大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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中部地方の探査者文化

 スタンピードを鎮圧すべく、加勢に入ったヴァールと妹尾。

 しかし助けたはずの槍使いの少年探査者は、2人のことなどまるで構わないと言わんばかりに次のモンスターへと意識を向けている。

 助けに入られたことを、ありがたく思わないでもなかったようだが……それ以上に己の獲物を取られたと、悔しがるようなふうだったのだ。

 

 そんな少年だが、何度目かの呼びかけにようやくヴァールのほうを向いた。やはり爽やかな眼差しで、多少血に塗れた顔でも満面の笑みを浮かべて楽しそうにしている。

 狂気的ながら、狂気そのものは感じない笑顔。それこそがむしろ異常さを醸しながら、少年はヴァールへと叫ぶように応じた。

 

「えーっと、どなたか存じませんが西洋からのお嬢さん、あなたすごいですね! 今までそんなスキルだか技だか、見たことありませんよ! それに鎖って、武器としちゃあ珍しいもんなあ!!」

「う……うむ? き、君は?」

「見るからに若いけど僕より強い! うーん世界は広いなあ、なんて素晴らしきかな大ダンジョン時代!! こりゃ負けてられないや、先輩方に追いつけるように僕も踏ん張らないと、うははははっ!」

「お、おい! 話を聞け、君は一体!?」

「ああ、さっそく……これだよここらの探査者は、まったくもって誰も彼もがこんなんなんだ」

 

 一切話を聞かず、完全に一人で盛り上がって気炎を吐く少年。モンスターとの戦いでそれなりに傷を負っているにも関わらず、にこやかに笑う姿はやはり爽やかなれど一抹の不安をもヴァールに抱かせる。

 反面、近くに着地した妹尾は頭を抱えている。彼をして苦笑いさせるしかないこの地の探査者達の、典型とも言える反応だった。

 

 すなわち猪突猛進、我が道を行くゴーイングマイウェイ。

 他の誰が何をしようと関係なく、ひたすらにモンスターをこの手で殲滅することを第一とする狂戦士の気風。

 それこそがこのあたり一帯の探査者であると、妹尾はすでに知っていたのだ。

 

 それを未だ理解していないヴァールは、業を煮やして叫んだ。モンスターは他にもいて探査者達が応対しているがどれも同じだ、今しがたの彼女の言葉を耳にしてなおそれぞれ独自に動いている。

 連携も何もあったものではない……半ば絶句しそうな心地で、彼女は改めて槍を振るい突撃せんとする少年へと誰何を問うた。

 

「せめて名前くらい名乗れ! 何者だ、君は!」

「うん? ────あっ、重ね重ね失礼しましたお嬢さん! 申し遅れました僕の名前は光太郎、その名も早瀬光太郎っ!! 愛する地元、長野の土地を護る早瀬光太郎をよろしくお願いしますどうりゃああああーッ!!」

「あっ、おい! 待て……! 連携を、聞いているのか早瀬、おい!!」

「行っくぞーモンスター!! 《槍術》、飛弾一閃ッ!!」

「ぴぎぎぎーっ!?」

 

 とうとうヴァールの制止を振り切って、少年──早瀬光太郎は駆け出し槍を振るった。

 力漲る突撃だ、その勢いのままに槍を振るえば瞬く間にモンスターが薙ぎ払われていく。一撃必殺とまではいかないものの、他の探査者達との戦闘中の不意を突く形になったためかなりのダメージと言えるだろう。

 

 呆気にとられるヴァール。頭を抱える妹尾。

 しかし突拍子もない光景はさらにそこからだった。横槍を入れた光太郎少年だったが次の瞬間、思い切り頬を殴り飛ばされたたらを踏んだのだ。

 モンスターからの攻撃ではない。同じ探査者、仲間であろうはずの者からの一撃だった。

 

「痛えーっ!!」

「何……!? 馬鹿な、なぜ味方を攻撃する!?」

「光太郎てめぇっ、何を横から獲物取ってんだ馬鹿野郎ーッ! てかさっきまで囲まれとったろうに、ありゃどうした?」

「うはははーっ、なんか助っ人さんとやらが華麗にやっつけてくれました! それはそれとして反撃の光太郎撲殺拳を喰らえ馬鹿先輩ーっ!!」

「助っ人ぉ? なんだそりゃ珍しいこったなって、痛えっ! やりやがったなこのガキャア!? 何が撲殺拳だボンクラぁっ! つうか邪魔だモンスターども! 光太郎の前にお前らから血祭りじゃあーっ!!」

「ぐぐげげげぇーっ!?」

 

 どうやら光太郎同様、その探査者も横槍を入れられたことに抗議しているらしかった。慣れ親しんだ仲らしく軽妙な掛け合いをするものの、間髪入れず光太郎のほうも拳で殴り返しているためどうしようもなく殺伐としている。

 しかもその間にもそれぞれ、別口の動きで別々にモンスターを攻撃しているのだから、もうヴァールには理解しかねてしまって、ただ妹尾を見るばかりだ。

 

 アレは、なんだ。

 視線で問えば妹尾も頭を掻くばかりだ。それでも事情通として、説明責任を果たすべく彼は訥々と話し始めた。

 

「先ほども言いましたが、中部地方全体に蔓延している姿勢なんですよアレは。誰ともつるまず一人で暴れるだけ暴れる、それだけの集団。それがここの探査者なんです」

「探査者同士で反目し合っている、わけでもないのか。殴り合っている割には敵意も殺意もないようだが」

「調べたところ、あのくらいの殴り合いはむしろスキンシップ程度のことのようです。決して遊んでいるつもりではないようですが、そもそもモンスターとのバトルを"誰が一番やっつけたか競争"くらいにしか思っていないようですね」

「とんでもない話だが、アレで一応モンスターは的確に仕留めていっているのが逆に質が悪いな……」

 

 絶句寸前のヴァールに、気持ちは同じとしつつも内心珍しいものを見ているなと妹尾は思った。

 実際、妹尾自身も初めてこの地を訪れて探査者達と触れ合った際には盛大に驚かされたものだった。誰一人、他の地域ではごく当たり前の常識であるはずのパーティを組むことなく、単独でのダンジョン探査やモンスター討伐を常としているのだから。

 

 しかも探査者達の気質も荒く、仕事はきっちりするものの同業同士の競争が盛んな文化まで作り上げられている。

 まさしく"誰が一番多くモンスターをやっつけたか"を競い合っている節があるのだから、これにはもう呆れを通り越して笑ってしまうしかなかったのだ。

 

 尚武の気風と言えば聞こえは良いが、要は純然たる戦闘至上主義が浸透している地域。

 それこそがこの中部地方なのであった。

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