家から最寄りの中学での生活は、正直なところ光太郎にとっては退屈極まりないものだ。
別段孤立しているわけでなく、友人もいる。勉学もそれなりにしているし、探査者であることもあって教師からの覚えも悪くない。
何より光太郎は凛とした面構えで端正な顔立ちをしているため、女学生からの人気もあるのだ。その爽やかな性格と言動も併せ、概ね人気者として恙無く生活できていると言えるだろう。
しかしてやはり、本人としては退屈なのだ。そこには心躍る戦いもなければ、果てしない未来への希望、野望がない。
彼は基本、上昇志向の持ち主だ。ソフィアに指導をねだったことからもそれは伺えるだろう……探査者としてとにかく強くなり、地域を越えて日本に早瀬光太郎の名を轟かせてみたい。
そんな無邪気な栄誉欲を胸に抱いているのだ。
「だからこそ、今日からの修行を糧にしきって僕は日本一の探査者になりたいと思います! よろしくお願いしますえーっとソフィアさん? ヴァールさん? それと妹尾教授も!!」
「心がけは良いが、日本一とはまた大きく出たな……どことなくカーンを思い出す。それとワタシはヴァールだ、改めてよろしく頼むぞ早瀬」
「あの人も世界に名を轟かすとかよく口にしてましたねえ。いやはや懐かしい」
瞳に野心煌めかせ熱意を顕にする光太郎。放課後の全探組長野支部施設、ヴァールや妹尾と合流して最初に意気込みを語っているのが今である。
なんともストレートな少年の姿に、今は亡きかつての盟友シェン・カーンの姿を思い起こす二人。数年前に病に倒れそのまま逝去した彼も、世界にシェンの名を轟かせることに並々ならぬ熱意を持っていたものだ。
もちろんカーンと光太郎はなんの関係もなく、性格も言動もまるで方向性が異なっている。
それでも己が名を世に知らしめたいという意欲が相似ている点に、どこか懐かしい想いを禁じ得なかったのだ。
「カーンは残念だったが、代わって今や二代目シェンの里長を務めているラウエンもじき、来日して事態解決のため我々に協力してくれる。彼にも早瀬の教育に取り組んでもらうが、そのためにも今のうちに我々で土台固めといきたいものだがな」
「そうですね……光太郎くんにはなんのことだかといった話だろうけど、まあ要はもうすぐ追加で仲間が来るから、彼に対してもそれなりに見せられる程度の実力をつけてもらいたいってだけの話だよ。そう気負わなくてもいいけど、つもりはしておいてほしい」
「んー、分かりました!! なんかよく分かりませんが、分からないことは気にしないのが早瀬流ですうははははは!! 何はともあれ今日からご指導よろしくです、うはははははーっ!」
「…………まあ、そのポジティブさは大いに武器か。うむ。とりあえずダンジョンへ向かうぞ、まずは今の君の実力を確認したい」
故カーンの弟子たるラウエン、第二次にて心強い仲間だった彼もまた、ヴァール達の力となるべく来日準備を急いでいる。彼が来れば光太郎はじめ、この地の探査者達の教育にさらなる拍車がかかるだろう。
それまでにせめて光太郎を一端に育ててみせる。その思いで妹尾がやんわりとでも告げれば、ざっくりとした理解でもって光太郎はやはり笑った。何も考えていないというよりは、考えた上で考えなくなったというような晴れやかな笑顔。
どうにも今までにないタイプだ。ヴァールは率直に言って戸惑っていた。豪快というか細かいことを考えないというか、それだけならばレベッカなどが近くにいるが彼女とはまた異なる向こう見ずな楽天家気質がある。
若さゆえ、というのもあるのだろうかと首を傾げつつ、ともかく三人は今回の目的地、全探組に寄せられたダンジョン踏破依頼を受けて長野市は川中島付近へと移動しはじめていた。
その道中、やはり探査前に互いに示し合わせておくべきことがあるとして、ヴァールと妹尾、光太郎はそれぞれに探査者が保持するライセンス──探査者証明書を取り出した。
免許証らしく顔写真と名前などが記載されている表面よりも、裏面に着目する。探査者としてのステータス、世間に公表しても良いと各人が判断した範囲でのスキルなどが記載されているのだ。
「どうあれ互いの現状は把握しておく必要がある。ワタシと妹尾も後で見せるが、まずは早瀬、君のステータスを見せてほしい」
「道理ですね、分かりましたどうぞどうぞ!! と言ってもてんで弱っちいのがお恥ずかしいですが、これでも1年間頑張ってきました!!」
「弱いだなんて思うことはないさ、ステータスはそれこそ人それぞれだとも。どうあれモンスター相手に血道を上げてきたその集大成を、私もヴァールさんもソフィアさんも決して下には見ないよ」
一切の躊躇もなく自身のステータスを開示する光太郎。やはりこれから鍛えてもらうからには、今の自身を包み隠さず把握してもらう必要があるという思いからだ。
とはいえ自信はない。完全に独学我流で積み重ねてきた2年、思い入れはあるが世間的には棒にも箸にもかかるまいという自覚はある。
そんな少年の肩を叩いて、妹尾は安心するように言い聞かせつつも証明書を受け取りそこに記載されているステータスを見る。
事実上、たった一人で闇雲にでも1年間、鍛え上げてきた若人の姿に敬意さえ抱きながらも……彼はそれを、確認したのだ。