐阜、山梨の4県において目立ってスタンピードが起きています。そのペースも3日に一度から2日に一度。今年の頭からのことで、他の新潟や石川、静岡、愛知、福井などでも散発的に起きているものを含めると……すでに累計100件近くなっています」

「資料を用意しております。どうぞこちらも併せてご覧ください」

 

 妹尾からの口頭での報告、ならびに宮田も用意していた資料をヴァールへと渡す。それらに目を通し耳を傾け彼女は、端正ながらも能面じみた無表情にもわずか、眉を潜ませた。

 ほぼ4カ月で100件近く、スタンピードがこの地方内だけで起きている。頻度だけでも3年前と大差ない上に、今回のそれは圧倒的に密度が違う。

 

 そもそも第二次の舞台となった北欧地域においては、実に日本全体の5倍以上もの面積があった。翻ってその日本の中でも一地域でしかない中部地方において、同様の頻度で事態が起きているのだ。

 紛れもなく異常事態だ……前もって調べていた上で改めて危機感と懸念を抱き、ヴァールはならばと妹尾と宮田に尋ねた。

 

「現時点での被害はどうなっている。それから稼働中の探査者達の損耗率は?」

「被害については怪我人が一般人に83名、いずれも軽傷ですが……探査者は278名、スタンピードに対応するなかで負傷しております。すでに復帰済みですが軽傷を負ったのが240名、未だ入院中ですが復帰の見通しも立っている重傷者が35名。そして」

「……スタンピードにて命を落とした、殉職が3名。彼らについてはWSOおよび全探組規則に則り、遺族への補償等も手厚く行っています」

「そうか。負傷者には重軽傷を問わず手厚く対応し、また殉職された3名とその遺族の方々には後ほど、ワタシも応対させていただくが……まずはこの場で黙祷を捧げる。モンスターから人々を護り抜いた英雄達へ、黙祷」

「黙祷!」

 

 その場の三人、失われた命へと黙祷を捧げる。第二次モンスターハザードの最中にもよくあったことだ……失われた命、一般人も探査者も関係なく犠牲となった者達へ、WSO統括理事として哀悼を捧げるのだ。

 しばしの静寂。その後、ヴァールは今しがたの報告を受けて考え始めた。今後、自分と妹尾はどう動くべきか。

 

 大まかな方針はもちろん決まっている、現地探査者達と協力、連携した上でスタンピードに対応。その根本原因を探り突き止める。

 しかし北欧全土に比べればはるかに範囲が狭いものの中部地方とて広く、様々に県もある。どこから手を付けるべきかという、そういう話だ。

 

「ひとまずこの長野支部を中心に活動していくべきか。現地探査者達と連携していって、少しずつ地域の安全と平和を取り戻しつつ事態の原因を探るか」

「ああ、まあ……それがセオリー的なのですが、ヴァールさん。それをするにも少しばかり問題がありまして」

「その、現地の探査者達がちょっとこう……クセがあるといいますか。独特な連中と言いますか。いえ地元支部長の私が言うのもなんですが、ハイ」

「…………何? どういうんだ、クセがあるだと?」

 

 とにかく少しずつでも解決に向けて動いていかねばならない、そう告げるヴァールに対して……妹尾と宮田の歯切れが急に悪くなった。

 現地探査者についての話が出てからだ。お互いに目を合わせ、閉口したように、それでいて苦笑いして微妙なリアクションを見せている。

 

 知った仲の妹尾のそうした姿は物珍しく、ヴァールも思わず微かに目を丸くする。

 現地探査者──長野の探査者に何かあるのだろうか? 尋ねたようとした矢先、会議室のドアがノックされた。

 慌てた様子でスタッフが駆け込んできたのだ。

 

「失礼いたします、報告です! スタンピード発生! スタンピード発生!!」

「! さっそくか、来て早々に」

「場所は!?」

「国鉄長野駅付近のパチンコ店駐車場、3日前から発生していたダンジョンからモンスターが溢れ出ています! 近くにいる現地探査者が数名対応していますが状況は不利、すぐに加勢求むとのこと!!」

「すぐ近くだな……出るぞ妹尾、いきなりだが対応中の探査者と連携を図る!」

「分かりました!」

 

 噂をすれば影がさす。唐突なスタンピード発生の報に、しかしヴァールは即座に立ち上がり妹尾に指示を出した。

 3年ぶりのスタンピード。現地探査者に何があるのか未知数ながら、しかして今やるべきことはたった一つ──戦い、救い、そして護ることのみ!

 

 出撃するヴァールと妹尾。

 全探組長野支部を飛び出し、わずか1.5km程度離れた地点にある現地へと急行したのであった。

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