大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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猪突猛進、光太郎!

 特異な中部地方の探査者達の姿勢はともかく、戦闘能力自体はやはりヴァールと妹尾のほうが圧倒的だった。

 当然のことだ……いかに好戦的であったとて、度重なるモンスターハザードをも乗り越えてきた歴戦の戦士達には比べるべくもないのだから。

 

「……モンスターの気配はもうないな。一応だが討ち漏らしが《気配感知》圏外に逃げていないのは確認したが」

「やれやれ、こういう時にトマスくんがいてくれたら斥候や偵察も十八番だから助かるんですがね。さすがにアフリカ冒険中の彼を呼び出したりはできません」

「す……すっごいなぁ!? あの二人、あっという間にモンスターどもをやっつけちゃいましたよ先輩方!」

 

 数十体いたモンスターの、結局ほぼ半分を鉄鎖と拳で一掃してみせた二人。

 こともなげに汗一つかかず話し合う姿を遠くから見て、早瀬光太郎は細かく傷を受けていくらか流血した己をも省みずに憧憬の眼差しを向けていた。

 

 探査者となってからここに至るまでの間で、見たこともないほどに強く、そして圧倒的な力だ。

 彼は長野県を中心に岐阜や福井、石川にまで足を伸ばしつつ活動しているほどにフットワークが軽い。それゆえ顔もそれなりに広く各地の先輩探査者とも知り合いなのだが、自分よりはるかに上の彼らが束になったとて、目の前の二人には勝てないだろうというのは未熟目にも見て分かった。

 

 戦闘中、激しく言い合っていた先輩達を見る。彼らはいつもどおり、一仕事終えたということで軽い応急手当をしつつも呑気に煙草など呑んでいる。

 先ほど聞こえてきた、鉄鎖を振るう少女について……少年は興奮に胸躍らせながら、尋ねたのだ。

 

「先輩……あ、あの女の子、そんなに有名なんですか? なんかもう、化け物めいて強かったんですが!」

「いや、お前本気で知らんのかよあの人を。WSO統括理事ソフィア・チェーホワだぞ? もう25年も前からずっとあの姿のまま、最強の探査者としても最高の権力者としても君臨している探査者のトップだよ」

「まー私らとは次元が違うわね。てかなんでこんなところに来てんのかしら、まあスタンピード絡みだとは思うけど……でも旅行とかもあり得るかしら? 軽井沢の別荘地でのんびりバカンスなーんて!」

「ソフィア・チェーホワ……WSO統括理事、最強の探査者かあ……っ!!」

 

 戦闘中の勢いはどこへやら、すっかり気の抜けた様子で応える先輩達もよそに、光太郎はソフィアの名をつぶやく。

 率直に、戦士として探査者としての憧れがあった。鉄鎖を自在に操り自分の苦戦してきたモンスター達をいとも容易くまとめて撃破した姿に、抑えようもなく心が躍ったのだ。

 

 例えるならば物語のヒーローを見る、幼子のような感覚。

 探査者として向上心が強い光太郎は、瞳を煌めかせて勢いのままに彼女の下へと駆け寄った!

 

「おおーい! 統括理事! チェーホワさん! ソフィア・チェーホワさーん!!」

「しかしこれは問題だな。まずは探査者達に連携と協力体制の構築がどれだけ重要なのかというのを教え込むところから始め、む?」

「おや? 先ほどの槍の少年、早瀬くんでしたか。何やらあるようですが」

「お願いがあります!! 僕を連れて行ってくださーいっ!!」

「何?」

 

 スタンピードへの対応以前の話であるとして、この地の探査者達にまずは教えることがあると妹尾と話し合っていた矢先の直談判。

 先ほども少しだけやりとりした少年が、爽やかながらどこか汗ばむ暑苦しさをもって頼み込んでくるのを、ヴァールや妹尾はやはり戸惑いをもって迎えている。

 

 今しがたの戦闘時にも軽く見ていたが、この早瀬光太郎という少年の実力は正味な話、可もなく不可もなくだ。少なくとも特筆すべき点はないし、かと言って明確に減点とすべき点も──問題視している連携する気のなさは彼に限らないゆえに──取り立ててありはしない。

 見たところ背丈こそ高いが10代半ば、ならばまだまだ発展途上だろうことも見て取れる。

 

 であれば、生き急ぐように見ず知らずの自分達に教えを請う必要もないのではないだろうか。

 ヴァールはそう咄嗟に思ったし妹尾も似たようなものらしかった。怪訝な顔を二人で浮かべれば、長槍を天高く掲げた光太郎は頭を掻いて恥じ入るようにしつつも、しかし満面の笑顔で続けたのである。

 

「1年近く前に探査者になってからここまで、特に目標もなく我流で槍を振るってきたんですが! そろそろ目指す誰かがいてくれたらと思ってたんです実は! 先輩達に誰か目標になる人いるかなーと思ってたんですが、みんな揃いも揃って似たような猪らしさで大した勉強にもならず!!」

「聞こえてんぞ光太郎! 合ってるけど!」

「ぶっちゃけなんも考えず遮二無二ぶっ殺しにかかってるだけだしねー、うちら」

「ほらご覧の通り! ですので今さっきのお二人の戦いぶりには僕は、それはもうモーレツに感銘を受けたし感動したんです! 弟子にしてくれとも言いません、技も強さも見て盗みますから、どうかしばらく傍にいさせてください!! 聞いてもらえるまでここから退きませんっ!!」

「別に我々のホームでもないパチンコ店の駐車場に陣取る気かな!?」

 

 言うだけ言って、先輩達からの抗議をも馬耳東風で聞き流して光太郎はその場、パチンコ店の駐車場にドッカと胡座をかいて座り込んだ。

 自分を連れて行ってくれ、強さを学ばせてくれ。勝手に見て盗むから、弟子などでなくていいからと。あまりに一方的かつ強引、剛胆な請願だ。

 

 妹尾のツッコミさえもものともせず、まっすぐにヴァールを見据える光太郎。

 まさしく猪めいた猪突猛進さに、WSO統括理事としてそれなりに多くの人間と関わってきた彼女だが……さすがに光太郎のような人物はなかなかいないタイプだなと、どこか珍しさを感じつつも彼に向き直った。

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