大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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中部地方探査者意識改善計画

 中部地方全域に名声を轟かせる英雄探査者、権藤武虎。

 その孤高にして無双のスタイルに探査者達が憧れを抱いた結果、中部地方の探査者界隈は個人主義が行き過ぎた非常に歪なものに成り果ててしまっていた。

 

 説明を受けて経緯を把握したヴァールは、そして決意した──まずはそこから叩き直す、と。

 平之助と宮田に向け、笑みを消しつつもソフィアらしい真剣な表情を真似て彼らに告げる。

 

「憧れ、その背を追うのは良いことですがものには限度がありましょうに……話は分かりました。権藤氏や宮田支部長はじめ、後方支援に回っている方々は現状を正しく問題視してくださっているのが救いですね。今のままでは、多発するスタンピードを相手にほとんど身動きが取れません」

「ええ……ですから今回、統括理事や妹尾先生方がこれを機に直接、当地の探査者達を教育してくださるというのは非常にありがたいところではあります」

「仲間との連携、協力。よその探査者ならば当たり前に備えておくべき事柄を武虎への憧れから粗末にしてしまっている今の探査者達を、鍛え上げてくださるならば重畳の至り。儂からもなにとぞ、なにとぞよろしく申しあげたい」

 

 二人して頭を下げる平之助と宮田。ソフィアに扮したヴァールは微笑みとともにうなずくも、内心ではため息を禁じ得ない心地だ。

 やはり現地探査者達を教育することになりそうだ。早瀬光太郎を鍛え上げることで、彼を通じて一般的な探査者のあり方を示し浸透させるというプランを、今後スタンピードの捜査と並行して行わなければならないのだ。

 

 光太郎を見る。やはり明るく天真爛漫な様子は微笑ましいが、さりとて今後は彼にもあれこれ期待をしなければならない。

 何しろ彼の実力が伸びなければ、地元探査者達に一般的な探査者の動き、考え方が一番効率が良く合理的なものだと示すだけの説得力がない。

 

 これまでのスタイルを捨てさせるには、捨てさせるだけのメリットをこちらから提示しなければならないのだ……そのメリットがどれだけのものになるのか、それが光太郎次第なのだった。

 妹尾と顔を見合わせ、うなずく。そうしてからヴァールは、であればと平之助や宮田へと告げた。

 

「WSOのエージェントも早晩到着します。それをもって連続スタンピード事件の捜査を本格開始しますが、同時並行でこの地の探査者達の実力底上げをもこちらで図りましょう。こちらの早瀬くんを鍛え、スタンピードのなかでその存在を示すことでこちらのスタイルのほうがより良いものだと示していきます……なお、これは御子息の在り方や思想を否定するものではないと権藤氏にはご理解いただきたく存じます」

「どうかお気遣いなく。武虎のやり方は武虎だけのもの、他の探査者達の誰しもに適応できるものでないということくらいは儂にも分かりますれば」

「さっそく周辺の全探組やWSOにも通達を発します。以後、こちらのほうでも教育や広報の支援を全力で行わせていただきましょう!」

「よろしくお願いします。さて、早瀬くん?」

「! はいっ!!」

 

 矢継ぎ早に今後の方針を決め、ヴァールは最後に光太郎へと声をかけた。元気いっぱいに応じる彼を、複雑な目で見る。

 不安だ。率直に言って不安だ。よく言えばまっすぐで勢いのある、悪く言えば何も考えてなさそうな猪突猛進さがあるこの少年は、未だその秘めた素質がどれほどのものかも分からないのだ。

 

 それこそ、3年前の第二次モンスターハザードの際に手ずから勧誘し、鍛え上げた少女エリス・モリガナがどうしても比較対象になってしまうが……彼女は出会った時点から信じがたいほどの才覚を示していた、ゆえにこちらも安心して鍛えることができたのだ。

 翻って光太郎の場合、何もかもが未知数だ。だのに、彼の伸びよう如何でこの地の探査者達の行く末、ならびに事件解決の目処が決まることになる。

 

 ゆえに。

 ヴァールは彼の両肩をガッシリと掴み、痛くない程度にだが強く握りしめるのだった。

 

「へ? え?」

「頼みますよ、本当に……ワタシ達は本気であなたを鍛えます。だからあなたにも全力で強くなってもらわなければなりません。その実力の伸び方によって、この地の未来が決まるのです」

「ヴァ、もといソフィアさん……あまりプレッシャーをかけてはいけませんよ、気持ちは痛いほど分かりますが……」

「何も世界の頂点だとか、日本最強になれだとかは言いません。ですがそれなりのクオリティ、この地域における探査者の模範となる程度の実力は備えていただきます。良いですね?」

 

 呑気な光太郎に、多少の喝を入れるつもりであえて強めに言い含めるヴァール。ことと次第では多くの人の命がかかりかねないのだ、そこは彼女も必死である。

 対して妹尾は、気持ちは理解するものの少し逸りすぎだと彼女を止めた。教授として学生達を多く見てきた彼のほうが、そのへん、ティーンエイジャーへの対応は上手い。

 

 しかし、ヴァールや妹尾の予想をも上回る反応を示したのが当の光太郎だ。

 きょとんとしつつも、すぐに豪快な、胸のすくような笑い声をあげて力強く応えてみせたのである。

 

「うはははははっ!! 任せてくださいチェーホワさん、僕だって伊達や酔狂で同行を願い出たわけじゃないんですから! きっと学ぶべきを学び、強くなるべく鍛えてみせますよ!!」

「頼むみますよ、本当に……」

「合点承知! 男一匹、早瀬光太郎! 教わるからにはしっかりやりますとも!!」

 

 漲る力拳で己が胸を叩く。若々しくも溌剌とした姿は自信満々の様子で、しかもどこまでも爽やかだ。

 それでも一抹の不安は拭えずに、ヴァールは本当に大丈夫なのだろうか────と、内心にて零すのであった。

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