大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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地元の英雄に憧れて

 突然現れた地元の顔役──中部地方全探組の支援者、権藤財閥会長・権藤平之助。

 好々爺らしい人好きする笑みを浮かべた温厚なその老人は、ソフィアらしい振る舞いをするヴァールや妹尾ばかりか、ついてきただけ、その場にいるだけに等しい光太郎にさえ丁寧な会釈をしてきていた。

 

「いやはや、ここに来てこの地の探査者達の姿勢が裏目となろうとは……思いがけぬことです。よもやスタンピードがこうも多発するなどと」

「連続スタンピード事件についてはこちらも想定外でした……もっと言えばこの地の探査者達のスタンスについても。今の口振りからすると権藤さん、あなたの意向によるもののようにも聞こえるのですが?」

「ああいえいえ、滅相もありませぬ。ただ、我が不肖の息子の不始末というやらなんというやら。悪目立ちしてしまったのを、親心から応援しすぎたというのが実際のところでしてな、カカカカ」

 

 申しわけなさそうに、弱ったように笑う権藤平之助。そこに悪意や隔意は見られず、ひとまずヴァールはどういうことか、宮田支部長まで含めて視線で問いかける。

 何やら事情があるようだ……まるで協調性もなく単独でモンスターを相手にしたがるこの地の探査者気風には平之助が、というより平之助の息子が深く関わっているのか。

 

 平之助は軽く咳払いをして、宮田ともども詳しいところを話し始めた。

 やはり穏やかな語り口。聞く者に有無を言わせぬ説得力を与える、不思議な権威のある口調と声色、話し方だった。

 

「儂の息子……権藤武虎と申しますがな、あやつも探査者をしておりまして。お恥ずかしながらこの中部地方にあっては、なかなかに名が売れておるのです」

「統括理事は御存知かどうか分かりません……が、事実としてこちらの平之助氏の御子息、武虎氏はたしかに中部地方の英雄です。15年前の能力者大戦においては日本軍に所属し米国側の能力者を相手に戦い、その後は探査者としてこの地方をダンジョンとモンスターから守ってきた守護者なのです」

「統括理事からすれば、あまり面白くはないかもしれませぬがな、カカカ……能力者を兵器として使用したかの大戦をきっかけに躍進した地元の英雄など、なかなか儂自身複雑ですゆえなあ」

「…………いえ。どのような経緯であれ、人々にとって英雄として扱われているのであればそれを一概に否定はしません。それに15年前、世界はたしかにそれが罷り通っていたのですから」

 

 ソフィアらしい微笑みのまま、しかし静かに目を細めるヴァール。かつて人間を、能力者をただの軍事兵器として利用してしまった罪深い世界大戦を振り返って、そこで名を上げた権藤武虎を否定しないと見解を述べたのだ。

 たとえ能力を悪用するような戦争のなかで英雄となったとしても、その後に人々を護り英雄として受け入れられたのであれば、それは一概に無碍にできるものでもないとしたのである。

 

 軍事利用を全否定し、大戦に割って入って終戦まで持っていった世界的大英雄たる彼女のそうした言葉に、平之助は片眉をあげて意外そうな反応を見せる。

 しかしそれも束の間、すぐにまた好々爺の笑みを浮かべ、平之助は軽く謝辞とともに頭を下げた。そうしてから、苦笑いをも含めて続ける。

 

「ですが武虎ときたらこれが武骨な男でしてなあ。誰ともつるまず馴れ合わず、ひたすらに強さを追い求める武人のような生き様をしとりまして。そうした姿にこの地方の探査者達が、憧れて真似をし始めたのが現状のきっかけなのです」

「権藤武虎のように、強く、逞しく、勇ましく。いかなる凶悪なモンスターであってもむしろこちらから狩りに行くスタイル──まさしく今、中部地方の探査界隈を染め上げている風潮そのものです。私自身現役の頃は、彼に憧れて猿真似に明け暮れました。内勤になってからですよ、その問題点に気づいたのは」

「武虎を支援するつもりで全探組に援助している儂ですら、誰もが武虎のようになってはいけないと危惧しておる次第なのですが……なかなか、憧れを捨てさせることも難しく」

「なるほど。一代で身を立てた英傑の後追いがブームになり、それがそのまま文化として定着したわけかあ。北欧のほうでも一時期、ウェインくんに憧れる探査者が多かったですしねえ」

 

 説明に納得して、妹尾が簡潔に話をまとめた。つまりは中部地方を代表する探査者たる権藤武虎への憧れから探査者達が後追いに走り、それがいつしか当たり前の文化、風土として根付いてしまったのが真相らしい。

 かつての仲間であるレベッカ・ウェインの例をも引き合いに出す──今は引退して数年だが、現役時には北欧最強の探査者として有名だった彼女の後追いで真似をしたがる探査者も多かった。

 

 それと同じことが、それよりもはるかに根深い問題として起きているのがこの一帯だということだった。

 地元の若手探査者である光太郎もまた、瞳を煌めかせて熱く語る。

 

「権藤武虎さんったら、僕も憧れの英雄ですよ! あの人みたいになりたいって、長野だけじゃなく近隣県の探査者みんながいつも言ってますし!」

「光太郎くんの発言通りです。老若男女問わず、このあたりの探査者は誰もが武虎氏を、あの孤高の英雄の背中を追いかけているんです」

「誰かを敬してその背を追うのは素晴らしいことですが、全員が全員そうなってしまってはそれはそれで問題ですね……」

 

 とうとうヴァールは頭を抱えた。誰が悪いわけでないが、それでも問題しかない現状を認識したのだ。

 そして決意する。こうなればやはり、スタンピードへの対応も兼ねてこの近辺の探査者達の思想やスタンスを、改善していく必要がある、と。

 

 早瀬光太郎の実力向上を通して、それを周囲にアピールしていくのだ、と……そう考えたのだ。

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