大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

181 / 181
槍使いの少年

 全探組長野支部を飛び出したヴァールと妹尾は、車ではなくその身そのままで速やかな移動を行っていた。

 探査者特有の身体能力を駆使して建物の屋根から屋根を飛び乗って、立体的ですらある機動をもって1.5km離れた地点にある駅前のパチンコ店駐車場へ急いでいたのだ。

 

 すでに二人のスキル《気配感知》にもモンスターの気配は察知できている。30匹ほどが群れて集まっており、しかし今2匹ほどその消えた。

 おそらくは対応中の探査者が倒したのだろう。とはいえ多勢に無勢なのは間違いないだろう、おそるべき数だった。

 

「視認でき次第、《鎖法》で初撃を入れる! 妹尾は探査者達の下へ向かい、彼らとともに討ち漏らしを頼む!」

「分かりました、と言いたいところですがヴァールさん! 先ほどの話の続きです、現地探査者とは現状だと連携が難しいんです!」

「……なんだと?」

 

 連続して宙を飛び跳ねて移動しつつのやりとり。妹尾からの思わぬ反駁を耳にして、スピードを落とさぬながらもヴァールは彼を見た。

 まったく冗談の類でなく、真面目に真剣な顔で言っている。助けに入るべき現地探査者達と連携が取れないと、彼は本気で言っているのだ。

 

 なぜ? 疑問をそのままに口にすれば、妹尾は苦々しい声で答えた。

 その顔に宿るのは、呆れと戸惑い、そして少しばかりの苛立ちだ。

 

「行って、実際に見てみれば分かりますよ……日本は中部地方の探査者はなんというか風土柄か、とにかく単独行動を好む気質なんです。まるで助け合おうとしない、完全に各個人が独立独歩で活動しています」

「…………いや、待て妹尾。いくらなんでもスタンピードが発生している最中にあっては、そのような信条や気風など」

「関係ないんですよ、彼らは。その身一つでモンスターと戦い、勝って栄誉を得るか負けて死ぬか。そのすべてに全身全霊を捧げることを美徳としているんです」

「馬鹿な……物事の優先順位を理解していないとでも言うのか、多くの命を賭けた戦いだと言うのに?」

「探査者として、人々を護ることだけは一致しているようですけどね。しかしてその他のスタンスがまるで異なる質。まさしく、そう、猪ですよさながらね」

 

 唖然と呻く。妹尾の言葉がにわかに信じがたく、どうしてもそんな馬鹿な、あり得るわけがないと思ってしまうヴァールだ。

 

 通常、探査者というのはどうあれモンスターから人々を護ることこそが至上命題である。

 日頃のダンジョン探査活動などはその典型であり、彼らは地位や名誉、金銭への欲望でなく人々の平和と安寧、世界秩序を護るべく活動するように教育されている。

 WSOとしてもそうなるように社会の枠組みを作ったのだし、そうでなくては立ち行かないのがこの大ダンジョン時代社会なのだ。

 

 しかしこの日本国、中部地方の探査者達はそうした一般的な在りようとはまったく異なる傾向にあるのだという。

 別段罰則などは設けていないにしろ、どういうことだ──逡巡する間にいよいよモンスターが視認できた。ともあれヴァールはスキル《鎖法》を発動し、群れる敵へと右腕を差し向ける!

 

「詳しくはあとで聞こう。とにかく今はスタンピードを鎮圧する──鉄鎖乱舞!」

「了解です……まあ、すぐに分かるか。間違ってもエリス嬢みたいな優等生ではないんですよ、ここの探査者達は」

 

 一段高く飛び跳ね、見えてきたパチンコ屋付近の駐車場へと上空から鉄鎖を放つ。狙うは一人の探査者を囲むモンスター達だ。

 雨のように降る鉄鎖が、立ちどころにモンスター10匹以上を頭上から貫く。何年経とうと錆びつくことのないヴァールの戦法、《鎖法》の冴えは健在だった。

 

 いきなり囲まれていたところを助けられた、探査者が目を丸くして上空のヴァールを見上げた。まだ年若い少年だ、長槍を手にしている。

 彼のところに妹尾と二人、着地する。そうしてからヴァールはすぐに、少年を含めた周囲の探査者達へと名乗りを上げるのだった。

 

「無事か!? 加勢に来た、ワタシはWSO統括理事ソフィア・チェーホワ! 諸君らと連携して、このスタンピードを速やかに鎮圧────」

「あぁーっ、僕の獲物達がぁーっ!? 一息にまとめて仕留めようとしてたんだけども残念無念、でも助かりましたお見事ですっ!! うははははははーっ!!」

「す、る……なんだと?」

 

 まずは身元を明かし、しかる後に連携と協力を申し込みともにスタンピード鎮圧に向けて戦線を張る。そうした目論見での宣言はしかし、当の助けに入った少年の叫び声で霧散した。

 短髪に精悍な顔立ちをした、長身ながら幼気も残る10代の少年だ。白いシャツにジーンズ、その上から胸元と肘、膝に探査者用のプロテクターを装着している、身の丈ほどの長さの槍を操る槍使い。

 

 概ね爽やかな印象を与えるそんな少年は、しかし助けに入られたにも関わらずショックを受けた様子で叫んでいたのだ。その上すぐに呵々大笑して、闖入したヴァールを大声で讃える。

 まさしく快男児と言った様子だったが……しかしその視線、意識はすでに他のモンスターへと移っているのが丸わかりな姿だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。