大ダンジョン時代クロニクル   作:てんたくろー

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早瀬光太郎の新たなる朝

 光太郎にとって、ターニングポイントともいえる出会いの数々を経たスタンピードの日から一日が経過した。

 最近となってはすっかり日常的になった、スタンピード鎮圧対応のための出撃。そのなかで出会ったWSO統括理事ソフィア・チェーホワとその弟子である妹尾万三郎に同行し、探査者として鍛えられることとなったのだ。

 

 そんな彼は今、長野市近郊の長屋住まいだ。中学進学と探査者デビューを機に世話になっていた孤児院を出、一人暮らしを始めていたのである。

 若干15歳の少年が日本国内で送るにしては特異な環境だが、それも仕方のない話ではあった……能力者大戦における爪痕は未だ深く、孤児も大量にいるがゆえに。

 

 自立できると判断されれば子供であれど、すぐに独り立ちしていかねばならない。そうした状況にあるのが1960年頃の日本、大ダンジョン時代におけるこの社会のリアルだったのだ。

 それでも天真爛漫に、前を向いて明日を夢見て光太郎は学業もそこそこに、探査者としての道を邁進し続けていた。

 

「ぃよおーっし!! 今日から新生活だぁっ!! しゃかりき遮二無二、頑張るぞーッ!!」

「朝からうるさいよ、光ちゃん」

「なんだなんだぁ光坊? 昨日からずーっとはしゃいでる感じじゃのう」

「あっ! ごめんごめん鶴太郎爺ちゃん、亀代婆ちゃん! うはははー!!」

 

 そんななか、降って湧いた絶好機。探査者として実力を上げ、飛躍を遂げるに足る最高のチャンス。

 かねてよりこの地の探査者のスタンスに対して、それはそういうものかと受け入れつつも違和感を覚えていた光太郎にとって、外部からの風と言えるソフィアや妹尾との出会いはまさしく天佑だ。

 

 ましてや鍛えてもらえる上に、とにかく突っ込んで暴れるだけのこの土地の風土にもテコ入れしていってもらえるという。

 その成否の如何が他ならぬ光太郎の伸び代次第と言うのだから、彼としてはプレッシャーになりつつもやる気を出さないではいられない。

 

 ゆえに朝。中学へ向かうための支度をしつつも放課後、ソフィアや妹尾と合流してダンジョン探査を兼ねた修行を行う予定に胸を期待で膨らませて叫べば、隣家に住む朝倉鶴太郎、亀代の老夫婦に叱られ、慌てて弁明するのだった。

 光太郎がこの家に越してきてからずっと、食事の差し入れや日々の家事などを手伝ってもらっていて頭が上がらない老夫婦だ……孤児院の先生方に続いて、彼にとっては親代わりとも言えるかもしれないそんな、70歳過ぎの老夫婦だった。

 

「でもさ、でもさあ! すごいんだよ爺ちゃん婆ちゃん、世界最強の探査者がさあ! 僕のことを鍛えようってさあ!!」

「ああはいはい聞いたよそれは、昨日の夜に何度もなんべんも。最初はすごいもんじゃと思ったもんだけど、いい加減耳にタコができてきとるわい」

「お偉い方に教えてもらうのは良いけど、無茶しちゃ駄目だよ光ちゃん。あなたはまだ子供なんだからね、まったく……大ダンジョン時代からこっち、子供でも能力者になったら容赦なく駆り出すんだから。どうかしてるよ、もう」

「時代だなあ……ま、儂らの若い頃だって大概なもんだったもんじゃが。にしてもなあ」

 

 夢と希望に満ち溢れた様子の光太郎を窘めつつ、けれど微笑ましくも老夫婦は語り合う。当然ながら二人は大ダンジョン時代以前の生まれ育ちだ。それゆえに25年前に到来した新時代に対して、思うところがないでもない。

 特に15歳の、子供である光太郎をさえ駆り出してモンスターと戦わせる世の仕組みには、どうにも納得しがたいものを覚えているのが亀代だ。

 

 彼らの親世代、祖父母世代ともなればまた話は変わる──成人年齢が今より大幅に低かった時代ゆえだ──が、当時にはすでに20歳を成人年齢として扱うようになっていた以上、光太郎は彼らにとってもまだまだ子供だ。

 それが世のため人のために命懸けの戦いを強いられる。それが情深い老夫婦にはどうにも、心苦しく感ぜられるのだった。

 

「うははははっ! まぁまぁ、僕は納得ずくでこの道を歩んでるんだからさ! 男一匹、早瀬光太郎っ! 探査者となったかるには力をつけて人々を護ること! それが生きる道ってやつなんだよ!!」

「まーた声が大きい……とにかく、心配してるジジイとババアがここにいるのを忘れちゃいかんぞ光坊。儂らから見て、光坊だって孫みたいなもんなんじゃから」

「息子夫婦も早くに東京に行っちゃったから、余計にねえ。盆と正月にはちゃんと孫も連れて帰ってきてくれるけど、すっかり都会に染まっちゃってるからそれ以外の時期は電話が精々くらいなもんだよ、寂しいったらないねえ」

「向こうも向こうで暮らしがあるから仕方ないよ、それはさ! でも大丈夫、それこそ僕がいるじゃないか! 血の繋がりこそなくても鶴太郎爺ちゃんと亀代婆ちゃんは僕にとって家族みたいなもんだよ、だからこの長野のダンジョンやモンスターを僕のこの手でやっつけたいってのもあるからねっ!!」

 

 豪快に笑う光太郎。生来声の大きい彼のその、爽やかな力強さにいつも勇気づけられる心地の老夫婦だ。

 今回もまた、朝から元気をもらった気分にさえなりながらも……やはり心配の種は尽きぬまま、学校へと向かう彼を見送る二人だった。

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