大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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探査者達と統括理事

 独立独歩と言えば格好良く聞こえるものの。実態は各々が連携や協調もなくただただ、モンスターを奪い合うように我先にと突撃して暴れ回る気風。

 それこそが日本は中部地方における探査者の姿なのだと語る妹尾。それを示すかのように眼前にて繰り広げられる、早瀬光太郎少年をはじめとした現地探査者達の姿は、そうした論調に強い説得力を持たせていた。

 

「先輩方、お先にこっちのモンスターもーらい!! おりゃあああああ《槍術》飛弾一閃んんん!!」

「ぐげぎゃーっ!?」

「こんの、光太郎めやりやがるなぁ!! 負けてられるか、モンスターはぜんぶ俺様の獲物じゃあっ!!」

「ぴぎぐべらーっ!」

「あんたら舐めてんじゃないわよ、モンスター寄越しなさいよ!! 私が仕留めるのよ、ぶっ殺させなさいっ!! どけってのぉっ!!」

「ギョゲェェェーッ!!」

「こ、これは……どういうのだ。すさまじいと言えば、すさまじいが」

 

 我先にとモンスターを取り合う様は、さながら餌が放り込まれたピラニアのようだ。

 数人いる探査者達がそれぞれ、獲物を取られまいと攻撃しながら互いに言い合いする姿は、ヴァールからしてみても異様な光景だった。

 

 彼女とてWSO統括理事だ。この15年間、仕事のために世界を巡っては各地の探査者の様子をそれ相応に調べてきたが……よもや極東の島国の、さらに小範囲の地方においてこのような独特の空気が醸成されていたとは思いも寄らないでいる。

 呆気にとられるのが正直なところだろう。しかしそこはさすがの使命感だけはあり、すぐさま気を持ち直してスキル《鎖法》を展開する。

 

「っ……呆けていても仕方あるまい! どうあれスタンピードは鎮圧する! 《鎖法》、鉄鎖乱舞!!」

「了解ですヴァールさん! 《拳闘術》、スネークジャブ!」

 

 たとえ現地探査者がどれほど異様な性質気質であれ、今成すべきはスタンピードを片付けてこの地の平穏を守ること。

 ゆえにヴァールが鎖を再度振るえば、妹尾もナックルダスターを装着して一息に距離を詰めた。

 

 まさに戦闘中の光太郎達の、合間を的確に縫ってモンスター達を貫き拘束する。そこに妹尾のジャブが無数に繰り出されて、クリーンヒットしたモンスターが次々と光の粒子となって散っていった。

 比較的、強くない連中だ。感触から手応えを得たヴァールと妹尾が顔を見合わせてうなずく。と、その瞬間、今度は光太郎はじめ現地探査者達から声が飛んできた。

 

「ああっ!? またやられた、けどなんだあの鎖、スキルか!?」

「ずっこいけど便利そうで良いなーそれ! ……っていうかあれ? アレ、ソフィア・チェーホワじゃねえか? 新聞とかで見たことあるぜ、WSO統括理事の、ほら」

「新聞読むとかアンタ文明開化してんの? 偉いわねー。でもたしかにテレビとかで見たことあるわ、"永遠の探査者少女"よ! 喧嘩売るの止めとこーっと」

「新聞もテレビも無縁な僕には何のことだかさっぱりですね! でもチェーホワ統括理事の名前はぼんやり聞き覚えがあるけど、なんなんですか? あのお嬢さん、実はすごい人なのかな?」

「あっはっはっ!! 良いわー光太郎くん、アンタは真の田舎者よ! お姉さん得点100億点贈呈!!」

 

 一瞬、抗議めいた声色だったものの……すぐに鎖を放ったその少女が、新聞やテレビでも有名なWSO統括理事その人だと気付き目を丸くする探査者達。

 しかし一人、早瀬光太郎少年だけはいまいちピンと来ていないらしかった。しきりに首を傾げ、聞いたことはあるけどと記憶を掘り返している。

 

 これらもやはり、独特な反応だ。自身のことを知っているかどうかは大した問題ではないが、先ほどまであれほど言い合っていた連中が、今度は顔を見合わせてしきりに、仲良さげに話し合っている。

 しかもその間にもやはり、モンスターを攻撃する手は一切止めていないのだ。これにはヴァールも閉口しつつ、しかしどうにか彼らのスタイル、姿勢に対して理解を徐々に追いつかせてきた。

 持ち前の演算能力で、その基本的な方針を読み取ったのだ。

 

「……モンスターを相手取る、探査者としての姿勢自体は根底にあるようだな。しかしそれを土台として、独立心というか自由行動の気質が文化としてあるのか。妹尾、これは長野以外の中部地方全県で見られるものか?」

「あー、ええまあ。話を聞くに岐阜やら愛知やらでも大体こんな感じでしょう。他の地方、関西や関東などでは決して見られないこの地方独特のものですよ」

「なるほど。これでは連携や協力など見込めまい……いきなり話が怪しくなってきたが、鉄鎖収束っ!!」

「うおっ、すごっ!?」

 

 ごく僅かな時間、僅かなやり取り。その様子から概ねのところを察してきたヴァールに、知ってはいたものの相変わらずのすさまじさだと妹尾は感心しつつ肯定した。

 つまりはそういうことなのだ。探査者としての心構えや使命感といった土台はできていて、その上で各人やりたいように動く独立者達の集団……それが中部地方の探査者達の基本姿勢なのだ。

 

 理解し、ならばとヴァールは鉄鎖をさらに振るった。めぼしいモンスターを片っ端から貫いていく、現地探査者達よりはるかに強くはるかに早く。

 これには光太郎以下、地元の探査者達も目を丸くして引き下がるばかりだ。思わぬ闖入者の、予想以上に桁の違う強さを目の当たりにして圧倒されたのである。

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